銃口は、颯真自身の胸元へと向けられていた。
「ひより、お前が今こんな風なのは、記憶を失ってるからだ。だから責めたりしない。
でも――少なくとも、俺が『颯真兄さん』だってことは覚えてるだろ?
お前が戻らないって言うなら……今ここで、俺は死ぬ」
彼は、私がまだ「少しだけ」記憶を持っていることを見抜いていた。
――でも、彼は知らない。
その欠片の記憶こそが、私を正気に戻してくれたのだと。
記憶を失った私に、彼がかけた言葉も行動も――
ひとつとして優しさがなかった。
だから、たとえ何かを思い出したとしても、私の心はもう彼に傾くことはなかった。
「……颯真、私ね。ずっと後悔してたことがあるの」
その言葉を聞いて、彼は必死に首を振った。
「そんなはずない……ひより、今のは怒ってるだけだよね?」
――願うように、縋るように。
けれど私は微笑んでいた。冷たく、穏やかに。
「私が人生で一番後悔してるのは……母があんたなんかのために、命を落としたこと」
その瞬間、彼の目から光が消えた。
「――ッ!」
乾いた銃声が、礼堂の天井を震わせた。
鮮血が弧を描きながら、絨毯を赤く染める。
けれど、弾丸は致命傷には至らなかった。
彼は、かろうじて生きていた。
――病院のベッドで目を覚ましたとき、彼の視界に私の姿はなかった。
痛みを抱えたまま、血の滲む胸を押さえながら、彼は私の家の門の前へ。
真冬の夜。雪は絶え間なく降り続き――
その白の中、彼はずっとひとり、跪いていた。
やがて、別荘の灯りが最後のひとつまで消えた。
でも、そこに私の姿が映ることはなかった。
雪は三日三晩、降り続いた。
――その三日間、私は誠士とふたり、誰にも邪魔されない静かな時間に溺れていた。
颯真は、ただ黙って――三日間、私の家の門の前で雪に打たれていた。
そして四日目。
空からようやく光が差し、雪が止んだその日。
私は誠士に連れられて、ひさびさの外出に出ようとしていた。
だけど――車の前に、ぼろぼろになった彼が立ち塞がった。
顔色は真っ白で、体は震え、まるで今にも崩れ落ちそうだった。
「ひより……帰ってきてくれないか?」
その声の奥にあったのは、これまで一度も見せたことのない深い情