「お久しぶりです」杏惟は礼儀正しく応じ、内心の驚きを懸命に隠した。
高校時代の清隆は、クールな学園のスターで、言葉少なだった。まさか数年後に再会し、直属の上司になっているとは思いもしなかった。
清隆の視線が杏惟の薬指に落ちた。そこは何もつけられていなかった。彼は何気ないふりをして尋ねた。「結婚の話は......？」
杏惟は心臓が締め付けられるような思いがして、思わず説明した。「神崎社長、ご安心ください。プライベートなことが仕事に影響することは絶対にありません。それに、私は今、独身です」
清隆の口元に、気づかれにくい笑顔が描かれた。「それは良かった。それなら、僕にもチャンスがあるということかな？」
杏惟は彼が冗談を言っているのだと思い、乾いた笑いを二度漏らした。「神崎社長、お上手ですね」
「冗談ではない」清隆の口調が突然真剣になり、深遠な眼差しが杏惟をしっかりと捉えた。「佐倉さん、君が好きだ。大好きだ」
杏惟は呆然とした。まさか清隆が突然告白してくるとは全く予想していなかった。
高校時代の清隆は、彼女の目には高嶺の花のように映り、遥か遠い存在だった。
今、会ったばかりなのに、まさか告白があるとは思いもしなかった。
「実は、高校時代から君が好きだったんだ」清隆の口調には、少しの無力感が混じっていた。「あの頃の僕は、家に海外留学の手配をされてしまって、どうしようもなかった。ただ、早く学業を終えて戻ってきて君を探そうとばかり考えていた。でも、結局一歩遅かった。戻ってきた時には、君はもう五十嵐さんと付き合った」
実はこの数年間、彼はずっと杏惟を気にかけていた。
彼女が幸せならそれでいいと思い、邪魔をしないようにしていた。
その後、杏惟が婚約すると聞き、彼は杏惟が幸せに結婚するのを見届けたら、もう諦めることができるだろうと思った。
清隆は続けた。「三ヶ月前、五十嵐さんが婚約披露宴で姿を消したことを知った時、彼がいかに当てにならないかを知った」
「佐倉さん、たとえ僕を選ばなくても、君は彼よりもっと良い男と出会える。彼は君にふさわしくない！」
その低い色っぽい声に気づかれにくい痛ましさを帯びていた。
このことを知った後、すぐにでも杏惟を探しに行こうと思ったが、驚かせてしまうのではないかと恐れた。
なぜなら、その時杏惟はまだ柾朗と別れておらず、柾朗
