綿は近づくまでもなく、このジェイドジュエリーの工芸の良さを一目で見抜いていた。熟練の職人が時間をかけて丁寧に磨き上げたことが、明らかだった。
このジュエリーは今回の展示会の目玉であり、主要なプロモーションにも使われるだろう。
「こんにちは」綿は近くにいた案内スタッフに声をかけた。
スタッフはすぐに彼女の方へ来て、一礼して挨拶をした。「こんにちは、桜井さん。このジェイドジュエリーはすでに予約済みです」
「誰が購入したんですか?」綿が尋ねる。
「それはお答えできませんが、大手財閥の奥様だとだけ」スタッフは丁寧に答えた。
その答えで、綿は察した。
このジュエリーはとても気に入ったが、自分の年齢には少し不相応だと感じていた。これは母親の年齢層にこそ似合う品だろう。
彼女がどうしても見てみたかった理由は、それが本当に素晴らしいものなら買って母への贈り物にしようと思っていたからだ。
もうすぐ新年だが、この一年、母にプレゼントを贈れていなかった。しかし、すでに購入済みだと聞き、綿は少し残念に思った。
「桜井さん、このジュエリーが気に入られたのですか?」スタッフが尋ねる。
綿は笑顔で答えた。「ええ、気に入りました。でも購入済みなら仕方ないですね。他のものを見てみます」
「桜井さん、それならこちらのジュエリーもお勧めです」スタッフは別の展示ケースを指さした。
綿は頷き、スタッフについていった。
そのとき、会場の入口がざわつき始めた。「高杉社長、お忙しい中お越しいただけるなんて、本当に驚きです」
人々の視線が入り口に集まる。そこにはキリナと共に入場してくる輝明の姿があった。
輝明は黒いスーツに身を包み、端正な顔立ちと抜群の存在感で、入場するだけで場の雰囲気を変えていた。背筋がピンと伸び、どこか近寄りがたい雰囲気を漂わせているが、その眼差しには疲労の色が隠せなかった。彼が疲れていることは一目瞭然で、それが最初の印象として人々に伝わっていた。
「以前お約束しましたからね。どんなに忙しくても顔を出しますよ。逆に、最近の俺のごたごたに気を遣わないでいただければ」輝明はキリナに微笑みながら言った。その声には少ししゃがれた響きがあった。
キリナは慌てて首を振った。「高杉社長、私は何もお手伝いできなくて、本当に申し訳ないです」
「何を言っているんですか。この問題