Chapter: 32.###「芯····見にゃいれぇ······」 そう呟く先生の顔は、見たことないくらい蕩けきってた。これが本来の先生で、先生の本性なのかな。まぁ、そんな事はどうでもいいや。 多分、薬の所為なんだ。分かってる。けど、先生がエロすぎて目が離せない。俺だって、相当ヤバい状態なんだけど。 イキ過ぎて脳が焼き切れそう。ちんこもケツも感覚おかしくって、それでも腹の奥でイクもんだから苦しいったらねぇの。 にしても、奏斗のヤツすげぇ楽しそうに先生掘ってんな。うぜぇ。 不思議と、今でも先生に突っ込みたいとは思わないけど、興味が無いわけでもない。 でも、このふたりが絵になりすぎててAV見てる気分。あー、なんか他人事みてぇ。 ぼんやりした頭ン中で、くだんねぇ事ばっか考える。先生を助けてやりたい。けど、ガキの俺にはどうする事もできない。つか、これ助けたほうがいいんだよな? 先生、めっちゃ気持ち良さそうなんだけど。はぁ、もどかしいな····。 それよか限界。これ以上イッたら脳みそ死ぬわ。けど、声も出せないのにどうしろってんだよ。2人でイチャイチャやってるから、俺の事は完全放置だし。 見てっと腹立つんだよな。いっそ、目隠しもしてくれたら良かったのに····。 んな事考えてたら、不意に先生と目が合った。泣いてる先生を可愛いと思うんだから重症だ。「芯··ごめんね····ごめっ、ん゙ん゙ん゙っ♡ はぁぁっ····奥゙イギュぅぅ!!」 また首輪引っ張られて窒息イキしてる。いつもは俺の首絞めてイッてるくせに。 かれこれ、何十分も見せつけられてんの。なんか、すげぇモヤモヤしてきた。俺も先生をイかせたい。
Dernière mise à jour: 2025-06-19
Chapter: 31.***** ベッドへ倒れ込んだ拍子に、芯から僕のペニスが抜けてしまった。とても寂しい。触れたい。芯を抱き締めたい。それなのに、身体はピクリとも動かない。 脳内でよたよたと思考がよぎる。そんな僕に触れたのは奏斗さんだった。 僕の前髪を握って持ち上げると、乱暴なキスをした。煙草の味がする、不味いキス。それなのに、絡められる舌に応えてしまう。芯のキスはもっと甘くて柔らかかった。 極上のスイーツを知ってしまった今、劇薬のような奏斗さんが痛い。「優しくシてあげようか? 芯クンに甘いの教えられちゃったんだろ。だからそんなに怯えてんだよね」「お、怯えてなんか──」「ま、昔からだけどさ。····あーあ、バカだなぁ。そんなの知らなきゃ、またすぐ俺に溺れられたのに」 甘い鉛を飲み込んだみたいだ。胸の手前で言葉がつっかえている。 二度と、こんな危険な沼に溺れたくない。なのに、奏斗さんの全てに反応してしまう。身体に根付く熱を、どうしても捨てきれない。「せ··ん、せぇ····」「もう起きたの? マジで元気だねぇ」「ハッ····ジジィとは違うんだy──ひッがあ゙ぁ゙ぁっ!!?」 生意気な口を聞いた芯に、ズプッとブジーを挿し込んだ。一気に刺して、怪我でもしたらどうするんだ。「あ~っは····イイ声♡ もっと聞かせて」「か、奏斗さん! ら、乱暴にしないで····芯に怪我させないでください」「あ? チッ··煩いなぁ」 振り返り、僕を睨む奏斗さん。その瞳に逆らえば、もっと酷い目に遭う。僕はそれを知っている。忘れられるはずがない。 けれど、あの頃の僕とは違う。 僕は奏斗さんの腕を掴み、その手を止めた。奏
Dernière mise à jour: 2025-06-18
Chapter: 30.***** 失神すらさせてもらえないまま、僕は奏斗さんの射精を腹で受ける。プラグで栓をされ、身動きがとれないよう手足を縛られてベッドの隅に転がされた。無様に、起き上がる事もできない。「あ、それねぇ····イイ感じの薬、たーっぷり塗り込んでるから。芯クン潰してる間、独りで悶えてな」 奏斗さんは、芯をベッドに移動させると、口に掛けていた縄だけ解いた。そして、電マを亀頭に押し当てようとする。抵抗しようものならペニスを握り潰すと脅し、芯を大人しくさせてしまった。「チッ····縛んのマジすぎてキモいんだけど」「あぁ····俺、趣味で緊縛師やってるからねぇ。上手いでしょ」 にこやかに言って、芯のロープに指を掛けて言う。大学生の頃から怪しい店でアルバイトをしていたようだが、ここまで本格的とは。昔から縛るのは上手く、おかげで縄酔いするまでに仕上げられた。 芯まで、その毒牙に掛けられないようにしなくては。しかし、全身に力が入らず口も動かせない。おそらく、プラグに塗布したという薬の所為もあるのだろう。「は··? きん····? なぁアンタさ、何がしてぇの? 俺と先生が別れたら満足なわけ?」「君らがどんな関係であろうが、そんなのどうでもいいよ。俺には関係ないからね。けどそうだなぁ····芯クンも可愛いし、いっそ2人とも僕が飼っちゃおうかな」「あ? ふざけんな。俺も先生も、お前なんかに堕ちるかよ。自惚れんのも大概にしとけよな、自意識過剰ジジィ!」「あっはは、芯クンは口が悪いなぁ。まずはそこから直していこうか」 強気な芯の心をへし折るべく、奏斗さんは電マのスイッチを入れた。芯の愛らしい嬌声が響く。この状況でそれを聞いて、欲情する僕は救いようのない変態だ。 奏斗さんの責め方は、とにかくでエゴイスティ
Dernière mise à jour: 2025-06-17
Chapter: 29.***** 名前を呼ばれ、呼吸困難に陥った僕の口を、奏斗さんは容赦なく犯す。鬼畜の所業だとは思わない。こんなの、まだまだ甘いほうだから。 僕の前髪を鷲掴み、壁に追い込んで喉奥まで押し込む。窓枠に片手を掛け、喉を壊す勢いで使う。息ができない。逃げられもしない。 あぁ、芯が僕を心配してくれている。目に沢山涙を溜めて、無意味に奏斗さんを睨む。そんな事をしても、奏斗さんは気にも留めないのに。「顎はずしていい? 根元まで挿れるよ」「んぅーっ··ぇ゙ぁ゙··ぉ゙、あ゙ッッ!!」 喉の奥を強引に開くと、根元までねじ込んだ。同時に、ガゴッっと鈍い音が脳に響く。久々に鳴った、顎の外れる音だ。懐かしい痛みに、体温が上昇してゆく。 芯が激昂しているが、奏斗さんは振り向きすらしない。芯の声が遠くで聴こえる。僕は、視界の隅でそれを見ているが、劈くような痛みでそれどころではない。 けれど、おかげで息をする事ができた。まさか、これを狙っていたわけではあるまい。大丈夫、都合のいい解釈には懲りている。 そして、痺れた脳で感じるそれは、僕のペニスを勃たせる快感にすぎなかった。痛みと快感の繋げ方は、嫌というほど身体が覚えている。 小便を漏らし、顔から出る汁を溢れさせ、まるでさっきまでの芯の様だ。こんな姿を見てなお、僕を自分のものだと訴えてくれている芯。 まだ奏斗さんへの対抗意識を燃やしているのだろうか、真意は分からないが嬉しい。どうやら僕の心は、自分で思っているよりも随分と芯に執心しているらしい。 ほら見ろ、奏斗さんの懐かしい責めに、反応するのは身体だけだ。なんて強がりも、心に留めておかねばなるまい。 奏斗さんは僕の顎を嵌めると、所謂チングリ返しの体勢にして足首を持ち上から突き挿す。痛みと嫌悪感で、込み上げるものを飲み込めなかった。「かはっ····ゔぇ゙ぇぇ······」「あぁ、久々だしキツい?
Dernière mise à jour: 2025-06-16
Chapter: 28.***** 僕は何もかもを諦め、奏斗さんに手首を縛られる。光沢のあるワインレッドのネクタイ。奏斗さんが昔から好んで身につけていた色だ。血の染みがイイ色になるんだと言っていた。 藻掻く事さえも許さないくらい、ギチギチに縛られる。機嫌が悪いとこうなのだ。見える所に痕をつけられるのは困る。けれど、そんなことを言えば首や顔にもつけられかねない。 されるがまま、僕が抵抗もせずに縛られていると、芯が奏斗さんに蹴りかかった。奏斗さんはひょいと避ける。あわや、頬に直撃するところだった。「っぶね。へぇ····、まだ折れてないんだ。おっけ、先に芯クンから壊しちゃお。お前はそこで見てなね。大事な芯クンが俺に堕ちてくとこ♡」 奏斗さんは、芯の脚を縛り身動きを取れなくする。次に僕を縛り終えると、芯を開脚した状態に縛り直した。 手は後ろ手に、さっきよりも雁字搦めに縛り、口にも縄を掛ける。そして、四つ這いにして一切抵抗できなくなった芯のお尻を鷲掴み、一息に根元まで突き挿した。言葉にならない悲鳴をあげる芯。余程痛いのだろう。涙とヨダレが溢れ、二突き目には嘔吐してしまった。 縄を食いしばり、声を我慢する芯と目が合う。気がつくと、僕のほうが涙をポロポロ零していた。「センセ《へんへ》··泣くなって《ひゃふはっへ》····。俺《ほぇ》····大丈夫だから《はいひょーふはひゃや》」 大丈夫なわけがないじゃないか。そんな言葉さえ返せないほど、唇の震えが止まらない。 奏斗さんは縄を手綱《たづな》の様に握り、芯の上体を引き起こす。奥を深く抉られて辛いだろう。それでも、芯は僕に声を聞かせないよう抑える。 奏斗さんは芯を快楽漬けにし、意識が飛ぶと痛みを与えて起こす。それを絶妙に繰り返し、芯のメンタルを削ってゆく。 強気の芯も、流石に限界が近いようだ。目が虚ろになり、僕には見せなかった表情を見せ始める。 完全に蕩けきった顔だ。僕だって、こ
Dernière mise à jour: 2025-06-15
Chapter: 27.***** 急いで仕事を片付け、タクシーを拾って帰宅した。見上げると、家の明かりがついている。 芯が待ってくれているんだ。そう思うと、部屋までの足取りがいやに軽い。 鍵を開け、扉を開いて気づく。玄関には、僕達の物ではない靴がある。嫌な予感がして、心臓が大きく跳ねた。胃の辺りはズクズクと重い。 その瞬間、芯の甘い声が聞こえた。脳が揺れそうなほど、勢い良く顔を上げる。 恐る恐る、声が聞こえた寝室の扉を開く。すると、目を疑う光景が飛び込んできた。 芯が、力無く上体をベッドに落としている。そして、そんな芯の腰を持ち上げ、バックで犯している奏斗さんが居た。芯は動かない。どうやら、意識を飛ばしているようだ。 気の強い芯の事だから、相当奏斗さんを煽ったはずだ。あれは、容赦など知らない快楽責めをしている時の顔。僕が騙された、最も甘い奏斗さんだ。 気絶しているから、お尻が緩んでいるのだろう。奏斗さんは指も一緒にねじ込んでいる。苦しそうだ。 それに、よく見ると芯のペニスは、射精できないように縛られている。きっと、余程辛い目にあったのだろう。玉も根元で縛られていて、少し腫れているように見える。 僕は呆然と立ち尽くし、肩に掛けていたバッグを落とした。奏斗さんは、うっすらと笑みを浮かべて芯を犯しながら、僕の方を見ずに声を掛ける。「おかえり。遅かったね」 首元から耳へ、這うような声に身体が跳ねる。奏斗さんの、芯を見下ろす瞳は無機質で、その横顔からは全く感情が読めない。 けれど、この肌がビリビリと痺れるような感覚。奏斗さんが怒っている時の雰囲気だ。嬉々として犯しているのに、滲み出る空気が痛い。 どうして奏斗さんが此処に居るのだ。何故、芯を犯しているのだ。聞きたい事はあれこれ脳内を飛び交う。けれど、僕は声も出せずに固まったまま。恐怖で、声帯がピクリとも動かない。 僕がたじろいでいると、奏斗さんは芯の耳を噛んで囁いた。「芯クーン、起きな」 ポケッとした顔で、僕を視界に入れる芯。表情が少し緩むと、芯は声を絞り出して呟いた。「センセ&
Dernière mise à jour: 2025-06-14
Chapter: 今宵も-2 翌朝、甘ったるい薔薇の匂いで吐き気を催して目が覚めた。 あの後ヴァニルに朝方まで犯され、屍の如く深い眠りに落ちていた。で、起きたらこれだ。 俺のベッドが、俺ごと薔薇に埋め尽くされている。かろうじて、俺の顔だけが出ている状態だ。「おい、ノーヴァ····これはどういう状況だ。····うぷっ」 本当に吐きそうだ。一刻も早く、この尋常じゃない量の薔薇を撤去してほしい。「ん~? ヌェーヴェル、綺麗だよ」「いや、葬儀みたいだとは思わないか? 死者に贈る花より多いぞ」「真っ赤に染まって美味しそうだよ」 ニコッと幸せそうな笑みを見せやがって、愛らしいことこの上ない。だが、そうも言っていられない。 吸血鬼の感性など、きっと俺には一生理解できないだろう。まさか、これがノーヴァなりの求愛なのだろうか。だとしたら、ヴァニルのほうが幾分かマシだ。 早々に撤去させたが、薔薇を全て風呂へ突っ込み『薔薇風呂だね~』とか言って一緒に入らされた。おかげで、匂いが身体に染み付き吐き気は治まらなかった。 昼過ぎには、予想通りノウェルが追加の薔薇を持ってやってきた。俺は顔を覆い天を仰いだ。もう、言葉が見つからず溜め息しか出ない。「ヌェーヴェル、君にありったけの愛を込めて。生涯、君だけを愛する事を誓うよ」 片膝をつき、俺に花束を差し出しながら言うノウェル。女がされれば、昇天するほど喜ぶ場面なのだろう。 だが、今の俺は地獄に落とされたような気分だ。「悪い、ノウェル。薔薇を俺に近付けないでくれ······吐く」「え····? わぁぁ! 大丈夫かい!?」 俺は近くにあった花瓶の花を抜き捨て、そこに粗相をしてしまった。ノウェルが背中をさすってくれているが、ノウェル自体が薔薇くさいので治まらない。「ノ
Dernière mise à jour: 2025-05-08
Chapter: 今宵も-1 呼吸の為に唇を離すと、ノーヴァは無言で建物の屋上に降りた。そして、壁に手をつかせるとケツを弄り始める。 ギリギリ周囲からは見えないが、声を出してしまうと丸聞こえだろう。「声、我慢できるよね。見られたかったら出してもいいけど」 なんて耳元で囁かれ、俺は襟を噛んで必死に声を殺す。 後ろから首に牙を立てられると、腰から背中へ快感が抜ける。吸血の瞬間、力が抜けたところでノーヴァはちんこをねじ込んだ。「ふぅっ、ん゙ん゙ん゙っ」「あっは····頑張るねぇ」 ノーヴァは、俺がどこまで声を我慢できるのか試すように、意図してねちっこく前立腺を押し潰す。強く抉るように潰されると痛い。と、いつも言っているのだが、やめるつもりは毛頭ないらしい。「痛い? しゅっごい絞まるんらけろ。ボクのおてぃんてぃん、喰い千切らないれね♡」 耳朶に牙を食い込ませながら言う。喰い千切られたくないなら加減をしろ。なんて、いくら言っても聞く意味を持たないのがノーヴァだ。 キスがしたいと言い、片脚を上げて向かい合わせにされる。そして、軽くキスしながら両脚を抱えて持ち上げた。ずり落ちないようノーヴァの首に手を回すと、嬉しそうに深いキスをしてくる。 そして、そのまま遠慮なく奥をグリグリと押し上げる。これからココに入るのだという合図だ。「ここ、声我慢できるかな······ほら、抜くよ」 奥を貫くと、イッてる俺を抱えて飛び上がりやがった。「ひあぁぁぁ!!! 何考えてんだっ、バカぁっ! やっ、あぁぁっ!! 降ろ、せ····ひぁっ」「あっはははは! めーっちゃ締まるぅ~」 こいつ、マジで狂ってんのか。ケツだけじゃなく全身に力が入る。が、器用に突き上げられる所為で、徐々に力が抜けてゆく。 俺は落ちまいとノーヴァの首にしがみつく。動きにくいと文句を言われたが、そんな事知るか。
Dernière mise à jour: 2025-05-07
Chapter: 事件は闇に-2 粗方の処理を終え、俺は今回の件についてタユエルから聴取する。 暴走した吸血鬼には見覚えがあり、以前は人間として生活していたと言う。ところがここ数ヶ月は、どうも様子がおかしかったらしい。虚ろな目をして、拘束具を数点買いに来た事があったそうだ。 それから暫く経った数日前の早朝。少年が1人、今回と同じ様な状態で店の前で倒れていた。それを保護した事から、今回の事件が幕を開けた。 俺が訪ねた時、タユエルは少年の血にアテられていた。しれでも俺を襲わないよう、必死に理性を保っていたらしい。それは、調書には書かないでおこう。「俺たちは、少年らの容態を確認して聴取もせにゃならん。タユエル、今回の件は不問とする。だが、また同じような事があればお前だとて処罰することになる。報告、ちゃんとしろよ」「わーったよ」「大事にしたくないなら直接俺に報告しろ。それくらいの面倒は見れるつもりだ」「へいへい、頼りになる坊ちゃんだねぇ。ったく、立派になりやがって」 タユエルは俺の頭をグリグリと撫で回し、嬉しそうな面で俺たちを見送った。 俺の頭を撫でて褒めるなんて、母さんが居ない今ではタユエルくらいのものだ。まぁ、悪い気はしないが、まだまだガキ扱いされているようで悔しさも否めない。 俺とヴァニルは、病院で少年達に話を聞く。皆、一様に記憶が欠落していた。だが、最初の被害者だけは、吸血鬼と出会った時の事を覚えていた。 少年は森で遊んだ帰り、友人とはぐれてしまった。森を|彷徨《さまよ》っているうち夜になり、何かに誘われるような感覚で廃墟に辿り着いた。 そこは、レンガ造りの小さな家。中から微かに歌声が聴こえた。恐る恐る覗くと、ロッキングチェアに座った美しい男が、綺麗な歌を唄っているのが見えた。 男は少年に気づき、家へ招き入れた。そして、首に噛み付かれた所で記憶は途切れたそうだ。 結局、吸血鬼が何をしたかったのかも、動機も覚醒したきっかけもわからず終いだ。こんなあやふやな結末では、父さんにネチネチ嫌味を言われるのだろう。 しかし、これにて調査は終了とする。傷も癒えない少年達に、これ以上覚え
Dernière mise à jour: 2025-05-06
Chapter: 事件は闇に-1 ウトウトしながら、1人で心細く留守番をしていた深夜3時頃。内側から板を打ち付けていた扉が、物凄い轟音と共に蹴破られた。 俺は驚きすぎて声も出ず、座っていた椅子から転げ落ちた。慌てて体勢を整え、物陰から様子を窺う。 扉を蹴破ったのはタユエルで、どうやら獲物を捕まえて戻ったようだ。タユエルの後ろで、ヴァニルが縛り上げて繋いだ男を引き摺っていた。「そ、そいつが犯人か?」「そうだ····って、なんだヴェル、んなトコに隠れて。はははっ、チビってねぇか?」「チビるわけあるか! それより、やはり吸血鬼だったのか?」「あぁ、純血じゃねぇがな。どれだけ入り混じってんのかもわからねぇ。あとはまぁ、見ての通り覚醒しちまってる」 どうやら会話はできそうにない。涎が垂れ流しで、牙も仕舞えないらしい。極めつけは紅黒に染まった瞳。以前のノウェルが、これの一歩手前の状態だった。だから俺は焦ったのだ。 ここまでキてしまっては、奇跡でも起きない限り正常に戻ることはない。故に、奇跡など起こりえない今、殺処分という形を取らざるを得ない。 墓穴を掘り、そこに縛った状態で寝かせる。そして、銀の杭で一息に心臓を貫き、地面深くまで打ち込んだ。 胸の当たりが燃え、耳を塞ぎたくなるような断末魔が響く。こうして、心臓が灰になるまで待ち、確実に息絶えた事を確認する。 十字架と弾丸をモチーフにしたヴァールスの家紋。それを銀の糸で刺繍した、無駄に煌びやかな布を被せてから埋める。 これが決まりなのだから、俺は手順通りにこなす。人知れず命を終える吸血鬼への弔いだ。手を抜くわけにもいかない。 それにしたって、ヴァニルとタユエルの顔が見られないなど、我ながら感傷に浸るようで吐き気がする。「少年達は、よく殺されなかったな」 俺は思わず、ポツリと呟いた。「えぇ。けれど、それは理性が残っていた訳ではなく、彼の性癖だったんだと思いますよ」「俺もそう思う。あんま気にすんな」「あぁ、気になどしていない。さぁ、そろそろ帰るか」
Dernière mise à jour: 2025-05-05
Chapter: 変化してゆくもの-2 俺はすぐさまヴァニルを連れタユエルの店へ向かう。 最悪の事態──それはきっと、タユエルが食料としてではなく無作為に人間を殺めた、という事なのだろう。「ヌェーヴェル、大丈夫ですか?」「あぁ。こういう事態に備えて最低限の訓練はされている。お前に説明するまでもないだろうが、ヤツが暴走していればその時は····」「それは私が。貴方が太刀打ちできる相手ではありません。それに、彼を手に掛けるのは辛いでしょう」 俺とタユエルが長い付き合いだと知って、ヴァニルなりに配慮してくれたのだろう。しかしそれを言うならば、ヴァニルのほうが関係としては深い。「お前の方がやりにくいんじゃないのか。師匠みたいなものだったんだろう? ましてや、同胞を手にかけるなんて気持ちの良いものではないだろ」 ヴァニルは俺に口付けて、それ以上言うなと黙らせる。仕事だと割り切っている····そういう事なのだろう。 俺は気の利いた言葉を見つけられず、黙って銃の確認をした。あくまで念の為だ。 タユエルの店の前に立ち、腰に忍ばせた銃へ手を添える。息を殺し、ゆっくりと扉を開く。 隙間から中を覗くが、真っ暗で何も見えない。しかし気配はある。耳を澄ませると荒い息遣いが聞こえた。 思いきって一歩踏み入れた瞬間、耳を劈くような怒声が響く。「来るな!! ヴェルなんだろ? 絶対に入ってくるなよ!」 明らかに様子がおかしい。手遅れだったのだろうか。「····そうだ、俺だ。タユエル、何があった。何故、立ち入るのを拒む」 タユエルからの返答がないので、ゆっくりと扉を開ききる。陽の光が差し込み、その奥にタユエルの姿を目視した。「入るぞ」 俺はまた一歩踏み込む。タユエルの出方を窺いながら、一歩一歩慎重にカウンターへ向かう。 古い木造の匂い。その中に、血の様な鉄っぽいにおいを感じる。 胸騒ぎ
Dernière mise à jour: 2025-05-04
Chapter: 変化してゆくもの-1「ヴェル、起きて。ねぇ大丈夫?」 いつの間にか子どもの姿に戻っていたノーヴァに、柔らかく頬を抓られて目が覚めた。「ん····大丈夫··だ。ぁ、は、腹····」 腹の痛みが消えている。けれど、あの熱さだけは残っている感じがしてズクンと疼く。きっとこれは腹じゃなく、脳にこびりついた感覚なのだろう。 そして、熱さの理由はもうひとつ。ヴァニルが申し訳なさそうに俺の腹をさすっているのだ。こいつの手は冷たいのだが、気持ちは伝わってくる。「ヴァニル、大丈夫だ。もう痛くない」「いえ、そういう事では····。優しくするという約束だったのに、すみません」 ヴァニルは眉間に皺を寄せ、なんとも苦しそうな表情《かお》をしている。 まだ身体を起こせないが、俺はそっとヴァニルの頬に手を添えて微笑んだ。「ヌェーヴェルが私に優しい顔を向けてくれるなんて、出会って随分経ちますが初めてですね」「俺だって、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだ」 ノーヴァが俺の額を撫で、啄むようにキスを落とす。「ノーヴァ、くすぐったい。なんだ?」「気絶する前に言ったこと、憶えてる?」 そう言えば、とんでもない事を口走った記憶がある。「······憶えてない」 俺は、ふいと目を逸らして言った。耳まで熱い。「嘘だ。憶えてるでしょ」「憶えてねぇよ。あの時は頭の中が真っ白だったからな」 必死に誤魔化したが、下手な嘘など通用しなかったようだ。 ノーヴァにじっと見つめられ、俺は観念して白状する。跡を継いで、全て終わらせてからにしようと思っていたのだが、あんな事を口走った後なのだから仕方がない。「俺は、お前たちを大切に想ってる。ずっと身
Dernière mise à jour: 2025-05-03