夜の6時半、伸はマハト・ホテルの入口で待っていた。
招待客は次々と到着し、ほとんどが彼と鹿乃の友人たちだった。
しかし、鹿乃の姿はどこにもなかった。
伸はスマホを取り出し、鹿乃に電話をかけた。
だが、受話器から流れてきたのは冷たい女性の音声。
「おかけになった電話は電源が入っておりません」
伸は眉を深くひそめ、不安な予感が胸の奥からじわじわと湧き上がってくる。
鹿乃......まさか怒って、今夜の誕生日パーティーに来ないつもりじゃないだろうな?
伸はスマホをぎゅっと握りしめ、午後の出来事を思い返した。
昼食中、深雪から出血したというメッセージが届き、鹿乃を置き去りにして病院に駆けつけた。
病院で医者は、深雪が感情の高ぶりで胎児が不安定になり、出血したのだと言い、妊婦の気持ちをもっと気遣うようにと忠告した。
今日は鹿乃の誕生日だった。
伸は本来、深雪を病院に入院させてから鹿乃のもとに戻るつもりだった。
だが病室で、深雪は頑なに伸にしがみついて離れなかった。
彼の手を自分のお腹に当て、甘えるように言った。
「赤ちゃんが父さんにここにいてほしいって......だから一緒にいてくれる?」
伸は表情をわずかに冷たくし、口ではきっぱりと拒んだ。
「ダメだ。今日は鹿乃の誕生日だ。彼女と過ごさないと」
しかし立ち上がろうとした矢先、深雪はベッドの上で横向きに丸まって「お腹が痛い......痛い......」と声を上げ始めた。
結局、伸は心が折れて折れ、午後いっぱいを深雪と一緒に過ごした。
パーティーが始まる直前、伸はやっと深雪をなだめて「夜にサプライズを用意する」と約束し、ようやくホテルに向かった。
だがマハト・ホテルに着いた時、鹿乃に連絡がつかないことに気づいた。
「鹿乃......なんで電源を切ってるんだ......?」
伸は焦燥感に駆られ、何度も電話をかけたが、全て電源が切れているとのメッセージ。
その時、秘書が横で長いこと待っていた。
時間を確認しながら、「再婚祝い」と書かれたギフトボックスを抱えて伸の前に歩み寄ってきた。
「奥様が今夜小笹社長に2つのサプライズを用意されています。今開けますか?」
伸は慌ててギフトボックスを受け取った。
開けようとした瞬間、箱の上に書かれている『再婚祝い』という四文字に気づく。
顔色