ピロン
「……」
メッセージを受け取った雪乃がまたもや顔を顰めているのを見て、麻衣は首を傾げた。
「どうしたの?」
「この人、本当にしつこいっ」
そうブツブツ言いながら、雪乃は彼女にスマホの画面を見せた。
「わ〜。優しい〜!いいじゃないっ。なにが腹立つの?」
「わかんない?これって、私が今ここにいるって分かってて送ってきたってことでしょう!?」
「ああ…」
確かに。なんで知ってんの?監視でもつけてんのって感じね…。
麻衣は苦笑した。
「でも、愛されてるじゃん?」
「……」
愛?…ふん、冗談じゃないわっ。単に所有物扱いしてる女が自由にしてるのが気に入らないだけでしょ!
雪乃は怒りを込めて、ダダダっと返信を打ち込んだ。
『ストーカーは犯罪よ!』
「………」
やり過ぎじゃない……?
麻衣は雪乃の返信内容を見て、ちょっとだけ悠一が可哀想になった。
報われないなぁ…。
学生時代、雪乃の親友だった麻衣は悠一の取り巻きに加わることなく、彼の周りの人たちのはしゃぎっぷりに、冷ややかな視線を向けていた。
その頃の悠一は雪乃との接点がほぼなく、殆どの人が彼らに関係性などないと思っていた。
だが、麻衣は気が付いていた。
悠一は雪乃に対して無関心を装っていたが、いつもその視界に彼女の姿が入るようポジションを取っていた。
噂になっていたのは彼女の妹の春奈とだったが、皆が何を見てそんな風に言っているのか、麻衣には分からなかった。
だって、どう見ても悠一は春奈のことなんか無視していたし、視線すら合わせていなかった。
例え彼女が背後霊のようにいつも悠一の後ろに付き従っていても、2人の間には山よりも高い壁があるように見えた。
逆に、雪乃のことは常に意識していた。
悠一にとって特別だったのはいつだって雪乃で、春奈なんかは友人ですらなかった。
ただ家族同士の付き合いがあるだけの幼馴染。それだけだった。
それに気が付いていたのは麻衣と、悠一の親友の長谷直也だけだったかもしれない。
いや、もしかしたら春奈も気が付いていたのかもしれない。彼女の雪乃を見る瞳には、はっきりと憎しみが宿っていたから。
「とにかくさ、帰りはうちの運転手に送らせるから、心配ないってメッセージ送っときなよ」
「いいって、そんなのー」
チッ!
いきなり背後で舌打ちの音がして、雪乃たち全員が振り返った。
そこにはどこかで見たことがあるよう