さっき明凛も彼に電話をかけてきたところだ。彼女のバイクは途中で充電がなくなり動けなくなったので車を押して行くしかなかった。しかし、その距離は遠く、バイクを押して進んでいたが、まだまだかなりの距離があるので、悟に助けを求めるしかなかったのだ。
これは明凛がはじめて悟に迎えに来てもらいたいと救援を要請してきたのだ。主に悟について会社まで行って、先に到着した親友をなぐさめたかったからだ。
そうでなければ、彼女は弟を呼べばいいだけの話で、悟をわざわざ呼ぶ必要などないのだ。
悟は唯花を座らせて、明凛を迎えに行くのは後回しにした。
「内海さん、何を飲まれますか?」
「いらないです。少し聞きたいことがあるだけですので。結城理仁は財閥の結城家の御曹司なんですか?この会社の社長の?」
悟は少し黙ってから尋ねた。「内海さん、もしかして結城社長が奥さんを溺愛しているというあのインタビューをご覧になったのですか?」
「何が溺愛よ、あれは私を騙し続けた大嘘つき者だわ!」
唯花は激怒して言った。「見ましたよ、あれが彼だなんて信じられないですよ!」
悟は唯花はじっと見つめ、彼女が不機嫌で、相当に怒りを爆発させている様子を見て、心の中で理仁にお線香をあげていた。
理仁よ、今回の結婚生活の危機は、短期間では恐らく収拾がつきそうにないぞ。
ざまあ見やがれ!
だから身分を隠し続けるなと言ったんだ!
悟はこの時ふいに、自分が早めに明凛に彼の正体を明かしておいてよかったと思っていた。彼女を落とすことは確かに難易度が上がってしまったが、それでも理仁のように結婚生活も危ういほどのレベルまではいかずに済むのだから。
もし、今回の対応を少しでも間違えてしまえば、唯花は理仁に離婚を申し立てる可能性は非常に高い。
しかし、この二人を離婚させるわけにはいかない。
悟は理仁のことをよく理解していた。理仁はもともと情に薄く、人に対しては塩対応な人間である。恋愛というものが人生に必要なものではないと思っていたのだ。生まれつき冷たい彼が誰かに心を動かされ、その女性に愛が芽生えてとても優しく大事にするようになるのは恐らく今生一回きりだけのことだ。唯花以外に、彼が他の女性をこの一生で愛することは絶対に有り得ないのだ。
唯花のことをとても大事にし過ぎて、彼は失うことを恐れ、嘘に嘘を重ね続け、今ようやく