LOGINオカルト研究部の上田麻里は同じ旧校舎の文芸部員、高野聖のことが好きだ。県北部にある呪掛けで有名な神社に呪いを掛けに行こうと誘う。 そこで偶然出会った恋のライバル伏見ななせに出会い、付いてくることに。 呪いの藁人形を打ち付けているところたまたま同じ高校のサッカー部員を名指しした人形を見つける。 後日、件のサッカー部員は呪いの通りに怪我をする。 伏見ななせは、これは事件だと言い張り、呪いをかけた犯人を探し出そうと高野に提案する。 犯人を見つけたところで呪いでは罪に問えないという高野だが、伏見はそんなことはお構いなし。 事件を解決していく中で様々なサッカー部員と女子マネージャーたちの恋が絡まっていることがわかる
View More――人を呪わば穴二つ
他人を呪えばその呪いは自分に帰ってくる。
その昔陰陽師は相手を呪う際、呪い返しに逢うことを想定し、相手と自分の入る墓の穴、二つを用意していたという。
つまり、生半可な気持ちで相手を呪うようなことをしてはならないという戒めだ。
返して言えば、その覚悟のある人間にしてみれば、単なる等価交換に過ぎないともいえるだろう。
この物語は、いったんここで終わります しかし、事件の真相がすべて語られているわけではありません。 この物語の裏には、もう少し複雑な事情が絡んでいるようです。 ――真実は、いつもひとつとは限らない。 それについては、またいつか近いうちに……
「その……助けに来てくれて、ありがとうございます」「いや、僕の方こそ遅くなってごめん」「いや、ほんと。逃げだしたのかと思いました」「掃除道具入れの扉がなかなか開かなかったんだ。建付けが悪いみたいで。流石に、あれに素手で立ち向かうのは無謀かと思って」「デッキブラシ……あんまり役に立っていませんでしたね」「初めの一撃をそらせただけで十分に仕事はしたよ」「腕、大丈夫ですか? 殴られてましたけど、折れたりしてません?」「こうみえて、僕はそれなりに丈夫なんだ。それに、もし折れていたとしても女の子の前で折れていると泣き言をいうような軟弱じゃあないよ。そのくらいの見栄は張る」「そんなこと言って、本当は木梨君と一緒に診察を受けるのが嫌なだけだったりして」「ぐ……。いいかい、僕は女の子の前では見栄を張るんだ。だから女の子はそれを見抜いてはいけない。もし見抜いても、口に出してはいけないよ」「そうですか。それは残念です。もしわたしのせいでけがをさせてしまったのだとしたら、わたしもわたしなりにお詫びをしないといけないかと思っていたんですけど……」「あ、腕折れたわ。これ、完全に折れてるな。まいったなー」「とは言っても、わたしにできることなんてあまりなくて……。体で払うというのでは、ダメですか?」「あー、腕治った。うん。今完全に治ったわ。ありがとう。いろいろと気づかいしてくれて。でも、もう大丈夫みたいだ」「ねえ、それってちょっとひどくないですか?」「ヒドイのはどっちだよ。思春期の男子ってのはな、そういう冗談をわりと本気にしてしまうんだ。それを見て面白がるというのはずいぶんとたちが悪い」 ――それを、冗談だとして受け流すのだってたちが悪い。そういうの、思春期の女の子は割と傷ついてしまうというのに……「でも、ありがとう」 聞こえないくらいに小さな声でつぶやく。「ん?」「なんでもない」「そうか……」「それにしても、どうして犯人が木梨君だとわかったのですか?」「うん、まあ、いろいろあったけれど、最終的に決め手となったのはあの三色ボールペンだよ。 あのボールペンはおそらく犯人が藁人形を打つ時に落としたもので、赤のインクがなくなっていた」「でも、それがどうして?」「木梨が見せてくれた、あの緋文字のルーズリーフがあっただろ? おそらくあれを書いたことがきっかけで三色のうちの赤のインクだけがなくなってしまっ
『今日、あなたの髪の毛を数本お預かりしました。 あなたの持っている伏見ななせの髪の毛と交換してはいただけないでしょうか? 学校近くの○○公園で待っています。もし、午後十時までに来ていただけないようでしたらお預かりしている髪の毛は私用に使わせていただき、かつ、すべての事情を関係者全員に報告させていただきます。 交換に応じていただければ、今後一切において他言無用とすることをお約束します 二年 黒魔術研究部所属 上田麻里』 犯人あてに長めのメールを送信する。そもそも犯人が伏見ななせを襲った理由は、事実を皆に知られたくなかったからだ。それを、こうして皆にばらすというのであれば従わないわけにはいかないだろう。 あえてわたしの名前を提示したのは、相手を油断させるためだ。 約束の公園に到着。この公園はその周囲を生け垣が覆っており、外から中が見えにくいばかりか、その逆もまたしかりである。日が暮れた後は薄暗いためあまり人は寄り付かない。 わたしはブランコのところで座って待ち、高野君は少し離れた公衆トイレの入り口の目隠し裏に隠れて待つ。公園の入り口は二つ、南北それぞれにあるが、このブランコの位置からならその両方の場所がしっかりと見える。逃げるにしても生け垣が邪魔をするため、この出入り口を使うほかないだろう。 犯人が到着したところで高野君が後ろから回り込み、逃げ道をふさぐことになっている。 犯人は間もなくして現れた。公園の南側の入り口からゆっくりと歩いて入ってくる。わたしの存在を見つけ、わき目も振らず、ゆっくりとねめつける様に近づいてくる。 静かな公園の中を、ずりずりと何かを引きずる音がする。 高野君は、もしかすると事態を甘く見すぎていたんじゃないだろうか。犯人は金属バットを引きずっているのだ。 無理もない。彼にとって事態は甘く見えたものではなく、すべてが露見してしまうのならば手段は辞さないつもりらしい。わたしはすぐにでもその場から逃げ出したかった。 しかし、高野君が守ってくれると言ったのだ。とはいえ、何も武器など持っていないはずの高野君に、金属バットを持つ犯人からわたしを守る力はあるだろうか。体格にしても、おそらく犯人は高野君よりもがっちりしている。 犯人はわたしのすぐ目の前に到着する。金属バットを持ち上げて、肩に担ぐ。威嚇する
伏見さんを見かけ、ちょとした事件が起きたものの、進藤先輩のその一言で一件は落着したかのように見えた。 病院を出て、伏見さんと高野君とは解散して、ひとり帰路についたころに電話が鳴る。『上田。僕だ、高野だ。今からちょっといいかな。手伝ってもらいたいことがあるんだ』「全部、終わったんじゃないんですか?」『このまま終わらせるわけにいくかよ。ななせが、襲われたんだ。このまま見逃してやるわけがない。でも、ああでもしないとななせはまた首を突っ込むだろう? あいつをこれ以上危険な目に逢わせたくはないんだよ』「わたしなら、危険な目に逢わせてもいいと?」『信頼してるんだよ、上田のこと。それに危険なんかじゃない。僕ががちゃんと守ってやるから』 ――まったく。信頼しているだなんて、なんてひどい呪の言葉だろうか。そんな呪を掛けられれば、協力しないわけにはいかないじゃないか。 それがたとえ、恋のライバルのための行動であっても、わたしは高野君の信頼に答えたいと思うのだ。役に立ちたいと。 まったく。彼はシンドウ先輩のことをどうこう言えた立場じゃないことを理解しているのだろうか? 大丈夫。高野君が守ってくれると言っているのだ。何を恐れる必要があるだろうか。 これは呪いの言葉なんかじゃない。純愛だ。間もなく高野君がわたしのアパートへやってきた。狭いテーブルに向かい合って座り、「ひとまずここまでの話を整理しよう」と言ってきた。高野君は伏見さんから預かっている手帖と三色ボールペンを取り出し、これまでのいきさつを話してくれた。今日の放課後、伏見さんと高野君の二人で関係者に聞き込みをして、その後伏見さんが一人になったところを襲われた。おそらく犯人は今日接触した人物の誰か。サッカー部の三人のマネージャー。花宮、海山、木梨。それと海山の恋人樫木の四人だ。花宮は被害者である進藤とは幼馴染、どうやら以前付き合っていたこともあるようだ。海山は以前、進藤から言い寄られていたが、海山が樫木と交際するようになり、現在進藤は木梨と付き合っているが、ふたりの仲は秘密になっている。「ななせの証言によると、襲った犯人は身長が一七〇前後といったところらしい。もちろん、はっきり見たわけではないのでどのくらい信頼できるかは定かではないけれど」「花宮さんは、華奢だからそんなに大きなイメージがなかったけれど、それは進藤先輩と一緒に
「まさか、そんなの偶然だよ」『そんなこと言って、本当は怖がってるんでしょ? 呪いが本当だったということは、高野君がかけられた呪も本当かもしれないって』「思ってないよ」『無理しなくてもいいですよ。それよりですね、あの、呪いを仕掛けた本人を探しませんか? どう考えてもアレ、うちの学校の生徒ですよ』「やめておくよ。深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているってね、変にかかわるとこっちに飛び火することだって考えられる」『ああ、でもですね――』 強引に通話ボタンを押して会話を終了させる。 さすがにこれ以上振り回されるのごめんだ。 荷物をまとめ、今日のところはまっすぐに家に帰ろうと思う。流石に旧校舎の
白装束の人物は先ほどの藁人形の前に立つと、懐から榊のようなものを取り出して振り、何やら呪言をつぶやいてから、名状しがたいバールのようなもので樹の幹から五寸釘を抜き取り、取り外した藁人形とお札を巾着袋へとしまう。 どうやら僕らの警戒は無駄だったようだ。 せっかくだから話を聞きたいと思った僕は繁みから出て、白装束のひとに歩み寄りながら声を掛けた。「あの、すいません。ここで、何をなさっているんですか?」 自分で言いながら思った。その言葉をかけるのは僕たちではなくて、相手のほうではないのかと。「これ、君たちがやったの?」 白装束の男、おそらく神社の神主であろう人物は僕たちにそう言った。眼鏡をかけた
ななせも僕たちと同じようにレンタルサイクルでここまで来ていた。そのまま三人で育霊神社に向かい、ひとまず境内に参拝して手を合わす。たいてい山の入り口というものには何らかの神社があるもので、山は神聖な場所であり、そこにはいる許可と無事を祈るためにもその存在は重要だが、今から裏山でひとを呪おうとしているものが、その前に神様に手を合わせるというのはなんと滑稽だろうか。呪いの名所と言われるその山道は、想像以上に険しい道のりだった。呪いのスポットとして有名な奥の院まではおよそ三十分。当然街灯などもあるわけでもなく、昼ならともかく深夜の丑の刻にここを登ることはよほど困難に思える。つまり、それほどに強い恨
岡山駅の前の桃太郎像の前で待ち合わせだ。この場所のすぐ目の前がバス乗り場のロータリーになっている。ここからバスに乗って新見市まで行き、そこからレンタルサイクルで目的地の神社まで行く予定だ。 上田はまだ来ていない。 バスの時間まであまり余裕はなく、そろそろ来てもらわないとヤバいかなと思い始めていた。なにせ田舎のバスだ。一本乗り過ごしただけですぐに次が来るわけではなく、大幅な時間ロスになってしまう。 そのときちょうどスマホに着信がある。『もしもし、わたし、麻里です。今、高野君の後ろ』「あのなあ。後ろにいるんならいちいち電話かけてこなくてもそのまま声を掛けろよな」 振り返った僕は桃太郎