LOGIN高校の卒業ダンスパーティーの前日、イーサンに誘われて、私は初めてを捧げた。 彼の動きは荒くて、一晩中求められ続けた。 正直、痛みもあったけど……それ以上に、心は甘い幸福感でいっぱいだった。 だって、私はずっとイーサンに片思いしてて――ようやく、その想いが叶ったんだ。 「卒業したら結婚しよう。ルチアーノ家を継いだら、お前をいちばん高貴な女にしてやる」 そう、彼は私の耳元で囁いた。 翌朝、イーサンは私を腕に抱きながら、私の養兄にふたりの関係を明かした。 私は照れながら彼の胸にもたれて、世界でいちばん幸せな女だって思ってた。 ……その時までは。 突然ふたりがイタリア語で話し始めて―― 養兄のルーカスが、からかうように言った。 「さすがヤング・ボス。初回からクラス一の美少女が自分からお誘いとは。 で?うちの義妹の味はどうだった?」 イーサンは気だるそうに返した。 「見た目は清純だけど、ベッドの上じゃとんでもなかったな」 周りから笑い声があがる。 「じゃあ、これからは妹って呼べばいい?それとも義姉さん?」 でもイーサンは眉をひそめた。 「義姉?それはない。チアリーダーのシルヴィアを狙ってるけど、テクに自信なくてな。だから先にシンシアで試しただけ。 俺がシンシアと寝たことは、シルヴィアには絶対言うなよ。あいつ、気分を害しそうだからさ」 ……だけど、彼らは知らなかった。 私は、ずっと彼のそばにいるために、こっそりイタリア語を勉強してたことを。 全部、聞こえてた。 私は何も言わなかった。ただ、静かに心の中で決めただけ。 大学の進学先―― カリフォルニア工科大学から、マサチューセッツ工科大学に、志望を変えることを。
View Moreイーサン、きっと私の言葉なんて、聞いちゃいなかったんだと思う。 その証拠に、ここ数日、どこに行っても彼の姿を目にする。 偶然にしては多すぎる。 正直、ストーカーを疑いたくなるレベルだった。 私は彼からの誘いをすべて無視した。 差し出されたプレゼントだって、開けずにそのまま返した。 そんな中、私はマイルズと正式に付き合うことになった。 マイルズは……イーサンの存在を心底快く思っていなかった。 見かけるたびに私の手を引いて距離を取らせ、嫉妬や独占欲を隠そうともしなかった。 けれど―― ある日、イーサンがキャンパスの外でマイルズを待ち伏せし、一方的に殴りつけた。 その報せを聞いたとき、私の中で何かがプツンと切れた。 いい加減、ハッキリさせるべきだと思った。 私はイーサンの元へ向かった。 ――どうしても理解できなかった。 あれだけ「ひとりじゃ嫌だ」って言って、他の子に目移りして。 あれだけ私の想いを踏みにじったくせに。 今さら、何をしているの? 私の来た理由を知った瞬間、イーサンの態度が豹変した。 「シンシア……お前、俺を疑ってるのか?違う、俺が指示したわけじゃない。あれは、俺の子分が勝手に……マイルズを『少し』懲らしめただけなんだ」 「勝手に」なんて、どうでもよかった。 私はまっすぐイーサンの目を見据えて言った。 「誰の指示かなんて関係ない。結果として、私と彼氏の関係に被害が出た。 だからもう、私たちの前に現れないで。迷惑よ」 その言葉を聞いた瞬間、イーサンはまるで雷に打たれたように、その場に固まった。 「彼氏……って、本当に……?あいつと付き合ったのか?なんでだよ……なんで、俺にもう一度チャンスをくれないんだ?確かに、あのときシルヴィアとも同時に関わってたのは俺の落ち度だけど……俺、ちゃんと反省してる」 私は……あまりの自分勝手さに、呆れて笑ってしまった。 「……それだけ?『同時に関わってた』――それだけの話だって思ってるの?もっと酷いこと、あんた、自分でわかってるはずよね?」 イーサンの視線が泳ぎ始めた。 言葉が出てこない。 彼は突然、怒りの矛先を自分の子分に向け、蹴り飛ばした。 「全部……こいつらが勝手にやったことだ!謝れ!すぐに!」 地面
クリスマス当日。 その日の夜、まさかと思っていたら―― イーサンが私たちの家のドアをノックした。 「叔母さん、うちの両親、出かけちゃって。今年のクリスマスはひとりで過ごす予定で……一緒に過ごしてもいいですか?」 その口調は、意外にも丁寧だった。 両親も断る理由がなかったのだろう。 イーサンを家の中に招き入れた。 自然と、彼は私の隣に座った。 正直、席を離れたかったけれど―― それもあからさますぎる気がして、そのまま黙って座り続けた。 親戚の叔母たちは、私たちの間に何があったかを知らず、昔のように軽い調子でふたりをからかってくる。 イーサンは最初、愛想よく笑って応じていた。 けれど、私が穏やかに――まるで何もなかったように、一つずつ丁寧に説明していくと、 彼の表情が、じわじわと曇っていった。 やがて夜も更けて、家族たちがそれぞれの部屋へと引き上げていく。 私も部屋へ戻ろうと立ち上がったとき、背後からイーサンに手を掴まれた。 「……そんなに、俺との関係を否定したいのかよ」 その問いかけに、私は首をかしげて返す。 「関係?……何かあったっけ、私たちの間に?」 その言葉で、イーサンは動きを止めた。 言葉を失ったように、その場に立ち尽くす。 何かを言いかけた彼の声を遮るように、私のスマホが鳴った。 表示された名前――マイルズ。 私の大学の同級生で、出会ってからずっと、私に好意を持ってくれている人。 最初は何も感じていなかったけれど…… イーサンとのことを清算し終えた今となっては、彼の存在は少しずつ心に入ってきていた。 マイルズは、イーサンのように強引じゃない。 静かに寄り添ってくれて、必要な時にちゃんと手を差し伸べてくれる。 その日も、彼との会話は心地よかった。 マイルズと話していると、不思議と話題を探す必要がなかった。 いつも、気づけば時間が過ぎていて――気まずさも沈黙も、どこにもなかった。 「シンシア、メリークリスマス」 もう日付が変わって、深夜になっていた。 名残惜しそうに、マイルズが電話を切った。 「うん、メリークリスマス」 通話を終えて、スマホを置いてふと振り向くと―― そこに、まだイーサンがいた。 いつからそこに立って
イーサンに「許さない」と言われてから、それっきり彼の姿を見ることはなかった。 アヴァが、イーサンとシルヴィアが正式に付き合い始めたっていうツイートを送ってきたけど―― 私は一目見ただけで、すぐに削除した。 もう私には関係のない人。 だったら、わざわざ気にする必要なんてない。 アヴァにも「これからはイーサンの話題は送らないで」ってはっきり伝えた。 ――もう二度と顔を合わせることもない。 ……そう思ってたのに。 大学への出発日。 なんというか、ついてないことに――空港で、イーサンとシルヴィアにばったり会ってしまった。 向こうも、私に気づいた。 けど、たぶんまだ意地を張ってたんだろう。 目を合わせようともせず、そっぽを向いたまま素通りしていった。 私も何も言わず、すっと視線を外して登機口へ向かう。 ……ちらりと視界に入ったのは、イーサンがこちらを鋭くにらんでいる姿。 でも、その腕をシルヴィアが引っ張って、どこかへ連れていった。 アヴァはあきれたようにため息をついて、私の手を引いてくれた。 その日以降――イーサンとは、本当に一切の連絡を断った。 連絡先はすべてブロックしたし、彼が誰かを通じて接触してこようとしても、断固として受け入れなかった。 なのに、意外なことに。 新しい環境に飛び込んだ私は、驚くほどすぐに友だちができた。 大学のサークルに入って、先生のプロジェクトに同行して出張もした。 毎日がめまぐるしくて、だけど楽しくて、前向きで―― その中で、ふと気づいた。 ああ、イーサンが「ひとりの人だけに縛られるのが嫌だ」と言ってた気持ち、少しだけ分かる気がする、と。 ずっと誰かの後ろを追いかけてばかりだった私には、想像もできなかった世界。 でも今は分かる。 この広い世界には、面白いことや素敵な人が、まだまだたくさんある。 人生は長い。 なのにどうして、私はあんなに早く、ひとりの相手にすべてを捧げようとしてたんだろう。 大学二年の頃、高校時代の同級生がマサチューセッツに遊びに来た。 それが、私にとって久しぶりにイーサンの名前を聞く機会だった。 「イーサン、大学入ってすぐにシルヴィアと別れたんだってさ。 そのあとも何人か付き合ったらしいけど、どれも長
パーティーの間じゅう、私はずっと心の中で怒りを抑え続けていた。 早く終わって、早く帰りたい。 ――そう思っていたのに、終了間際、イーサンの母に声をかけられた。 「シンシア、今日来てくれて本当に嬉しかったわ。ずっと会いたかったのよ」 彼女は終始にこやかで、私の手をしっかりと握ったまま話し続けた。 その間、シルヴィアは黙ったまま立ち尽くしていた。 さっき、彼女がイーサンの母に挨拶をしたときは、冷たい反応だったのに。 今、私は手を取られて、笑顔で迎えられている。 シルヴィアの表情が強張っているのが、横目に見えて分かった。 けれど、イーサンの母はそんな彼女の様子など一切気にせず、私の手をイーサンの手に重ねてきた。 「大学に入ったら、あなたたちはもっと近い存在になるのよ。イーサン、男の子なんだから、ちゃんとシンシアのこと守ってあげなさい。もう、彼女を泣かせるようなことしちゃだめよ」 するとイーサンは、その手をすっと振り払って、低く鼻で笑った。 「もう俺の助けなんて必要ないよ。連絡先だって、いまだにブロック解除してくれないし」 その声には、ほんの少し拗ねたような響きが混じっていた。 その空気を裂くように、シルヴィアが口を開いた。 「叔母さん。私もロサンゼルスの大学に出願してるのです。だからイーサンとはお互いに支え合えると思って。 それに、シンシアはマサチューセッツ工科大学でしょ?場所もかなり離れてるし、普段会うことなんてないと思います」 淡々と、でもしっかりと―― 爆弾のような言葉を落とした。 その瞬間、イーサンの表情が一変した。 「……マサチューセッツ工科大学、だって?」 彼の視線が私に突き刺さる。 まるで問い詰めるように、理由を求めるように。 そして隣では、彼の母も目を見開いていた。 「シンシア、それ本当なの?大学、変えたの?」 私は小さくため息をついた――もう、これ以上は隠し通せない。 周囲の視線が突き刺さる中、うなずいてから、はっきりと口を開いた。 「はい、叔母さん。私、マサチューセッツ工科大学の方が合っていると思ったんです。それで志望校を変えました。ちゃんとお伝えできてなくて、ごめんなさい」 イーサンの顔から、あっという間に血の気が引いた。 「は?お前、
reviews