写真には、晴樹が寧音を腕に抱いている様子が映っていた。カメラマンは構図を探しながらシャッターを切っている。
葉月は、ゆっくりとした動作でメッセージを送った。
【この写真は私が撮ったの。ウェディングフォトのカメラマンも、私が手配した人だった】
【後で寧音からわざわざメッセージが来たわ。あなたのおかげで素敵な写真が撮れた、って】
【晴樹、まだ証拠を出し続けてほしいの?】
チャット欄はこの三つのメッセージで静まり返った。
あれほど雄弁だった口たちも、まるで封じられたように黙り込んだ。
しばらくしてから、晴樹がようやく返信を打ち込む。
【葉月に非はない。悪いのは俺だ】
葉月は冷ややかな目で画面を見ていた。
遅すぎる謝罪なんて、見飽きるとただの嫌悪感しか残らない。
彼女は周囲の反応になど興味もなく、グループチャットを即座に退出した。
「俺のも退会させて。夫婦は一心同体だから」
そう言って茂人のアカウントも、彼女の手でグループから外した。
スマホを放り出すと、その代わりに茂人の手が添えられる。
指を絡めて、茂人は柔らかく微笑んだ。
部屋の中のぬくもりが、じんわりと葉月の心に染み渡っていく。彼女はふと自分の手元を見下ろし、自然と笑みをこぼした。
再び晴樹に会ったのは、翌日の夕暮れだった。
茂人と散歩から戻ると、晴樹が車のそばに立っていた。どれだけ待っていたのかはわからない。
「少しだけ話せないか?
今夜の便で帰国する。もうすぐ空港に向かわないと」
痩せこけ、目のくぼんだ晴樹の声音は、驚くほど卑屈だった。
葉月は茂人の方を見た。
茂人は彼女の頭を優しく撫でた。「俺は先に上で晩ご飯作ってるから。お客の話が終わったらおいで。寒いから、長居はしないようにな」
「うん」
茂人が「客」と呼んだことに、葉月は何も返さなかった。
彼女と茂人の親密さと信頼は、何のためらいもなく、自然にそこにあった。その光景は、晴樹の胸をえぐるように痛めつけた。
茂人が家に入るのを見届けてから、葉月はようやく晴樹に向き直った。距離をしっかりとったまま。
「話して。時間がないの」
「俺たち、丸五年も一緒にいたんだ。君がいないなんて無理だ。まだ本当に君のことを思ってる。葉月、もう俺のこと、少しも気にしてないのか?」
葉月の表情は変わらない。沈黙のまま。
晴樹