しかし、そんなある日のことだった。
「佐倉さん」
後ろから聞き覚えのある声がした。 このハイヒールの音に、私は聞き覚えがあった。
「……なんでしょうか」
その声の方に振り返ると、目の前にいたのは、やはり藤堂さんだった。
この前会った時みたいに、ハデな格好をしている。
「ちょっといいかしら?」
「すみません。今、仕事中なんですが」
「少しでいいの。時間とれない?」
私はため息を吐き、「……分かりました。少しだけなら」と彼女に告げた。
今度は一体、私になんの用なの? 私は話すことん、何にもないのだけど。
「ありがとう。 ちょっと移動しましょう」
二人で喫煙席のある席へと移動する。
「……あの、私に何か用ですか?」
藤堂さんの方に振り向くと、藤堂さんはタバコを取り出し、気だるそうに吸い始める。
「恭平さんとは、別れる気になった?」
タバコの煙をゆっくりと吐き出した藤堂さんは、そう口を開いた。 そして私の方に視線を向ける。
「……何を言ってるんですか?」
「あら、まだ別れてないの? この前私、あなたに言ったわよね? 恭平さんと"別れて"って」
藤堂さんはタバコを灰皿に押し付けると、私にそう告げた。
「……私は、イヤだと申し上げたはずですが?」
「あら、まだ分からないの? あなたと恭平さんじゃ、格が違うのよ。 釣り合わないわ」
「……一体、何が仰りたいんですか?」
なんでそこまで言われないとならないの……。
「ここまで言っても、まだ分からない? あなたって本当に鈍いのね。……つまり私は、あなたと恭平さんとじゃ、不釣り合いだと言いたいのよ」
藤堂さんが再び、タバコに火をつける。
「……不釣り合い?」
「そうよ。恭平さんがあなたみたいな人を好きになるとか、本気で思ってるの? あなたは単に、彼に遊ばれてるだけなのよ」
そう言った藤堂さんは、タバコの煙の奥でニヤリと怪しく微笑んだ。
何も言えない私に、藤堂さんは「あら、もう怖じ気づいちゃった? まあ、そうよね?あなた鈍感だし、恋愛なんてまともにしたこと、なさそうだもの。 いい?この際だから教えてあげる。恭平さんは、あなたに同情してるのよ」と私に告げた。
「……同情?」
同情だなんて、そんな訳ない。 課長の気持ちは、本物に決まってる。
じゃなきゃ、一緒に住もうだなんて絶対に言わないはずだ。
「そうよ