この別荘があるなら、来月の結婚どころか、明日だって答えるつもりだった。
どうせ偽装結婚なのだから。
別荘はこんなに広いのだし、それぞれが独立した空間で生活すれば、干渉することもない。彼の存在を無視すればいいだけだ。
「いいよ」
別荘には三面に小さな庭があり、今はまだ芝生が敷かれているだけだった。
南側の庭からは、目の前に大きな川が広がっていた。
川風が顔を撫で、暑さを和らげるとともに、自然の涼しさと静けさが心地よかった。中心街の空気よりずっと清々しく感じられた。
高村は庭の隅を指さし、目を輝かせながら興奮気味に話し始めた。「ここにバラでも植えようかな。それからブドウ棚を作って、来年の夏には涼みながら花と川の景色を眺めて、鍋でもしながら過ごせたら最高じゃない?」
「いいね」晴人は微笑みながら答えた。「君が気に入るなら、好きなようにすればいいよ」
高村はちらりと晴人を見て笑った。「じゃあ、中を見に行こうか」
家に戻ると、高村は早速由佳にこの嬉しいニュースをシェアした。
由佳も晴人がここまで大盤振る舞いするとは思っていなかった。「どうやら、外で結構稼いでいたみたいね」
晴人が将来この家を取り返すかどうかは別として、少なくともその誠意には好感を抱かざるを得なかった。
「彼はすごく優秀なんだよ」高村は同調しながら、心の中でちょっと誇らしい気分になった。「高校の時はクラスの委員長で、成績も良かったし、クラスの管理も上手だった。後ろの席の問題児たちですら彼には従っていたんだから」
それじゃなければ、自分が晴人を好きになり、積極的に追いかけたりしなかっただろう。
「へえ」由佳は興味深そうに眉を上げた。
高村が彼女を見ると、由佳は意味ありげに微笑みながら自分を見つめていたのに気づいた。高村の耳は赤くなり、「ただの雑談だから」とそっけなく答えた。
由佳はからかうように言った。「高村、晴人に別荘一軒で手玉に取られたの?」
「お金が嫌いな人なんていないでしょ?」
高村は胸を張って答えた。「しかも、これ、小金じゃないのよ!」
「一度弁護士に相談してみたら?この状況だと、晴人がこの家を将来訴訟で取り戻せる可能性があるかもしれないし。客観的に言うと、もし取り戻せないなら、彼は本当に誠意を見せたってことになるよね」
非常に誠意があるとは言い切れなかったが、