佳奈とテレビ電話で話してから数日後、俺は実家を一人で訪れた。佳奈が真っ直ぐに俺と向き合ってくれているのに、俺がこのまま母との溝を放置していてはいけない。佳奈への悪い印象を払拭し、俺たちの結婚を母に理解してもらうため説得を試みることにした。
母は俺が一人で来るとは思っていなかったようで少し驚いた顔をした。リビングに通され二人きりになると俺はすぐに本題に入った。
「母さん、佳奈のことなんだけど…」
そう切り出すと母の表情は一瞬で険しくなった。やはり、あの日のことがまだ母の心に深く残っているのだろう。
「啓介ったらあの佳奈って人のどこがいいのよ。私にはさっぱり分からないわ」
母は、私の言葉を遮るように苛立ちを隠さずに言った。その声には明らかに佳奈への不満と嫌悪感がにじみ出ていた。
「佳奈は母さんが思うような人じゃない。佳奈は俺の事をよく理解してくれて支えてくれている。佳奈となら、今後何があっても乗り越えられる気がするし向き合えると思っている。俺は佳奈だから結婚を考えたんだ」
俺は、佳奈の聡明さ、優しさ、そして何よりも、どんな時も俺を信じて支えてくれる心の強さを話した。付き合っている女性のことを話したことも、その女性がどんなに素敵で魅力的なのを話したことも初めてだった。しかし、母の表情は変わらない。むしろ、話せば話すほど、その眉間の皺が深くなっていくのが分かる。