修学旅行から数日が経った、ある日の昼休み。
「なあ、陽菜」
いつものように羽衣とお昼を食べようとしていた私に、伊月くんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「その……一緒に、昼飯食わないか?」
遠慮がちに、お弁当の包みを掲げてみせる伊月くん。
「えっと、それじゃあ羽衣と三人で……」
「何言ってるのよ、陽菜。わたしのことはいいから。ここは伊月くんと、二人で行ってきなよ!」
羽衣がニコニコしながら、私の背中をグイグイ押してくる。
「サンキュ、吉澤さん。行こう、陽菜」
「う、うん」
私は、先に歩きだした伊月くんを慌てて追いかけた。
◇
6月に入ったものの、今日はお天気もいいからか、中庭のベンチは満席だった。
非常階段に行こうということになり、2年生のフロアの非常階段に腰を下ろす。
まさか伊月くんと一緒に、学校でお昼ご飯を食べることになるなんて……。
もちろん家では毎日のように一緒に食べてるけど、学校ではほとんどなかったから新鮮だな。
階段は狭いから、並んで座ると互いの腕が少し触れ合ってドキドキする。
「急に声かけてごめんな?ほら、家では親に遠慮して、なかなか恋人っぽいこともできないから。せめて学校ではご飯だけでも……って、思ったんだよ」
そうだったんだ。
「誘ってもらえて嬉しいよ」
私は、お弁当箱のフタを開ける。
そこには野菜に焼き鮭、卵焼きなど、色とりどりのおかずが並んでいる。
「陽菜の弁当も、美味そうだな」
伊月くんが、横からお弁当を覗きこんでくる。
学校では、伊月くんと同居していることや兄妹だということを秘密にしているとお母さんに話したら、気をつかって私と伊月くんのお弁当の中身を少し変えてくれてるんだよね。
「ふふ。今日の卵焼きは、私が焼いたんだよ」
卵焼きをお箸に挟み、伊月くんに見せる私。
「へえ、陽菜が……」
すると、伊月くんの顔が卵焼きへと近づき……。
あろうことか、伊月くんは私の卵焼きをパクッと食べてしまった。
……え?
「うん、美味いな」
まったく悪びれる様子もなく、伊月くんは卵焼きをモグモグしている。
「ちょっと、私の卵焼き!」
「いいだろ?陽菜の作った卵焼き、食べてみたかったんだから」
伊月くんが、ニヤリと唇の端を上げる。
「今朝は少し早起きして、一生懸命作ったのに」
「ふっ。怒った顔の陽菜も、可愛いな」
ちゅっと額にキスをされ、優しく頬を撫でられた