伸は数秒間、頭が真っ白になった。
どうやって大広間に入ったのか、自分でも分からなかった。
ただ、結婚式場に辿り着いた時、雷に打たれたような衝撃を受け、目の前の光景に完全に思考を奪われた。
巨大なスクリーンに次々と映し出されていたのは。
彼と鹿乃の離婚協議書、
彼と深雪が撮った99枚のウェディングフォト、
そして彼が深雪の両親と食事をしている写真だった。
伸はその場でふらりと崩れ落ち、横にあった椅子に座り込んだ。
頭の中に浮かぶのは、ここ数日間の鹿乃とのやりとり。
今になってようやく気づく。
鹿乃は、おそらくずっと前から深雪の存在を知っていた。
さもなければ、昼に自分が家を出る時、あんな虚ろな目で見つめてくるはずがない。
あの「さようなら」も、今思えば本当の別れの言葉だったのだろう。
自分はずっと、バレていないと信じていた。
でも、自分と深雪の関係はただの肉体だけで、心までは奪われていない。
鹿乃は誤解してしまったんだ。
伸は再び秘書を見つめ、悲しみを含んだ声で問う。
「鹿乃はどこに行った?」
秘書は相変わらず首を振る。
「申し訳ありません、奥様から絶対に言うなと命じられています」
その時、入口から誰かが駆け込んできた。
純白のウェディングドレスを纏った深雪だった。
スクリーンに映し出されたウェディングフォトを見て、顔を輝かせる彼女に、昼間病院で見せたような弱々しさはまるで無かった。
「サプライズって、私との結婚式だったの?本当に嬉しい!」
深雪の興奮とは対照的に、伸の顔はどす黒く沈む。
「誰が呼んだんだ?今すぐ帰れ。詳しくは夜で話すから」
深雪は不満げに口を尖らせる。
その表情は傲慢で、自信に満ちていた。
ずっと伸と結婚することを夢見てきた。
「呼んだのは伸じゃないの?これは伸が私のために用意してくれた結婚式でしょう?花嫁として参加するのは当然じゃない」
「でも伸、新川ともう離婚していたなら、どうして教えてくれなかったの?驚かせようとしたの?」
「そうだ、式はいつ始まるの?私の両親も呼んでくれてる?他にもサプライズがあるの?」
深雪の矢継ぎ早な質問に、伸は頭痛を覚える。
追い返そうとした瞬間、どっと大勢の招待客たちが押し寄せてきた。
彼らは大広間に入り、一様に驚いた顔で結婚式場の光景を見回した。