Chapter: 【エピソード37〜番外編〜】 それから三年が経った。 相変わらず私たち夫婦は、仲良しでやっている。 莉音もだんだんと大きくなり、だいぶ言葉を話せるようになってきた。 莉音が本当にかわいいのか、爽太さんは莉音にメロメロだ。 それだけではなく、一年後に産まれた第二子の女の子【莉子(りこ)】にもメロメロなのだ。 莉子も間もなく二歳になるところだ。 爽太さん自身男の子がほしいそうだけど、もはや二人の女の子に恵まれて幸せそうなので、もう一人出来たら今度は男の子がいいと言っている。「まーまー!」「どうしたの?莉音」「りこがりおんのえほん、かえしてくれない!」 莉音が莉子に絵本を取られてしまいいじけているが、それを私は「莉音、莉音はお姉ちゃんなんだから、今は莉子に絵本貸してあげなさい」と告げるが、莉音は「やーだー!」と駄々をこねている。「莉音、絵本はいつでも読めるでしょ」「やーだー! いまよみたいのっ!」 最近の莉音は莉子にベッタリな私がイヤなのか、よくこうして駄々をこねるようになった。「莉音、莉子だって絵本読みたいのよ? ママと約束したでしょ?莉子には優しくするって」「だって、さきにえほんよんでたのは、りおんだもんっ!」 これは困った。 こうなると莉音は、なかなか機嫌を直してくれないのだ。「莉音、莉子に貸してあげなさい」「なんでりおんはだめなのに、りこはいいのー?」 莉音も物心が付いてきたのか、最近はこうしてわがままを口にするようになった。 もちろん、ダメなものはダメだと言い聞かせているのだけど、なかなか言うことを聞いてくれない。「りこは妹なんだから、譲ってあげるのは当たり前でしょ」「なんでー? りおんのがさきだったもんっ!」 私はため息を付くと、莉音に「じゃあ、ママが莉音と莉子に絵本読んであげる。 だから一緒に絵本飲むのはどう?」と提案してみると、莉音も諦めたのか「じゃあ、ママがりおんとりこにえほんよんでくれるの?」と聞いてくれるから、「そうだよ。それなら二人で見れるでしょ?」と言ってみる。「じゃあ、ママがよんでっ」 良かった、それで納得してくれようだ。 今日は爽太さんが出張で大阪に行っていていないので、ワンオペなので特に体力が必要になる。「じゃあね、莉音も莉子もママのところに来てね」「はーいっ!」「まーまー!」 莉子も私の元へと走ってくる。「じゃあ
Last Updated: 2025-06-10
Chapter: 【エピソード36〜二度目のプロポーズ〜】 もちろん、今までも幸せだった。だけど今の方がもっともっと幸せだ。 こうしてまた、爽太さんと会えたから。これ以上ないってくらい、幸せになりそうな予感がする。「今まで一人で苦労を背負わせてしまって、すまない。……これからは俺も、ちゃんと父親になるから。前よりももっと、いい旦那になれるように頑張るからさ」 爽太さんからその言葉がもらえただけで、私は充分だった。それでも、幸せだと感じたからだ。「爽太さん……私たちはまだ、親になったばかりですよ。 だから二人で一緒に、手を取り合って支え合って、これからも莉音を立派に育てていきましょうね」「ああ、そうだな。……任せておけ」 爽太さんは、嬉しそうに微笑んだ。「頼りにしてます、パパ」 「パパか……。良し、新米パパ、頑張るか」「はい。私も新米ママとして、頑張っていきますので」 こうしてまた、二人一緒に生きていくことが出来ることを、幸せだと思う。 一年間単身赴任みたいな感じになったけど、またこうして再会出来たから。「……紅音、俺の結婚指輪、まだ持ってるか?」 そう問いかけられた私は「もちろんです。……ここにありますよ、ずっと」とネックレスに付いた爽太さんの結婚指輪をそっと見せた。「……良かった。 ありがとう、失くさずに持っててくれて」「爽太さんも、私の指輪……持ってますか?」「当たり前だ。ずっと持ち歩いてたよ」 爽太さんは私の結婚指輪を同じくネックレスにした状態から取り出すと、それを外した。「……紅音。あの約束、覚えてるか?」 あの約束……。その約束を、忘れる訳がない。「もちろんです。……またプロポーズ、してくれるんですよね?」 帰ったらまたプロポーズしてくれると、爽太さんは約束してくれた。……私はそのプロポーズを、ずっと待ち続けていたのだから。「紅音、愛してる。 これからもずっと、一緒にいよう。今まで以上に大切にすると約束する」「……はい」 そんなの、当たり前だよ……。 ずっと大好きなんだから、爽太さんのこと。この出会いは、私にとって運命なの。 爽太さん以外、考えられない。「紅音、俺ともう一度家族になってください。……今度こそ、ずっと一緒にいる。 もう離れたりしないと、約束する」 爽太さんから結婚指輪を受け取った私は、「……はい。よろしくお願いします」と返事をして、
Last Updated: 2025-05-29
Chapter: 【エピソード35〜一年後の再会はサプライズで〜】 それから時は過ぎ、一年後ーーー。「さ、莉音(りおん)、ご飯にしようね」 生後半年を過ぎた娘、莉音(りおん)を育てながら、私は莉音と二人で生活していた。 莉音は本当に可愛くて、フニフニしていて、癒やしの存在だった。 だけど夜泣きもひどくて、毎晩夜泣きに悩まされている。 寝る時間もあまりないし、どうしたらいいのかわからない。「美味しい?莉音」 もぐもぐとご飯を食べる莉音のその姿は、可愛くて仕方ない。「あらら……。こぼしちゃダメでしょ」 赤ちゃんの育児をするのって、とても大変で……。一人だと自分の時間もないから、なかなか時間が作れない。「莉音、ご飯もういらないの?」 莉音にご飯を食べさせた後は、私も自分でご飯を食べる。 最近は食事を作る余裕もなくて、コンビニでお弁当とかを買ったりして食べている。「莉音、おねむになった?」 ご飯を食べて眠そうにしだした莉音を抱っこして、布団に寝かせる。「さ、お昼寝しようね、莉音」 莉音の横に私も横になり、子守唄を歌いながら莉音が眠るまで寝かしつけていく。 二年で離婚する予定だった私たちだけど、二年という時を経て本当の家族になれた。 それは離婚したくない気持ちが、お互いにあったからというものあるし、家族になるために努力出来たからだ。 だから私たちは、こうして家族になれた。「はあ、やっと寝てくれた……」 莉音は本当に寝なくて、寝かしつけるのが大変だ。「爽太さん、会いたいな……。何してるかな」 莉音は出産した時は、あまりにも嬉しくて、その感動から涙が溢れた。幸せだと感じたし、とても嬉しかった。 莉音が産まれた後、すぐに爽太さんにも莉音の写真を何枚も撮って送ったりしていた。 爽太さんはとても喜んでくれて、電話もしてきてくれた。私に【出産、おめでとう。お疲れ様】と言ってくれた。 それからはちょこちょこ、爽太さんにも莉音の写真や動画を送ったりしている。 その度にいつも送られてくるのは、私たちへの愛の言葉だった。 【愛してる】とか【早く会いたい】とか【愛おしい】とか、そんな愛のある言葉をたくさんくれた。 私はその言葉をもらう度に幸せを感じて、そして勇気をもらえた。 離れていても心は一つなんだって、そう思えるくらい大切な人……。早く会いたい。 会って、抱きしめて
Last Updated: 2025-05-24
Chapter: 【エピソード34〜再会を誓い合って〜】 それから数日間、私たちは二人での時間を過ごしていた。 明後日になったら、ついに爽太さんはイギリスへと旅立ってしまう。 寂しいし、本当は行ってほしくない。ずっと一緒にいたい。 だけど爽太さんとは、これからもずっと一緒にいれるんだ。 愛してる人とずっと一緒にいられる。 それって素晴らしいことだって思ってる。 だから爽太さんのことを信じて、これから私は生きていくの。後はこの子を産むために、一生懸命頑張るだけだ。 赤ちゃんが産まれる瞬間を、一緒に見たかったけど……仕方ない。「……爽太さん、明日、見送りに行ってもいいですか?」「え、来てくれるのか?」「はい。爽太さんを笑顔で、見送りたくて」 私は爽太さんにそう告げると、爽太さんは「ありがとう、紅音」と微笑んでいた。「俺はイギリスに行っても、紅音のことを絶対に忘れないからな。 毎日紅音のことを思いながら、向こうで頑張るよ。後、子供のこともな」「はい。そうしてください」 私は爽太さんから預かった結婚指輪を、ネックレスにして首にかけていた。 爽太さんからの愛の証を、常に身に着けていたいから。「紅音、愛してるよ。これからもずっと」「はい」「一年間、待たせてしまうし、色々と大変な思いをさせてしまうけど……待っててくれるか?」 その問いかけに、私は「当たり前です。だってこの子は、私たちの子供なんですよ?……大切に大切に、育てていきますから」と答えた。「ああ。……帰ってきたら、お前たちをギュッと抱き締めていいか?」「はい、もちろんです。 ギュッと抱き締めてくださいね」 だけど離れてもしまっても、私たちはまた必ず会える。 こうしてお互いを思い合う気持ちがあれば、私は頑張れる。この子と一緒に、爽太さんのことを待つ。「日本に帰ってきたら、赤ちゃんのこと、抱いてあげてくださいね」「いいのか?」「当たり前じゃないですか。 この子の父親は、爽太さんだけなんですよ?」 そう話した私は、爽太さんに抱きついて、爽太さんの温もりを感じた。 「……大好き、爽太さん。愛してる」 明後日になったら、爽太さんはイギリスに行ってしまう。 とても寂しい。 それまで爽太さんの温もりを感じることが出来なくなるから、いっぱい温もりを感じたい。 しばらく抱き締めてもらえないし、キスもしてもらえないから。✱ ✱ ✱
Last Updated: 2025-05-23
Chapter: 【エピソード33〜カウントダウン〜】 爽太さんがイギリスに発つまで気が付けば残り一週間となっていた。 あと一週間後、私たちは離れてしまう。「爽太さん、もうすぐですね」「ああ。そうだな」 こうしてニ年間一緒に生活してみて、すごく思い出がたくさんあった。楽しいこと、面白かったこと、色々と思い出が蘇ってくる。 泣いたこともあった。辛かったこともたくさんあった。「私、爽太さんのことずっと大好きですから。……離れても、ずっと」「ああ、俺もだよ」 私たちのお互いを思うその気持ちは、これからもずっと変わらない。 私は爽太さんのことを愛している。この子の父親として、爽太さんは必ず帰ってきてくれると言ってくれたから。 待ってる、この子と二人で……。「そろそろ、向こうに行く準備しないとですね」「そうだな。もうそろそろ、やらないとな」「はい」 爽太さんと離れるのは、正直寂しい。本当のことを言うと、離れたくない。 ずっとずっと、一緒にいたい。「もしかしたら紅音のことを、もう少し待たせてしまうかもしれない。……けど、必ず迎えに行くから」 爽太さんからそう言われた私は「約束ですよ?……必ず、迎えに来てください」と言って爽太さんの手を握った。「ああ。 だって俺には、守らなきゃいけないものがもう一つあるからな」 それは私だけでなく、赤ちゃんもという意味だ。「だって私たちの赤ちゃん、ですからね」 大切な大切な、私たちの宝物。この子を守るためにも、私は爽太さんの分まで頑張らないといけない。 この子の成長を見届けて、爽太さんとまた再会した時、笑顔でまた会いたいから……。「帰ってきたら、二人を思いっきり抱きしめたいよ」「……はい。抱きしめて、あげてください」 私たちは、またさらに家族になるんだから。またこうして再会した日から、みんなで家族になるんだから……。「紅音、俺はこれからも、君のことを……。いや、君たちのことを大事にする。今度はこんな風に離れたりしないと約束する」 爽太さんの言葉は、私を強くしてくれる。心の奥まで、温かくしてくれる。「……約束、ですからね」 今度もし離れるようなことがあった時には、私はどうしようもなく、泣いてしまうかもしれないな。「紅音、俺の結婚指輪……持っててくれないか?」「え? でも、いいんですか?」「ああ。持っててほしいんだ、紅音に」 爽太さん
Last Updated: 2025-05-22
Chapter: 【エピソード32〜離婚する必要なんてない〜】 それからというもの、徐々にカウントダウンだけが進んでいった。 確実にその日は、やって来ようとしている。 以前よりもお腹は大きくなっていき、本当に妊娠しているのだという自覚が出てきた。 最近はよく、赤ちゃんがちょっとだけど、お腹の中で動くようになってきた。 その度に赤ちゃんがちゃんと生きてるんだって感じて、なんだか嬉しくなる。私たちの赤ちゃんは、こんなにも元気なんだって感じる。「紅音、お腹……触ってていいか?」「いいですよ」 最近の爽太さんは、よくこうして大きくなってきたお腹を触るのが日課になっている。 そして赤ちゃんに話しかけながら、嬉しそうな表情をしているんだ。「お、赤ちゃん今、動いたな」「動きました?」「ああ、動いた。……すげえ、嬉しいもんだな」 爽太さんは幸せそうに笑みを浮かべながら、そう言っていた。「爽太さんもすっかり、父親の顔になってきましたね」 と言うと、爽太さんは「だって俺、この子の父親だからな」と言っていた。「確かに、そうですね」 爽太さんが父親というだけで、この子はきっと幸せだ。……爽太さんは離れていても、私しとこの子のことを一番に思ってる。 そう言ってくれたから、信じることが出来る。「俺はこの子のために、いい父親になりたいって思ってる」 爽太さんは突然、そんなことを言ってきた。「……大丈夫ですよ、爽太さんならなれます」 私は爽太さんの言葉に、そう返した。「そう思うか?」「はい。……だってこの子の父親に相応しいのは、あなたしかいないんですよ?」 あなただけが私の夫であり、家族になる人なんだから……。 この子の父親として、爽太さんはきっと私たちを幸せにしてくれると信じてる。「そうだな……。俺はこの子の父親、だもんな」「そうですよ。この子もパパが爽太さんだと分かって、きっと喜んでくれてると思いますよ?」 あなたの父親は、とても優しくて心の温かい人なんだって……ちゃんと伝えたい。「そうだといいな。……俺もたくさん、愛してやりたい。紅音のことも、この子のことも。世界一幸せにしてやりたい」「それは嬉しいです。 きっとこの子も、嬉しいと思います」 お腹に手を当て優しく撫でながら、こうやって微笑み合うのももう少しか……。 この一瞬を、この瞬間を、大切にしていかなきゃって思う。爽太さんとは一年間、
Last Updated: 2025-05-22
Chapter: 第 87 話✱ ✱ ✱「ただいま〜」 「おかえりなさーい」「ぱぱ、おかえりー!」 夜になって京介が帰ってくると、木葉は真っ先にパパの元へ駆け寄っていく。「おー木葉! ただいま」「ぱぱ、あそぼっ!」「木葉、パパお仕事で疲れてるから明日にしなさい」 そう言ったのだけど、優しい京介は「いいよ、実来。 よし、じゃあご飯食べたらパパと遊ぼうか、木葉!」と木葉を抱き上げる。「わー! やったあ!ぱぱだいすき!」「パパも木葉のこと大好きだぞ!」 京介ってば、木葉にデレデレなんだから。 「よし、じゃあご飯にしようね」「はーい!」「じゃあ着替えてくるな」「うん」 京介が着替えている間に夕食を
Last Updated: 2025-04-16
Chapter: 第 86 話「木葉ー、準備出来た?」「うん! まま、できたっ!」「よし、じゃあ保育園行こっか」 木葉が産まれてから、早くも三年が経った。あんなに小さかった木葉も、今でも言葉も話せるようになり、日々子供の成長というのを実感している。 木葉も保育園ではお友達も出来たみたいで、今は保育園に行くのが楽しいみたいだ。 毎日保育園に行くことをとても楽しみにしている。 母としてはそれはとても嬉しいことで、木葉にお友達が出来ることもそうだし、毎日少しずつ出来ることが増えていくことも親としてはやっぱり嬉しい。 京介とも日々そんな話をしているのだけど、京介は木葉のことが本当に好きみたいで、毎日仕事から帰ると木葉
Last Updated: 2025-04-16
Chapter: 第 85 話京介は夫婦なんだから気にするなと言ってくれるから、なんだかそれだけで安心感がある。 京介と木葉がお風呂に入ってる間に、わたしは次の日の京介のお弁当の用意を始める。 栄養のバランスをしっかりと考えて、野菜もしっかり食べてほしいから、ブロッコリーやほうれん草の胡麻和えなども作って詰めていく。 京介はいつも美味しく残さずに食べてくれるから、お弁当を作るのが楽しくなる。 京介はフルーツも好きだから、フルーツも切って別の容器に入れておいた。「……よし、出来た」 後は明日の朝に、おにぎりを作るだけ。 中身は鮭と昆布にしようかな? 京介は鮭のおにぎりが特に好きだから。 お弁当を作
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 第 84 話✱ ✱ ✱「京介、ご飯出来たよ」 「ああ、ありがとう実来」「うん。温かいうちに、食べよう」「ああ、そうだな」「「いただきます」」 新しい新居に住み始めてから、およそ半年が経ったけど、わたしたちは仲良く子育てにバタバタしながら過ごしている。 わたしたちの子供は二人で名前を決めて、【木葉(このは)】と命名した。 植物の生命力のように力強く成長してほしいと願って、木葉と名付けた。 木葉はとても元気で、よく笑う子で、笑った顔がとても可愛い子だ。 自分たちの子がこんなにも可愛くて愛おしいだなんて、産まれてからもっと気づいた。 木葉はパパが大好きで、結構京介に懐いてる感
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 第 83 話京介の言葉を借りるなら、わたしも京介の喜ぶ顔がもっと見たいし、京介のいろんな顔をこれからも見たいと思ってる。「これからもどうぞ、よろしくな。 父親として未塾な俺だけど、子育て一緒に頑張ろうな」「うん。こちらこそ、よろしくね」 京介とこうして過ごす日々は、これからもっと愛おしくなる。そんな日々を毎日、きっと宝物になる。「俺、実来に頼りっぱなしになってしまうかもしれないけど、俺に出来ることがあれば何でも言ってくれ」「うん、ありがとう」「俺は実来のことをずっと支えていきたいし、ずっとそばで守っていきたい。もちろん、子供のことも守っていくよ。……俺たちは、三人で家族だからな」 そう、わた
Last Updated: 2025-04-15
Chapter: 第 82 話「し、シルク……!?」 ウソ!シルク……!? わたしがずっと、憧れだった、あのシルク……!? え、やばい。嬉しすぎるっ! 「パジャマも今回、お揃いにしたよ。 ちなみに、これもシルクのパジャマだ」 え、パジャマまでシルク!? ヤバイっ!「パジャマまでシルクにしてくれたの?」「そうだ。テンション上がるだろ?」「うん。もう上がりまくってるよ〜」 京介とお揃いのシルクのパジャマが本当に嬉しくて、京介の妻で良かったと思える。「ベビーベッドがここに置こう。 夜泣きしても大丈夫なようにしたいなって思ってさ」「ありがとう〜京介」 京介の優しさに本当に救われる。「俺はただ、実来がやりや
Last Updated: 2025-04-12
Chapter: 第 60 話大翔さんがいなきゃ、わたしはスイーツを作ろうと思えなかったかもしれない。 単純にスイーツを食べることが大好きってだけで、ここまで来ることは思ってなかった。「わたしは、スイーツが大好きだよ。食べることも、作ることも大好き。……だけど、わたしは大翔さんと一緒にいる時間が、一番大好きなんだよ。大翔さんがいないと、わたしは生きていけないもん」「由紀乃……」 だってわたしは、天野川由紀乃。スリーデイズの副社長である天野川大翔の妻だ。 大翔さんのことを誰よりも尊敬しているし、誰よりも愛おしいと思ってる。 大翔さんは誰よりも頼れる存在で、わたしにはもう大翔さんと過ごすこの時間がかけがえのない大切な
Last Updated: 2025-03-16
Chapter: 第 59 話【〜最高の幸せは家族三人で〜】 「ただいま」 「大翔さん、おかえり。 今日もお仕事、お疲れ様でした」 「ありがとう、由紀乃」 わたしは大翔さんに「先にご飯食べる?」と聞くと、大翔さんは「ああ、そうするよ」と答える。 「今日の夕食、大翔さんのリクエストのチキン南蛮にしたよ。後豚汁とピリ辛キュウリ」 「お、チキン南蛮は嬉しいな」 「すぐ用意するね」 あれから気が付けば、半年が過ぎた。 半年間色々とあったけれど、無事にオンラインショップでのスイーツ販売にもこぎつけることに成功した。 そしてスリーデイズのオンラインショップでも自慢のアップルパイをハーフとホールでの販売も開始したところ、これがまた大反響なのだ。 大人気のためオンラインショップがサーバーダウンしてしまうことがあり、お客様には迷惑をかけてしまったが、無事にサイトも復旧しまた販売が出来るようになった。 思わぬサーバーダウンにわたしたちもてんやわんやでバタバタしてしまったが、サーバーに強いスタッフがいるおかげで割とすぐにサーバーは復旧することが出来たのも良かったと思う。 「お、チキン南蛮美味そうだな」 「ふふふ。正直、自信作」 「そうか。 よし、食べよう」 二人で「いただきます」と手を合わせると、大翔さんは早速出来たてのチキン南蛮に手を伸ばす。 パリパリというチキンの音が、口にした瞬間にいい音を奏でている。 「うん、美味いっ」 「でしょ? 自信作だからね」 「本当に美味いよ。最高だわ」 「ふふふ。良かった」 大翔さんがこうやっていつも美味しそうにご飯を食べてくれるから、わたしも作って良かったと思える。 一人で食べるより、やっぱり二人で食べる方が何倍もご飯は美味しい。 「豚汁も最高に美味い」 「良かった」 わたしが作る豚汁は出汁に特にこだわっている豚汁で、味噌は白味噌を使っているのだけど、出汁が美味しいから豚汁がもっと美味しくなっている。 「いつも美味しく食べてくれるから、わたしも嬉しいよ」 「本当に由紀乃の料理は美味い。疲れた身体を染み渡る」 「良かった」 大翔さんと色々と切磋琢磨しながらこうして美味しいスイーツ作りをしてきたけど、美味しいスイーツでみんなが喜んでくれるのはやっぱり嬉しいし、作ってて良かったと実感する。 「そうそう。ネットでのアップルパイの注
Last Updated: 2025-03-16
Chapter: 第 58 話片山さんがそう伝えると、新メンバーの人たちは驚いているようで、「えっ! あ、天野川副社長の奥様……ですか!?」とわたしを見ている。「はい。わたしは副社長の妻です。……片山さん、伝えてなかったんですか?」「言ってたつもりだったんだけどね」「すみません。聞いてなかったのでビックリしました」 そう言われたけど、「わたしのことは普通にリーダーでいいですよ。 副社長の奥様だとか、気を張ることないですからね」と念の為伝えておいた。「お、恐れ多いです……」 と言われたけど、「わたしだって普通の一般人ですよ?元はスイーツ大好きな一般人です。 なので、気負わず話しかけてくれたら嬉しいです」と笑顔を見
Last Updated: 2025-03-16
Chapter: 第 57 話わたしたちは頷きながら「はいっ!」と返事をした。「求人募集についての補足になるが、募集開始後の面接は俺と片山、二人で行うことになった。 片山、宜しく頼むよ」「えっ!わたしですか……!?」 片山さんは驚いたような表情をしている。 大翔さんは片山さんに「片山は俺がスイーツ部門を立ち上げた時からの初期メンバーだからな。片山が一番適任だと俺は思ってるんだが……どうだ?」と聞いている。「わたしも、片山さんが適任だと思います」 わたしがそう伝えると、片山さんは「そこまで言われたら、断れないじゃないですか」と言っているものの、「わかりました。面接担当、引き受けます」と受けてくれた。「ありがとう
Last Updated: 2025-03-16
Chapter: 第 56 話無理だけは絶対にさせられない。「なんとか人手を増やせない、ですかね」「人手が増やせれば、なんとか回せるんだけどね……」 今の人数でやれることがギリギリになり、仕事を増やしてしまうと負担を掛けてしまう。 そうなると、なかなかお取り寄せにまでは辿り着くのは難しいかもしれない。「片山さん。副社長に、求人募集の依頼をかけてもらいませんか?」「求人募集?」「はい。社員でなくても、例えば短時間でも働けるスタッフとか、土日だけ働きたいみたいな人たちを募集してみませんか?」 派遣みたいなスタイルにしてもいいし、その人が働きやすい環境で働いてもらえるように、募集をかけていくしかもうない。「パ
Last Updated: 2025-03-16
Chapter: 第 55 話ワンホールでの販売すれば、家族みんな分け合って食べられるし、自分なりにアイスを乗せたりしてアレンジも効くから、そっちの方がいい気もする。「そうだな、店舗では4/1カットが基本だもんな。……なあ、お取り寄せにするなら、ワンホールとハーフカットが選べるってのはどうだ?」 「ハーフカットとワンホールを選べるようにするってこと?」「そうだ。少人数だとワンホールは多いだろうし、ハーフカットを選べたら少人数でも食べやすいと思わないか?」 ああ、確かに……!「そのアイデア、素敵だね」「カップルや友人で少人数で食べるなら、ハーフカットくらいがちょうどいいだろ? ワンホールじゃ多くて食べきれなくなる
Last Updated: 2025-03-16
Chapter: chapter20* * *「……んっ」 翌朝朝ゆっくりと目を覚ますと、昨日まで隣にいた課長の姿はなかった。 その代わり、書き置きしてあるメモが置いてあった。《瑞紀へ瑞紀は今日仕事休みだよな。俺は今日大事な仕事があるので、もう仕事に行きます。気をつけて帰れよ》「……課長」 疲れてるのに、心配してくれてるんだ。 課長、私はずっと、課長のそばにいますからね。 課長に"愛してる"って言われると、なんだか恥ずかしい。 でもその言葉、すごく嬉しいんだ。 その後私も、ホテルをチェックアウトして家に帰った。「ただいま」 家に帰ると、留守電が入っていた。「あれっ……留守電?」 誰だろう。……もしかして、課長かな? 私は、スーツの上着を脱ぎながら留守電を再生した。「もしもし瑞紀?お母さんだけど。アンタ最近全然連絡よこさないけど、元気にやってるの? ちゃんと食べてるの?それと、あんまりムリはしちゃダメよ。たまには、連絡よこしなさいよ」 なんだ、お母さんか……。でもお母さんにも色々迷惑かけちゃってるんだな、私。 ごめん、お母さん……。 私はお母さんの留守電を聞いた後、お母さんに電話をかけた。「もしもし瑞紀?」「あ、お母さん? 留守電聞いたよ。心配してくれてありがとね」「それはそうと、アンタちゃんと食べてるの? ちゃんと寝れてるの?」「大丈夫。ちゃんと食べてるし、ちゃんと眠れてるから」 お母さんは電話越しに、「そう?ならいいんだけど」と心配してくれる。「ありがとう、お母さん」「え?どうしたのよ、いきなり」「なんか、いつも心配ばかりかけちゃって、悪いなって」「なに言ってるのよ。いいのよ、そんなこと」 お母さんの存在が、今になって本当にありがたいと感じる。「……私今まで、お母さんは私の心配なんてしてないんだと思ってたよ」「なに言ってるのよ。そんな訳がないでしょ」「ほらお母さんはさ、私が一人暮らししたいって言っても、反対はしなかったでしょ。自分のやりたいことをしなさいって、言ってくれたし」 お母さんは本当に、心強い存在でしかない。「それはアンタのためを思って、言ったことよ。アンタがお母さんに初めて、自分のしたいと思うことを話してくれたんだから」「……お母さん」 お母さんがいてくれるおかけで、私は頑張れる気がする。「アンタなら一人でも
Last Updated: 2025-06-17
Chapter: chapter19✱ ✱ ✱「お疲れ様です。課長、これに印鑑お願いします」 仕事をしてる時の瑞紀と、俺と二人で会ってる時の瑞紀は、全然違う。 会社での瑞紀は、部下に対して正確に、そして尚且つテキパキと仕事を教えたりしている。 会社での瑞紀はまさに"出来る女"って感じだ。 仕事は仕事、プライベートはプライベートときちんと公私を分けている。 俺は仕事中でも、瑞紀が気になって仕方ないというのに……。プライベートの瑞紀は、仕事の時と全く別人で、驚くほど違う気がする。「いいでしょう。これで提出してください」「はい。では失礼します」 仕事中の瑞紀は、本当に俺と会ってる時よりも真剣そのものだ。 まあ、仕事なのだから当たり前なのだが。 俺だって一応、公私を分けているつもりではあるのだが……。それに瑞紀とのことは、会社にはバレないようにしてるつもりだ。 でもハッキリ言って、正直辛い。 本当にどうしたらいいのか分からないし、瑞紀のことになると、なぜかいつも頭がいっぱいになる。 ムキになってはイケないと分かっているが、心の中で瑞紀を取られたくないと思っている。 瑞紀のことを悲しませてるくせに、取られたくないなんて、欲望に狩られる。 俺は、どうしたいのだろうか。「……佐倉さん」「はい?なんでしょうか」「ちょっと、お話があるんですが」 瑞紀を呼び出そうと、瑞紀に声をかける。「話……ですか?」「ここではあれなので、別の場所で話しましょう」「はい」 瑞紀は少し、戸惑っているようだった。「あの、お話しとはなんでしょうか?」 瑞紀は俺と、目を合わせようとはしない。「この前の返事、聞かせてくれないか」「……え?」「瑞紀、君が好きなんだ」 俺は泣きそうになっている瑞紀を、思わずそっと抱きしめてしまう。「……課長、離してください。ここは仕事場ですよ?」 瑞紀を離したくないと、思ってしまう。「課長……?」「もうちょっとだけ、こうしてたいんだ」「……じゃあ、もう少しだけですよ?」 瑞紀も俺の背中に腕を回してくれる。「ありがとう、パワーがチャージされたよ」「それは良かったです」 しかし俺は、本当に瑞紀のことが好きなんだな……。「英二、それ出来たら、課長に見てもらってね」「はい」 本当に瑞紀は、仕事熱心で、真面目だな。 俺の前でも後
Last Updated: 2025-06-16
Chapter: chapter18「……多分、好きだと思う」「好きなのに? それじゃあアンタは、その人に対してなんて言ったの?」「時間がほしいって、言った」 続けて私は「私はその人のことが好きなの。彼はいい人だし、すごく優しい人なのよ。……でも今はまだ、彼と向き合う自信がなくて」と告げる。「自信、ねぇ……」「……なに?」「自信っていうか……それは単に向き合うのが怖いだけなんじゃないの?」 怖い……?「多分だけど、アンタは自信がないんじゃなくて、きっと自分が傷つくのが怖いだけだと思うな」「……傷つくことが、怖い?」 言われてみれば、確かに……。「確かに傷つくのは怖いし、辛いかもしれないよ。……でもね瑞紀、どんなに怖くても、私は傷つくことに意味があると思うな」「傷つくことに、意味がある……?」 それ、どういう意味……?「つまり、傷つくことで得るものがあるってことよ」 傷つくことで、得るもの……?「……傷つくことで得るものって?」「それは自分で向き合わなきゃ、分からないことよ」「向き合うことで、その答えが見えてくるってこと?」 私がそう聞くと、沙織は「つまり、そういうこと」と言葉を返す。 傷つくことでもし何かが変わるとしたら、それは自分のためになるのかな……。 もしそれで答えが見えたら、それは正しい答えと思っていいのかな?「ねぇ瑞紀、これだけは分かってほしいんだけど」 「うん……なに?」 「傷つくことが決していい答えになるとは、限らないのよ」 「……うん、分かってる」 分かってるよ、そんなこと。 それが決していい答えになるとは限らないし、傷つくだけしか得るものがないとしても。 私はそれでもちゃんと、向き合わなきゃイケないような気がする。 いつまでも課長のことを考えてたって、課長を困らせるだけ。 それにいつまでも課長から逃げてると、自分が情けなくなるだけだし。 やっぱりきちんと、向き合うべきだと私も思う。 それが正しいかなんて、私には分からないけど、答えはきちんと出したい。 自分が虚しくなるだけだってことは分かってるけど、向き合う自信だけじゃきっと……自分に素直にはなれないような気がする。「……沙織、ありがとう。少しだけ勇気出たよ」「そう。ならよかったわ」 安心したような声の沙織に、私は「……私、やっぱりちゃんと向き合
Last Updated: 2025-06-15
Chapter: chapter17 「それは分かります。……でも、不安なんです」 「不安……?」 気持ちは、ちょっと複雑だ。 課長がどこかに行ってしまうような気がして、急に不安になる。「……瑞紀、不安にさせて悪かった」「いえ……そんな」「でも俺は、もう静香とは何の関係もないし、もう会うつもりもない。……だから俺を、信じてほしい」 課長は私を優しく抱き寄せる。「それでも私は、課長のこと……信じたいです」「ああ、ありがとう瑞紀」 課長が信じてほしいと言うのなら私は、課長のことを信じたい。「瑞紀、俺はもう瑞紀のことを、不安にさせたりはしない」 私は、課長のことが好きだ。 好きだって思うから、信じたいと思うんだ。「だからこれからも、俺もそばにいてほしい」「え……?」「俺のそばに、いてほしい」「……でも」 私なんかで、本当にいいのかな……。「瑞紀には悲しい思いをさせてしまったことは、申し訳ないと思ってる。……でも今の俺には、瑞紀しかいないんだ」 本当に……? 本当に……いいのかな?「俺を"課長"としてじゃなく、"男"として見てほしいんだ」「男と、して……?」「そうだ。身体だけの関係じゃなくて、ちゃんと"恋人"として、俺のそばにいてほしいんだ。俺を見てほしい」 課長の恋人と、して……そばに?「……それって」「瑞紀、俺と付き合ってくれないか」 その言葉を聞いて、嬉しくない訳じゃなかった。 本当は、とても嬉しいんだと思う。 でも……。「……少し、考えていいですか」「え?」「少しだけ、考えさせてください。すみません」 私は、そんなすぐに返事を返すことが出来なかった。 課長の気持ちは、すごく嬉しいの。 でもそんなにすぐに、課長のことを信じられる訳じゃない。 課長の過去を聞いた所で、どうにかなる訳じゃないけど、今は少し時間がほしかった。 それに、藤堂さんのこともあるし……。私はまだ多分、課長のことを傷つけたくないんだ。「私はまだ、課長のことを完全に信じた訳じゃありません。……でも課長のことは、本当にいい人だと思ってます」 課長は複雑そうな顔をして、黙り込んでいる。「私は課長を信じたいんです。……課長が私を信じてくれてるように、私も課長を信じたいんです」「なら……どうしてだ?」 課長が口を開くけど、私は「でも今は、課長と向き合う自信が、私にはな
Last Updated: 2025-06-14
Chapter: chapter16✱ ✱ ✱ 「おはよう、佐倉さん」「課長!……お、おはようございます」 会社に出勤すると、ちょうどバッタリ課長と遭遇した。「どうした?」「いえ……なんでもありません」 どうしよう……。昨日のことが気になって課長と顔を合わせるのが気まずいな……。「昨日は、電話ありがとう」「……いえ」 課長は私の肩を叩いてから、仕事場へと歩いて行った。「あら、おはよう瑞紀」「おはよう、沙織」 すると、私の顔を見た沙織が「ねぇアンタ、今日メイク濃くない?」と、自分のデスクに座った途端に、沙織にいきなりそう言われた。「えっ!そうかな?」 いつも通りに、メイクしてきたんだけど……。「どう見ても濃いわよ。アンタ一体、どうしちゃったの?」「どうもしないよ? ちょっと寝不足で、クマが出来てたから、クマを隠したくて……」 そう言うと、沙織は「寝不足って……アンタなんかあった?」と、私の顔を見る。「え? あ、いや……。べ、別に!? ただ友達と電話してたら、遅くなっちゃっただけ」「ふーん……?」「え……な、なに?」 なんか、怪しまれてる……?「なんか怪しいわね、アンタ」「えっ!怪しい!?」「怪しい」 すると沙織は、「アンタ、なんか隠してるでしょ?」と私を見る。「えっ!?や、やだなぁ……なにも隠してないって」 ごめん、沙織……。本当は、沙織に相談したいんだ。 でもね、沙織やみんなには迷惑をかけたくない。 だって、課長のことが気になってるなんて言えないよ……。それこそみんなに迷惑かけちゃう。「ウソつくんじゃないよ。バレバレだよ」「……やっぱり?」 沙織は、なんでも分かっちゃうんだな。 「やっぱりって……やっぱ何かあったのね、アンタ」「うん……まあ」 やっぱり沙織には、正直に話した方がいいよね……。「なに? 好きな人でも、出来た?」「好きっていうか……。ちょっと、気になるんだ」「気になるって?」「その人のことが。何ていうか……その人の前だとドキドキしたり、胸が苦しくなったりするの」 すると私は、「そんなの当たり前じゃない。恋って言うのは、そういうものなのよ」と言う。「え……?」「いい瑞紀?恋って言うのはね、ドキドキしたり胸が苦しくなったりするのが、普通なのよ」 やっぱり、そうなのかな……。「だからそんなことで、悩まなくて
Last Updated: 2025-06-13
Chapter: chapter15 瑞紀は多分知らないし、気付いていないと思うが、俺は瑞紀に惚れている。 あのバーで会ったのも、実はあの時が初めてじゃない。 本当は瑞紀があのバーに通い始めた時からずっと、瑞紀を見ていた。 初めて見た瑞紀の第一印象は"かわいい"だった。お酒を飲む姿はやけに上品で、しかも色気があった。 おまけにお酒が入った瑞紀は、やけに色っぽくて、そこら辺の女なんかよりずっとイイ女だと思った。 だからあの日、俺は瑞紀に声をかけた。 そのまま成り行きで瑞紀をホテルのベッドの上で抱いてしまった時、俺はすぐに瑞紀に惚れているのだと自覚した。 瑞紀の全てが可愛くて、愛おしくて、瑞紀の全てをほしいと思った。 もちろんあの時は静香のことも好きだったし、結婚したいとも思った。 でも瑞紀は、それ以上の感情だった。 静香の時よりも、ずっと瑞紀が欲しいと思った。 瑞紀は俺の部下だけど、このままじゃ本気で瑞紀を愛してしまいそうで怖い。 でも瑞紀は俺の部下で、俺は瑞紀の上司。 俺たちの関係は、それ以上でもそれ以下でもないって、ことだ。「……はあ」 一体なにをしてるんだ、俺は……。あの時"身体だけの関係"と言ったことを、今頃になって後悔している。 俺はなぜ、あんなことを言ってしまったのだろうか。 きっと、それで瑞紀を傷つけてしまったかもしれない。 最近瑞紀は、なんだか元気がない。 仕事中でも上の空な時があるし、ずっとため息をばかりついている。 おまけに普段は、滅多にしないミスをしたりする。 瑞紀が元気のない原因は、きっと俺にある。 最近色々と忙しくて、瑞紀のことをちゃんと見てなかったせいかもしれない。 ガチャと家のカギを開けて中に入ると、部屋の中は静まり返っていた。「……はあ」 とため息をつき、ソファーに腰掛けネクタイを緩める。「……瑞紀」 今無性に、瑞紀に会いたい。「ああ……くそっ」 なんで俺は、瑞紀のことをこんなに苦しめてるんだろうか。 好きな女を苦しめている俺は、最低だな。 瑞紀が好きで仕方ないのに、俺はいつも瑞紀を傷つけてばかりだ。 どうしたら、俺は瑞紀を傷つけずに済むのだろうか……。どうしたら瑞紀に悲しい想いをさせずに、済むのだろうか。 考えてみても答えなんて出なくて、結局どうしたらいいのか分からない。 俺はもう三十三だ。 一度静香との結婚を
Last Updated: 2025-06-13