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第23話:宮崎の地鶏、試練を越えた筆と迫る危機

Author: ちばぢぃ
last update Last Updated: 2025-06-20 09:00:44

宮崎の山間、春の朝霧が地鶏の鳴き声を包む。佐藤宗次こと佐久間宗太郎と弟子の太郎は、宮崎の市場へやってきた。享保年間の九州、博多を拠点に各地で評を広めた宗太郎は、偽名を使い江戸での暗殺未遂を逃れていた。薩摩で太郎が初めて評を書くも市民のバッシングを受け、宗太郎がフォロー。藤兵衛と黒崎藤十郎の陰謀が、刺客・弥蔵のスパイ・宗助と沙羅を通じて迫る中、九州の食探求を続け、宮崎の地鶏文化に挑む。

市場は地鶏の焼ける香りと山菜の清涼な匂いで活気づく。宗太郎は地鶏の野性味に鼻を動かし、太郎は薩摩の教訓を胸に赤みを指差す。

「宗次さん、この地鶏、見た目から強そう! 俺、ちゃんと評書けるぜ!」

宗太郎は太郎の成長を認め、市場の奥の屋台「鶏鳴」へ。店主の源太郎は45歳の農家で、地鶏料理で市場を盛り上げる。宗太郎はカウンターに腰掛け、注文した。

「源太郎殿、地鶏の焼き物を一品。それと、水炊きを頼む。」

源太郎は炭火で地鶏を焼き、鍋で水炊きを準備。屋台は農家や旅人で賑わう。だが、藤十郎のスパイ・宗助と沙羅が、客を装い監視していた。

地鶏の焼き物と水炊きが運ばれた。

地鶏の焼き物は、赤みが炭火で輝き、塩と山椒が香る。

地鶏の水炊は、鶏出汁に野菜が浮かび、ポン酢が添えられる。

宗太郎は焼き物を手に取り、香りを嗅ぐ。地鶏の野趣ある香りが、塩と山椒の刺激と混じる。一口噛み、目を閉じた。

舌が喜んだ。

地鶏の濃厚な旨味が、塩と山椒で引き締まり、炭火の苦みが調和。宗太郎はつぶやく。

「この地鶏の焼き物、宮崎の山の鼓動だ。山椒の刺激が、地鶏の魂を焼く。」

源太郎が手を止め、客たちの視線が集まる。宗太郎は水炊きを啜る。鶏の出汁が野菜の甘みとポン酢の酸味に溶け、深い味わいが広がる。

「源太郎殿、この水炊きは宮崎の山の歌だ。地鶏と野菜が、里の心を煮込む。」

源太郎は微笑み、試作の一品を勧めた。

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