「……なあ、お前なんて言うの?」
「うっ、学。ぐすっ」「お前、女みたいな容姿してるし、めそめそしてるからいじめられてるんじゃねーか」
「うっ、うっ……」これは幼少時の俺達の記憶……?
俺はその昔の視覚情報を冷静に整理していく。
(俺の隣のブランコに座っているのは小さい時の学だなこりゃ。だってちっこいし、赤い半袖Tシャツに半パンとおこちゃま仕様だしな)
この当時の学は見た目が本当に女性みたいに華奢で、喧嘩が弱く、毎日めそめそ泣いていたっけ。
対して俺は孤児院の中でも当時はガタイが良くて、要領も良かったからイジメにあうことはなかった。
というのも暗記は得意だったので動画とか見て、空手の技も学んで強くなっていたからだ。
「なあ、お前。良かったら俺が喧嘩の仕方教えてやるよ?」
俺はブランコを静かに立ちこぎしながら、隣の学を見つめる。
「えっ? 守君が、その……俺を守ってくれれば……」
もしもじしている学に、俺は心底呆れた。
「あのな……? 例え俺がお前を守ったとする。でもさ、俺がいないところだとお前はもっといじめられるだろ? それじゃ何の解決にもならない。だからさ、その名の通り俺から喧嘩の技を学べっていってんの!」
「あ……。そっか、そうだね! へへ、守君は本当は優しいんだね……」学のまるで女の子の様な泣き顔に少しドキリとし、俺は少し顔を赤らめてしまう。
「ば、ばーか、そんなんじゃねーよ……」
こうして学は俺から喧嘩の技を教わり、次第に強くなっていく。
(名前の通り学習能力が高く、色んな技を一瞬で覚えていく様に俺は旋律を覚えたんだっけ)
「よーし、今日はこれまで! 空手の型をちゃんと覚えておけよ。型を覚えて置けば、一人でも練習はできるし対人のイメージトレーニングも出来るからな!」
「うん、ありがとう守君!」そうそう、当時学は素直な可愛らしい子だったんだよな。
それから学はどんどん強くなっていき、結果、孤児院でいじめられることはなくなった。
というか、孤児院での喧嘩は負け知らずになっていた。
そして月日が流れ、おれらが高校生の時くらいかな? 寒い雪が降る日に孤児院が謎の火事に合い、俺達はバラバラに引き取られることになってしまったんだっけ。
ま、いわゆる別れの時ってやつだな。
「守、またな」
「ああ」俺と学はお互いの拳を軽く合わせ、孤児院の広場に静かに佇む。
「お前に鍛えられた恩、俺はその、一生忘れねえ……」
学はこの時、白いセーターの上からでも分るくらい引き締まった体つきになっていた。
あ、そうそう! 学の奴は何故かこの時から青いジーパンを愛用しだしたんだよな?
「うん、お前逞しくなったもんな」
実際もう俺は高校生の時に学に喧嘩で勝てなくなったしね。
正直俺は、最低限の護身術として覚えてたまでであって、喧嘩よりも頭を使って何かを得る方が好きだった。
(決して、負け惜しみではない、多分……)
「守……。その、俺お前に言わなきゃいけないことがあって……さ」
学は何故か顔を真っ赤にし、何やらもじもじしている?
(あ? トイレか? ん、違うこの感じ、漫画でよくある、も、もしや?)
が、俺は男であるし、コイツも当然それである。
(この感じ、危険だ。つーことで先手必勝だな……)
「スマン俺は、大のおっぱい星人であるし、そっちの毛はない!」
「成程そ、そうか……お前巨乳が好みなんだな……」学は何故か自身の胸元を見てますが?
うん、引き締まった腹筋が凄いな! て、自慢かよっ!
「いやいや、おめーにおっぱいはねーし、そもそもタケノコじゃねんだから生えてこねーよ! 孤児院内で『おっぱいの知識にかけて右に出るものはいない』と言われた大賢者守様の知識をなめんなよ!」
「そ、そうなんだ。て、ん? 事務員が『俺のPCで【おっぱいはバレーボール並み】というサイトを見た奴出て来い』って、昔探し回ってたのってまさか……?」「さ、さあ?」
俺は学が俺から少し距離を置いたのをしっかりと目視した。
(よ、よしよし、これで適度な心の距離間が保てたはず)
「ま、まあ、細かいことは置いといてだな。とりあえず、親友としてまた会おうな! それと海外エロサイトを検索する時は仕込みウィルスに気を付けるんだぞ!」
俺はいちお保険を掛けて友達認定した。
そして何故か俺の珠玉のコレクションが海外サイトでコンピューターウィルス『トロイの木馬』に感染し、その半分をクラッシュされて辛い思いでを思い出し、目頭が熱くなっていた……。
(まあ、俺のPCじゃなくて、例の事務員のおっさんの物だから傷は浅かったんだけどね……)
「じゃ、またな守!」
で、俺達はがっちりと深い握手を交わし、別々の家に引き取られることになったが……。
驚いたことに、転向し通う高校が一緒だったしクラスも一緒だった。
しかも、今の大学すらも……。
腐れ縁にも程がある。
(学とはほぼ、兄弟みたいなもんだったな、ホント……)
……。
「う、うあああ――――――⁈」
落下の感覚を思い出した俺は絶叫を上げ目を覚ます。
気が付くと俺は白いベッドに寝ていたのだ。
(は、ははっ、夢かあ……。そ、そうだよなあ、よ、良かったあ……)
俺は額の汗を拭い、落ち着く為に呼吸を整え、ゆっくりとベッドから起き上がる。
(ん? しかし、なんか変だな?)
俺はその得も知れぬ直感を確認すべく、周囲をよく観察していくことにする。
ベッドと枕はフカフカだ。
頭上を見上げると高級感漂うシャンデリアが吊し上げられていし、部屋は一室でプール並みに広い。
更にじっくりと観察していくと、白壁には高級感漂う名画っぽい絵、部屋の壁際には無数の重量感を感じる鎧の置物などの装飾品が飾ってある。
そう、結論から言うと、どう考えても一人暮らしの狭い俺の部屋ではない。
(この感じ、どこかの豪邸か高級ホテル? ってか、俺達確か事故にあって崖下から落ちていたよな? てことはもしかして助かったのか? う、うーん、わ、分からない)
と……とりあえず、顔を洗って頭をスッキリさせよう!
そうだ、そうしよう……。
俺は洗面所にゆっくりと移動し、深いため息を吐いた後、顔を洗うため鏡を見つめる。
「うっ? うわああああああああああああああ――――――っ?!」
思わず反射的に絶叫してしまう俺。
何故かって? だってその鏡には映画やアニメで見た立派なねじくれた角を二本生やした悪魔? が映っていたからだ!
(し、しかも、顔は俺に瓜二つ?! な、なななにが? ど、どどどっどうなってっ⁈)
俺は再びパニックに陥ってしまう。
(お、落ち着け俺っ! と、とりあえず、こんな時は深呼吸だ、深呼吸っ! そして脈拍を計ろうっ)
俺はゆっくりと息を吐き吸い込み、脈拍を計るために自身の手首をそっと握る。
(あ、あれ? し、心拍数がふ、複数っ⁉)
俺はその異常事態に驚き、自身の激しい心音を感じてしまう。
どどっ、どどっ!
(ま、間違いない。て、ことはま、まさか、心臓が複数あるってことか⁉)
でも、それって人間じゃなくね?
俺はふと、先程鏡に映ったバケモノの姿を思い出してしまう。
(じ、じゃあ、アレは? も、もしかして?)
俺はそれを確認すべく、おそるおそる再び鏡に映った自身を見ようとするが……。
「ど、どうしましたっ? マモル坊ちゃま?」
鏡越しで分ったことだが、勢いよく俺のいた部屋の扉が開き、聞き慣れない低い声が聞こえてくる?
なんと驚いたことに、鏡越しに見えたのは、『羊のような角を生やした年老いた白髪メガネ黒服の執事』だったのた⁈
「う、うーん……」
俺は頭の処理が追い付かず、かつショックで目の前が真っ白にな……る……。
「……?」
「……おお、お気づきになりましたか」目を覚ますと、俺は再びベッドに横になっていた。
どうやら、目の前にいる執事が俺を看病してくれていたようだ。
残念ながらこれは夢じゃない。
(まじかよ……)
そして間違いなく俺の心臓は2つあり、角があるバケモンだ。
睡眠を取り、現実を直視出来た俺は気を取り直す。
(よ、よし! もういいっ! この際だからこの執事に色んなことを聞くことにしよう)
「じ、実は先ほど顔を洗う時に頭を打って、ちょっとした記憶喪失になってね……?」
この執事の名前は、シツジイと言う名前でとても覚えやすかった。
どうやらここはアデレという異世界で、俺は魔王の次男らしい。
(もう色々凄すぎて驚かない)
俺がいるこの部屋は魔王の居城内の俺の個室とのこと。
「ちなみに知っての通り、この世界は大きく三つの国に別れてますぞ?」
「そ、そうだったね……。そこら辺も、頭うって記憶が飛んでるから詳しくね?」執事は軽く咳払いすると、再び三国について簡略的な説明をしてくれた。
一つ目は『魔族の国ザイアード』。
俺ら魔王が統治している国であり、この世界の北側に存在する豪雪地帯。
魔族は丈夫な体に闇魔法を使う攻撃に特化した種族であり、闇の力が強い高位魔族が支配する傾向がある。
血筋で生まれた時の闇の力の強さが決まり魔王の子は次期魔王が確定しているほどらしい。
次っ!
二つ目はこの世界の中央に存在する『人の国ファイラス』。
分かりやすいイメージだと、四季がある中世のヨーロッパってところか。
個々の力はそれほどでもないが、勇者の血筋が厄介らしく、伝説の武具を使い今まで何人もの魔王が倒されたんだとか。
で、俺のこの世界での両親達も何十年前に勇者達に倒されたらしく、その時に人族は多大な損害を被ったらしい。
結果、現在は人族と魔族は停戦状態になっているそうな。
最後っ!
三つ目は『エルフの国エルシード』、場所はこの世界の南側に存在し豊かな森に覆われている。
エルフ達は自然と共に共存する習慣があるらしく、争いごとを極端に嫌い、森に隠れ住んでいるんだとか。
人口は他国と比べると極端に少なく、強力な戦力はない。
その代わりに防御や瞬間転移などの補助系魔法が得意であり、何でも先代の王が特殊な魔法異次元結界を張ったんだそうだ。
その関係でここ数百年、人族も魔族もエルフの国にたどり着いたものはいないらしい。
「以上ですじゃ……。ちなみに三国は現在は停戦中となっております」
「な、成程。ありがとうシツジイ! そうだったよねー、なんか記憶が戻ってきたっ、ははっ……」めっさ大嘘こき、俺は乾いた笑いをする。
(ざ、罪悪感で胸が痛い。許せシツジイ、見た目は魔王になっているが心は人間なんだ……うん)
てかね、今の俺見た目で気がついたけど、中世ヨーロッパの王族みたいな恰好してるんだな。
黒色の装飾燕尾服に胸の場所に白色の刺繍のディテールがもうね、我ながらハズイ。
……ざっくりとした国の状況は掴めたが、さてどうしたものか?
(だってさ、俺転生したらいきなり魔王だぜ? 普通転生物って勇者とか冒険者じゃないの? しかもバチバチの争いごとの最中じゃん? どーするんだこれ)
……とか考えていると、何やら周りがざわつき騒がしい。
シツジイは白いアゴヒゲを片手で整えながら、「この感じは、マナブ様が帰ってこられましたな……」と、ぼそりと呟く。
俺は何処かで聞いたことがある名前だなと思った。
(マナブ? はて学?! いや、まさかね?)
てことで、俺は早速先ほど執事に教えてもらった魔法アイテム『魔水晶』を使うことにした。『魔水晶』とはアニメや映画で魔女が良く使っている対象を映し出すもの。
なんでも、条件として使い手が一度映したい対象の姿を見てしまえば、魔水晶に映しだせるらしい。
俺は学のことを思い出し念じて、ボーリングの球くらいの大きさの魔水晶に自身の手をかざす!
するとなんと、透明な水晶玉に一本の立派な角を生やし、悪魔の翼を広げ意気揚々と城に向かって飛んでくる学の姿が映しだされたのだった!
ちな、服装は俺と同じ、ベースの色が赤色で違うくらいです、はい。
その姿が似合いすぎて、俺は「ぷっ、こ、こいつ変わってねー。しかも超絶似合ってるよ!」と、腹を抱え笑い転げてしまう。
(ま、まあでも、学が無事でホントに良かったな……)
だからか俺は心の底からほっとできた。