啓介の母親から「凛ちゃんみたいな子が嫁だったら良かったのに」と呟いた時、私の頭の中では歓喜の舞を踊っていた。
料理教室に通い、慣れないエプロンをつけて真剣な顔でまな板に向かう日々。啓介の好きなレシピを訊ね、それを再現するために試行錯誤を繰り返した時間。すべては、啓介の母親に気に入ってもらうためだった。息子想いの健気な女性を演じることなど、私にとっては簡単なことだった。
「啓介さんのことを支えたい、まだ好きなんです」
そう宣言した時、啓介の母親は驚きつつもパッと明るい表情をして私を見てきた。これまで息子の女性関係を全く知らなかったらしいが、思いを寄せてくれる女性がいたことが嬉しいと嘆いていた。理想の嫁を演じたことで高柳家という強固な城の中に私だけの居場所を築き上げる足がかりを得た。
そして「子どもは好き?」という問いに私は内心でガッツポーズをした。これは、次のステップへの招待状だ。この質問を上手く答えることで、より信頼と評価が上がる。
私は最高の笑顔で迷いなく答えた。
「小さい子って可愛いですよね。友人に子どもが産まれて写真見て癒されています」
実際は、特別子ども好きというわけではない。むしろ子育てにはほとんど興味がなかった。
私が望むのは、セレブ妻としての悠々自適な生活だ。平日は、夫が仕事に邁進している間にエステやネイル、美容院で自分を磨き、パーソ