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Home / 恋愛 / 愛を待つ蓮台、涙を捨てた日 / 第13話

第13話

Author: こがね鍋
銃口は、颯真自身の胸元へと向けられていた。

「ひより、お前が今こんな風なのは、記憶を失ってるからだ。だから責めたりしない。

でも――少なくとも、俺が『颯真兄さん』だってことは覚えてるだろ?

お前が戻らないって言うなら……今ここで、俺は死ぬ」

彼は、私がまだ「少しだけ」記憶を持っていることを見抜いていた。

――でも、彼は知らない。

その欠片の記憶こそが、私を正気に戻してくれたのだと。

記憶を失った私に、彼がかけた言葉も行動も――

ひとつとして優しさがなかった。

だから、たとえ何かを思い出したとしても、私の心はもう彼に傾くことはなかった。

「……颯真、私ね。ずっと後悔してたことがあるの」

その言葉を聞いて、彼は必死に首を振った。

「そんなはずない……ひより、今のは怒ってるだけだよね?」

――願うように、縋るように。

けれど私は微笑んでいた。冷たく、穏やかに。

「私が人生で一番後悔してるのは……母があんたなんかのために、命を落としたこと」

その瞬間、彼の目から光が消えた。

「――ッ!」

乾いた銃声が、礼堂の天井を震わせた。

鮮血が弧を描きながら、絨毯を赤く染める。

けれど、弾丸は致命傷には至らなかった。

彼は、かろうじて生きていた。

――病院のベッドで目を覚ましたとき、彼の視界に私の姿はなかった。

痛みを抱えたまま、血の滲む胸を押さえながら、彼は私の家の門の前へ。

真冬の夜。雪は絶え間なく降り続き――

その白の中、彼はずっとひとり、跪いていた。

やがて、別荘の灯りが最後のひとつまで消えた。

でも、そこに私の姿が映ることはなかった。

雪は三日三晩、降り続いた。

――その三日間、私は誠士とふたり、誰にも邪魔されない静かな時間に溺れていた。

颯真は、ただ黙って――三日間、私の家の門の前で雪に打たれていた。

そして四日目。

空からようやく光が差し、雪が止んだその日。

私は誠士に連れられて、ひさびさの外出に出ようとしていた。

だけど――車の前に、ぼろぼろになった彼が立ち塞がった。

顔色は真っ白で、体は震え、まるで今にも崩れ落ちそうだった。

「ひより……帰ってきてくれないか?」

その声の奥にあったのは、これまで一度も見せたことのない深い情
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