帰国の日。
偶然にも、それはイーサンの進学祝いのパーティーと重なっていた。
彼の父親は、現役のマフィアのドン。
イーサンも、大学へ進学したあとは徐々にその職務を継ぐ予定だ。
だからこのパーティーは、名目こそ「進学祝い」だけど――
実際は裏社会の関係者が顔をそろえる、ビジネス交渉の場だった。
うちの会社も、彼の父に少なからず依存している。
私が出席を渋ると、両親は困ったような顔をした。
……だから、私は黙ってうなずいた。
ドレスをまとい、重たい気持ちのまま会場に足を踏み入れる。
入った瞬間、すぐに目に飛び込んできたのは――
あの日以来、二ヶ月ぶりに見るイーサンの姿だった。
ぴしっとしたスーツに身を包んだ彼は、あの卒業パーティーのときよりもさらに大人びて見えた。
久しぶりに見るその横顔に、私は言葉にならない感情を抱いた。
胸がきゅっと縮んで、息が浅くなる。
……今、自分がどんな顔をしているのか、分からなかった。
ただ、無意識に距離を取ろうとする。
けれど、イーサンはこちらに気づき、視線がぶつかった。
私はすぐに目を逸らしてその場を離れようとしたけれど――
イーサンが数歩早足になって、私の手首を捕まえた。
「シンシア……」
眉をひそめて、何か言いかけたその瞬間――
彼の腕に、すっと白い指が絡んできた。
「やっほー、イーサン」
彼に甘えるように身を寄せたのは、シルヴィアだった。
彼女はイーサンの腕にぴったりとくっついたまま、私の方を向いて微笑んだ。
「あなたがシンシアさんよね?いろんな人から話聞いてるの。イーサンの一番仲のいいお友達だって。
これまでイーサンのこと、ずっと支えてくれてありがとう」
――笑顔なのに、なぜか見下ろされているような気がした。
この人はもう、「自分が彼のパートナー」って立場で私を見てるんだ。
そう思った瞬間、胸の奥が静かに、でも確かに痛んだ。
私が何か言う前に、イーサンが先に声を荒げた。
「誰がアイツと友達だよ。すぐ不機嫌になるし、面倒くさくてやってられないんだよな。北極に行ったんなら、ずっと帰ってこなきゃよかったのに」
その口調は、明らかに苛立ちを隠していなかった。
――でも、私は返事をしなかった。
今さら何を