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中道 舞夜
中道 舞夜
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Novels by 中道 舞夜

離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー

離婚翌日、消えた10億円と双子妊娠を告げぬ妻ーエリート御曹司社長の後悔ー

離婚を切り出した翌日、慰謝料10億円の書類にサインをし妻は消えた。失踪後、双子の妊娠、父親は別人説、謎の海外送金疑惑が発覚。妻が今まであんなに尽くしてくれたのは嘘だったのか?もう一度、結婚していた頃に戻りたい御曹司社長の後悔
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Chapter: 209.瑛斗の策略、会長への依頼
瑛斗side「事件というのは何事だね?君から電話を掛けてくるくらいだから、よっぽどのことなんだろう?」電話口の華の父、神宮寺会長は「事件」という言葉に反応し、穏やかな口調から一転して声を沈めていた。「はい。実は、玲さんに話を聞こうとしたところ、秘書と一緒に逃げました。警察の調べでは、事前に用意されていた盗難車に乗ってプロの運転手による逃走です」「何だって?」会長の声には、驚愕と裏切りに対する怒りが混じっていた。「今は、警察も含めて玲さんの行方を追っています。それで、華さんの子どもたちから私のところに、華さんに身体の悪いところが見つかって三上先生が治すために急に家に帰らなくなったと連絡が入りました」「華が?華は、大丈夫なのか?」会長は、声を震わせながら、早口で俺に尋ねてきた。「子どもたちからは、それ以上は聞けませんでした。この件について、三上先生から連絡はありましたでしょうか?」
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 208.真の目的と揺らぎ②
華side「華が、高校生の頃から瑛斗に気が合ったのも知っている。だけど、あの男は君じゃなくて、よりにもよって玲さんを選んだ。本質が見えていないあの男のどこがいいんだと思ったよ。でも、結婚する時の幸せそうな顔を見て諦めたつもりだったんだ」三上は、そこまで言うと拳を爪が食い込みそうなくらい力強く握りしめて俯くと、小さく全身を震わせた。「それが、玲さんが帰ってきた途端、離婚をつきつけるなんてどうかしている。あの男は華にふさわしくない。華は僕と一緒になるべきで、あの男と関わることは不幸になる。そう思ったんだ」顔を上げた三上は、私を見ながら壊れたように笑い出し、しばらくすると今度は大粒の涙を流している。彼の瞳からは、復讐の憎しみと、私への切望が混じり合った複雑な感情が溢れ出していた。「僕は、最初は神宮寺家が憎かった。だけどね、華、君といるうちに、君や子どもたちと過ごすうちに、本当に華のことが好きになってしまったんだ。子どもたちと一緒にいると、幼少期の家族で過ごした思い出が蘇って温かい気持ちになった。君たちのことがとても大切なんだ」突然、怒りだしたかと思えば、嗚咽交じりに号泣し、三上の情緒は乱れて正常な状態とはとても言えない。いつ、何がきっかけで感情の糸が切れるか分からず、私はただ黙ってその場を見守り、三上の感情がおさまるのを、静かに待った。「君や子どもたちが本当に可愛くて、愛おしくて、ずっと側にいたい、このまま家族になったらどんなに幸せなんだろうと思ったよ」
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 207.真の目的と揺らぎ①
華side「ああ、そうだね。生活を支えてくれたとはいえ、父を失った傷は癒えない。事故の犠牲になったのに隠蔽されて、父は世間からひっそりといなくなったんだ。簡単に許すことは出来ないよ」三上の瞳には、神宮寺家に対する根深い憎悪が宿っていた。彼の口から語られた話は、私に新たな衝撃を与え続けていた。三上のことを酷く憎んでいたが、もしこの話が本当だったら……。私にしたことを許すことは到底出来ないが、心の底から恨むことも出来なかった。彼の狂気は、神宮寺家という闇が生み出した悲劇の産物だったのかもしれない。「君の父上も、事故の件があって負い目があるのか、僕にはあまり強く言えないところがあってね。遠慮がちなところもあったんだけど、それが余計に、当時のことを思い出させて憎かった。家族を失った僕たちを単なる援助としてではなく、家族として向かい入れて欲しかった。最初、華に近づいた目的はそのためさ。」専属医として神宮寺家に入り、そこからずっと優しく見守ってくれていた三上。私の妊娠が分かってから、いつも側で寄り添い助けてくれていたが、それらの行動すべてに裏があってのことだったという事実に、私は衝撃と寂しさで胸が押しつぶされそうだった。「そう、だったのね。私を助けてくれたのも、側にいてくれたのも、神宮寺家の娘だったから?利用できると思ったの?」私は涙を目にいっぱい溜め、声を震わせながら三
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: 206.父の事故の真相②
華side「……まさか、トラックは命を狙ってわざと事故をおこしたというの?」三上は、冷酷な笑みを浮かべた。その瞳は、神宮寺家に対する根深い憎悪を宿していた。「そうだ。そして命を狙われていたのは僕の父じゃない。華、君のお母さんだ。」「私のお母さん……?でも、父は、母は私が幼い頃に病気で亡くなったって」「その方が都合が良かったからそう説明したのだろう。君のお母さんも、君と同じように過去に命を狙われたんだ。そして犠牲になった。」これまで信じて疑わなかったことが、音を立てて崩れていく。母は、私が幼い頃に闘病の末亡くなったと聞いている。小さかった私は、それ以上聞いておらず、詳しい病名も知らなかった。「事故があった日、君のお母さんの隣に父は座っていた。そして、トラックが後部座席にぶつかって二人は命を落としたんだ。その時の運転手は、花村さんだよ。花村さんは運転席にいたから奇跡的に助かったんだ。」「花村が―――――?」花村は、物心ついた時から私専属の運転手をしてくれている。いつも、実の娘に向けるような温かい眼差しで見守ってくれ、玲に居場所が見つかり長野の別荘に移る時も、七年ぶりに父と再会した時の運転手も花村だった。
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: 205.父の事故の真相①
華side「どんな場所で、どんな風にぶつかって、誰が犠牲になったかは?君は、神宮寺家の人間でありながら、そんなことも知らないのか」「私は、あなたと付き合うまで事故のことは知らなかった。あなたがお父様のことをあまり話したがらないから、この前、父が別荘に来た時に聞いたの。」父が話していた言葉と、あの時の表情を思い出しながらゆっくりと口にする。「父は、トラックが衝突してあなたのお父様が犠牲になった、と言っていたわ。だからてっきり信号無視や荒い運転をしていたトラックが、あなたのお父様の運転していた車とぶつかったのだと思っていたわ」「……都合の悪い話は、最初からなかったことにするってことか」三上は冷たい目で私を見下ろしながら、さらに衝撃的な事実を告げた。「いいかい、まず父は車の運転をしていない。それどころか父は免許すら持っていなかったんだよ」「……どういうこと?免許を持っていなかったって、それなら誰が運転していたというの?」状況が飲み込めない私は、必死で言葉を紡いで三上に投げかけた。この真実から目を背けることはできなかった。「華は
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: 204.三上のトラウマと闇②
華side「最初は小さい頃にお父様を事故で亡くされた影響から心配症なのだと思っていたけれど、もう信頼なんて一気になくなったわ」「父親」という言葉を聞いた三上は、瑛斗のことを話している時くらいに身体をブルッと大きく反応させて、目を見開いてこちらを凝視してきた。「なんで父のことを……華、君はどこまで知っているんだ。言え、言うんだ!!」目は血走り、呼吸は荒く、まるで獣のように喉をしめられそうなくらいの勢いで私に襲いかかるように問い詰めてくる。私は、恐怖で身体を震わせながらも、三上が今まで見せたことのない心の闇に光を当てたような気がしていた。三上の行動の根源や狂気の原因を知る機会かもしれない。「痛い、こんな状況では話せないわ……護さん、やめて」その声に、三上は我に返ったように私の肩を握る力を弱めた。彼の目から獣のような光が少しずつ消えていった。「護さんが小学生の頃、お父様が交通事故に遭って亡くなったと私は聞いたわ。どこまで、ってどういうこと?まだ他に私が知らないことがあると言うの?」「他にも?華、それだけでは知らないも同然だよ。華は、何も知らず、疑いもせずに生きてきたんだね」三上は小さく鼻で笑ってこちらを憐れむような目で
Last Updated: 2025-09-26
愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~

愛されなかった武士の娘が寵愛の国へ転身~王子たちの溺愛が止まらない~

政略結婚したが夫から全く愛されなかった私が神話の〇〇として寵愛の国に転生? 「夫の成功のために尽くすのが女の幸せ」そう教育されてきたのに、夫には想い人がいて迷惑がられる日々。途方に暮れていると滝の激流に吸い込まれタイムスリップ。行きついた先は、なんと女性に尽くす『寵愛の国』 私が溺愛!?戸惑う姿が謙虚でかわいいと王子たちの溺愛合戦勃発! そして、葵の転生は神話にぴったり。やがて自分の役割を自覚する。『尽くす』行為の行きつく先は?国を動かす壮大な恋愛ファンタジー。
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Chapter: 175.アンナ王女の決意
アンナ王女sideバギーニャ王国に三度目の訪問をした私を、ルシアン様が出迎えてくれた。彼の顔には、この前よりも明るさを取り戻していたが、その瞳の奥には、わずかな影が残っているように見えた。「ルシアン様、庭園の花を見たいのですがご案内していただけますか?」「もちろんです。さっそく行きましょう。」ルシアン様が差し伸べてくれた手に、そっと自分の手を置く。ルシアン様の温かさが伝わってくると、それだけで興奮と恥ずかしさで心臓がバクバクと音を立てて騒がしかった。咲き誇る花々が私の高鳴る心を映しているかのようだ。「アンナ王女、この度は私との縁談を受けていただきありがとうございます。本来なら私が訪問すべきところを、ご足労いただき感謝します。」その言葉はしっかりしているが、どこかよそよそしく他人行儀だ。丁寧すぎる言葉遣いが、私との間に壁を作ろうとしているように感じられた。「ルシアン様。これからは夫婦になるのですから、そのような言葉遣いはやめてください。今後、私のことはアンナとお呼びくださいませ。あと一つ気になっていることがあって伺ってもいいでしょうか。「はい、なんなりと。アンナ王女。」私は、気持ちを落ち着かせようと小さく深呼吸をした。
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 174.歓喜の舞と秘密の会話
アンナ王女side「え、え、えーーーー!?それは本当なのゼフィリアーヌ!?」私は、国王の側近であるゼフィリアーヌからの報告に、驚きと興奮で彼の襟元を掴み、揺さぶりながら尋ねた。心臓は、まるで身体から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。「アンナ王女、く、苦しいです。本当ですのでまずは手を離して頂けますか。」「あっ、ごめんなさい。」体格が逆だったら、脅しにしか見えないぐらいの勢いで詰め寄ったので、ゼフィリアーヌは喉を押さえながら必死に答えた。(ルシアン様から私に縁談の話?そんなの、どうするか聞かれなくても答えは決まっている!『YES』の一択しかない!!!)私の頭の中は、ルシアン様の言葉と笑顔でいっぱいになった。ダッダッダッダッ――――バタンッ!「お父様、私をバギーニャ王国へ行かせてください!!!」興奮していた私は、またしても、国王である父の部屋にノックもせず勢いよく入ってしまった。
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: 173.ルシアンの覚悟、それぞれの想い②
葵side「ルシアン、待って、待ってっ!!!!!」私は、息を切らしながら必死にルシアンの名を叫び、ドレスを引きずりながら懸命に走った。その姿を見て、ルシアンは優しく微笑んでその場に立ち止まる。「第一王子に寵愛されている姫が、そんな息も乱して必死に追いかけてくれるなんて光栄だな。」ルシアンの言葉はいつも通りだったが、その瞳の奥には私への気遣いが感じられる。「ルシアン―――。私もやっぱりルシアンに行ってほしくない。ルシアンの言うことは分かるけれど、それでもルシアンはここにいて欲しい。」私の声は震えていた。彼を失うかもしれないという恐怖が、私の心を締め付けていた。「葵、葵は前に言ったでしょ?『この国に来て、全く違う価値観に触れられたことに感謝していて、今とても幸せだ』って。だから僕も新しい場所で、全く違う価値観に触れてみようと思うんだ。」「でも……。」それ以上、言葉が続かなかった。彼の瞳に宿る、強い意志の光に、反論の余地がないように感じられたからだ。「それにね、葵は前の旦那さんの愛がなかったと言っていたけれど、アンナ王女は僕のことを心から応援してくれてい
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: 172.ルシアンの覚悟、それぞれの想い①
サラリオside「ルシアン……!」「僕も話そうと思っていたんだけれど、葵に先を越されちゃったね。葵、つらい思いをさせてごめんね。」ルシアンはそう言って葵に優しく微笑みかけた。葵は、状況が理解できず、ただ呆然と立ち尽くしている。私は再び嫌な予感が頭をよぎった。ルシアンの穏やかな笑顔の裏に何か大きな決意が隠されているように感じた。「兄さん、ゼフィリア王国には僕が行くよ。」その言葉は、雷鳴のように私の耳に響いた。「ルシアン!!!」葵の身代わりとして、弟が行くなど到底許せることではなかった。「みんなには言っていなかったけれど、アンナ王女が言ったことはもう一つあったよね。ゼフィリア王国には後継者となる男性がいない。それなら、僕が後継者としてゼフィリア王国に行く。」ルシアンの言葉は、冷静かつ論理的だった。しかし、私は冷静には到底なれなかった。「駄目だ。そんな、葵の代わりにお前がなんて……誰も行かせはしない!」「兄さん、僕がゼフィリア王国に行
Last Updated: 2025-09-25
Chapter: 171.葵、涙の決意
サラリオside「葵?どうしたんだ。そんな深刻な顔をして。」執務室に現れた葵の表情を見て、私の胸に嫌な予感がよぎった。何事もないかのように振る舞い、笑顔を向けても葵の顔は強張ったままだった。彼女の視線は、揺るぎない決意を秘めて私を真っ直ぐに見つめていた。「サラリオ様、大切なお話があります。」その言葉に、私の心臓がドクンと大きく鳴り響く。「……なんだろうか。」「私、ゼフィリア王国に行きたいと思います。」その言葉は、私の耳には信じられないほど遠く、しかしはっきりと響いた。私は反射的に叫んでいた。「待て、駄目だ。まだ期限まで日にちはある。対策を考えよう。」「でも……何度話し合いを重ねてもいい策は出ませんでした。そして、すぐには出ないことをサラリオ様もお感じになっているのではないでしょうか?これ以上、みなさんを悩ませるのは大変心苦しいのです。」周りのことを優先し、気持ちを尊重する葵の事だ。いつか、いつの日か葵が、自らゼフィリア王国へ行くと言いだす日が来るのではないかと危惧していた。
Last Updated: 2025-09-24
Chapter: 170.迫る期限と、決意の訪問
サラリオside執務室に夕焼けの光が差し込み、私の頬を赤く照らす。カーテンを閉めるために窓に近づくと、その先に、この国に葵が初めて訪れた時に通ったあの泉が目に入った。葵がこの国に訪れてから、一年半が経とうとしている。葵を父のいる王宮から連れ戻した日、国王たちが裏で葵の引き渡しの取引をしていたことを知った。私は激怒し、ゼフィリア王国の国王になんとか考え直してほしいと懇願をして、対策を練るために一年の猶予をもらった。女神を正しく導くことが出来ると証明するために、一年で何かしらの成果を上げると熱意に燃えていた。翌月から、葵とキリアンで侍女や執事を対象にした薬学講座を開いて、まずは貴族たちの間で薬学の普及させることに努めた。私とルシアンはゼフィリア王国に行き、国王が求める代替案を探りに行ったが、国王の口から聞くことが出来ず、大した収穫はなかった。薬学の普及を重点的に行うよう方針を変えたが、半年経ってから貴族たちに受け入れられていないと報告を受けた。何度も協議を繰り返したが、新しい対策は見つからず、約束の期限まであと二か月に迫り、私たちの顔には焦りと狼狽が見え隠れするようになった。皆、口には出さないが、諦めの気持ちが芽生え始めていた。「一体、どうすればいいんだ――――――。」私は、自問自答を繰り返していた。この国の未来、そして何よりも愛する葵の未来が、私にかかっている。自分の無力さと国を動かすことの大変さを痛感していた。コンッコンッ―――その時、静かにドアをノックする音が響いた。「はい、どうぞ。」「失礼します。」そんな私の焦りを感じ取ったのか、ある人物が部屋を訪れた。少し緊張した面持ちで手をギュッと握っている。しかし、その瞳は決意を固めたような強い光を宿し、私を真っ直ぐに見ていた。
Last Updated: 2025-09-23
誰が悪女だから幸せになれないって?〜契約結婚でスパダリを溺愛してみせる〜

誰が悪女だから幸せになれないって?〜契約結婚でスパダリを溺愛してみせる〜

誰が契約結婚だって?【番外編】悪女・凛は啓介への未練を打ち切り、年収条件ありのプレミアム合コンで男探しをする日々。そんな時に出会った蓮見律は、大手商社の創業者の家系に育ち次期社長候補。見た目・スペック・将来性ともに理想通り!出会ってすぐにプロポーズされ有頂天の凜。しかし、「勘違いしないでください。結婚と言っても契約結婚です」「……え?」 元彼の契約結婚を疑っていた私がまさか契約結婚するなんて 一度は断るも仕事と家を失いそうになり、愛のない結婚生活を選択。冷酷な蓮見との生活に耐えかねた凛は、契約期間内に溺愛させて見せると誓う。果たしてスパダリと幸せな愛のある結婚生活は送れるのか?
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Chapter: 28.夢で逢えたら
「わぁ、その本、知ってる!続きが今度、発売されるみたいで気になっているんだ!」夢の中で、中学の制服を着た当時の私が、誰かに向かって話しかけていた。(あれ、この会話、話した覚えがある―――。たしか中学の時……)あと少しで思い出せる、そう思った時、視界が急に明るくなり私は目が覚めて、ゆっくりと瞼を開けた。「なんで、こんな夢を見たんだろう?」中学の時の思い出なんて他にもいっぱいある。初めて彼氏ができたのも中学一年生の時だし、一緒に帰り道を歩いたり、夏祭りで花火を見たりした。それなのに、なぜこのシーンが夢に出てきたのだろうか。布団の中でぼんやりと考えていたが、夢の中で見た『その本』が、昨日、律の部屋にあったものだと分かり、途端に気分が悪くなった。「そうだ、私、あの本二巻までは読んだんだ。三巻も楽しみにしていたのに、発売が遅れることになって、熱が冷めて読まなくなったんだった。あーでも、夢で律を連想させるって、なんか……すごく、嫌な感じ。」私は急に目が冴えて、豪快に布団をめくってから洗面所に向かい、顔に冷たい水を何度もかけた。蛇口から流れ出る水の音に紛れて、Yシャツ姿の律と、律の胸に顔を寄せて微笑む女性の姿が浮かんでくる。「
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 27.部屋とYシャツと消えない口紅②
律の部屋を覗いたのは、ほんの少しの出来心だった。いや、正直に言えば、この前、私の部屋に入ってくるなり、他の男性を連れ込んだと疑われて部屋中を探し回られた挙句、勘違いだと分かっても謝罪もせずに帰ったことへの苛立ちがまだ残っていた。書斎や寝室は、ハウスキーパーに頼んでいるだけあってモデルルームのように綺麗だ。たくさんの書籍が陳列している本棚も、ほこり一つなくジャンル別に綺麗に整頓され、清潔感に溢れている。(うわー難しそうな本。どこの国の本よ)本棚には、経営やマーケティングのビジネス書や洋書まで様々なジャンルの本が並んでいる。「あ、これ懐かしい」難しそうな本の中に、一冊だけ子どもの頃に流行った海外の書籍が置かれていた。世界中で大ヒットしたその本は、何カ国語にも翻訳されシリーズで映画化され、私でも知っている。(なんだ、可愛いところもあるじゃない)私はクスリと小さく笑い、書斎を後にした。そのまま帰ろうと玄関へ向かっている時だった。洗面所の棚に無造作に置かれた白いYシャツが目に留まる。部屋中が綺麗に整頓されている中で、くしゃくしゃに丸められたシャツはとても目立ち、クリーニング前だということがすぐに分かった。
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 26.部屋とYシャツと消えない口紅①
隼人とラウンジでお茶をした日の夕方、家に戻ると隣の部屋の玄関から律が出てきた。「あ、律さん。お帰りなさい。どうしたの、こんな時間に?」「着替えと、接待でもらった手土産が生ものだったから置きに来た。お前こそ、どこに行っていたんだ」「だから凛!どこでも良いでしょ」「そうだな、俺には関係ないことだ」興味がないかのようにすぐ突き放す言葉をかけてくる律に、私の心はまた冷えていく。しかし、自嘲するように笑う律の顔が、なぜか寂しげに見えて思わず声を掛けた。「そうよ。……気を付けて行ってきてね」律は一瞬、驚いた顔をしてから小さく微笑んだ。その表情がいつもとは違う柔らかなもので、その変化に心臓が小さく高鳴るのを感じた。「凛、魚は好きか?帆立やサーモンを貰った。冷凍庫にあるから食べるようなら持っていくといい」律が初めて私を「凛」と名前で呼んだ。たったそれだけのことなのに……初恋でもあるまいし、こんなことで反応するなんてどうかしている。だけど、確かに私の心は弾んでいた。「好きよ。律さんは食べれるの?」
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: 25.孤独を埋める隼人との時間②
「職場がきっかけでして。結婚前、私はT製薬会社で秘書をやっていたのですが、その時に律さんと知り合いました」この前の叔母のパーティーの時は途中で帰らされて言う機会がなかったが、律と話を合わせておいた答えを滑らかに口にした。まさか、出会いが合コンだなんて言えるわけがない。「そうなんだ。凛さんは前職は秘書だったんだね。美人秘書がいて、凛さんが担当していた役員の方は幸せだっただろうな」「いや、それほどでも……」久々に褒められる感じがくすぐったくも心地がいい。若干言い慣れている感じがしなくもないけれど、愛くるしい子犬のような隼人に言われると嫌な気はしなかった。「お待たせしました―――」ウエイターが紅茶と一緒にティーセットを持ってきた。三段のスタンドには、一口サイズのものが何種類も綺麗に盛り付けられている。「わ、可愛い。あの、写真を撮ってもいいですか?」「もちろん。盛り付けも素敵だよね。思う存分撮ってね」写真を撮っている間、隼人はコーヒーカップを右手で持って飲みながら、私を優しく見守っていた。ティースタンドの奥には、隼人の腕と時計がさりげなく映りこんでいる。「
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: 24.孤独を埋める隼人との時間①
この日、私はホテルのラウンジでティータイムを楽しもうと一人で出かけていた。ハイクラスホテルで普段はランチでも五千円以上するが、平日の午後二時から限定メニューでスイーツセットが千五百円と手ごろに楽しめると、SNSで話題になっている。平日のティータイムに頻繁に行ける人はなかなかいないため、投稿できること自体が一つのステータスだった。ホテルのエントランスに入ると、高い天井に煌びやかに光るシャンデリアに心が癒され、私の心もキラキラと輝いていた。ラウンジを探して歩いていると、エスカレーターから降りて来た人にすれ違いざまに声を掛けられた。「凛さん?」声を掛けてきたのは、律の叔母の還暦パーティーで会った隼人だった。仕事なのか、この前会った時とは違い、髪型もきっちりとセットされている。「隼人さん?お久しぶりです」「久しぶりだね。今日はどうしたの?」「あ、このホテルのラウンジに興味があって……」「ああ、人気だよね。僕も行こうと思っていたんだけど、良かったらこのあと一緒にどう?」「え、でも隼人さん仕事なんじゃ……」「ああ、今日は経営者が集ま
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: 23.誤解とすれ違いのディナー②
「呼ばれたから来てやった」時刻はもうすぐ二十二時になろうとしている。夕食を一緒に食べようと誘ったのは私だけれど、行くかどうかもハッキリと答えず、この時間まで連絡なしで訪問して来るのは、非常識ではないか?「……どうぞ。」律の態度に少し腹が立ったが、私は作り笑顔で部屋に招き入れた。スープや前菜は多めに作ってあるし、メインはまだ食べていない。―――完璧だ。しかし、キッチンのシンクに置かれた二人分の皿を見て、律の表情は一変し声を荒げはじめた。「人を呼んでおきながら、ほかの人と食事をしていたというのか?男はどこにいる?」「え?何言っているの?誰もいないわよ」「なら何で二人分の皿があるんだ」「それは……」SNSのことを言おうか、迷っているうちに律の表情はどんどん険しくなっていく。「皿もまだ料理の途中じゃないか。どこに隠れているんだ?」「だから、誰もいないって。信じられないなら探せばいいじゃない」
Last Updated: 2025-09-26
誰が契約結婚だって?ハイスぺCEOは私しか見ていない

誰が契約結婚だって?ハイスぺCEOは私しか見ていない

バリキャリ佳奈と独身主義者でCEOの啓介は 共に結婚願望がないことで盛り上がり交際に発展。しかし、突然佳奈からプロポーズを受ける。 「私たち最高の夫婦になると思うの、結婚しよう」突然の告白に驚く啓介。 しかも、ただの結婚ではなく『自由を手に入れるための結婚』独身のような生活は維持しつつ、結婚することで得られるメリットを享受しようとする2人。合理的な選択のはずが啓介を狙う元カノや跡取りが欲しい両親、佳奈を狙う同僚が迫ってきて新婚早々二人の生活に波乱が襲う!
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Chapter: 260.誘いに乗る理由
佳奈side「あのさ……坂本ちゃん、この前はごめん!俺、酔っぱらったみたいで。変なことしていない?」あの夜から数日後、用事があり葉山に電話をすると、電話の最後に少しためらいながら葉山が謝ってきた。彼の声は、必死で後悔しているように聞こえた。「いえ……。肩を組んでキスしようとしてきただけです。」「それ、問題じゃん!何、『いえ……。』とか言っているの。ごめん、本当にごめん。何かお詫びさせて。」「お詫びは結構です。」「え、待って。それって会社に訴えるとかそういう感じで言ってる?ごめん、本当にごめん。どうしたらいいかな?」私のそっけない返事に葉山は焦りを隠せないようだった。「大丈夫です。訴えるとかそんなことは考えていません。でも、そうですね……それなら、今度の打ち合わせ後に少しお話を聞いてもらいたいことがあるのですが。仕事以外の話なので、出来れば社外がいいです。」「分かった。俺の事務所来る?と、言っても事務所兼自宅だけど。」葉山は独身。この前のこともあるし、仕事場とは言え、
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 259.誤解の清算と新たな波紋
啓介side佳奈が突然オフィスに訪れたかと思ったら、「距離を置こう」と言って、俺の話もろくに聞かずに去って行った。ミーティングルームの扉が閉まっても、その場から動けなかった。最近は、俺が親密そうに女性と過ごす写真が佳奈の元へ送られてきているようで、そのことに疲弊したらしい。(なんだ、あの写真は。悪戯にしては度が過ぎる。それに俺は、怪しまれることは一切していないというのに)俺の横顔や笑っている顔ははっきりと映っているのに、女性の顔はいつも分からない角度で撮られている。しかし、髪型や体型から同一人物にも見え、そして、その女性はどことなく後姿が秘書の美山に似ていた。その事実に、俺の胸には鉛のような重い疑念が横たわっていた。ぼんやりとしていると、疑惑の人物である美山がノックもなしに俺の元へ訪れてきた。「社長、今大丈夫ですか?なんだか少し疲れた顔をされていますが。」「大丈夫だ。なにかあったか?」「いえ、社長のことが心配になりまして」美山は距離こそは近いものの、仕事はしっかりと行っている。美山に似ているからと言って、何の証拠もないまま勝手に決めつけるのは問題だと思い、俺はそれ以上踏み込めずにいた。だが、今の意味深な発言と、このままでは佳奈との関係が修復できないことを感じ、誤解の種
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 258.一方的な別れ
佳奈side「こう何枚も女性との写真を見ると、気分が滅入るわ……もう嫌だ。」匿名者からのメールが届くたびに、啓介の「嘘だ」という言葉を信じたい気持ちと、写真が語る現実との間で私は完全に疲弊していた。思い立った私は、啓介に「話がある」と電話をし、彼のオフィスを訪ねた。秘書の美山に案内されガラス張りのミーティングルームへ通される。「お仕事中ごめんなさい。私たち、距離をおきましょう。」入ってすぐに、私はそう告げた。喉の奥がカラカラに乾き、声が震える。啓介は驚愕の表情で立ち上がり私の元へ駆け寄ってきた。「佳奈、待ってくれ!何度も言ったけど、あれは全部でたらめで嘘だ。誰かの悪意によるものなんだ!」「でも、こんなに続いていて、おかしいと思わない?私には、もう調べる気力もないし、頻繁に写真を見るのはもう嫌なの。疲れてしまったわ。」私は、啓介の手を払い、一歩後ずさりした。「ちょっと考え直してくれ。おかしいと思う。だからこそ、話し合おう!」引き留める啓介には目もくれず、私はチラリとガラス張りになっているミーティングルームからオフィスの様子を見た。防音でこちらの会話は
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 257.親密な写真と匿名のメール
佳奈side「え……何これ?」会社宛てのメールに、匿名のフリーアドレスから、一枚の写真が添付されて送られてきた。夜の繁華街を少し抜けた薄暗い道で一組の男女が並んで歩いている写真だった。男性は、間違いなく啓介だ。そして、女性の顔は分からないが、胸辺りの長さの緩く巻いた髪の女性は、この前啓介の隣にいた美山に似ている気がした。最も心を乱したのは、その場所だった。この先は、ラブホテルが立ち並ぶことで知られているエリアで、女性が啓介の肩に頭をもたれて甘えているように見える仕草は、これからこの先にある『休憩所』に立ち入ろうとするのではないかという、親密な雰囲気を漂わせていた。「なんでこんな写真を、一体だれが送ってきたというの?」動揺を隠せないまま、私はすぐにスマホで写真を撮り、啓介に送りつけると、ものの数十秒で電話がかかってきた。「今の何?この写真はなんだ!」啓介の声は明らかに動揺していた。「私が知りたいくらいよ。フリーアドレスから送られてきたの。女性は分からないけれど、男性はあなたよね?」「……俺に似ている、だけどこんなことはしていないし身に覚えがない。誰かが悪戯で作ったフェイク画像だ
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 256.こじれる関係③
啓介side佳奈は目を合わせるヒマもなく俺にキスをしてきた。キンキンに冷えたビールを飲んだ佳奈の口から、アルコールの匂いとビールの冷たさがほのかに伝わってくる。唇を重ねたまま、佳奈は両手で俺の頬を包み込み、さらに深いキスをしながら俺を押し倒してきた。「ん…んっ……、佳奈、」佳奈は俺の膝に跨り、唇を離そうとしない。驚きと戸惑いが入り混じりつつも、俺の手も自然と佳奈の背中を包み込んでいた。「啓介……、さっきは意地悪を言ってごめんなさい。本当は疑っていないし、啓介の事を信じている。でも、あんな姿を見るのはやっぱり嫌だった。」吐息交じりに謝ってくる佳奈を見て、今度は自分が素直になる番だと思った。佳奈の前髪が顔にかからないようにかき分けながら、正直な気持ちを伝えた。「佳奈が仕事を頑張りたいのも、取引先の人に指名されて力が入っているのも分かる。俺も嬉しかったし、応援したい。でも、あんな風に下心があるかもしれない相手に必死になっているんだとしたら嫌なんだ。佳奈を失いたくない。」「分かってる。私、打ち合わせで事足りると思っていたから、食事も兼ねた打ち合わせはいつも断っていたの。でも、最近焦っていたのと、指名してくれたのが嬉しくて。これからは、注意するね。」「ああ、俺も。美山には困って
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 255.こじれる関係②
啓介side「あーもう!なんでこんな変な空気になるのよ!こんな話をしたかったわけじゃないのに!」髪をぐしゃぐしゃに掻き乱しながら、佳奈が叫ぶように言ってきた。怒っているようにみえるが、その目は潤んでいる。「俺だってそうだ。疑いたくもないし、疑われるようなこともしていないのに、こんな言い争いをして、何なんだよ、まったく。」お互いが熱くなり、このままでは本心ではない言葉も投げつけてしまいそうになっていた。「ふぅー。今、これ以上話すのは無駄だわ。もうやめましょう。」勢いよく立ち上がり、佳奈はリビングから出て行き、リビングは、重い空気が残されていた。「もう最悪だ……。なんでこんなことになってしまったんだよ。」ソファに勢いよく浅めに座り、背中を後ろに倒す。天井をぼんやりと見つめながら、ネクタイを外す。美山がこのネクタイを直したことで、佳奈と悪い雰囲気になったのだ。ネクタイが憎くなり、外して床に力なく落とした。髪をかき上げて今夜の出来事を振り返っていた。(なんで美山はわざわざ紙で持ってきたんだ?普段、紙を印刷することなんてもうないと言うのに……。あれは、俺を待っていたのか?会うために敢えて来たのか?)
Last Updated: 2025-09-28
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