目の前に突きつけられた離婚届を見つめながら、嘉山は未だ現実が飲み込めないようで、困惑した声を漏らした。
「爺さん、離婚って……何の話だよ?」
相澤当主は苦々しい顔で言い放つ。
「これだけ時雨に酷いことをしてきて、まだ縛りつけようってのか?お前には人の心ってもんがないのか?」
嘉山の顔には困惑の色が浮かび、無意識に私へと視線を向けた。
「時雨……本当に、俺と別れるつもりなのか?」
私は羽織をぎゅっと握りしめ、落ち着いた声で答える。
「そうだよ。もう二度と、あなたに私の貧しさを我慢させることはないから」
嘉山の顔色がさっと青ざめ、声を潜めて言う。
「それは怒ってた時に言っただけだろ?本気にするなよ!
時雨、これまで俺は悪かった。でも全部、俺の誤解だったんだ!
今はもう誤解も解けたし、お前が俺を愛してくれていることも知ってる。これから二人でちゃんとやり直そう?な?」
私は嘉山を見つめ返し、どうしてこんな言葉が口から出てくるのか不思議で仕方なかった。
結婚して七年。私が受けてきた苦しみは、「誤解だった」の一言で済まされるのか?
彼の軽い物言いに、思わず笑いそうになった。
私は彼の手を冷たく振り払い、きっぱりと言い放つ。
「勘違いしてるみたいだけど、私はあなたを愛してなんかいない」
嘉山はすぐさま反論し、自信満々に言う。
「ふざけるな!愛してなきゃ、なんで俺の言うこと何でも聞く?どんなに酷いことしても許してくれたのは何でだ?
いいか、これからはちゃんと償う。お前の望むもの、何でも与えるから!」
私は口元を歪めて、皮肉を込めて笑った。
「当主が全部話してくれたから、もう隠すこともないわ。
私があなたと結婚したのは、愛でも金でもない。ただの恩返しよ」
「恩返し?」
嘉山は呆然とした。
相澤当主は静かにため息をつき、重々しい口調で語り始めた。
「時雨が大学に進学できたのは、俺が学費を援助したからだ。その恩を理由に、無理やりお前と結婚してもらったんだ。
榎本家との婚約破棄のスキャンダルを誤魔化すために……高学歴の嫁を迎えたと見せかけて株価を安定させるために。
もう一つは、彼女の実力を見込んでのことだった。実際、時雨のおかげで会社は持ち直した。
俺は人を見る目はあったが、孫を見る目がなかったようだな」
嘉山はその場で固まり、顔