午後二時を少し過ぎた頃、三階の奥まった備品倉庫には、時間が止まっているかのような静けさが漂っていた。季節は春だが、ひんやりとした空気が棚と棚の間に籠もっている。建物の構造上、窓もなく陽射しも入らないこの空間では、外のぽかぽかとした陽気がまるで嘘のようだった。
金属棚の列に挟まれたその場所に、鶴橋蓮はひとり、黙々と作業をしていた。ジャンパーの袖を少しめくり、軽く汗ばんだ額を手の甲で拭う。マスク越しに吸い込む古紙と埃の混じった空気は、薄く喉に刺さった。床にしゃがみこみ、ダンボール箱を引っ張り出しては中身を確かめる。印刷が色褪せた社内マニュアル、破れかけた請求書控え、年季の入ったバインダー。
「……いつの時代やねん、これ」
小さくぼやいて、使えそうな資料と廃棄対象を分ける作業を繰り返す。底がふやけた箱を持ち上げると、ずしりとした重さが腕にかかった。中はぎっしりと詰められた紙束と、大小まちまちのファイルが無造作に押し込まれていた。バインダーの角がすでに崩れかけ、どれも色褪せて黄ばみが出ていた。
そんな中に、ひとつだけ妙に目を引くものがあった。
色は薄い青。一般的なスカイブルーよりも、ほんの少しくすんだ柔らかな青で、他の灰色や茶色の資料の山の中では不自然なほど目立っていた。そのファイルは、ほかのもののように曲がったり埃をかぶったりしておらず、表面には手入れされたような光沢が残っている。まるで、ついさっき誰かがそこに差し込んだような存在感があった。
「……なんや、これだけ浮いてんな」
手に取った瞬間、微かに厚みと重さが指に伝わった。中身が詰まっているわりには、軽い。だが、整った重さだった。背表紙には何も書かれておらず、タイトルらしきラベルも貼られていない。指の腹でなぞると、表面がわずかにざらついていた。
立ち上がりながら、鶴橋はそのままファイルを開いた。
そこには書類ではなく、業界新聞の切り抜きが数枚、ビニールポケットに一枚ずつ丁寧に収められていた。時代を感じさせるレイアウトと、今とは違う字体の見出し。黄色くなった紙にはインクのにじみもあり、何度も読み返された形跡があった。
ふと