運転手は急いで車を飛ばし、私を相澤家傘下の病院まで送り届けた。
手術は順調に終わった。体の中から小さな命が流れ出ていくのを感じたとき、私の心はただ静かに、解き放たれるような安堵だけが残った。
病室から出されたその瞬間、ドアを勢いよく開けて飛び込んできたのは、嘉山だった。
傍らのボディーガードが事情を説明する。
「若旦那様、命がけて駆けつけまして……私たちも止められませんでした」
私は彼を責める気にもなれず、ただ淡々と嘉山を見つめて言った。
「もう遅いの。お腹の子は、もういない」
嘉山は目を赤くして、その場に崩れ落ちた。
「時雨、なんで……どうしてこんな酷いことを……」
思わず笑いそうになった。この七年間、私にしてきた仕打ちを、彼はすっかり忘れたらしい。
その時、相澤当主が入ってきて、地べたに座り込んだ嘉山を一瞥し、呆れたように叱った。
「バカ者が!今さら後悔か?もっと早く気づけばよかっただろう!」
そう言いながら、相澤当主は嘉山を無理やり引きずり起こして連れ出そうとする。
「このままじゃ時雨に顔向けできんだろう!邪魔だからさっさと出ていけ!」
病室の扉が閉まっても、相澤当主の叱責は微かに聞こえていた。
私はすべて聞こえぬふりをして、ベッドに腰掛けたまま、渡された小切手を一瞥した。
相澤当主はさすがに太っ腹で、いきなり二十億円。これで私のこれからの人生は安泰だ。
療養のために病院で過ごす間、嘉山は毎日のように見舞いに来て、高級な贈り物や滋養の品をこれでもかと届けてきた。
何も知らない看護師たちは、羨ましそうに言う。
「ご主人様、本当に奥様のこと大事にされてますね」
私は微笑んで訂正した。
「違いますよ。私たち、もう離婚しましたから」
つい最近、嘉山は相澤当主に強く迫られ、離婚届にサインしたばかりだった。
あと数日で正式に離婚成立。
そして、退院の日、まさか真夏が現れるとは思ってもみなかった。
この間に彼女はずいぶんとやつれ、頬もこけて、かつてのみんなの憧れのお嬢様の影はなかった。
私を見つけると、彼女は怒鳴りつけてきた。
「あんた、もうすぐ離婚するんでしょ?だったら何でまだ嘉山にまとわりつくのよ!
本当は私が彼と結婚するはずだったのに、全部あんたが邪魔したから!」
言い終わるが早いか、彼女は私に詰め寄り、平手打