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この言葉、一生変えない
この言葉、一生変えない
Author: 無恙

第1話

Author: 無恙
周防凛河(すおう りんが)の本命が帰国したその初日。

嵐の夜、仲程依夜(なかほど いよ)は凛河が事故に遭ったと知らされ、慌てて家を飛び出した。

だが途中で交通事故に遭い、妊娠四ヶ月の子を流産してしまった。

そのとき、凛河は「本命」の歓迎パーティーから駆けつけ、震える声で彼女に言った。

「ただの酔った勢いで始まったゲームだったんだ。どうして本気にしたんだよ?」

心も体も傷ついた彼女の耳に、さらに追い打ちをかけるように冷静な声が届いた。

「今は、子どもがいないほうがいい。俺の仕事には敵が多い。子どもがいたら、それを人質にされるかもしれないから……」

依夜の心は引き裂かれるように痛んだが、それでも何も言い返せなかった。

凛河の「本命」が帰国して十日目。彼女は、二人が部屋で親しげにしている姿を目にした。

しかしその後、凛河は彼女の手を握り、涙ぐみながら必死に弁解した。

「依夜、信じてくれ。俺たちはただの同僚で、仕事の案件について話してただけなんだ」

彼女は騒ぎもせず、静かに背を向けてその場を去った。

凛河の「本命」が帰国して六十日目。

誘拐犯が刃を依夜の首に突きつけ、凛河に冷笑を投げかけた。

「周防さん、妻と恋人、どっちか一人しか選べないぞ!」

凛河は悲しげな目で依夜を見つめ、絞り出すような声で言った。

「菫は、留学から帰ってきたハイテク人材だ。警務部には、彼女の力が必要なんだ」

その瞬間、依夜は、須藤菫(すとう すみれ)が凛河の胸に飛び込むのを目の当たりにし、その直後、犯人に六度も刺された。

彼女は重傷を負って二ヶ月間昏睡状態に陥り、目覚めた直後、離婚届を持って役所に離婚を申請しに行った。

だが、そこで待っていたのは、職員の困惑した一言だった。

「仲程さん、あなたと周防さん……結婚の記録が見当たりません。あなたと周防さん、本当に結婚しています?」

依夜は耳を疑った。六年間も一緒に過ごした時間、信じてきた「幸せな結婚」が、まさか偽りだったなんて。

「そんなはずありません、もう一度確認してください。私たち、もう六年も夫婦として暮らしています……」

職員は複雑な表情で何度も二人の結婚歴を確認し、最終的に真剣な口調で告げた。

「申し訳ありませんが、本当にありません。もう私をからかわないでください……」

依夜は呆然とし、手に持っている結婚証明書を見つめた。そこにあるのは、ただただ滑稽な偽りの世界だった。

そして、菫の帰国を思い出したとき……すべてを悟った。

凛河は、菫の帰国までの時間稼ぎとして、自分と「偽装結婚」をしていたのだ。世間の目をごまかすために。

病院に戻ると、心配そうな顔をした凛河が駆け寄ってきた。

「依夜、まだ体調が戻ってないのに、どうして外に出てるんだよ?」

彼女は彼の手を振り払って、無言のまま通り過ぎた。

彼はその場に立ち尽くし、俯いたまま口を開いた。

「まだ怒ってるのか……?でも分かってくれてるはずだ。俺がこの職を選んだ時点で、国と国民の利益がすべてに優先するって。それに、菫は最後に君を守るために負傷したんだ」

目の前の「夫」を見つめながら、六年間という月日を共にしたというのに、依夜にはまるで見知らぬ他人にしか見えなかった。

……そう、彼女は最初から、凛河の本当の姿を見ていなかったのだ。

「そうね、須藤は怪我をした。須藤は英雄だ。じゃあ私は?恩知らずの卑怯者?」

ポケットの中の離婚届を握りしめ、目頭が熱くなった。

……凛河、私はあなたにとって一体何だったの?

須藤の帰国を待つ間の、ただの暇つぶしだったの?

彼女は彼を避け、病室へ戻った。

ぐったりと眠りに落ち、目覚めたのは午後だった。まもなく、凛河の部下が食事を運んできた。

だが彼は、食事を置いたまま立ち去ろうとせず、しばらく逡巡したあと、歯を食いしばって言った。

「依夜さん、凛河さんをあまり責めないでください。あなたは俺たちの仕事を誤解してます!」

依夜が何も言わないうちに、彼は一気に言葉をまくし立てた。

「須藤さんは、あなたのお母様を救出する作戦で重大なミスを犯しました。でも、俺たちだって神様じゃない!

命を懸けて任務にあたっても、人質の安全を完全に保証できるとは限らないんです!

だから、須藤さんを恨むのは間違ってます!あのあと彼女は厳しい処分を受け、国外に送られました。でも、努力を重ねて功績を積み、やっと戻ってきたんです!」

その瞬間、依夜の頭の中は真っ白になった。

六年前の銀行強盗事件……彼女の母が人質にされた、あの事件。

交渉中、一人の若い女性交渉人の軽率な発言が犯人を逆上させ、母は殺された。

その後、国からの補償があり、家族もそれを受け入れるしかなかった。そしてまもなく、凛河が彼女の人生に現れた。

……あの交渉人は、須藤だったのか。

……そして凛河は、その償いのために自分のそばにいたのか。

依夜の耳にはもう何も届かず、部下がいつ出ていったのかすら分からなかった。

どれほどの時間、ぼうっと座っていたのかも分からなかった。

やがて、彼女は携帯を取り出し、ある番号をゆっくりと押した。

電話がつながり、依夜は静かすぎる自分の声が耳に届いた。

「仲程依夜、異動命令を受け入れます。いつでも出動可能です」

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