六道辻。やっぱりここに来るのはしんどい。嫌なこと思い出すから。ツジカワさんがここで行方不明になって、すぐにシオネが、そして……。事件の発端の場所。バス停に立つと、ツジカワさんの家はほんのすぐそこ。この短い距離で何があったんだろうって思う。
センプクさんち、すんごいお屋敷。蔵が3つもある家ってどーよ。辻沢の中でも1位、2位じゃないかな。しかし、女バスのセンプクさんと辻沢不動産の千福オーナーがどうして結びつかなかったかね。あたし頭どうかしちゃった? センプクさんのおじーちゃんが千福オーナー。 玄関先の垣根、いい香り。クチナシだね。フツーは、いくつかくたって汚くなった花があるものなのに、全部真っ白。手入れが行き届いてる。「ヒビキ様。どうぞこちらへ」
電話した時はさんざん女バスの頃の話して盛り上がってたくせに、なんなの他人行儀なこの態度。しかし、広いにもほどがあるよ。玄関からどれだけ歩かせるんだ。冗談じゃなく迷子になりそう。 「しばらく、こちらでお待ちください」 「すみません。お手洗いを貸してもらえないかな」 お腹こわした。コンビ二に売り切れ続出のオレンビーナ・スカンポあったから買って飲んだのがいけなかった。あれ飲むと必ずお腹こわす。 「この前の廊下を、あちらにまっすぐ行かれて、突き当たりを左に行ったところに雪隠がございます」 雪隠ってまさか外でしろって? したものを雪で隠すから雪隠っていうって、ウィキに載ってなかったっけ。 まっすぐね。まっすぐって、ずいぶん長い廊下だ。突き当たってと、あれか。なるほど、これを雪隠って。ただの和風の便所じゃない。一応屋内で安心した。それに水洗だし。わざわざ雪隠っていうことあるか?洗面台、天然岩? 水つめたい。きっと井戸水だ。格子窓の向こうに裏庭か。って、普通の庭より広いし。殿様がこうやって格子越しに裏庭を見ながら手を洗ってて、「そろそろ、あの枯れ枝も払うときよのう」なんてつぶやくと、隠密が下でそれを聞いてて、シュタタタって走り去るの。それで城代家老が暗殺されるっていう筋書き。
「ごきげんよう」 なんだ? センプクさんのお姉さん? じゃない。青洲女学館の制