それから数時間後、此処は【黒と白の境】と呼ばれている場所。
いわゆるザイアードとファイラスの国の境の別名でもある。
そこに学は腕を組み1人静かに佇んでいた。
晴天の最中、まっ平の草原にまばらに散見される木々や岩々……。
そう、戦闘するにはもってこいの場所であった。
学が佇むその場所に向け、砂埃を上げながらこちらに進んで来る馬上に跨った大軍が見えてくる。
(……ざっと見ただけでも万はいるな?)
学は仁王立ちし、緊張しながらも静かにその様子を見守る。
その学の組んだ右手に注目する。
そこには金属製の赤黒い小手が装着されており、それは鈍く怪しい輝きを放っていた。
(チッ……。俺の予想よりかなり早いな)
正直そのファイラス軍の予想外の移動スピードに学は焦っていた。
(軍馬の移動だと数日はかかる計算だ。ということは、この尋常じゃない移動スピードは『集団の空間転移魔法』? となると今回の件、裏にエルシードが絡んでると予想出来るな)
そう考えると、敵はファイラスだけではない。
そんな事を考えている学の前に、砂塵を上げて進む大軍の中から一人軍馬にまたがり颯爽と学の目の前に姿を現す者がいた。
輝く黄金の鎧に身に纏った屈強な男は「俺はファイラスの第一王子レッツである! 貴様が魔族の王か?」と、大声で叫ぶ。
学はレッツのその話の内容と声のトーンなどで、「魔族を見下している」と、瞬時に勘で判断する。
(そもそも、守の送った文書の返答がこれだしな……)
学はため息をつき、ファイラスの大軍をキッと睨みつける。
「……レッツよ確認だが、ザイアードとの同盟は考えてないのだな?」
学は無駄とは分かっていても、守との約束を考え律儀に確認することにした。
「はっ、笑止! 何が同盟の文書だ! どうせ姦計を計って我らを皆殺しにする予定だったのだろう? ああ?」
レッツのそのあまりの失言に対し、ファイラスの私兵は呼応するように魔族達に対する侮蔑の言葉を吐き嘲笑していく。
「な、なんだとっ!」
学はファイラス軍のその態度に激昂し、自身の髪が逆立つのが理解出来た。
幼き頃から兄弟同然に育った守に対し、侮蔑としか思えない言葉を述べたのだから当然と言えば当然だろう。
「あいつがどんな気持ちで文書を書いたか知らないくせに、よくもぬけぬけと! あいつがその気になればお前達なんぞ、