清墨が佐和を説得して帰らせた後、すぐに雅彦に電話をかけた。「どうだい、時間あるか?今、君のビルの下にいる。一緒にバーで飲もう」
雅彦は電話を受け取ったが、普段なら仕事中に飲みに行くなんて絶対に承諾しない。しかし今は……
最近の色々な煩わしい出来事を思い出し、雅彦はこめかみを揉んだ。「今、下に行く」
二人はビルの下で会って、車で近くのバーへ向かった。
雅彦は静かな個室を開けてもらい、大量の洋酒を注文した。
清墨は雅彦の様子を見て、その心情が普段ならぬものであることを察した。
酒がすぐに運ばれてきたが、雅彦は清墨を気にせず、黙々と酒をグラスに注ぎ、一気に飲み干した。
以前なら、雅彦は酒で逃げるような行為を軽蔑していた。彼の目には、それは弱者だった。しかし今は、酔いたいとしか思えなかった。そうすれば、心の中の煩わしさや、桃の冷たい態度を忘れられると思った。
清墨は雅彦が止まることなく飲み続けるのを見て、慌てて止めに入った。「雅彦、そんなに飲んだら体を壊すぞ。兄弟としてちょっと聞かせてくれ、君の心の中にいるのは月か、それとも桃か?」
雅彦はこの質問に、酒を注ごうとした手を止めた。
月か、桃か?
普段なら即答できる。月だと。彼女は自分の命の恩人であり、自分の初めてを捧げてくれた。そして、彼女を傷つけたことを埋め合わせるために雅彦は彼女と結婚すると誓った。
しかし、酒のせいで理性が薄れた雅彦の頭に浮かぶのは桃の姿だった。
この数日間、彼の頭の中には月の姿がほとんどなく、桃のことばかり考えていたことに気づいた。
一時的に雅彦は答えを出せなかった。
雅彦が黙っているのを見て、清墨は焦りを感じた。
この男は両方とも手に入れたいと思っているのか?そんなことになれば、雅彦家は二人の女性の争いで大混乱になるだろう。
「今日は酒を飲むために君を呼んだんだ。くだらない質問はやめろ」雅彦は答えを出せず、考えるのもやめた。
佐和と桃の関係で悩まされ続けたこの数日間、もう限界だった。これ以上考えると自分が壊れてしまいそうだった。
現実に向き合いたくない雅彦に、清墨はため息をついて一緒に飲むことにした。
しばらくして、雅彦の携帯が鳴ったが、彼は無視した。
今は外の世界の騒動になど全く興味がなかった。
清墨が携帯を見ると、月からの電話だった。彼は一計を案じ、電