誰が契約結婚だって?ハイスぺCEOは私しか見ていない

誰が契約結婚だって?ハイスぺCEOは私しか見ていない

last updateDernière mise à jour : 2025-09-30
Par:  中道 舞夜Complété
Langue: Japanese
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バリキャリ佳奈と独身主義者でCEOの啓介は 共に結婚願望がないことで盛り上がり交際に発展。しかし、突然佳奈からプロポーズを受ける。 「私たち最高の夫婦になると思うの、結婚しよう」突然の告白に驚く啓介。 しかも、ただの結婚ではなく『自由を手に入れるための結婚』独身のような生活は維持しつつ、結婚することで得られるメリットを享受しようとする2人。合理的な選択のはずが啓介を狙う元カノや跡取りが欲しい両親、佳奈を狙う同僚が迫ってきて新婚早々二人の生活に波乱が襲う!

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Chapitre 1

1.プロポーズは突然に

「ねえ啓介?私たち、結婚しよう」

週末の日曜日、予約が取れない人気のフレンチレストランで食事をしながら彼氏の啓介にプロポーズをした。

「え、佳奈?どうしたの?急に?」

啓介はティラミスを食べる手を止めて、驚いた顔をして私を見ている。

「啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」

ーーーーーーーーーー

時を遡ること、3分前。

「啓介。私のこと、好き?」

「ん?どうしたの急に。」

女性の扱いに慣れている啓介は私の手に自分の手を重ねてきた。

「好きか嫌いかで言ったら好き?」

「え、もちろん。佳奈のことが好きだよ。だから付き合っているんじゃないか。」

「良かった。私も啓介が好き。だから、私たち結婚しよう」

私は宣言するように声を張って言った。

「え、今、なんて?」

聞こえていないはずはないのだが、啓介は聞き返す。

「だから、結婚。啓介、結婚しよう。」

「え、佳奈?どうしたの?急に?」

啓介は目を丸くして驚いている。先程までの優しい微笑みは姿を消し、困惑してどのような返答をしようか考えているようだった。

「佳奈、なんでそうなったか聞かせてもらえないかな。この前、同僚が結婚したと話をした時に君は結婚の意味が分からないって否定的なことを言ってたよね。それが今日は急に結婚しようだなんて。言っていることが矛盾していると思うんだ。」

啓介は手を額に当てて厄介なことになったと言う顔でこちらを見ている。

彼は結婚願望がない。『結婚できない男』ではなく『結婚したくない男』だった。しかし、そんなことは気にせずに私は続けた。

「結婚の意味が分からないのは今でもそうだよ。啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」

「……ごめん、意味が分からない」

「啓介はなんで結婚したくないんだっけ?」

「それは……別に一人の生活に不自由もないし困っていないからだよ。一人でも生活できるスキルはあるし好きなことも出来る。」

周りから結婚して金銭面や時間の面で自由がなくなったと聞いていて、今の生活を楽しみたい啓介は否定的らしい。

「そう、私もなの!仕事が好きでこれからもっと上に行きたい。遊びやプライベートも充実させたいけど一番したいことは出世。出世してお金を稼いで自分の好きなこともして自由を手に入れたいの。」

「それなら今の関係のままで良くない?」

「ううん、良くない。啓介は、一人息子だからご両親から結婚はまだかとかお見合いや彼女の有無を聞かれるのにうんざりしているでしょ?」

「私は、今の会社は結婚していないと性格に問題があるんじゃないか?って疑われる。うちの会社には男性でも独身の役員はいない。役職クラスの昇進試験でも独身だと分かると性格とか内面の人間性を確認しているの。それって偏見じゃない?」

「それはそうだけど……。だから結婚って無茶苦茶すぎないか?」

「普通ならね。制限されることの方が多いし自由を求めるなら独身の方がいい。だから私たちは結婚しても今まで通りの自由な生活を送ろう」

「それってつまり、偽装結婚……ってこと?」

「いいえ、私は啓介のことが好きだし啓介も好きだと言ってくれた。だから愛のある結婚よ。私たちはお互いの自由を守るために結婚するの。」

「ごめん、理解が追いつかない。」

「いい?結婚することで啓介は親からの催促から逃れ、私は社会で不利益な扱いを受けないで済むってわけ!」

「つまりお互いに利害関係にあるといいたいのか?」

「その通り。好きな相手と恋愛感情以外でも求めているものが一致するなんて、私たち最高にいいパートナーだと思うの。こんな人もう出逢えないんじゃないかって思うくらいあなたに惹かれている」

「佳奈が言うことは確かに一理あるけれど、そんなに上手くいくかな?」

「私はうまくいくと思っているわ。こんなに相性がいい人、他にはいないと思うもの。だから安心して進めばいい」

「安心して……?何を根拠に?」

こうして私の猛烈なプロポーズから、私たちの結婚生活は幕を開けた。

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1.プロポーズは突然に
「ねえ啓介?私たち、結婚しよう」週末の日曜日、予約が取れない人気のフレンチレストランで食事をしながら彼氏の啓介にプロポーズをした。「え、佳奈?どうしたの?急に?」啓介はティラミスを食べる手を止めて、驚いた顔をして私を見ている。「啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」ーーーーーーーーーー時を遡ること、3分前。「啓介。私のこと、好き?」「ん?どうしたの急に。」女性の扱いに慣れている啓介は私の手に自分の手を重ねてきた。「好きか嫌いかで言ったら好き?」「え、もちろん。佳奈のことが好きだよ。だから付き合っているんじゃないか。」「良かった。私も啓介が好き。だから、私たち結婚しよう」私は宣言するように声を張って言った。「え、今、なんて?」聞こえていないはずはないのだが、啓介は聞き返す。「だから、結婚。啓介、結婚しよう。」「え、佳奈?どうしたの?急に?」啓介は目を丸くして驚いている。先程までの優しい微笑みは姿を消し、困惑してどのような返答をしようか考えているようだった。「佳奈、なんでそうなったか聞かせてもらえないかな。この前、同僚が結婚したと話をした時に君は結婚の意味が分からないって否定的なことを言ってたよね。それが今日は急に結婚しようだなんて。言っていることが矛盾していると思うんだ。」啓介は手を額に当てて厄介なことになったと言う顔でこちらを見ている。彼は結婚願望がない。『結婚できない男』ではなく『結婚したくない男』だった。しかし、そんなことは気にせずに私は続けた。「結婚の意味が分からないのは今でもそうだよ。啓介が結婚に前向きじゃないのも知っている。だから私たち最高の夫婦になると思うの。」「……ごめん、意味が分からない」「啓介はなんで結婚したくないんだっけ?」「それは……別に一人の生活に不自由もないし困っていないからだよ。一人でも生活できるスキルはあるし好きなことも出来る。」周りから結婚して金銭面や時間の面で自由がなくなったと聞いていて、今の生活を楽しみたい啓介は否定的らしい。「そう、私もなの!仕事が好きでこれからもっと上に行きたい。遊びやプライベートも充実させたいけど一番したいことは出世。出世してお金を稼いで自分の好きなこともして自由を手に入れたいの。」「それなら今の関係のままで良
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2.自由のための結婚
「婚前契約書……?」「婚前契約書って言うのはね、入籍をする前に今後のルールを決めていくの。財産分与やハラスメント・浮気とかが多いけれど内容は自分たちで自由に決めていいの。海外では資産家や芸能人が当たり前のように結んでいるわ。」「婚前契約書というのは分かったよ。でも、著名人でもない俺たちがわざわざ契約書を作成、締結にする意図は何かな?」「著名人の場合は、金銭面の対策だけれど私たちは違うわ。『自由』のための契約。お互いが親族や社会から色眼鏡で見られたり、『余計なお世話』と思うことから開放されるための契約なの。」「余計なお世話からの開放……。」「啓介も長男だから結婚して跡取りが欲しいとかご両親からよく連絡くるでしょ?でもそれって親の都合だと思わない?そこに啓介の意思はないじゃない。意思がないのにこれから何十年も一緒にいる相手を選べっておかしな話だと思わない?」この言葉は啓介に響いたようで、考え事をするように真剣な目つきになっていた。以前、啓介の両親が縁談の話を勝手に進めていたそうだ。興味がないのに女性と会うことに気が引けたのと万が一自分以外が結婚に前向きになったらと考え会うこと自体を丁重に断ったそうだが、気が重かったと話していた。私の言葉にただ丸め込まれるのではなく、一方的に無理だと否定するわけでもなく、冷静に物事を考え慎重に事を進めようとするところも私は好きだ。自由とは言ってもリスクは伴う。様々な角度から物事を捉えようとする啓介だからこそ私はこの話を持ち出したのだ。「確かに魅力的だね。結婚したら今度は会うたびに子どもってうるさそうだけど……。」「だから、その煩わしいことを止めるの。親戚づきあいはどうするとかお互いが楽しく暮らせるために話し合って契約書を作っていこう!とりあえずやってみようよ。」「……。」啓介はしばらく黙り込んでいた。私は、啓介から発せられる言葉を緊張した面持ちで待っていたが、あまりに長いので目の前にあるティラミスを堪能することにした。(はああ~さすが人気店のティラミス。コンビニも十分美味しいけれど別格。口に入れた瞬間のマスカルポーネも滑らかさも上にかかっているコーヒーの香りも主張し過ぎなくて最高。)私がティラミスに舌鼓を打ち微笑んでいると、啓介も小さく笑いだした。「ふふふ、こんな話を持ち出しておいて自分はティラミスを楽しんでい
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3.結婚相手にふさわしいのは私なのよ
「え?啓介が結婚する?嘘でしょ?」カフェでミルクティーを飲んでいたが、思わずカップを落としそうになった。スマートフォンの画面に表示された友人のメッセージに私は思わず二度見する。(あの啓介が結婚?なぜ?私が結婚の話をした時は興味がないって言っていたのに…。)過去の記憶が怒涛のように押し寄せる。啓介は結婚願望がなく、どれだけ真剣に交際を申し込まれても結婚を意識している女性とは距離を置く男だった。どれほど尽くしても努力しても彼を手に入れることは出来ない。何を隠そう私もその被害者の一人なのだから。会社の経営者で社長で見た目もスマートで多くの女性が狙っていた。啓介のことを色々と知っていくうちに結婚願望がないことが分かり、自分も結婚願望はないと言って近寄った。時間をかけてゆっくりと過ごしていくうちに私の存在の大きさに気づいて結婚を意識してもらおう。付き合って1年以上経ってから何度か結婚の話を持ち出した。高収入で浮気もせずに一途に愛してくれる誠実な啓介との結婚は理想の未来そのものだった。しかし、その度に啓介は眉間に皺を寄せ「結婚は今の俺には無理だ」と頑なに結婚を拒んできた。「付き合ったら啓介も変わって結婚を考えてくれるかもしれないと信じていたのに……。」最終的にはそう言って別れを告げた。その言葉を聞いた啓介は「つらい思いをさせてごめん」と悲しい顔をして言ってきた。それ以上は言葉にせず引き留めない啓介に悔しさと嫌気がさした。それなのに啓介が結婚?しかも相手は自分ではないどこかの女。「ふざけないでよ……結婚なんて興味ないって言ってたじゃない。結局、私との結婚を避けたかった口実だったの?」唇がわなわなと震える。胃の奥から込み上げてくるどす黒い感情。それは、失恋の悲しみとは違う、もっとドロドロとした相手の幸せを許せないという醜い感情だった。自分がどれだけ頑張っても手に入れられなかったものを、他の誰かがやすやすと掴んだのだとしたら?悔しさ、怒り、屈辱感が心を苛んだ。啓介のようなハイスペックな男性を逃したことは、私にとってキャリアの失敗と同じくらい許しがたいことだった。彼を自分の物にできなかったことへの不甲斐なさ。そして、啓介に「結婚する気はない」と拒絶された過去が今、最悪の形で突きつけられている。(相手の女は何者なの?どうやって啓介をその気にさせたっていうの?)
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4.『カナ』へ執着する元カノ凛(前編)
「カナ……カナ、どの女なのよ」私はあのカフェを出てから憑りつかれたように『カナ』という女の情報収集を始めた。啓介のビジネス用のSNSは当然、彼と繋がりのありそうな友人の更新を片っ端から読み漁る。過去の投稿まで遡り、写真やタグ付けされた名前、コメントのやり取りなどわずかなヒントでも拾い上げようとした。しかし、分かっていたが啓介は、プライベートに関して驚くほどガードが固かった。SNSの更新は仕事関連か同僚との飲み会の写真程度。しかも、そこに写り込む女性は皆、顔がはっきり写っていなかったり遠景だったりする。個人的な旅行や趣味に関する投稿は皆無に等しい。共通の友人にそれとなく探りを入れても、「啓介?あいつは相変わらず仕事人間だよ。休みの日は何してるんだろうな?聞いてもはぐらかされるんだよな」という返事ばかり。プライベートの知人についても、極力職場と切り離している節があり、共通の知り合いはビジネスライクな付き合いの人間が多かった。「なによ、少しはプライベートも載せなさいよ!!!」苛立ちが募る。手掛かりになるものは見つかるのだろうか……まるで霧の中に隠された真実を探すような作業だった。それでも諦めなかった。睡眠時間を削り仕事中も頭の片隅では「カナ」のことでいっぱいだった。啓介への好意ではなく自分を捨てたのに他の女と結婚することへの悔しさが執念となっているのだ。いくつかの投稿を見ているうちに繰り返し登場する女性の影。毎回違う友人グループの中にいるが、時折啓介とも同じ場にいるらしき写真がある。顔はやはりはっきりしないが雰囲気や服装に共通点がある気がした。名前はタグ付けされていないが、その友人の友人の…と辿っていくうちに『カナ』あるいは『佳奈』と読める名前の女性が複数浮上してきたのだ。一人目の候補は、派手なファッションに身を包んだインフルエンサーのような女性。啓介の知人がフォローしていた。投稿には「今日のランチは光友商事の片岡さんと♡」といったキャプションがあり、その他にも社長や大手企業の勤務先の人と交流している写真がアップされている。この女か?しかし啓介の洗練された雰囲気とは少し違う気がする。こんなSNSで人脈の広さを誇り、プライベートも晒すような女と付き合ったりするだろうか。二人目の候補は、清楚で落ち着いた雰囲気の女性。趣味のサークルで啓介と接点があるらし
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5.『カナ』へ執着する元カノ凛(後編)
写真に写る後姿やわずかな投稿内容から推測するに、派手さはなくどちらかというと控えめな印象だ。大学時代に海外で過ごした経験があるという情報も引っかかった。啓介は海外出張が多く国際的な感覚を好む。海外で過ごしていたからか来ている服もTシャツにデニムなどカジュアルな格好が多い。しかし、シンプルだからこそ女性らしい体格が際立ち、ほどよいセクシーさもあるこの女に少し羨ましさと嫉妬を覚えた。「なるほど、そのあたりが啓介にとって魅力的だったということか。でも、だからって……普通、結婚までいく?」まだ納得できない。結婚を頑なに拒んできた啓介がなぜこの女と?啓介に結婚の期待を込めて話をすると「仕事も頑張りたいし今は結婚は考えられない」と言っていた。しかし、一度だけお酒に酔っぱらった時に啓介が言った言葉を思い出した。「うちの親、俺が一人っ子だから早く結婚して跡取りをってうるさくてさあ……」私は結婚願望がないと言っていて啓介に近づいたので油断していたのかもしれない。付き合って半年、啓介が愚痴っぽいことを言うのは珍しいので気を許してくれたのだと思って嬉しかった。啓介は一人っ子で両親は彼の結婚を強く望んでいた。そして孫の誕生も……。もしかしたら、この結婚は彼の両親に対する形式的な対応なのではないか?社会的な体裁を保つための合理的な選択…?もしそうなら、啓介の両親を味方につければまだチャンスがあるのではないか。啓介が形式的に結婚するのだとしたら、彼の両親はどんな気持ちだろう?自分たちの望むような相手ではない可能性もある。すかさず啓介の両親に関する情報収集を開始した。啓介から聞いた話、共通の知人が知っていること。ご両親の年齢、趣味、性格。特にどんなタイプの女性を好むのか、逆にどんなタイプを嫌うのか。「確か、お母様は料理教室の先生よね……お父様はゴルフが好きと言ってたわ。」断片的な情報を整理していくと、ご両親は伝統的な価値観を重んじるタイプに感じる。派手な女性やあまりに自己主張の強い女性は好まないかもしれない。控えめで、家庭的でそれでいて知性も兼ね備えた女性……。今の「佳奈」という女の情報を総合すると意外にも彼女も派手ではない。しかし、キャリアウーマンであり海外経験があること。もしかしたら、ご両親にとっては「デキる嫁」ではあっても、「自分たちの息子にふさわしい、理想の嫁」で
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6.両親を味方につけ外堀から固めてやる(前編)
日曜日、穏やかな春の陽光が差し込む中、私は緊張した面持ちで啓介の母が主宰する料理教室に参加していた。エプロンを身につけた参加者たちが和やかに談笑している。私は、自分が啓介の知人、しかも元恋人だということは悟られないように控えめな笑顔で受付を済ませた。教室では旬の野菜を使った家庭料理がテーマだった。私は熱心に講師である啓介の母の説明に耳を傾け、手際の良い調理を見よう見まねでこなしていく。周りの参加者たちとも積極的に会話を交わし、和やかな雰囲気を作り出すことに努めた。啓介の母は、物腰が柔らかく参加者一人ひとりに丁寧に話しかけていた。私は、さりげなく彼女の近くに立ち料理のコツなどを質問することで少しずつ距離を縮めていった。料理教室が終わり、参加者が帰っていったタイミングを見計らって私は啓介の母に話しかけた。「先生、今日の鶏肉の照り焼き、味がしっかり染みていて本当に美味しかったです!」「あら、嬉しい。良かったらまた来てくださいね」「はい、これからも色々と教えてください。先生のお料理が毎日食べられるなんてご家族の方は幸せですね。」「ふふふ、ありがとうございます。でも、もう息子も大きくなって夫と二人だから普段はここでやるような料理はしないのよ。料理を教えているのにこんなこと言っちゃだめね」そう言って悪戯っぽく笑う姿はとてもチャーミングだった。その後も会話が続き、料理のこと、家族のこと、趣味のこと。そして、啓介の母がふと息子の話をし始めた時、私はすかさず用意していた言葉を口にした。「息子さん成人されて今は遠くにいらっしゃるんですか?」「立川ってところにいるわ、ここから電車で30~40分ほどのところなの」「え、本当ですか?私その近くに住んでいます。」「まあ、そうなんですか?わざわざ来てくださってありがとうございます。」「とんでもないです。楽しみにしていましたしあっという間に着きました。」「あら、息子もそう言って頻繁に帰ってきてくれたらいいのに。」啓介の母はそう言って笑っていた。啓介の話をしていると自然と笑みが零れており愛されて育ったのだろうと感じられる。私は先程の趣味の話から満を持して切り出した。
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7.両親を味方につけて外堀から固めてやる(後編)
「そう言えば近々、啓介の住んでいる近くのホールで先生が先程お好きと言っていた作家の展覧会があるんです。私も興味があって行ってみようと思っていて……」啓介の母の目が輝いた。「まあ、そうなの!最近はなかなか時間が取れなくて行けてないのだけれど……こうして教えて頂いたことだし息子のところへ行くついでに、ちょっと顔を出してみようかしら」計算通りに話が進み、心の中で拳に握りガッツポーズをしていた。「私も一人で行く予定で、もしよろしければご一緒しませんか?」しかし、啓介の母は少し考えてから申し訳なさそうに言った。「ありがとうね、お気持ちは嬉しいけれど、その日は息子にちょっと用事があってね。一人でふらっと寄ってみるわ」(なーんだ、残念)内心で舌打ちしつつも笑顔と声は崩さず続けた。「そうですか。土曜日の方が空いているようですので行くなら土曜日がオススメですよ。もし会場でお会いできたら声を掛けさせて頂いてもいいですか?」「それなら土曜日にしようかしら。是非、お会いしたらお話しましょうね」啓介の母は、特に警戒する様子もなく笑顔で返してくれた。料理教室を後にし、私は今日の収穫に満足していた。イベント当日、啓介親子と鉢合わせする。偶然を装い啓介の母に親しく話しかけ啓介にも挨拶をする。そこで、自分が「ただの知人」ではないことを、母親の心に訴えかけるのだ。「息子さんのことをずっと想っているんです」「彼の幸せを心から願っているんです」と。そして、あの「佳奈」という女が、果たして啓介の母親の感情を掴んでいるのかどうかさりげなく探りを入れる。もし、母親がその結婚に何らかの疑問を抱いているようなら、そこを集中的に攻めていこう。(お義母様……いえ、まだそう呼ぶのは早いわね。でも、近いうちにそう呼ばせていただきますから)イベント会場で出会った時のことをを想像すると笑みがこみ上げてくる。計画はすでに動き始めていた。
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8.突然の母の訪問
料理教室から一夜明けた月曜日の午後、スマートフォンがオフィスのデスクで静かに振動した。画面に表示されたのは「母」の文字。 電話に出ると明るくもどこか遠慮がちな母の声が聞こえてきた。「啓介、元気にしてる?突然なんだけどね、今度の日曜日に、あなたの住んでいる近くで私の好きな作家の展覧会があるの。もしよかったら、その帰りにでも一緒に食事でもどうかしら?」カレンダーを確認すると特に予定は入っていない。一人で過ごす週末も悪くないが、たまには母親と顔を合わせるのも親孝行だろうと考えた。「ああ、別に構わないよ。」「ありがとう、楽しみにしているわ。じゃあ、また近くになったら連絡するわね」仕事を気遣ってか電話はすぐに切れた。母親とは普段は連絡をしないが、たまに近くに来る用事があると誘ってくる。好きな作家の展覧会、母が趣味を楽しんでいるようで何よりだった。(母さんと会うのも久々だな……。)前回会った時は、佳奈と付き合ってはいたが結婚の話は出ていなかった。今までも彼女がいても両親に存在を伝えたことはない。彼女の存在が分かれば連れてくるように言われたり、結婚はまだか?とせがまれるのが目に見えていたので恋愛絡みの話題は避けていた。(佳奈と結婚するとなれば話はしておいた方がいいよな……。それとも直接会った方がいいのか?佳奈に会った時にそれとなく話をしてみるか。)週末の夜、佳奈とレストランで夕食を楽しんでいた。ステーキをナイフで大ぶりに切り分けながら頬張って食べている。「そういえば、次の休みに母さんと食事に行くことになったんだ」「へえ、珍しいね。」「うん。月曜に突然電話があって。俺の住んでる近くで、母さんが好きな作家の展覧会があるらしくてその帰りに食事でもって誘われたんだ」「そっか、いいね。楽しんできてね!」佳奈は短く返事をし、特にそれ以上の質問をすることもなかった。会話がこれ以上広がらなかったため、佳奈を紹介すべきが考えていたことを言いそびれてしまった。どう話そうか考えているうちに、一つの疑問が浮かび上がってきた。
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9.疑惑と結婚への迷い
(しかし、自分の住んでいる場所の近くで展覧会があるという情報はどこで知ったのだろうか?ネットに疎いはずだがよく見つけたな……展覧会はきっかけで本当の目的は別にあったりするのか?)そんな疑惑も抱いたが、自分が知らないだけで独自のコミュニティや繋がりがあるのかもしれないと言い聞かせ、それ以上深く詮索するのをやめた。 (佳奈も『楽しんできてね』で終わらせたということは、行く気はないってことなんだろうな。)そう解釈してこれ以上は言及しないことにした。お互い干渉をせずに面倒なことから開放されるために選んだ合理的な関係の結婚。それならば、結婚の話がまだ具体的に進んでいない今は家族への紹介はせずに個々で楽しむのが二人にとって最適な距離感なのだと考えた。何も言わずにスマートフォンを操作する佳奈の横顔を見ながら、啓介は、母からの電話を受けてから今までの両親からの愛情を思い返していた。(結婚をせがんでくる両親は確かに煩わしかったが、開放されるために結婚を選ぶのはどうなのか。すべて決まってから報告するだけではあまりにも寂しすぎないか。このまま佳奈との結婚の話を進めていいのだろうか?)母からの電話という予期せぬ出来事で、これからの結婚生活に微かな不安を感じ始めていた。結婚をせがんだり、縁談の話を一方的に進めるのは困った出来事だったが、小さい頃から自分のことを思って愛情をこめてくれた両親。料理教室もしている母の弁当は、いつも彩り豊かで全て手作りの物だった。春になると人参を花にして1つ目立たせるように盛り付けてくれていた。思春期は照れ臭かったが、『今日はどんなおかずが入っているのか』と毎日ふたを開けるのを楽しみにしていたことを思い出した。父は上場企業の幹部で不自由なく育ててくれた。新規事業の立上げの責任者をしていたこともあり、忙しそうだが活き活きと仕事をしている父はかっこよかった。自分が起業して経営者になろうと思ったのも父の影響が大きい。時として煩わしい時もあるが、今までを振り返ると感謝の方が何百倍も大きい。面倒なことからの開放という理由で佳奈との結婚の話をこのまま進めてしまっていいのか?急に佳奈との関係に不安を持ち始めた。しかし、そんな様子を知る由もなく佳奈はお酒を楽しんでいる。
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10.婚約解消?迷う啓介
「今日、うちに泊まらない?」佳奈から誘われて家に行くことになった。リビングのソファでワインを飲みながら二人はくつろいでいた。テレビは消され静かな時間が流れている。しかし、啓介は母と食事に行くことを伝えたが「楽しんできてね」と自分は行く気がない素振りをした佳奈に対して、啓介はこのまま結婚を進めることに不安を持っていた。「さっきから何を考えているの?」 啓介が何か考え事をしていることに気づき、佳奈は尋ねた。 「いや、何でもない」 「嘘。はっきり言って」「……仕事のことで少し考えていたんだ。」 「そうなんだ?ねえ、婚前契約書の事なんだけれどね」「ごめん、今日はちょっと疲れてしまったから、また今度でもいいかな?」 「あ、うん。別にいいけど……」佳奈は一瞬、驚いた顔をしたもののすぐに穏やかな表情に戻った。「来週から頑張れるように今日はゆっくりしようか。」啓介の隠された不安とは裏腹に、佳奈は腕を絡ませて抱きついてきた。ソファに座る啓介の上に跨り優しくキスをする。唇はおでこやまぶた、耳、頬と少しずつ場所をずらし労わるように愛撫していく。「そろそろ寝ようか。」佳奈は啓介を起こしソファから立ち上がる。指を絡ませ恋人繋ぎをしながら寝室へ向かう。そして、男女の甘い時間が始まった。 土曜日、佳奈を誘うことはやめて啓介は約束の時間に指定された場所へ向かった。土地勘に疎い母を思い早めに向かうと、遠くから母親が誰かと話しながら歩いてくる姿が見えた。徐々に人影がハッキリしてきたときに啓介は目を疑った。母親の隣に座っていたのは、出来ればもう顔を合わせたくないと思っていた元カノの凛だった。凛とは数年前に交際していた。知り合った当初、彼女は結婚願望がないと言っていたため安心していた。しかし、交際して1年が過ぎると、凛は次第に結婚して欲しいと強く言ってくるようになった。「付き合ったら啓介も変わってくれるかもと信じていたのに。」と泣きわめかれた時は自分が詐欺師にでもなったかのような気分だった。後味の悪い破局を迎えたため、啓介はできる限り彼女と顔を合わせるのを避けてきた。 そんな啓介の気持ちを知ってか知らずか、偶然を装ったかのように凛がにこやかに近づいてきた。
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