「どうしたの?」
去って行く母親の後ろ姿をじっと見送っていた雪乃に、麻衣が声をかけた。
「ううん…何でもない……」
気にはなるが彼女が言わないのなら、わざわざ問いつめる必要はない。
雪乃は、自分だけが春奈や双子の事を知らされずにいた事を少なからず怒っていたので、あえてこれ以上彼らと関わろうとは思わなかった。
「次は何を見る?」
「ん~とりあえず、お茶しない?のど渇いちゃった」
麻衣がレストラン街の方を指差しながら、ニコッと微笑った。
「いいわね」
雪乃は彼女と友香と連れ立って、最上階にあるレストラン街へとエレベーターに乗った。
「雪乃の居場所はわかったか?」
「はい。以前、結納品とされましたマンションにいらっしゃいます」
「ふむ……」
悠一は執事の小高だけでなく、秘書の真木にも雪乃の行方を捜させていたので、それも間もなくわかるだろうと思っていたのだが…。
「あそこか…。ふっ、結納品を受け取るつもりはあったんだな」
独り言のように呟いて、どこか嬉しそうに目を細めた。
「迎えに行かれますか?」
真木の問いに彼は「いや…」と答え、椅子の背にもたれかけた。
「双子が寂しがるからな、出来れば戻って来てもらいたいが…。これ以上情を移されても困る。しばらくは好きにさせておけ」
「わかりました。あ、でも……。」
言いかけた言葉に、悠一が視線を上げた。
「なんだ?」
「はい。奥さまですが、どうやら仕事を始められるようです」
「仕事?なんの仕事だ?」
ピクリと眉が上がる。
悠一は自分の妻が誰かに使われたり、苦労させられたりする事を良しとしなかった。
彼女の身分を知らないからこそそんな風に扱われるのだから、早く彼女が自分の妻であり、最愛の女である事を知らしめたかった。
自分の保護下で、好きなように生きてほしかった。
つまり、彼女には自由でいてほしいが、だからといって遠くへ行ってほしくはなかったのだ。
「デザイン事務所を作られました」
「……?」
パチパチと瞬きをした悠一の顔を見て、真木はほんの僅か微笑ってしまった。
「なんだ?」
「いえ」
訝しげに眉を顰める表情も、以前とは違って凶悪ではない。
いい傾向だ。最近の社長はとても人間味があってイメージもいいし、そのうち奥さまとメディアに出られるのも良いかもしれないな。
真木は満足気に口角を上げた。
悠一は真木にコーヒーを頼むとポケットから携