「青藍、見つからないや。……洞窟いこうか」
「ないですか、困りましたね」
「でも、確実に鬼治からだよね」
「佐加江。私たち、マジで番ですね!」
「鬼が『マジ』とか言わないの!」
「使い方、間違ってましたかぁ」
「合ってるけどさ……。青藍がこの世に毒されてチャラ男になったら困る」
最近覚えた言葉を披露して笑った青藍は庭先で目を閉じ、唇の前に人差し指を立て小さく唇を動かす。
「え……」
額に瘤ができ、それが次第に伸びていく。身体も一回り大きくなって、着ていた服がパツパツに弾けそうになっている。ぶるっと身ぶるいをした青藍は服こそ、こちらの世界のものだが鬼の姿になった。
「そ、そんな事が出来るんだ!」
「あやかしの姿から人になるのは容易ですが、逆は人の体力では消耗が激しくて。あまりしたくないのですが、先ほどから鬼笛が全く聞こえない上に、あやかしの気配もなくなったのが、どうも妙です。こちらの方が感受性が強いのでーー。コートだけは、はちきれるといけないので脱いでおきましょうね」
「やっぱり……、綺麗だよね」
「惚れ直しますか?」
「うん! ベタ惚れ。ちょっと気になる事があるから、診療所の方も見てくるね」
「佐加江、そう言うことは……」
滅多にそう言うことを口にしない佐加江には、面と向かって言ってもらいたいものだ、と青藍は佐加江が不貞腐れた時を真似て唇を尖らせ、後をついて行く。
「やっぱり」
診療所の荒れ具合は、酷いものだった。床にカルテなどが落ち、土足でそれを踏みつけた靴跡がある。金庫は開け放たれ、中は空っぽ。「敏夫の時は冷凍の保存技術が追いついていなか