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水鏡月聖
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Nobela ni 水鏡月聖

幸福配達人は二度目の鐘を鳴らす

幸福配達人は二度目の鐘を鳴らす

好きな人の隣に立てるのはどうして一人だけなんだろう? 隣には右と左の二つあるのに…… 結婚相手が二人まで可能となった世界線で恋をする連作短編集  わたしは誰の後ろめたさを感じることもなく、世界のすべてに祝福されながらこのヴァージンロードを歩いている。  その先で優しくわたしを迎えてくれるのは、学生時代からずっと一途に想いつづけていた彼――。 と、その妻。
Basahin
Chapter: 第76話
 正輝がマンションを出て行く日、彼は優しく微笑んでいた。 「空良、朋絵。今までありがとうな…… その…… 何かあったらいつでも声を掛けてくれ。離婚しても俺は真斗の父親だということには変わりないんだし…… できることならなんだって力になりたいと思ってる……」 「うん…… ありがとう……」  今までの様々な出来事がフラッシュバックして、思わず泣きそうになる。正輝の最後にかけてくれた言葉が心にしみて、すべてを許してしまいそうになる……  今までそうやって何度この男は朋絵のことを騙し続けてきたことだろう。  まったく。朋絵はいったいこの男のどこをそんなに好きになってしまったんだろう……  正輝の出て行ったマンションの部屋はアタシたち残された家族にとって少し広すぎて、ずいぶんと静かに感じる。……もうずっと正輝はこの部屋にあまり帰ってきていなかったというのに……  昼下がりの天気の良いリビングのソファーに朋絵と二人で深く腰掛ける。  目の届くところにベビーベッドがあり、かわいい我が子、真斗がすやすやと眠っている。  テレビのワイドショーではしきりに不正を働いて逮捕された産婦人科医の事件が報道されていた。確定申告の時期の少し前に妊娠していない女性に偽の妊娠証明書を書き、母子手帳をもらうことで多額の税金を逃れることを手伝っていた。ある程度の期間が過ぎれば死産の証明を書いて一時的な税金を免れようとしていたらしい。  政府が少子化対策のために導入した出生軽減税率や重婚制度は、結果として愛のない結婚や責任のない出産を多く生み出す結果となってしまい、女性を子供を産むための装置にまで貶める結果になってしまった。  ――しかしそれだけではない。   少なくともアタシにとっては……  テレビをリモコンで消し、昼下がりの部屋にはかすかな町の喧騒と子供の寝息だけしか聞こえない。  わアタシの隣に座る朋絵がアタシに寄り添い、その肩を抱きしめて熱い口づけを交わす。舌と舌を絡ませ、お互いの粘液に愛を伝道させる。  あの日……   正輝がアタシと離婚したいと考えていることを朋絵に聞かされた時、アタシはすべてを朋絵に話すことにした。 「アタシね、朋絵のことが好きなの!」 「うん、知ってるよ。わたしも空良のこと、ずっと前から好きだよ」 「あのね、アタシが言っているのはそ
Huling Na-update: 2025-07-09
Chapter: 第75話
「……修羅場、ってやつか」 この期に及んでまだ軽口を叩けるとはいい度胸だ。アタシ達二人の視線を見て、あまり和やかでない空気を察したか、正輝さんはそれっきり黙り込み、向かい合うアタシ達より少し上空の何もないところに視線を置く、珍しく両膝の上に手を置き(ここからは確認できないが多分握っていると思う)、少し震えているように見える。「えっとー……」普段はしっかりしているキャラを演じているつもりのアタシだったが、いざこういう時になるとはっきりと言葉を出せなくなった。しばらくして、見るに見かねた朋絵が替わりに口火を切った。ずっと優柔不断で頼りないタイプだと思っていた朋絵が以前よりも頼もしく感じられるようになっていた。女は子を産むと強くなれるものだ。守らなければならないものがはっきりするから、何をしなければならないのかもはっきりする。――男はまるで駄目だ。ことさら正輝のような人は自分が父親になったという自覚がなさすぎる。朋絵はつまらない天気予報を流すテレビの電源をリモコンで消し、左手をひらいてアタシの膝の上に、右手は固く握ってテーブルの上に置いた。「正輝さん……」その言葉で正輝さんは視線を朋絵に向ける。目線を合わせるではなく、彼女の目の少し上に視線を向ける。「まずね、これだけは言っておくわ。正輝さんはこの家を出て、その女性と一緒に住むべきよ」「え……」 正輝さんにとってはその言葉が少し意外だったようで、丸くした視線を少し下におろした。その時初めて朋絵と視線が合う。その瞬間に獲物を捕らえたかのようにその水晶体をぐっと睨み付け、二度と視線を外せないようにする。もし、外せばその次の瞬間には取って食われてしまうぞとでもいいそうな空気で。 正輝からすれば、少し意外だったのかもしれない。従順で御しやすいと思っていた朋絵に手をかまれたのだ。「その女性は前の旦那さんと離婚して、そのあとどうやって子供を育てるつもり?」「そ、それは…… 実家に帰るつもりだろう……」「それでいいと思ってる? いい? 子供にとって父親と言う存在はぜったいに必要だと思うわ。それがたとえ血の繋がっていない父親であっても、血のつながっている祖父母なんかよりもずっと大切な存在。わかる?」 こくり。とうなずく正輝さん。――うそつきめ。わかっているならなぜいつも真斗をほったらかしにして不倫なんてしていたのだ。と、言いたいところだ
Huling Na-update: 2025-07-09
Chapter: 第74話 重婚法が示した一つの可能性 ~重光空良のケース~
 彼女が、誰のことを見ているのかはすぐにわかった。 アタシが、彼女のことをずっと見ていたからだ。 中学生時代からずっと親友だった朋絵が高校に入って恋をした。 内気な朋絵はその恋の相手、重光正輝を遠巻きからずっと眺めているだけで積極的な行動はしなかった。遠くから熱いまなざしを向け続け、自分の中で煌々とその身を焦がす朋絵。あたしはそれを好ましい状況とは思えなかった。 放っておけばいつかは冷める恋だったのかもしれない。 だけれども、短絡的なアタシは積極的な行動に出た。 狡猾なアプローチで重光正輝を朋絵から奪った。 いつか襲い掛かるかもしれない彼から朋絵へと向けられる毒牙から朋絵を守った。 正輝に対する嫉妬の炎をまるで自身の恋心だと自分自身を騙すように正輝に向けた。 決して正輝のことがキライだったわけじゃない。それ以上に朋絵のことを好きだっただけだ。 朋絵のことを、一人の女性として愛していただけだ。 自分のやっていることに嫌気がさし、何度か身を引こうとしたこともある。 正輝と離れて都会の大学に進学し、すべてを清算しようとしたこともある。 都会での就職に負けたアタシは田舎へ戻り、地元の小さな出版社に就職した。 朋絵が、「帰ってきてほしい」と言ってくれたからだ。 しかし、目の前で朋絵と正輝が仲良くしているのは我慢ならなかった。 再会した正輝は朋絵と交際しているにもかかわらず、アタシにも関係を迫ってきた。「妊娠したかもしれない」 ちょっと困らせてやろうと言っただけの言葉に、正輝は大喜びをした。 朋絵と別れ、アタシと結婚すると言い出したのだ。 ――責任をとる。 たぶんそういうことではなかったのだろうと思う。 就職を前に、アタシとの間に生まれてくる子供による、出産軽減税率が欲しかったのだ。 お腹が大きくなってからウエディングドレスを着るのは嫌だと言ったら、急いで式をあげようと言い出した。生まれてくる子供のためと、若いながらも少し大きめのマンションを購入した。  式が終わってから、流産したと嘘をついた。 アタシが妊娠したということはまだ誰にも言っていなかったので、妊娠のことは二人だけの秘密の出来事として闇に葬られた。 結婚してからも、正輝さんはあまり積極的に子供をつくろうとは言わなかった。たぶん、あたしのことを気遣っていてくれたのだろう。 アタシ自身も、あまり男性とセックスをす
Huling Na-update: 2025-07-09
Chapter: 第73話
「問題ないだろう? どうせ空には俺の子を産むことはできないんだ。別に結婚している意味なんてない。」  正輝さんは言葉を続ける。 きっと彼の中でわたしの意見なんてはじめから聞く必要なんてなくて、従順なしもべであることを期待している彼はわたしの反論なんて想像もしていなかったのだろうと思う。「だからと言って、その女の子どもは正輝さんの子どもと言うわけでもないんでしょう?」 予想もしていなかったであろうわたしの反論に少しだけたじろぐ正輝さん。 一瞬だけ息をつまらせたが、さすがの彼はそんなことでは躊躇しない。「結婚して、俺の子だということにすれば出産軽減税率の対象にもなるだろう? 今、俺も社長になって収入が増えたし、このまま高い税金払い続けるよりもその方が節税にもなるんだよ」「――だ、だからって、何でそうやって空良のことを追い出さなくっちゃ……」「別に俺は空良のことを追い出そうなんて考えてなんかいない。ただ、離婚するだけだ。理子(受付の女の名前だ)と結婚をするために…… それに理子とは別居婚にするつもりだ。だから別に空良を追い出す必要なんてない。今までどおりここで一緒に暮らせばいいんだよ。誰も損なんかしない。なあ、朋絵。お前からその…… 空良に話をしてもらえないだろうか。その……離婚についてだ」 ――わたしの中で正輝さんに抱いていた理想と言うか、憧れと言うか、そういったものが一度に崩れ去っていくのがわかった。 今は、結婚の話をしている。 愛についての話だ。 それを、彼はいつの間にかお金の話にすり替えた。 ――挙句。散々自分の好きなようにやって、めんどくさいところだけわたしに押し付けようとしているみたいだった。そもそも正輝さんにとっての結婚ってなに? 子供は税金を安くするためのツールでしかないの? あなたは本当に父親なのか? なぜ毎晩家に帰って早く我が子の顔を見たいと思わないんだ! 血の繋がっていない空良は毎日家に帰る度、いの一番に真斗の顔を見ているのだ。空良の方がよっぽど父親らしいじゃないか。 大体その受付の女の話は本当なのか? 本当だとしたらあんたはそのDV男の子を身ごもっている女を抱いていたのか?  想いは次から次へとあふれ出てしまいそうだったがそれらすべてを一度内に閉じ込めた。閉じ込めたうえで「分かった。空良に話してみる」とだけ返事をしておいた。 
Huling Na-update: 2025-07-09
Chapter: 第72話
「正輝さん。浮気しているでしょう?」 二人きりの時に思い切って質問したわたしの言葉に、正輝さんの答えはわたしの想像した以上の回答をした。「浮気じゃないよ。……本気だから」 聞けばどうやら会社の受付をしている若い女らしかった。何度かあったことがあるが、それはそれは嫌な女だった。普段仕事での態度はクールで仕事ができる女に見えなくもないが、イイ男を見れば色目を使って甘い声を出すいけ好かない女だ。 大学を卒業すると同時に見合いで結婚した旦那さんは結婚するやいなや彼女に対し暴力をふるうようになったという。離婚をしようと考えもしたが、そのことでまた暴力を振るわれるのが怖くて言いなりな生活をしていた折、暴力亭主の子を身ごもった。正輝さんはそのことで相談に乗っているうちにそういう関係になったという。「そのDV亭主とは離婚させようと思う。どうせそんな奴に彼女の子を養う能力なんてないだろう?」「……で? だからどうだっていうの? 正輝さんはどうしたいっていうの?」「どうしたいって…… わかるだろう?」「わからないわよ。そんなこと」「結婚しようと思う。生まれてくる子を俺の子と言うことにして」「正輝さんはもう、二人と結婚しているのよ。三人とはできないわ。こんな世の中じゃ不倫なんて言葉死語になりつつあるけれど、さすがに二人と結婚している正輝さんがほかの女性に手を出せばそれは不倫になるのよ」 めずらしく正輝さんが目を反らした。 いつもなら自信たっぷりで、横暴ともいえる理屈でさえもためらわず発言する彼のその行為はあきらかに自分に火があることを無視できない証拠だ。 黙ったまま横を向き、窓の外のなんでもない風景を見つめながらテーブルの上において手の爪先でコンコンと天板を叩いたのち、静かに彼は言った。「……空良とは離婚しようと思う」「え……」 はじめから、それが決定事項であったかのように、誰にも相談していないその結論だけをさっそうわたしにつぶやいた。 言ってしまって、彼の中で何かが吹っ切れたのだろう。コンコンと音を立てていた爪先を止め、ぐっと軽い握りこぶしに変えた正輝さんはようやくこちらに向き直り、わたしの瞳をぐっと見つめてきた。 まるで、わたしにその意見に同意することを求めるように…… それは、かつて恋をした力強い瞳。 恋愛に臆病で、積極的になれなかったわたしを否応なく引っ張ってきた瞳。 わたしは
Huling Na-update: 2025-07-09
Chapter: 第71話
 いつまでも出会ったころと変わらない恋人同士のままで…… 誰もがかつてはそう信じてやまなかったはずだ。 だがそれも子供ができるまでだ。わたしと空良は真斗を愛し、育児にいそしむあまり正輝と枕を並べる夜は目に見えて少なくなった。 それは空良にしても同じことだったようだ。わたしたち夫婦は互いに愛し合いはしていたものの夜の営みはなくなっていった。「正輝…… 浮気してるんじゃないかしら……」 ふいに空良がそんなことを言い出した。たしかに最近帰りが遅くなったというのはあるが、それはあくまで仕事が忙しいからだと疑うことすらなかった。正輝さんはその頃、会社の社長に就任していた。以前に働いていた会社の上司と共同で起こした小さな会社だったが、社長をしていたその上司はすべて正輝さんに任せると言って引退した。若くして会社を任された正輝さんが仕事が忙しくて奔走しているという話は頷けた。 帰りが遅く、食事も外で済ませることがほとんど。会社に泊まることも多く、家に帰らない日が続く。 空良もまた、浮気を疑いはしたもののそれ以上そのことに踏み込もうとはしなかった。 彼女もまた、仕事に面白さを感じるようになっていた。 子供が産めない体であることを会社に告白した空良は、次々と重要な仕事を与えられるようになった。 これまで、妊活の姿勢を崩していないと判断されていた空良はいつ出産を理由に退職するかわからないと思われていたふしもあり、長期にわたる企画にはあまり参加させられないでいたが、今回の件で会社はもともと実力のある空良にどんどんと仕事をこなしてもらうようになった。あるいは空良に同情して、少しでも多くのプロジェクトに参加させようとした会社の意向があったのかもしれない。 地方の小さな出版社で主に雑務ばかりをこなしていた空良にも、好きに書いてよい記事のスペースが与えられ、正輝さんがどこで誰と浮気をしているのか、気にもとめていない様子だった。その頃のわたしは育児をしながらずっと自宅で家事をこなしていた。外で働いている空良は仕事から帰り、まっさきに真斗の寝顔を確認する。空良と二人で食事をとって、その日一日の出来事を語り合い、子供の世話をする。子供の夜泣きには二人で対応した。 正輝さんが家に居なくてもわたしたちは真斗と三人で一つの家族として成立しており、不満を感じることもなかった。 空良が正輝さんの浮気を疑い
Huling Na-update: 2025-07-09
義妹とその母によるNTRのエチュード

義妹とその母によるNTRのエチュード

両親の再婚で義理の兄妹になった二人、しかし義妹は父の愛人で、それを知る義母は義妹を寝取ってほしいと言ってくる しかし、性の経験のない主人公にはそれは難しい。義母は主人公にセックスレッスンを始めることになる
Basahin
Chapter: 義妹と新妻のカンタビレ3
「ねえ、それって浮気なんじゃないの?」「ちがうよ。これはひとつの生理現象みたいなものだから」 美和の言葉を必死で否定する。 学校の昼休み。渡り廊下の影で美和と同じ弁当を並べて食事をする。茉莉が学校に行かなくなってからは美和と二人で昼食をとるようになった。以前は俺と茉莉が同じ弁当であることを見抜き、二人の関係を疑った美和が、今では俺と同じ弁当を並べて食べているというのだから数奇なものだ。 無論二人は恋人でもなければ、将来的にそうなる可能性もない。美和は俺の妻の親友だし、今となっては俺の家族であると言っても過言ではない。 弁当を食べながら、昨晩見つけた面白い動画を保存しておいたものを美和に見せている時に、つい間違えて別に保存しておいたえっちな動画を開いてしまったのだ。 それを美和は、浮気だと言ってくる。「だって蒼は茉莉じゃない女の裸を見て、エッチなことをしているってことなんでしょ?」「いや、男にとってそれは生理現象みたいなものだから、定期的に抜いておかなきゃいけないんだよ。茉莉とセックスするわけにもいかないだろ?」「それはわかってるわよ。でもさ、それなら茉莉の裸を写真にとって、それで処理すればいいでしょ。なんでほかの女でしちゃうかな」「いや、だってそれは罪悪感にさいなまれるだろ。その、茉莉をそういうことには使いたくないんだよ」「そういうことって?」「つまり、性の処理っていうか……恋愛感情の伴わない性欲のはけ口に好きな人を使いたくはないんだよ」「その考え方は理解できないなあ。アタシだったら、恋人がエッチな妄想するなら、自分をオカズにしてほしいと思うんだけどな」「茉莉も、そうなのかな?」「さあ、それはどうだろ?直接本人に聞いてみれば?」「聞けるわけないだろそんなこと」「まーそーだよねー」 美和はつぶやきながらウインナーにかじりつく。黙って咀嚼しながら、思いついたように言う。「じゃあ、アタシをオカズにする?」 思わずむせ返り、慌ててお茶を流し込む。「それこそ罪悪感がヒドイだろ。できるわけがない」「なんでよ。その理屈じゃ、アタシのことが好きみたいになるでしょ?」 正直なことを言えば、美和をオカズにしたことは今まで何度だってある。美和ははっきり言って可愛いし、だからと言って恋愛感情を向けている相手ではないから気兼ねなくオカズにできる
Huling Na-update: 2025-04-09
Chapter: 新妻と義妹のカンタビレ2
 俺がベッドに入ったのは深夜をずいぶんすぎてからだ。 俺と茉莉は同じ部屋の同じベッドで寝ている。 ずっと寝ていたという茉莉も、体調がすぐれずにいたために眠っていたのだから、俺がベッドに入る時に一緒に布団に入った。隣りに眠っている茉莉の体温が、吐息が、時折少しだけ触れる肌が、俺の心を落ち着けてくれない。 妊娠初期にセックスができないというわけではないらしい。だが、もちろんそれなりに負担もかかることは事実だ。当然茉莉だって妊娠の経験なんて初めてだろうし、不安もあるだろう。だから、どちらから言うわけでもなく、互いにセックスはしないという取り決めが交わされていると言っていい状況だ。 ネットを調べてみる限りでは、女性の体は妊娠中にはセックスをしたいと思う気持ちは少なくなる。あるいはまったくと言っていいほどなくなるらしい。 だが、男である俺として、それは関係のないことだ。 いや、そもそも、茉莉のおなかの中にいる子供は俺の子供ではない。 マウスの実験では、オスのマウスは子育てをしているメスのマウスを見つけると、子供のマウスを殺してしまうという。それはどうやら、子育て中のメスのマウスは、目の前にオスのマウスがいても発情しないからだという。 人間のオスにも、この感情が全く働いていないわけではないと思う。義理の父が、子を虐待するという事件は極めて多く、そのことを考えれば自分だってその可能性がないわけではないとは言い切れない。だが、そんなはずではないとは思いたいが、いったい俺は何を考えているのだろうと頭の中を振り払う。 いや、振り払わなかったほうがよかったのかもしれない。 振り払ったことで、今度はさっき見た美和の裸を思い出し、頭から離れない。 そうだ。たぶん自分は溜まっているんだと思う。 こんなつまらないことで頭の中が猥雑な思考に占領されてしまうというのだから男と言う生き物は実にくだらない。 所詮俺の脳みそはちんこでできているようなものなのだ。 いくらきれいごとを並べても、自然と頭の中はそれに支配され、理性を失い、支配されてしまう。 ――なんだったらアタシがヌいてあげようか? 美和の言葉が頭の中を駆け巡る。 情けない。 いつの間にか俺の下半身が充血している。 気が気でいられない。 茉莉の寝息を聞きながら、そっとベッドを立ちあがる。 いったんトイレに行って、ヌくものを抜ヌなければな
Huling Na-update: 2025-04-09
Chapter: 新妻と義妹のカンタビレ1
「ごめん、今日つわりひどくて……」 いつもはみなの朝食を作り、弁当までを持たせる茉莉が体調不良を理由にベッドから起きてこなかった。「いいよ、気にしなくて。アタシに任せてよ」 美和の言葉に「たすかる」とだけ言い残し、もう一度毛布をかぶった茉莉を部屋に残し、朝食と弁当の準備をする美和の手伝いをすると申し出た。 元々は家で料理をしていたのだし、アルバイトで飲食店で働いたことだってある。足手まといになるとまではいかないだろう。 美和に対しては感謝の気持ちと申し訳なさから手伝うと言ったのだが、「そう言うセリフはさ、普段茉莉が家事をしている時に言うもんだよ。健康なアタシになんて気を遣わなくていいんだからさ、気を遣うなら、つわりと戦いながらも家事をこなしてくれているいつもの茉莉に気を遣いなよ」 確かに美和の言うとおりだった。茉莉は妹として家にいた時からずっと家事をしていて、そのスキルだって自分よりも高い。アルバイトをしている自分に対してしていないけれど、お小遣いをもらうからという理由で茉莉が家事全般をこなしていたことを受け入れていたのだが、今となってはその理由は全く関係ない。にもかかわらず、かつての生活の慣れで、つわりを押し殺してまで家事をこなしてくれていたというのに、感謝をするどころか手伝うとも言わなかった自分に情けなさを感じた。 とはいえ、今手伝うと言い出した美和の手伝いをしないという選択肢はない。茉莉の手伝い(いや、手伝いというのもおこがましいのかもしれない。自分の食べる朝食に、自分の食べる弁当の準備だ)をしながら、朝の準備をすませる。家を出る直前に起きてきた碧さんに、朝食と弁当を渡し、美和と二人で家を出て、学校へと向かう。「中西はまだ休んでいるのか? 体調、そんなに悪いのか?」 山岸の質問に「うん、ちょっと風邪をこじらせているだけだよ。もうじきよくなると思う」 とだけ返事をする。 本当のことを言うのはまだまだ先伸ばしするべきだろうとは思う。いや、いっそのこと本当のことを言う必要なんてあるのかどうかもわからないけれど、ともかく今はまだ、そんなあやふやな状態ですませている。「アオ、お昼いこーよ」 と美和がやって来る。「なんで、中西が休みだからって、いつもお前が一緒に飯を食うんだよ」 という山岸の疑問はもっともだ。「これは茉莉からの言いつけなの、茉莉が休みの間にアオが誰かと
Huling Na-update: 2025-04-09
Chapter: 義母とその娘のカノン
「碧さん、これからしばらくパパの部屋使わせてもらうから。客室として。いいでしょ?」 そう言いながら義娘の斎藤美和が言った。 訳ありの友人をしばらくこの家に住まわせるそうだ。「住まわせてもらっている身のアタシがとやかく言うことじゃないわ」 その言葉を聞いて美和は友人を孝之の部屋へと通した。 斎藤孝之はアタシの二番目の夫だ。孝之はアタシと同じで離婚歴がある。美和は前妻の娘で、二年前に孝之が亡くなった際にその遺産のすべてを相続した。後妻であるアタシに一円の財産も残さなかったことに不満はない。きっと孝之は妻という存在を信用していないのだ。つまなんて言うものは所詮血のつながっていない赤の他人で死かなと考えているのだろう。 だから遺言書には前妻にも一円たりとも残すことなくすべてを美和に託した。 前妻は一度遺産を分けろと怒鳴り込んできたこともあったが、それは美和が追い返した。「今更どの面下げて帰ってきたんだ」と激しく罵声を浴びせた。 だけど美和は居場所をなくし、路頭に迷うはずだったアタシをこの家にずっと住んでいいと言ってくれた。アタシは家事もろくにできないダメな妻で、美和にすればここに置いておくメリットなんてないはずだ。 それなのに、血のつながった実の母を追い返し、血のつながっていないアタシにここにいることを許したのは、どういう考えなのだろうかと思うことはある。もしかすると実の母に対して、アタシをここに置いておくことがひとつの見せしめなんじゃないかと思うこともある。 まあ、そんなことはどうでもいい。アタシとしてはここにおいてもらえているというだけで美和には感謝しているくらいだ。 美和の連れてきた友人、中西茉莉。どうやら彼女は妊娠しているらしい。一緒にやってきた男がその子の父親なのだろう。 中西茉莉という子はなかなかにいい子のようだ。料理もうまいし美人でもある。 その子をはらませてしまたという男の子、彼らの話を聞いて息が止まりそうになった。 その男の子の名前は『折田蒼』というらしい。 とても偶然だとは思えない。 今から約二十年前、アタシの一度目の結婚は社内恋愛でそのまま結婚し、子供を産んだけれど、どうにも家事や育児と言ったものに向いていない性格らしく、育児ノイローゼにかかってしまい、生まれて間もない子供を置き去りにして離婚した。それからもう十五年間、一度も会っていない。 そ
Huling Na-update: 2025-04-09
Chapter: 義妹たちによるノクターン4
  バイトを終えて家に帰り、茉莉と手紙のことについて話し合った。 芹香さんが俺にあてた手紙の中で、俺と芹香さんの関係について触れていなかったことは意図的だろう。おかげで手紙と通帳をそのまま渡すことができた。そしてこのとは、今の家主となっている美和にも相談しないわけにはいかないだろう。 リビングの隅には美和の義母でもある碧さんがいたが、話はそのまま進めることにした。 同居人となっている碧さんにも話を聞く権利があるし、聞いておいてほしい話でもある。「つまり、お金の心配はないから早々にここを出て行く、ということなの?」「なるべく迷惑をかけるわけにはいかないから、早いうちにそうするべきだとは思っているんだ。だけど、高校生の俺たちの名義でアパートを貸してくれるところはなかなかないだろうから、すぐにはむつかしいと思う」「あのさ、そりゃあふたりが新婚生活をイチャイチャしたくて二人きりになりたいという気持ちはわかるよ」「いや、別にそういうわけでは」「ごめん。それはちょっとした厭味なんだけどね。でも、あたしとしては、できることならもうしばらくは、いや、ずっとでもいいからここで一緒に住んでもらったほうが嬉しいとは思うのね。前にもいったけど、あたしは一応天涯孤独で寂しい立場でもあるんだ」 奥の方で話を聞いていた碧さんが口を挟む。「ちょっとおばさんに口出しさせてもらうよ」 そう言いながらカウンター席を立ちあがり同じダイニングのテーブルにつく。「まあ、そんなに急いでここを出て行く必要はないんじゃないかなってアタシも思うよ。まだ学校に通うならいろいろとやることも多いだろうしさ。それに何よりまつりちゃん、だっけ? 子供育てたことないでしょ? 案外大変なのよそれがさ。助けてくれる人は一人でも多い方がいいわけ。だからさ、少なくとも子供が生まれて、落ち着くまではここにいてもいいんじゃないかな」 たしかにそういわれれば一理あるように思える。そしてその言葉に美和が反応した。「あれ、そういえば碧さんって子供育てたことあるの?」「子供なら生んだことあるよ。でも、子育てはしていないかな。あまりにも過酷すぎてね、アタシは投げ出しちゃったんだよ。まつりちゃんにはそうはなってほしくないからね」「はっはーん。ちょっとわかったかも」「なにが解って言うのよ、美和ちん」「よ―するにあれでしょ。碧さんは子育てがしてみたいんじ
Huling Na-update: 2025-04-09
Chapter: 義妹たちによるノクターン3
香ばしい匂いに目を覚ました。隣を見ると茉莉はいない。日曜の朝だからと言って少々眠りすぎてしまった。眠い目をこすりながらリビングのほうへ移動すると。美和と茉莉がキッチンのところにいた。茉莉はテンション高めに俺に手を振ってこっちへ来るように呼んでいた。 そこには何やら茶色い大きな物体があった。香ばしい匂いの正体はこれだったのか。「ねえねえ、見てよ蒼。美和んちさあホームベーカリーがあるんだよ」「昔ね、一時期そういうのにはまった時期があったんだけど、それからしばらくずっとしまいこんでいたんだ。また使ってくれることになってこいつも喜んでいるよ」 美和はそう言いながら白くて角ばった保無ベーカリーの天蓋をなでる。「なんか、ペットをなでているみたいだな」 俺がふとつぶやいた。「やめてくれよ。それじゃああたしがずっと長い間ペットをほったらかしにしていた悪い飼い主みたいじゃないか」「いやごめん、そういう意味で言ったんじゃなくて、なんか、かわいいなって」「か、かわ……」 俺としては決して変なつもりで言ったのではないが、美和は思いのほか照れてしまった。そしてそれを見た茉莉が、「あー、蒼君、今の発言は浮気だよー」と冗談めかして言う。こういうの、悪くないなと思ってしまった。 茉莉が焼きあがった食パンを手で割いていく。真っ白でふわふわとした生地が湯気を上げる。食べる前からそれがおいしいということがわかる。 つい先日に人生の修羅場のような窮地を経験したばかりなのに、美和のうちに来た途端に打って変わってほほえましい状況が続く。たぶんこれからの生活は大変なものになるだろうけれど、きっと幸福に違いないと思えた。「なあに、蒼。さっきからにやにやして」「いや、なんかさ。こういうの新婚生活みたいでいいなって」「えへへ」「ちょっと、あたしがいること忘れないでよ。なにいちゃついてんだか」「なあに、美和。妬いちゃってるの? 何なら美和を第二婦人にしてあげてもいいのよ。やったね、蒼。ハーレムだよ」「おい、なに勝手なこと言っているんだ」 朝食から談笑が絶えない朝だった。 しかし、楽しんでばかりはいられない。親の庇護から逃げ出した俺たちには、現実が突き付けられるのだ。 朝食を終えると、アルバイトへと向かう。 おそらくこれからはアルバイトの量を増やし、生活を支えて行かないといけないだろう。高校も、中退するしかないとい
Huling Na-update: 2025-04-09
放課後のメリーさんが、リョウメンスクナを連れてきた

放課後のメリーさんが、リョウメンスクナを連れてきた

旧校舎の部室で一人読書にふける文芸部員、高野聖(たかのまこと) 軽音楽部の歌姫、伏見ななせ(ふしみななせ)とその部員 学園七不思議の秘密を追うオカルト研究部の上田麻里(かみだまり) それぞれの思いが絡まる学園ラブコメミステリ
Basahin
Chapter: 7DAY 月曜日 わたし麻里。今、あなたの後ろ
 土曜日。まだ、夜も明けきらないうちに訪問者があった。「ごめん。起こしちゃったかな?」「いえ、大丈夫です。今日は朝早くから予定があったので、早く起きていました」「そう、マコトとデートだものね」「伏見さん、知っていたんですか?」「うん、マコトから聞いたの!」「あ、あの……もしかして……怒ってます?」「怒る? なんで? ああ……そういうこと? ううん、気にしなくていいわ。それよりこれ」 伏見さんが渡してくれたものは、今日予定している河童捜索に持って行くお弁当だった。「そんな、そこまでしてもらうなんていくらなんでも……」「ううん、気にしないで、好きでやってるだけだから!」 それは、言ってみれば強者ならではの余裕のようにも感じた。『好きでやっているだけ』という言葉の意味は、たぶん高野君のことが好きだからやっているだけ。わたしのほうが、おまけなのだと言っているのかもしれない。所詮わたしなんかが高野君と出かけたところで、気にするほどのことでもないと言っているのかもしれない。 伏見さんからお弁当を受け取り、昨日のカラになった二人分のお弁当箱を渡す。 ――たぶん事実そうなのだろう。高野君はいつだって、伏見さんのことしか見ていない。だからわたしは決めたのだ。 この日の河童池の捜索を、最後の思い出にしようって…… そして、この日はいろいろあった。その中で、、一番大事だったこと。 それは、高野君がサンドイッチをおいしいと言ってくれたことだった。 たぶん、これが最初で最後かもしれない。 高野君と伏見さんが相思相愛で、わたしなんかじゃどうにもならないことを知っている。 伏見さんは料理上手で、きっと彼女の作ったお弁当はとてもおいしいのだろう。 でも、これは最後の戦いだった。 わたしは下手なりに頑張って早起きをして、今日のこの日のためにサンドイッチを手作りしたのだ。伏見さんがお弁当を持ってきてくれたけれど、それは家に置いてきた。 だけど、高野君はわたしの作ったサンドイッチをちゃんとおいしいと言ってくれたのだ。 その瞬間に、思わず涙があふれてしまった。――最後に、ちゃんといい思い出が作れたんだと。 伏見さんがわたしのアパートに訪れたのは夕方になってからのことだ。伏見さんの体調もすっかり良くなっているらしく、マスクもしていない。今日一日あったいろいろなことを話したくて、部屋に上がってもらい、
Huling Na-update: 2025-04-09
Chapter: 7DAY 月曜日 上田麻里
 上田麻里の一週間 あきらめないことにした。 希望なんてものもあまりなく、敵はあまりにも強大だ。わたしなんかには到底太刀打ちできないような相手なのだとこの一週間で思い知らされもしたが、それでももう少しだけあがいてみようとは思う。 月曜日の朝。いつもよりも少し早くに目を覚まし、髪を黒く染めなおして、色付きのコンタクトレンズを入れる。黒いレースの眼帯はポケットに忍ばせる。流石にまだすべてをさらけ出すのには勇気が足りないけれど、そのうちいつかは…… 鏡の中の自分を見つめながら、もしかすると、眼鏡をかけたほうがかわいいのかもしれないと考えたりもする。彼が文学的少女に属性を持っている可能性も十分にある。考えてみてもいいかもしれない。 鞄に自分で作ったお弁当を入れる。コンビニで買った総菜パンですますのはもうやめだ。きっと彼は料理上手な女の子のほうが好みだ。 玄関を開け、冷たい空気を胸いっぱいに詰め込み、ゆっくりと吐き出して深呼吸をする。 今日からが本当の戦いだ。 学校へと向かう金山の坂道を歩きながら、はるか前方に高野君の姿を見つけた。その隣には強力なライバルが寄り添う。歩む足を速め、少しでもはやく二人に追いつきたいと思いながら、この一週間を振り返る。 先週の火曜日、高野君が部室でホラー小説を読んでいるのを見かけた。少しうれしい気持ちと反面驚きもあった。高野君もオカルトとかに興味があるというのはチャンスかもしれない。 『学園七不思議を一緒に調べよう!』なんてイベントを思いついたのはその時だ。本当は七不思議なんてあるのかどうかも知らないのだけれど、要するに話をするきっかけがほしかっただけ。旧校舎の裏に稲荷の祠があってそこに油揚げをお供えすると願いが叶うという噂を耳にして、今日はそれを実行しようと油揚げを用意していたからちょうどいい。 少しだけれど、ふたりきりで話も出来たし、今日は自分をよく頑張ったとほめてあげたかった。 でも、ライバルはとても強い。 高野君と二人で39アイスを食べに行くのだと耳にした。わたしは負けじと39アイスに先回りした。甘いものは苦手だけれど、せっかくのスノーマンキャンペーンだからと、二段重ねを注文、しかしそれを食べ終わっても高野君はまだ来ない。食べ終わったのにずっとここにいるのは不自然かと思い、さらに追加で食べることにした。それから少ししてようやく高
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Chapter: 6DAY 日曜日 これは僕の勝手な推測だ
 眠りに落ちる前に、僕はパソコンを開き、インターネットに接続する。 『カクヨム』という小説投稿サイトに寄稿した記事に目を通してみることに。 先日投稿した『岡山のとある山にまつわる都市伝説について、情報がある方は教えてください』というエッセイのPVはかなり伸びており、多くの都市伝説の情報が寄せられていた。 まったく。僕が頭を悩ませながら必死で推敲した小説のほうはなかなか読んでもらえないのにこういうのばかりが数字が伸びるというのもなかなかに悩ましいものではある。 寄せられたコメントのいくつかは、とるに足らないようなコメントであったが、興味をそそるようなものもいくつかあった。それらをまとめると次のようになる。 ・どうやらあの、河童伝説の神田池のほとりにある家、あそこに住む家族の名前は神田と書き、読み方は「カンダ」ではなく、「カミダ」と読むのだそうだ。 ・神田家は代々あの金山を見守る巫女を世話する役割を与えられていて、人里離れたあの山奥で住んでいたそうだ。・神田家は呪われた一族であり、若くして髪の毛が真っ白な子が時折生まれたという。 ・山の上の巫女は、処女であり続けることが義務付けられており、そのため子孫はなく、新しい巫女は神田家のものがどこからか連れてくるのだという。  ・江戸の末期、最後となったカナヤマの巫女は、左右にそれぞれ赤と黒の違う色の瞳を持った美しい巫女だったという。しかし、世話役の神田家の息子と恋仲になってしまい、ふたりは山のお堂に火をつけて心中してしまったという。これを最後にカナヤマの巫女、と神田家の家は途絶えたのだという。 それともうひとつ、僕は一見別のものに思えるこの書き込みも、一連のエピソードではないかと考える。 ・明治に入り、金山の北のはずれに非常に当たると噂のまじない師が現れた。そのまじない師は若くして白髪、左右に赤と黒の二種の瞳を持つ美しい女性だったという。 これより先は、まったくもって僕の単なる考察に過ぎない。これらのうわさ話が、あくまですべて真実だと仮定し、そのうえでつなぎ合わせた、それはある種の創作とでも思ってくれていい。 江戸の末期、この辺り一帯で大規模な飢饉があった。食べるものさえままならない人々は口減らしのためにカナヤマの山中に子を捨てた。 あるいは、栄養不足などで遺伝子異常の子が生まれ、その子を不憫に思ったり、悪魔の所
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Chapter: 6DAY 日曜日 妖怪二枚舌は罪をかぶることにした
「なあ、天野。なんで僕がこんなことをしたのか、わかっているのか?」「それは、ライバルを蹴落とすためだろう」「ライバル……か」「そうだ。高野が伏見のことを好きなことぐらいはわかっている。だけど、伏見は俺たちの軽音楽部に入部して、高野といる時間は少なくなった。伏見は誰の目から見ても美人で、軽音部の皆が彼女のことを好きになりかけているということも見れば誰にだってわかることだ。それが面白くない高野は、俺達軽音部をつぶそうと画策した。違うか? だけど、そんなことを心配する必要がどこにある。井上や河本が、いくら伏見のことを好きになったところで、お前相手に勝てるようには思えない。杞憂というものだ」「いや、まあこんなことを僕が自分で言うのは鼻につく言い方かもしれないけれど、僕だって井上や河本になんて負けるなんて思ってなんかいないよ。天野、なんで自分だけをそこから除外したんだ? 悔しいけれど、ルックス的にも才能的に見ても、一番手ごわそうなライバルは天野なんじゃないのか?」「俺のことは無視してかまわない。俺は伏見のようなしたたかすぎるオンナは苦手でな」「おまえとは相いれないな。ななせは、したたかすぎるからこそ魅力的なんだ」「だったらお前ら、早く付き合えよ。言わせてもらえば、俺としても高野が一番手ごわいライバルなんだよ」 ――なるほど、そういうことだったのか。言ってしまえば天野も、自分が見たい世界を見ようとしていたにすぎないのだ。だけどそれとこれとは、根本的に話が違うのだ。 天野は天野で自分の想いを伝えるために、昼休みや放課後に窓を開けてわざと大きな音であの歯の浮くようなバラードを上田に聞かせていたのだろう。しかしそれがかえって僕たちの気分を害してしまうきっかけとなった。「なあ、天野。恥ずかしい告白をさせてからこんなことを言い出すのもアレなんだが、僕の目的は静かな放課後を取り戻したいだけだったんだよ」「静かな放課後?」「読書に快適な、静かな旧校舎でのひと時」「……」「軽音部が旧校舎にやってきて、初めのウチは演奏の音がそれほど気になってはいなかったんだけど、日に日に少し様子が変わってきた。アンプの音量はどんどん大きくなるし、窓を開けたりして、まるでわざと周りに音を聞かせているようにも感じた。 僕としては、それが少々不愉快だったところもあるんだ」「そう……だったのか、それは悪かったな。
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Chapter: 6DAY 日曜日 アマビエは、この疫病を終わらせる
 最近になってよく耳にする妖怪に『アマビエ』というやつがいる。 長い髪にとがった口、キラキラした目にうろこの体、そして三本の足。 そのイラストは今や知らない人は誰もいないと言われるほどで、ことの発端は世界的に流行した病に対し、そのアマビエのイラストを貼っておくと病が収まると言われたことだ。 そのつぶらな瞳に人々はかわいいと感じ、しばしば長い髪から連想されやすい女性のイラストとして登場することもある。 しかし、騙されてはいけない。アマビエはおそらくオスである。アマビエの正体は『アマビコ』(阿磨比己)である。 アマビコという妖怪はいわゆる予言獣で、猿のような毛むくじゃらな体に三本の足。海から上がってきて人に予言をするのだ。『間もなくこの国に疫病が蔓延する。我を書いた絵を貼っておけばその難から逃れられる』 このことを受け、巷で多くの民がこのアマビコの絵を買い求め、家に貼った。 おかげで多くの瓦版屋の懐が潤ったことだろう。 それは京都の瓦版屋も例外ではない。 都である京都の多くの民がこのアマビコの絵を掲載された瓦版を買い求め、家に貼るというのは他と同じである。 しかし、その瓦版に書かれていた〝コ〟の文字が〝ヱ〟と紛らわしかったのだ。京都の町で多くの民が手に取ったその瓦版に描かれていた絵というのが有名なあの『アマビエ』の絵であり、京都の町では『アマビヱ』として伝わった。  まあ、名前なんてどうでもいいことだ。アマビコだろうがアマビエだろうが、皆の間に流行ってしまった病を治めてくれるというのならば、それにすがることに異はない。 日曜日だ。明日からはまた学校が始まる。 思えばこの一週間はいろいろあった。 そしていまだ、それらのすべてが解決したわけでもなく、それを抱えたままで明日から過ごすというのは難儀なことである。 いや、そもそもこんなことになってしまったのは、僕にだって責任があるのだ。 だからと言って僕がすべてを解決することのできるような優れた人間ではないということは言うまでもないし、だからそう。 この状況を誰かが何とかしてくれないかなと甘えたことを考える日曜日の朝に、僕のところにめずらしい相手から連絡がきた。『少し話したいことがある。今日、少し時間を作れるか?』 軽音楽部の部長、天野からだ。 長髪で丸眼鏡、少し気取った態度のナルシストタイプの天野が、実は少し苦手ではあ
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Chapter: 5DAY 土曜日 ハーメルンの笛吹
 僕が子犬に近づこうすると、子犬は自分のくわえているそれを奪われるとでも思ったのか、小走りで逃げ出し、脇にあった入口とは別の小さな横穴に入って行った。その場を追いかけてみたけれど、流石に横穴は小さすぎて人間では入れない。横穴にスマホを差し込みライトを照らしてみると、どうやら上のほうに続く縦穴になっているようだ。 その先が、どこにつながっているのか? それは意外にも簡単に想像がついた。子犬が走って逃げたと入れ違いに滑り落ちてきた筒状の金属。僕はそれに見覚えがある。 安物ではあるけれど、災害時などに持っていると便利だろうと買っておいたLED式の懐中電灯だ。 昨日、上田と旧校舎の裏山に行き、その時に井戸らしき場所に落としてしまったライト。それがここにあるということは、おそらくこの場所はちょうどあの井戸の底だということだ。いや、そもそもここは井戸なんかではなかったのかもしれない。この神田池から巫女の住む社へと続く通路。神田池で汲まれた水をこの通路を使って持ってあがっていたのかもしれない。長い年月使用されずにそのほとんどは土で埋まってしまっているが、まだわずかな隙間があり、あの子犬が通路として使っていたのだろう。おそらく子犬はこのボロイ廃屋に住み着いていて、この通路を通って、あの裏山の広場や旧校舎の稲荷のあたりまで餌を探してさまよっているのだろう。 LEDの懐中電灯を拾い上げスイッチを押すとスマホよりもだいぶ明るい光が手に入った。 昨日落した時にはついていたはずの照明が消えていたのでてっきり壊れているかと思ったが、どうやらここまで落下してくる間にどこかでスイッチが押されてしまっただけのようだ。「どうしたんですかそれ?」「昨日あの井戸に落としたライトだよ。ここに落ちていた」「それってつまり……」 上田が何かを言いかけたとき、僕は懐中電灯をさっき子犬が土を掘り返していたあたりを照らす。「ひいぃ!」 オカルト好きのはずの上田もさすがにこれには声を上げずにはいられなかった。 僕は先ほど犬が何か白いものをくわえているのを見たときに、あれは骨だったのではないかと感じたので、それなりの心構えはあった。 だけど、まさかこんなにもヒドイと思っていなかったのでさすがに息をのむ。 小犬が掘り返していたあたり一面、土の中にぎっしりと敷き詰められた人骨。いったい、何人分のものだろう? 多すぎてとても
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呪い呪われ、恋焦がれ

呪い呪われ、恋焦がれ

オカルト研究部の上田麻里は同じ旧校舎の文芸部員、高野聖のことが好きだ。県北部にある呪掛けで有名な神社に呪いを掛けに行こうと誘う。  そこで偶然出会った恋のライバル伏見ななせに出会い、付いてくることに。  呪いの藁人形を打ち付けているところたまたま同じ高校のサッカー部員を名指しした人形を見つける。  後日、件のサッカー部員は呪いの通りに怪我をする。  伏見ななせは、これは事件だと言い張り、呪いをかけた犯人を探し出そうと高野に提案する。  犯人を見つけたところで呪いでは罪に問えないという高野だが、伏見はそんなことはお構いなし。  事件を解決していく中で様々なサッカー部員と女子マネージャーたちの恋が絡まっていることがわかる
Basahin
Chapter: あとがき
 この物語は、いったんここで終わります しかし、事件の真相がすべて語られているわけではありません。 この物語の裏には、もう少し複雑な事情が絡んでいるようです。 ――真実は、いつもひとつとは限らない。 それについては、またいつか近いうちに…… 
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Chapter: 第14話 真相
「その……助けに来てくれて、ありがとうございます」「いや、僕の方こそ遅くなってごめん」「いや、ほんと。逃げだしたのかと思いました」「掃除道具入れの扉がなかなか開かなかったんだ。建付けが悪いみたいで。流石に、あれに素手で立ち向かうのは無謀かと思って」「デッキブラシ……あんまり役に立っていませんでしたね」「初めの一撃をそらせただけで十分に仕事はしたよ」「腕、大丈夫ですか? 殴られてましたけど、折れたりしてません?」「こうみえて、僕はそれなりに丈夫なんだ。それに、もし折れていたとしても女の子の前で折れていると泣き言をいうような軟弱じゃあないよ。そのくらいの見栄は張る」「そんなこと言って、本当は木梨君と一緒に診察を受けるのが嫌なだけだったりして」「ぐ……。いいかい、僕は女の子の前では見栄を張るんだ。だから女の子はそれを見抜いてはいけない。もし見抜いても、口に出してはいけないよ」「そうですか。それは残念です。もしわたしのせいでけがをさせてしまったのだとしたら、わたしもわたしなりにお詫びをしないといけないかと思っていたんですけど……」「あ、腕折れたわ。これ、完全に折れてるな。まいったなー」「とは言っても、わたしにできることなんてあまりなくて……。体で払うというのでは、ダメですか?」「あー、腕治った。うん。今完全に治ったわ。ありがとう。いろいろと気づかいしてくれて。でも、もう大丈夫みたいだ」「ねえ、それってちょっとひどくないですか?」「ヒドイのはどっちだよ。思春期の男子ってのはな、そういう冗談をわりと本気にしてしまうんだ。それを見て面白がるというのはずいぶんとたちが悪い」 ――それを、冗談だとして受け流すのだってたちが悪い。そういうの、思春期の女の子は割と傷ついてしまうというのに……「でも、ありがとう」 聞こえないくらいに小さな声でつぶやく。「ん?」「なんでもない」「そうか……」「それにしても、どうして犯人が木梨君だとわかったのですか?」「うん、まあ、いろいろあったけれど、最終的に決め手となったのはあの三色ボールペンだよ。 あのボールペンはおそらく犯人が藁人形を打つ時に落としたもので、赤のインクがなくなっていた」「でも、それがどうして?」「木梨が見せてくれた、あの緋文字のルーズリーフがあっただろ? おそらくあれを書いたことがきっかけで三色のうちの赤のインクだけがなくなってしまっ
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Chapter: 第13話 対決
『今日、あなたの髪の毛を数本お預かりしました。 あなたの持っている伏見ななせの髪の毛と交換してはいただけないでしょうか? 学校近くの○○公園で待っています。もし、午後十時までに来ていただけないようでしたらお預かりしている髪の毛は私用に使わせていただき、かつ、すべての事情を関係者全員に報告させていただきます。 交換に応じていただければ、今後一切において他言無用とすることをお約束します                          二年 黒魔術研究部所属 上田麻里』 犯人あてに長めのメールを送信する。そもそも犯人が伏見ななせを襲った理由は、事実を皆に知られたくなかったからだ。それを、こうして皆にばらすというのであれば従わないわけにはいかないだろう。 あえてわたしの名前を提示したのは、相手を油断させるためだ。 約束の公園に到着。この公園はその周囲を生け垣が覆っており、外から中が見えにくいばかりか、その逆もまたしかりである。日が暮れた後は薄暗いためあまり人は寄り付かない。 わたしはブランコのところで座って待ち、高野君は少し離れた公衆トイレの入り口の目隠し裏に隠れて待つ。公園の入り口は二つ、南北それぞれにあるが、このブランコの位置からならその両方の場所がしっかりと見える。逃げるにしても生け垣が邪魔をするため、この出入り口を使うほかないだろう。 犯人が到着したところで高野君が後ろから回り込み、逃げ道をふさぐことになっている。  犯人は間もなくして現れた。公園の南側の入り口からゆっくりと歩いて入ってくる。わたしの存在を見つけ、わき目も振らず、ゆっくりとねめつける様に近づいてくる。 静かな公園の中を、ずりずりと何かを引きずる音がする。 高野君は、もしかすると事態を甘く見すぎていたんじゃないだろうか。犯人は金属バットを引きずっているのだ。 無理もない。彼にとって事態は甘く見えたものではなく、すべてが露見してしまうのならば手段は辞さないつもりらしい。わたしはすぐにでもその場から逃げ出したかった。 しかし、高野君が守ってくれると言ったのだ。とはいえ、何も武器など持っていないはずの高野君に、金属バットを持つ犯人からわたしを守る力はあるだろうか。体格にしても、おそらく犯人は高野君よりもがっちりしている。 犯人はわたしのすぐ目の前に到着する。金属バットを持ち上げて、肩に担ぐ。威嚇する
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Chapter: 第12話 犯人推理
 伏見さんを見かけ、ちょとした事件が起きたものの、進藤先輩のその一言で一件は落着したかのように見えた。 病院を出て、伏見さんと高野君とは解散して、ひとり帰路についたころに電話が鳴る。『上田。僕だ、高野だ。今からちょっといいかな。手伝ってもらいたいことがあるんだ』「全部、終わったんじゃないんですか?」『このまま終わらせるわけにいくかよ。ななせが、襲われたんだ。このまま見逃してやるわけがない。でも、ああでもしないとななせはまた首を突っ込むだろう? あいつをこれ以上危険な目に逢わせたくはないんだよ』「わたしなら、危険な目に逢わせてもいいと?」『信頼してるんだよ、上田のこと。それに危険なんかじゃない。僕ががちゃんと守ってやるから』 ――まったく。信頼しているだなんて、なんてひどい呪の言葉だろうか。そんな呪を掛けられれば、協力しないわけにはいかないじゃないか。 それがたとえ、恋のライバルのための行動であっても、わたしは高野君の信頼に答えたいと思うのだ。役に立ちたいと。 まったく。彼はシンドウ先輩のことをどうこう言えた立場じゃないことを理解しているのだろうか? 大丈夫。高野君が守ってくれると言っているのだ。何を恐れる必要があるだろうか。 これは呪いの言葉なんかじゃない。純愛だ。間もなく高野君がわたしのアパートへやってきた。狭いテーブルに向かい合って座り、「ひとまずここまでの話を整理しよう」と言ってきた。高野君は伏見さんから預かっている手帖と三色ボールペンを取り出し、これまでのいきさつを話してくれた。今日の放課後、伏見さんと高野君の二人で関係者に聞き込みをして、その後伏見さんが一人になったところを襲われた。おそらく犯人は今日接触した人物の誰か。サッカー部の三人のマネージャー。花宮、海山、木梨。それと海山の恋人樫木の四人だ。花宮は被害者である進藤とは幼馴染、どうやら以前付き合っていたこともあるようだ。海山は以前、進藤から言い寄られていたが、海山が樫木と交際するようになり、現在進藤は木梨と付き合っているが、ふたりの仲は秘密になっている。「ななせの証言によると、襲った犯人は身長が一七〇前後といったところらしい。もちろん、はっきり見たわけではないのでどのくらい信頼できるかは定かではないけれど」「花宮さんは、華奢だからそんなに大きなイメージがなかったけれど、それは進藤先輩と一緒に
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Chapter: 第11話 キャプテン進藤
まったくもって、これは僕の失態だった。やはり犯人は軽い気持ちで呪いをかけ、本当に進藤さんが怪我をしてしまったことに畏怖してしまったんじゃないだろうか。自分のせいかもしれないと感じているところに、僕らが余計な詮索をしてしまったがために、犯人は己の身を護るためにななせに危害を加えて沈黙させようとしたのではないだろうか。呪が実在するかどうかはさておき、実際に進藤さんが怪我をしてしまったことで犯人は自分のせいかもしれないという念に駆られ、それがばれてしまうのではないかという恐怖と向き合わなければならなくなってしまった。それば、いわば自分自身に呪いをかけてしまったと言えるのではないだろうか。人を呪わば穴二つ。呪いをかけるものはやはり自分にそれが返ってくることがあるのだ。――自分のせいかもしれない。総合病院に急ぐ自分自身に、その言葉が返ってくる。思えばあの日、上田の用意した藁人形に僕とななせの髪の毛を入れてしまったのだ。もし、呪いなんてそんなものがあるとすれば、ななせが襲われたのはやはり自分のせいだ。そうでなくとも、僕がちゃんと最後までついていてやれば、いや、もっと早い時点でこんなことに首を突っ込まないように言っておけば、こんな事態は避けられたのかもしれない。総合病院の待合室、首にコルセットをつけたななせと、彼女に寄り添う上田の姿があった。上田が偶々眼科の診療のため訪れたところで、病院の近くに倒れていたというななせが緊急搬送されてきたというのだ。「ごめん、マコト。余計な心配かけちゃって。たいしたことないんだよ。こんなコルセットなんてしてるけど、念のためっていうだけで、明日は普通に学校にも行けるから」 平常を取り繕うとしているが、実際に襲われて平気なはずがない。怪我こそそれほどではないにしても、メンタル的な問題のほうが重要だ。「いったい何があったんだ?」「うん、実はね……」 ななせの証言をまとめるとこういうことになる。 今日の放課後、僕と口論になり、ひとりになったななせは再び花宮さんのところに行き、進堂さんが入院しているというこの病院のことを聞いた。そしてななせは一人ここへ向かっている道中で後ろから何者かに襲われたらしいのだ。 いきなり首の後ろを鈍器で殴られ、意識がもうろうとなり、振り返ったところにサングラス、マスク、帽子で顔を隠し、夏にもかかわらず体型のわかりにくい上
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Chapter: 第10話 副キャプテン樫木
「今の内よ。カシワギ君に話を聞いてみましょ」 ななせに従い休憩している部員たちのもとへ行く。「あの、カシワギ君。少し話をしたいのだけどいいかな?」 不意に話しかけられた樫木は少し驚いた様子できょろきょろとあたりを見回す。海山さんと視線を合わせ、何やらアイコンタクトした様子で立ち上がり、皆が休憩している場所から離れた。僕らの一行を少し離れた場所から海山さんが心配そうに見ている。「ごめんね、そんな緊張しなくてもいいのよ。アタシたち、今、進藤先輩のことでみんなに話を聞いてるの」「はあ……でも、なんで俺に? 部員ならほかにもたくさんいるのに」「それは、カシワギ君が海山さんと付き合っているからよ」 ななせは、樫木に呪いの藁人形のことを話した。「アタシはね、犯人は女子生徒じゃないかって思っているの。わかるでしょ?」「そりゃあ、まあね。進藤さんは多くの女子から好かれ、多くの女子から恨まれている」「そこで、疑いの深い人から順に話を聞いているわけだけど、それで、海山さんとカシワギ君が付き合っていると聞いて少し聞きたいことがあってね。そのことで、海山さんにもかかっている容疑が晴らせるかと思って」「まあ、そういうことなら……」「じゃあ、質問ね。海山さんと付き合うようになったいきさつは?」「え? それって必要なこと?」「そうね。シンドウ先輩は海山さんにしつこく迫っていたらしいじゃない? そのさなかをカシワギ君は割って入り、海山さんと交際を始めた。そのことで、シンドウ先輩から嫌がらせを受けたりはしなかった? あるいはそのことで、カシワギ君がシンドウ先輩に対して恨みを持ったりはしなかった?」「それって、俺も疑われているってことじゃないっすか?」「可能性はゼロではないと思うわ。だから、そのあたりのことを正直に教えてほしいの」「まあ、そういうことなら仕方ないけど…… 海山がサッカー部のマネージャーになったのは去年の夏くらいかな。全国大会に行く少し前で、あの時は人手が足りないからってすぐにマネージャーとして入部が認められたんだ。俺としては海山はもろに好みのタイプで、最初のころからずっと気にはかけていた。でも、まあ、なかなか積極的にはなれなくて、それでも少しずつは距離を縮めてたんだ。 進藤さんだって、そのころは花宮さんと付き合っていたし特にライバル視をする必要もなかった」「花宮さんって進藤先輩と付
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