翌日。
佳奈はZEROグループの社長室で俊介と顔を合わせた。
彼女がドアをノックして中に入ると、目に飛び込んできたのは、背の高い男のシルエットだった。彼は大きな窓の前に立ち、白いシャツにグレーのスラックス姿で、気怠そうに手にしたタバコを一口吸っていた。
佳奈が入ってきたのを見ると、その深く澄んだ瞳に一瞬だけ光が宿った……が、それもすぐに消えた。
彼はタバコの火を消し、佳奈の方へと歩み寄ってきた。口元にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
「藤崎弁護士、お噂はかねがね」
声は穏やかだが、少ししゃがれていた。
佳奈は礼儀正しく手を差し出し、微笑みながらうなずいた。
「田森坊ちゃん、お目にかかれて光栄です」
だが、二人の手が触れた瞬間、佳奈の指先に何かが刺さったような感覚が走った。
まるで微弱な電流が指先から全身に走ったような、くすぐったくて痺れるような感覚。
それは、懐かしくもあり、どこか遠い記憶のようでもあった。
智哉と別れてからというもの、こんな感覚を覚えたことは一度もなかった。
佳奈は黒く輝く瞳で俊介を見つめた。整った顔立ちに気品ある雰囲気、くっきりとした二重まぶたに、美しく流れる目尻のライン。
その立体的で端正な顔立ちは、一度見たら忘れられない。
初めて見る顔なのに、なぜか懐かしさを感じる。
佳奈は俊介の顔をじっと見つめながら、口を開いた。
「田森坊ちゃん、私たち……以前どこかでお会いしたこと、ありますか?」
握手したときの不思議な感覚、そしてこの顔の既視感。どうしても初対面だとは思えなかった。
俊介はふっと微笑んだ。
「それって……藤崎弁護士が俺に一目惚れしたってことで、いいのかな?」
佳奈は思わず指先を軽く丸め、口元に淡い笑みを浮かべた。
「田森坊ちゃんから受けた第一印象は、確かに特別でした。今回の協力がうまくいくことを願っています」
「そうかい?藤崎弁護士に良い印象を持ってもらえたなんて、光栄の極みだよ。前から聞いてたんだ、法曹界に咲く高嶺の花ってね。腕もあるし、美人だって。今日会ってみて、噂に違わぬお方だ」
こんな褒め言葉には、佳奈はもう慣れていた。
彼女は軽く唇を曲げて笑い、バッグから書類を取り出して俊介に差し出した。
「田森坊ちゃん、この案件、私が引き受けます。ただし、他の人間は一切関与させないこと。調