ルキは朝になると蛍が目覚める前、一人帰って行った。
一口減ったミネラルウォーターを残して。蛍を抱き枕にしただけの一夜。 蛍はふわふわした気持ちで、卵をフライパンに落とす。夏休みも終わり、既に九月に入ったが、まだまだ猛暑は続いている。 夜中に感じたルキの体温と感触。(あいつ、本当になんなんだよ……)
蛍は自分がどれだけ油断していたのか。この時ようやく気付く。
背後から抱き着かれたルキの身体は柔らかかった。以前は刃物を仕込んでいると明かし、その固められた身体に触れた。あんなゲームイベントの主催者が、まさか武装していないわけがないというのに、何故か昨夜はしていなかったのは事実。(俺はいつか殺す気でいるってのに。余裕ってわけ ? )
考えれば考える程、内側に広がる初めての……なにかの感情。
そこへ背広姿の重明が帰宅した。
「おかえり」
「おう。食ったらすぐ出る。
今日も図書館か ? 美果さんを待たせるのもなんだから、先に準備して来い」「もうしてある」
「そうか。なら……いいが」
重明は飛び出てきたトーストを皿にのせると、目玉焼きを持ってきた蛍と卓に着く。
「昨日は眠れたか ? 」
「……あー。うん。別に普通」
「あいつは友達か ? 」
あいつ……とは ?
ルキが来たことを知るはずもないのだから、椿希のことだ。 蛍としては自分にちょっかいを出してきた椿希より、何も言わずに夜に来たルキの方が余程気になっているのが本音だ。しかし重明も内心穏やかじゃない。 「いや……。ちょっと絡まれただけだよ。 学校で美果を紹介しろって言われて、曖昧に返したんだ。だってそいつ転校生で話したことないし……勝手に決めらんないじゃん。変な奴かもしれないのに美果に会わせらんないよ」「そうだったのか……」
重明はトーストを折り畳んだりちぎったりするだけで、口に運ぼうとしない。
「……どうしたの ? 」
「