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Home / 恋愛 / 愛を待つ蓮台、涙を捨てた日 / 第14話

第14話

Author: こがね鍋
「俺は、お前を愛してる。だけど、そう言い切るには――仕方なかったって、自分に言い聞かせるしかなかったんだ。

『還すため』に、お前と結婚するって。そう思えば、お前の母親の遺言から逃げられると思った」

そう言いながら、彼はスマホを差し出してきた。

そこに映っていたのは、私の――眠っている顔だった。

「……あの夜、電話なんてしてなかった。ただ……お前の写真を見ながら、してはいけないことをした」

そして今度は、私が捨てたはずの数珠を取り出し――

私の手首に、勝手にはめてくる。

「忘れてても大丈夫。俺がぜんぶ、話してあげるから。

これは数珠だ。結婚を決めたときに、仏様に頼んで手に入れた――ふたりが、来世も来来世も、一緒にいられるようにって」

その瞬間、私は息を呑んだ。

――あの頃。

私が彼を好きだった時、彼も……私を想っていたの?

でも、それでも。

今の私には――もう、ただ気持ち悪かった。

「じゃあ訊くけど、そんなに私を『愛してた』なら――

なんで、海市中の人間に『私が恥知らずで、必死に追いかけてるだけ』って思わせたの?

なんで、私が式場で道化師みたいに見えるのに、別の女の人に夢中な顔をしてたの?

颯真、あんたが本当に愛してたのは、私じゃない。あんた自分でしょ」

私は手首を振り払って、数珠を床に投げ落とす。

そのまま、かかとで――思い切り、踏み砕いた。

「たとえ記憶が戻ったって、私は今日のこの選択を絶対に後悔しない」

その言葉で、彼の目の光がふっと消えた。

「……でも、お前は言ってたじゃないか。

もし、数珠を一緒に着けられたら、その時は、過去の全部を許してくれるって……」

私は返事をせず、そっと誠士の手を取る。

もう迷いも、未練もなかった。

「忘れたの。だから、あんたも忘れて」

振り向かずに、そのまま車へ乗り込んだ。

その日から、颯真は――ぱたりと姿を消した。

すべてが終わったと思った。

けれど、それは「終わり」じゃなく、「間」だった。

彼は、専門医を何人も呼び寄せ、「記憶を取り戻す方法がある」と、しつこく言い続けた。

私はすべて、扉の外で断った。

……そして、五ヶ月が経ったある日。

ようやく、彼は私のふくらんだお腹に気がついた。

その瞬
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