「これより――御影誠士さんと樅山ひよりさんの結婚を正式に宣言いたします!」
司会の声が響き、誠士が私を腕の中に抱き寄せて、そっと唇を重ねた。
目の前が、祝福の拍手と笑顔で溢れる。
皆が口を揃えて言う。
私は御影家の若様が、手を尽くして手に入れた奥さんだって。
そのとき――
「俺は認めない!」
バンッと扉が開き、颯真が真っ赤な目で飛び込んできた。
わずか一週間ぶりの姿なのに、伸び放題の髭、荒れた顔……
あんな彼は見たことがなかった。
「ひより……やっぱり、仏さまは俺の願いを聞いてくれたんだ。
迎えに来たよ」
私は眉をひそめて、無意識に誠士の背中に隠れた。
その仕草を見て、颯真の瞳に一瞬だけ走る苦しげな色。
「……怖いのか?」
小さく笑って、彼は自分に言い聞かせるように言葉を続けた。
「ひより、お前が俺たちの結婚を壊したのは、記憶を失ったせいだ。きっと誰かに操られてるだけなんだ。
俺が全部悪かった。あんな風に扱ったこと、謝る。でも、御影にだけは嫁がせない。あいつは俺と張り合うためにお前を利用してる。
お前が愛してるのは、俺だろ?一緒に帰ろう。ゆっくり記憶を取り戻せばいい」
そう言って、彼は私が捨てたはずの指輪を取り出し、手を伸ばしてきた。
「お前は俺の花嫁なんだ。お前が望んだ結婚式……俺が用意する、お前だけのために」
その場に連れてきたのは、数百人規模の私設警護。
圧に満ちた空気に、会場がざわめき出す。
誠士は私の手を強く握りしめた。
絶対に手放さないという決意が、その温度に伝わってくる。
そして次の瞬間、客席からもぞくぞくと立ち上がる男たちの姿が。
手には、武器――銃や警棒が握られていた。
この状況――誠士はすでに予期していたらしい。
手筈はすべて整っていて、あとは引き金ひとつで火花が散る寸前だった。
私は深呼吸して、沈黙を破る。
「私があんたを愛してるって?……その証拠は、どこにあるの?」
颯真はそっと胸元から、一冊の焦げ跡のあるお経を取り出した。
――かつて火事からかろうじて残ったものだ。
「お前はこれを、何千何万回も俺のために書いたんだ。それを愛じゃないなんて、俺には信じられない」
彼の手からそれを受け取り、私は無言で床に置いた