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Home / 恋愛 / あの夜を捧げて笑われたけど、私はMITに合格した / 第2話

第2話

Author: スカーレット・フレイム
アヴァがスマホのカメラを向けた先には、イーサンがいた。

舞台のど真ん中で、シルヴィアと――まるで周囲の目なんて存在しないかのように、深く、激しくキスをしていた。

イーサンの目は閉じていて、動きも表情も……どこをどう見ても、心から夢中になっていた。

……その瞬間、ようやく思い出した。

昨日、私たちが身体を重ねたとき――

イーサンは一度もキスしてくれなかった。

あのとき、私は思わず唇を求めたのに、彼はサッと顔を背けた。

「……ごめん、キスって好きじゃないんだ。口の中とか……なんか気持ち悪くて」

その言葉を、私は信じていた。

だけど今、この光景を見て……すべてが、ただの嘘だったんだと分かった。

キスが嫌なんじゃない。私とするのが嫌だっただけ。

スマホの画面越しに見える、イーサンとシルヴィアのキス――

それは、まるで心臓に何千本もの針を突き刺されるような感覚だった。

息ができないほどの痛みが、全身を締めつけてくる。

ついさっきまで、養兄のルーカスに「シルヴィアを狙ってる」って話してたばかりのくせに。

同日の夜にはもう、あんなふうに人前でキスしてるなんて――

さすがイーサン。昔から欲しいものは全部手に入れるタイプだった。

パーティーが正式に始まると、イーサンは迷うことなくシルヴィアに手を差し出し、最初の一曲を一緒に踊り始めた。

ふたりは優雅に舞い、まるで映画のワンシーンみたいだった。

誰もが「お似合い」と口にする中で、私だけが泣いていた。

そのダンスが終わったあと――

ふたりは額を寄せ合い、静かに唇が近づいて……

観客たちの「キス!キス!」という声に押されるように、ふたりはもう一度キスした。

その瞬間、もう涙は止まらなかった。

痛くて、苦しくて、どうしようもなくて。

何度も涙をぬぐったのに、気づけば目がヒリついて、もう涙すら出てこない。

そんな私に、アヴァがそっと言った。

「シンシア……辛いよね。でも、見せたのはあなたに目を覚ましてほしかったから。

もうイーサンの後ろをついていくのはやめて。あんな奴、あんたの気持ちに値しないよ。もっと自分の人生を生きなきゃ」

声を出そうとしたけど、喉がひどく乾いていて、まともに話せなかった。

絞り出した声は、かすれていた。

「……うん、わかった」

自分でもわかっていた。

ずっとイーサンの嘘に気づかないふりをして、好きでいることにしがみついてただけ。

――でも、あの人は最初から、私なんて愛してなかった。

「アイツは最低の男だよ!」

アヴァの声が怒りに震えていた。

「ずっとシンシアが好きだって知ってたくせに、好意だけ利用してさ、でも『知らないふり』してキープし続けてたんだよ?

ほら、今だって……あっさり他の女と付き合ってるじゃん」

そう……みんな、最初から見抜いてたんだ。

なのに、気づかなかったのは――私だけ。

イーサンも私を好きだと信じて、勝手に夢見て、抜け出せなかった。

「もう大丈夫、アヴァ。私は……もうイーサンを追いかけたりしない。

もう二度と、あんな人のために自分を犠牲にしない。

それに……カリフォルニア工科大の願書、取り下げた。これからは、自分が本当に行きたかった、マサチューセッツ工科大を目指す」

迷いが戻らないうちに、私はパソコンを開いて、カリフォルニア工科大への出願を即座に撤回。

その勢いのまま、マサチューセッツ工科大に志願書を提出した。

アヴァは大喜びだった。

「やっと本気出してくれた!」って。

……彼女はずっと言ってたんだ。

「シンシアの才能なら、MITこそふさわしい」って。

でも、イーサンの成績ではMITは無理だった。

だから彼は、自分に合わせて私にも同じ大学を選んでほしいって言った。

私は、それを彼からの「特別」だと勘違いしてた。

……バカみたい。

あれはただ、私を手放したくなかっただけ。

便利な存在を、そばに置いておきたかっただけ。

でも、もう彼にはシルヴィアがいる。

そんな今となって、まだ彼と同じ大学に通おうなんて思えるほど、自分を卑下するような生き方はしたくない。

もし、それでもなお未練がましく彼を追いかけるような真似をしたら――

そんな自分を、私はきっと許せない。

だから……もう、やめる。

彼とは違う道を行く。

私は、もうイーサンを追いかけない。

これからは――

私自身の夢を追いかける。
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