彼は少し止まって、また言った。「明日の朝は俺が君を店まで送るよ」
彼がこんなにも気を使ってくれるので、唯花は電動バイクを店に残して、理仁の車に乗った。
牧野明凛は夫婦二人が帰って行くのを目線で見送り、つぶやいた。「だんだん夫婦らしくなってきたわね」
結城理仁は常に冷たくて寡黙だが、しかし彼の内海唯花への優しさは細かいところに見て取れた。
「もし私も結城さんみたいな人と巡り合えたら、喜んで即結婚するわ」
残念なことに、彼女のお見合い相手たちは結城理仁には遠く及ばない。あれらのいわゆるハイスペック男というのは、ただ収入が高いだけで、そのように呼ばれているだけなのだ。実際、ハイスペックという言葉からは、かけ離れている。
この前のカフェ・ルナカルドでお見合いしたあの相手は、内海唯花のほうを気に入っていた。私的に仲介業者を通して内海唯花のことを尋ねていて、既婚者であることを知ったのに、まだくだらない夢を見ていた。
牧野明凛は直接、あのお見合い相手に電話をかけ、ひどく怒鳴りつけた。もしも奴が私的に内海唯花にコンタクトを取り、彼女の結婚生活をめちゃくちゃにしたら、地位も名誉も傷つけると。
内海唯花の目の前に現れなければ、牧野明凛は彼の命を助けたのと同じことだと思った。本気で内海唯花のところに行き告白でもしてみろ。彼女が相手を完膚なきまでに痛めつけるだろう。なんといっても空手を習っていたのだから。
「途中に姉の家があるから、姉の家に行って様子を見てから帰りましょう」
内海唯花は一日に一回は姉のところに行かないと、どうも慣れないのだ。
結城理仁は、うんと一言返事した。
少しして、夫婦二人は佐々木唯月の住むマンションに到着した。
この時間帯はだいたい夜ごはんを終えた時間で、食後に子供を連れて外で散歩をするのが好きなマンションの住人が出てきていた。だから、この時刻はマンション周辺がとても賑やだった。
結城理仁が車を停めた後、内海唯花が先に車を降り後部座席のドアを開け車から果物の入った袋を二つ取り出した。それは理仁がどうしても義姉に贈り物をしたいと言って買ったものだ。
夫婦は佐々木唯月が住んでいる棟のほうへと歩いて行った。
すぐに内海唯花はどこかおかしいことに気が付いた。彼女は姉の家に三年住んでいて、マンションの住人をよく知っていた。それが今日みんなが彼女を