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⑱災難Ⅱ

Author: 美桜
2025-06-24 11:38:50

夜の帳が降りる頃、精華ホテルのエントランスホールは建物を照らすライトにきらびやかに浮かび上がっていた。

1台のロールスロイスがその車体をライトに輝かせて、スッと玄関前に停まった。

「いらっしゃいませ」

ドアマンがお客様を迎えようとにこやかに近づいた時、手を掛ける前にその後部座席のドアが開いた。

そこから出て来た、一目で只者ではない雰囲気のまだ若い男に視線を向けられ、ドアマンの彼は思わず直角に礼をした。

「いらっしゃいませっ。お荷物はございますか?」

「……ない」

「かしこまりました!では、こちらへどうぞ!」

「……」

なんでこんな無駄に元気なんだ?ウザいんだけど……。

そんな風に思いながら、希純は彼の後に続いて受付カウンターへと歩いて行った。

「いらっしゃいませ」

カウンターの女性は希純を見て僅かに頬を染めたがきっちりと頭を下げ、穏やかな微笑みをその顔に乗せた。だがー

すごいイケメン!お知り合いになりたいわ〜!

彼女の胸の内では花火が打ち上がっていた。

「佐倉美月の部屋はどこだ?」

魅惑の低音ボイス。でもそう問う眼差しは冷ややかで、彼女はビクッと肩を揺らした。

「聞こえないのか?」

トントンと希純の形の良い指がカウンターを叩く。

「いえ…。失礼ですが、お客様とのご関係はー」

「あ"?」

希純の額に青筋が浮かぶ。

「なんだ?このホテルじゃあ、客のプライバシーをそんな根掘り葉掘り訊くのか?」

「……」

社長…それ、完全に輩です……。

後ろに付き従って来た坂本は頭を抱えた。

「そ、そうではなく…っ。あの、佐倉様より、どなたも部屋には通さないよう申し使っておりますので……。」

「……」

「ですので…あの、その……」

鬼のように睨みつけられて、最早彼女はパニック寸前だった。

誰か助けて…。イケメンが怖いっ……。

狼狽える彼女を睨んでいても埒が明かないと思ったのか、希純は徐ろに身分証明書を取り出してバンッとカウンターに叩きつけた。

「俺は、彼女の、夫、だ!!」

「夫……」

「なんだ?まだ何か必要なのか!?」

「い、いえ!」

受付の彼女はブンブンと首を振った。

「じゃあ、早く言えっ。部屋はどこだ?」

「さ、最上階〝椿の間〟でございます…」

「よしっ」

希純はそれだけ聞くと、さっさとエレベーターの方へと向かって行った。

「社長!」

坂本の呼びかけに、希純は振り向いて微笑った。

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