電話の向こうは、ぴたりと静まり返った。
葉月は、彼が何か言い出す前に通話を切った。
「ごめんなさい、変なところを見せちゃって」
「ブロックしないの?」
葉月は一瞬ぽかんとした。
茂人は変わらぬ表情で言った。「元彼に希望を与えなければ、自分も煩わされずに済む」
葉月は思わず茂人の顔を見た。
言い慣れてる。元カノ、多かったりして?
でも、それが茂人なら、好かれて当然かもしれない。
彼の言葉に背を押されるように、葉月は晴樹をブロックした。
その様子を見て、茂人の目元にかすかな笑みが浮かんだ。「行こう。君をマンションまで送るよ」
到着して初めて、彼が自分の隣室に住んでいることを知った。
「ここのことは俺の方が詳しいから、一緒に生活用品を買いに行こう」
そこまで言われては、葉月にも断る理由がなかった。
買い物を終えたら、ささやかながらのお礼にと、彼女は食事をごちそうすることにした。
「好きなもの頼んでね」
茂人は遠慮せずメニューを見て注文したが、出てきた料理は、すべて葉月の好物ばかりだった。
「偶然だね」
葉月は目元を緩めた。異国の地で同じチーム、似たような好み。きっと気持ちよくやっていける気がした。
食後、二人で散歩しながら帰路についた。
マンションの入り口に着いたところで、葉月のスマホに夏帆からのビデオ通話が入る。
画面越しに、彼女はあれこれ気遣ってきた。
葉月は微笑みながら、丁寧にひとつひとつ答える。
ふとカメラが揺れた拍子に、茂人の姿が映り込んだ。
夏帆が大きく目を見開いた。「えっ、ちょっと待って!先輩じゃん?」
葉月はカメラを少し傾け、茂人の全身を画面に入れた。
彼らは同じ大学の卒業生だった。茂人は学内の王子様と呼ばれた存在で、夏帆が覚えていても不思議ではない。
だが、その反応は想像以上だった。
「昨日別れたって話したばっかじゃん!展開早すぎじゃない?」
葉月はぽかんとした。
彼女はようやく意味を理解して、茂人を見た。
彼の顔色は変わらなかった。
「葉月、聞いて。茂人って絶対あんたに気が……」
大声で喋る夏帆の声を遮るように、葉月は通話を切った。
顔が一気に熱くなる。
「す、すみません、学長がそんなつもりじゃないってわかってる、夏帆がちょっと大げさで……」
茂人は彼女の言葉を遮った。
「謝る必