Search
Library
Home / BL / crisis / 37.*****

37.*****

Author: よつば 綴
2025-06-24 17:00:00

 あれ以来、人に名前を呼ばれるのが苦手になった。奏斗さん以外に呼ばれても、過剰に反応してしまう。好意を抱いて寄ってくる人からは特に。

 けれど、名前を呼ばれる事などまずない。誰にも関心を持てなかったのだから、他人と深い関係になる事は一度もなかった。

 言い寄ってくる人から、気安く“零くん”と呼ばれた事はあったが、僕の状態を見るなり去っていった。呼び捨てではない分、症状は軽かったようだけれど。

 取り留めて名前を呼んでほしいと思った事もなかったので、これまで特に困る事はなかった。芯に呼ばれたいと思ってしまった、あの時までは。

 僕の話を聞き終えた芯は、一瞬表情を落とし顔を伏せた。が、パッと顔を上げしれっとした顔を見せると、いつもの軽い調子で言った。

「んじゃ、俺が咄嗟にキスしたの正解だったんだ」

「うん。あれはラッキーだった」

「え、軽ぅ··。そんなんでよく俺に名前呼べとか言ったよな。死ぬ気じゃんか」

 いつまでも“先生”としか呼んでくれない芯が、僕を名前で呼ぶ。それが関係の進んだ証明になると、愛の証になると思ったから。

 年甲斐もなく浅はかだった。けれど、この感情に溺れ始めたあの時の僕は、ガラにもなく浪漫に溺れたかったのかもしれない。

 しかし、芯の身体だけでは飽き足らず、心まで堕としたくなったのだから、それは至って必然的な衝動だった。今思えば、まともな思考回路ではなかったと思うけれど。

 言い訳がましいうえに直感という曖昧な判断ではあるが、芯になら名前を呼ばれても大丈夫な気がしたのだ。だって、名前を呼ばれたいと思ったのなんて初めてだったから。僕自身が望んだ事なのだから。

 無論、リスクを考えれば怖くないわけではなかった。だが、あの時の僕は毎日不安に押し潰されそうで、芯に想われている証がどうしても欲しかったのだ。

 僕がどれだけの想いや思考を巡らせようが、芯はまだ名前を呼ぶつもりはないらしい。かりそめの恋人だからだろうか。

 いや、あんな失態を見てなお、僕から離れなかっただけでも御の字だ。これからまた、好いて
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP