混線してしまったトラック群を前に、手を動かす感覚が好きだ。
まずは優先順位をつける。私はボーカルやメロディといった“伝えたい核”を最初に決め、それ以外の要素をその周りで動かすようにミックスを組み立てる。ゲインステージングで
適正レベルをとったら、不要な低域をハイパスで切る。ギターやシンセの低域を削るだけで、不思議とベースとキックが浮かんでくる瞬間がある。次に周波数の領域を分けるために減算的EQを使い、例えばボーカルの3k〜5k周辺はちょっと持ち上げて存在感を確保し、同じ帯域で主張する楽器はそこを削る。Qは状況に応じて細くしたり広くしたりして調整する。
ステレオ配置と空間処理も重要だ。センターに置くべきキック/ベース/リードを確保し、伴奏は左右に広げる。リバーブやディレイはセンド処理で量をコントロールし、リバーブに対してもハイパスや低域カットを入れてマスクを避ける。キックとベースのぶつかりにはサイドチェインやマルチバンドコンプを活用してダイナミクスで
棲み分けを作る。並列コンプレッションでアタックを残しつつ音圧を稼ぎ、飽和やテープシミュで倍音を足して楽器同士を識別しやすくする。
最後にモノ互換や複数再生環境でチェックする習慣を持っている。参照用トラックを用意して、たとえば'Random Access Memories'のようなリファレンスと比べながらバランスを整えると、方向性がブレにくい。私の経験だと、最初にルールを絞って手を入れ、細かい自動化で時間的な窒息を解消していくと、密度の高い楽曲でもクリアなミックスが作れる。