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Home / 恋愛 / 結婚は断るのに、辞職したら泣くなんて / 第564話

第564話

Author: 藤原 白乃介
清司のわずかな動きは、佳奈の目を逃れなかった。

彼女はすぐに駆け寄り、清司の手をじっと見つめながら言った。

「佑くん、おじいちゃんにもう一度話しかけてみて」

佳奈の驚いた様子を見て、佑くんも何かを察したようだった。

彼は椅子を蹴って清司のベッドによじ登り、彼の隣にうつ伏せになって、首に腕を回しながら言った。

「おじいちゃん、佑くんね、すっごく会いたかったよ。早く起きて、佑くんと遊んでくれない?」

そう言って、清司の頬にキスをした。

その一瞬が、さらに清司を刺激したのか、彼の指先が再びピクリと動いた。

もしさっきのが偶然だったとしても、今回は……?

佳奈の中に再び希望の火が灯った。

すぐにナースコールのボタンを押した。

医者が来て診察した後、こう言った。

「子供の声に反応しているということは、清司さんが一番気にかけている存在なのでしょう。これからも頻繁に来てもらって刺激を与えれば、奇跡が起こるかもしれません」

その言葉を聞いた佳奈は、感極まって涙ぐんだ。

たとえ希望がわずかでも、彼女は決して諦めない。

すぐに佑くんを抱きしめて、頬にキスをしながら笑顔で言った。

「君はおばちゃんの幸運の星よ。佑くんが来たら、おじいちゃんが反応したの。これからもいっぱい会いに来てくれる?」

佑くんは小さな白い手で佳奈の顔を包み込み、真剣な目で彼女を見つめた。

「じゃあ、おばちゃんはもう泣いちゃダメだよ?おばちゃんが泣くと、佑くんも悲しくなっちゃうから」

その言葉を聞いて、そばにいた橘お爺さんと橘お婆さんは思わず涙をこぼした。

これが、まさに血の繋がりというものなのか。

清司は一度も佑くんに会ったことがないのに、彼の声に反応した。

それだけ、彼が佑くんの存在をどれほど待ち望んでいたかが分かる。

佳奈が泣けば、佑くんもつられて悲しくなる――それは家族の絆があってこそ。

本当にこの親子は、可哀想なほどに愛おしい。

橘お婆さんは涙を拭いながら言った。

「よかった……少しでも希望があるなら、私たちは諦めないわ。この数日、できるだけ佑くんを連れて来るわね。佳奈、あんたも無理しちゃダメよ。ちゃんと休むのよ」

希望が見えたことで、佳奈の顔にも安堵の表情が浮かんだ。

「大丈夫、おばあちゃん。私は倒れない。お父さんが目を覚ますのを、ずっと待ってるから」
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