「ちょっとしたテストだからメイクも簡単なものだけど、本番のときは本格的にするから安心していいわよ」
いいえ、今日のメイクも充分すごいです……と言おうとして振り向いて、息をのんだ。
鮮やかなアクアブルーのスーツに身を包んだ、気後れしてしまうほど美しい女性が部屋に入ってきたからだ。
「ふーん、化けたわねえ。さすが瀧人が惚れこんだだけあるわ」
値踏みするような視線で上から下まで眺められて、穴があったら入りたい気分になった。
いまさらながら足が震えてきた。
「近藤紗加よ。瀧人と共同でここを仕切ってるの。よろしく」
そう言いながら、彼女は名刺を差しだした。
「ふっ、藤沢文乃です、あっ! きゃあ、すみません」
名刺を受け取ろうと立ちあがった拍子にスツールを思い切り倒して、大きな音を立ててしまった。
紗加さんは少しだけ口角を上げて笑みを浮かべた。
「大丈夫。そんなに緊張しなくても。何も取って食いやしないから」
いや、緊張するなって言うほうが無理です。
絶対無理。
「何々、どうしたの?」
音を聞きつけて安西さんもやってきた。
「何でもないわよ。椅子が倒れただけ」
「そうなんだ、ケガしなかった?」そう言って、わたしの顔をのぞき込んでくる。