嘉山は信じられないという顔で、頬を押さえたまま声を上げた。
「爺さん、どうして俺を叩くんだよ?悪いのは時雨のほうなのに、どうしてそんなに彼女ばかり味方するんだよ?」
息子が叩かれるのを見て、相澤夫人は心底から心配そうな表情を浮かべ、思わず口を挟んだ。
「お義父さん、落ち着いて話してくださいよ。なんで嘉山を……」
相澤当主はフンと鼻で笑い、赤く腫れた手形が残る私の顔を指さした。
「じゃあ、なんでお前たちは時雨にこんなことしたんだ?この子の頬の痕……誰がやったんだ?」
皆の前で非難され、プライドの高い相澤夫人は顔色を変え、堪えきれずに反論した。
「それは、時雨が常識知らずだからよ!嫁いで七年にもなるのに、子供の一人も授からないなんて!体外受精でもしなさいって言ったのに、遊ぶことばかり考えて、相澤家の嫁としての責任を全く忘れているんだから!」
相澤夫人はますます自分が正しいとばかりに声を張り上げたが、相澤当主は静かな顔でじっと私の「罪状」を聞いていた。
話が一段落すると、相澤当主は嘉山に目を向け、淡々とした声で尋ねた。
「嘉山、お前のお母さんの言ってること、全部本当か?」
嘉山は目を逸らし、どこか後ろめたそうに答えた。
「爺さん、今さら何を……そんなの家族みんな知ってることだろ……」
相澤当主は冷たく笑い、手にした杖で嘉山を容赦なく叩いた。
「痛っ!」と嘉山が叫び、相澤夫人は慌てて駆け寄った。
「お義父さん、そこまで偏るのはおかしいでしょ?悪いのは時雨の方なのに、なんで嘉山を……」
相澤当主は無言でスマホを取り出し、一つの録音を再生した。
部屋の中に、嘉山の冷たい声が響き渡る。
「毎回終わったあと、俺がわざわざ牛乳飲ませてんのに。何年もずっとピル飲まされてて妊娠できるわけないだろ?」
相澤夫人は目を見開き、部屋の空気は一瞬にして油鍋に水を注いだみたいに沸き立った。
「自分の妻にピルを飲ませてた?そんなこと嘉山がするなんて…」
「しかも時雨、何度も体外受精の治療してたって聞いたぞ……それ知ってて黙ってたのかよ?」
真夏は私をじっと睨みつけ、嘉山に不満をぶつけた。
「あなた、あの人には一度も触れてないって言ったわよね?」
嘉山は焦りの色を浮かべ、必死に弁解する。
「違うんだ、全部家族に無理やりさせられただけだ!俺は彼女にこれっぽっちも気持ちなんかない!触れるたびに気持ち悪いだけだよ!真夏、俺が本当に愛してるのはずっと真夏だけだ!」
彼のいつもの蔑みを聞きながら、私は口元を引きつらせたが、もう心は何も動かなかった。
相澤夫人の視線も少し揺れたが、それでも息子を責めることはできなかった。
「嘉山はまだ若いのよ。未熟だっただけ。誤解もこれで解けたんだし、もうこの話は……」
相澤当主は冷たい笑みを浮かべ、私の腕を引っ張って袖をまくると、そこには無数の青紫色の注射痕がびっしりと並んでいた。
「見てみろ、七年間でこれだけの苦労をしてきた。お前の一言で済ませるつもり?」
嘉山はまだ納得できず、反抗的に言い返した。
「だから何だよ?そもそも時雨が真夏を無理やり追い出して、俺と結婚したんだ。自業自得だろ!」
その言葉に、真夏は一瞬目を伏せ、嘉山の袖をそっと引いた。
「嘉山、昔のことはもういいのよ。私はもう気にしてない」
私に一瞥をくれて、不満げに唇を噛みしめた。
「時雨さん、私はもう許したから、気にしないで」
相澤当主は冷ややかな目で彼女を見やり、どこか嘲るような口調で言った。
「許す?お前ごときがそんなことを言う資格があるのか?」
嘉山は思わず真夏を庇った。
「爺さん、俺のことは何でも言っていいけど、真夏にだけはそんな言い方やめて!彼女は優しくて素直な子だ!時雨の言うことなんか信じちゃだめだ!」
相澤当主は失望したように一瞥し、深くため息をついた。
「相澤家もお前みたいな愚か者が出るとはな。身近な人間の本性すら見抜けんとは!
お前は知ってるのか?あの女が、なぜ、あのとき海外に出たのかを」