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Home / ファンタジー / 月神守は転生の輪舞を三度舞う / 5.3人目の転生者

5.3人目の転生者

Author: 菅原みやび
2025-02-15 09:16:08

 それから数週間たったある日。

 ここは人の国『ファイラス』城内、王の間。

 だからか、周囲は立派な大理石の白壁に囲われている場所であった。

 天井を見上げると壮大な壁画が見え、更には均一に立派な硝子細工のシャンデリアが吊るされているのが分る。

 床には立派な赤い絨毯が引かれ、そこに静かに整列した重曹騎士団が見守る中、一部の権力者達が会合を行っている最中であった。

「お兄様方、私は他国と争うことは反対です!」

「だ、黙れっ! 王女であるお前に決定権はないし、俺達は方針を変えるつもりはないっ!」

 シズク王女と王子達の口論が静かに城内に響き渡る。

 『ファイラス』では現在、第一王子レッツ。第二王子ゴウ。そして第一王女のシズクの3人による統治が行われていた。

 そう、雫は『ファイラス』の王女として守と同時期に転生していたのだ。

 激情型である第一王子レッツはシズク王女の態度に激昂し、頭上の王冠を激しく床に叩きつけ、怒りをあらわにする。

 黄金の鎧を纏っていても分かる恵まれた体格、更には獅子の如きレッツの形相に、周囲の大臣や宰相などはおろおろし、たじろぐばかりであった。

 対して温和で優しい第二王子ゴウは「……兄上のおっしゃる通りだ。もう確定事項なんだよこれは……。お前は頭を冷やしに城外に散歩に行ってきなさい。……いい子だから、な?」と、その王冠を拾いレッツに手渡し、シズク王女をもなだめる。

「……っ、分かりました。では、失礼します……」

 雫は王子達に軽く一礼し、言われるがまま静かに城外に出て行く。

 雫は峠を越え城外からかなり離れた川岸に出るやいなや、周囲をキョロキョロと見回し、誰もいないことを確認し大きく深呼吸する。

「レッツ王子のバッカヤロー! イノシシ武者――――――――――――っ!」

 雫はそんな気持ちをぶつけるかの如く、大きく腕を振り絞り小石を川に勢いよく投げつけるのだった。

 ドポンという鈍い音とともに、川に波紋が緩やかに広がっていく。

「あ―――――――すっきりした!」

 水面から消えた波紋の如く、すっかり落ち着いた雫。

 雫はふと後ろを振り返り、丘から見える少し小さくなったファイラス城を見下ろす。

 そこにはゴシック様式の立派な赤レンガで建てられた美しい城塞が眼下を覆いつくしていたのだ。

「いつ見ても壮大なお城。うーん、大きさは大体、東京ドームの5個分くらいはあるかな?」

 その素晴らしい眺めに気持ちが落ち着いた雫は「ほう……」と感嘆の声を漏らし、草むらに静かに腰を下ろす。

 天気が良いからか、草むらからは何とも言えない青臭い匂いが立ち込めている。

「……あーあ、せめて前王と王妃が生きていたならなあ……」 

 雫は座ったまま小石を川に投げ、深いため息をつく。

 雫がぼやくのには訳があった。

「……だいたいさ、この国は第一王子の発言権が強すぎるのよね……」

 雫は王女として、ファイラスでもそれなりの発言権を持っている。

 が、如何いかんせん男性でないため、「トップから三番目の発言権がある」というもどかしい現状ではあった。

 だから先程も、馬が合わない第一王子と口論になってしまったのだ。

「転生物のお決まりのスキル。困った事に私の能力は地味なんだよね……」

 そう、守達が【魔王の魔力】を授かったように、雫は転生時【転生者を把握する】という、とても地味な特殊能力を授かっていた。

 静かに瞳をそっと閉じ、雫はスキル【転生者を把握する】を再度使用する。 

「うん。今も学と守さんがザイアードにいるのは間違いない。けど、スイだけ感知できない。あ、もしかして、こちらに来てないのかなあ?」

 雫は再び大きなため息を吐き、ぼんやりと川の水面を見つめる。

 その澄んだ水面には紫色のゴシック式衣装の自身の姿が、まるで鏡のように映っているのが見える。

 雫はそのスカートのすそを優雅に持ち上げ、静かに立ち上がり、今度は青い空をゆっくりと見渡す。

 大きな白い雲がゆったりと流れ、聴こえてくるのは小鳥のさえずる小声と静かに流れる川のせせらぎだけ……。

 雫は元々財閥のお嬢様であるが故に、人を使うことと情報収集能力には秀でていた。

 そのため『ザイアード』に2人がいることも、『ファイラス』の王子2人の思惑によって大戦が始まることも把握していた。

 だから、最近『エルシード』の使者から提供された『国宝級マジックアイテム』いわゆる切り札が大戦のきっかけになっていることも知る事が出来た。

 が、残念なことに、その切り札の効果まではまだ把握できていない現状であった。

 理由は至ってシンプルでファイラスの王子達の情報のガードが堅いから。

(そう、王子達の監視が厳しくて自由に動けないのが辛いのよね……)

 が、しかし、雫の涙ぐましい情報収集の成果により、最近ようやっとこの城からなんとか抜け出せる可能性を見つけたのである。

「あ……」

 雫が声を上げたのはゆったりと流れる雲は何となくだけど学達の顔によく似て見えたからだ。

「大戦が始まる前に、2人に会えればね。まずはそこからかな……」

 雫は静かに決意を胸に秘め、ファイラス城を見て静かに頷くのだった。

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