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ニゲル
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Novel-novel oleh ニゲル

高嶺に吹く波風

高嶺に吹く波風

2021年日本。異形の怪物イクテュスが現れ人々の生活が脅かされていた。しかしそんな怪物に立ち向かう勇敢な少女達が居た。 キュアヒーロー。唐突に現れ華麗にイクテュスを倒していく美麗なヒーロー。彼女達はスマホ等の電子機器にどうやってか配信動画を発生させて人々から希望と期待の眼差しを与えられていた。 日本のある街で中学校に通うどこにでもいる女の子である天空寺高嶺。彼女には一つ重大な秘密があった。それは彼女自身がキュアヒーローだということだ。 青髪の水を操るヒーロー、キュアウォーター。それが彼女の別の名前だ。 正義感が強い彼女は配信を通じて人々に希望を与えていき、先輩ヒーローや新たになった人達とも交友を深めて未来を築いていく。 人間とイクテュスと妖精の宇宙人。様々な思惑が交差しながらも高嶺は大好きな彼女と共に今を生きていく。 過去も未来もないこの今の世界を。 ギャグありシリアスあり百合要素ありのドタバタの魔法少女達の物語の開幕!!
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Chapter: 113話 相手の身になって
「とりあえずだがオレ達が狙うのはアナテマとノーブルの二人だ。他の奴らは触れられるか怪しかったり、強かったり、そもそも人間じゃない奴で倒すのは難しい」 「まずは周りの奴から削ろーってこと?」 「そうだ。頭数が減ればその分主力の合体野郎と化物を倒せる機会が増える。まぁ化物の方は殺せるかどうか分からないから適当に拘束して海底にでも沈めておくのがベストかもな」 あたしは数ヶ月前の、森で三人で奇襲した時のことを思い出す。切り刻んでもすり潰しても奴は蠢き元通りになっていった。切り落とした腕が跳ねて顔面を殴られた時は流石のあたしでもビビって腰が抜けた。 「それと同時進行でイクテュスを増やす実験も続けていく。こっちは適当に遠巻きで経過観察して、撃退に来たキュアヒーローは基本無視で良い。あいつらはタイミングをしっかり作ってから殺る」 実験に関してはあたしはノータッチのため特に何もできない。下手に関わっても邪魔してしまうだけだろう。 「で、今日の実験報告を聞いてたんだが……お前実験体を殺した挙句勝手にキュアヒーロー達と交戦したらしいな」 「そっ、それは……」 さっきの動物園のこと。あたしの体が勝手に動き、おばさんを庇い実験体を一人殺害してしまった。 「そうだその話よ! しかも報告によれば人間を庇ったらしいじゃない? 一体何があったのよ?」 「分からない……分かんないよ」 「人間は敵なんだ。忘れたのかい? 前に通りがかった人間が迷子になってたイクテュスを殺したのを……」 「それはそうだけど……」 その事件は今でも覚えている。殺された子供はあたしとも交流があった。特にライ姉はあたしと同じくらいその子を可愛がっていたし、王に止められなければあの後すぐに人間を襲いに行っただろう。 「人間ってのはどいつもこいつもみんな碌でもないんだよ。自分のことしか考えていない、吐き気がするような奴ばか……」 「いや、それは違うんじゃないか?」 いきなりゼリルが口を開きライ姉に突っかかりにいく。いつもは面倒臭がって口答えしないのに。 「あ? 何が言いたいの?」 「いや……ただ、人間でも全員が全員私利私欲に塗れたカスばかりじゃないって……」 「アンタ人間のことはイクテュスの敵って前々から言ってなかったかい?」 「それは……もうこの話はいい。とにかくメサは計画
Terakhir Diperbarui: 2025-07-23
Chapter: 112話 乖離
「はぁ……はぁ……ここまで逃げれば……」 一旦おばさんの家まで逃げてきて、傷口を押さえてその場にうずくまる。 「ちょっとその傷……今手当てするから!!」 おばさんは慌ただしくバタバタとリビングに救急箱を取りに行く。 (別にこれくらいほっとけば治るのに) イクテュスの再生力など知らない彼女は顔を真っ青にして手当てを施す。やられて嫌ではなかったし、あたしはそれを快く受けつつ傷を癒す。 数分もすれば細かい傷含めて全て治り、戦闘前の状態に元通りになる。 「ふぅ……とりあえず傷は塞がったわね。良かった……!!」 おばさんはあたしを抱き寄せ背中を撫でてくれる。やっぱりこの感触は、温かさは不快ではない。ライ姉から与えられるものとはまた違う、言葉にできない心地良さがある。 「いやまだ危ないわ。とりあえず安静にしましょ?」 「え、でもあたしの怪我はもう……」 「いやだめよ! 万が一でもあったらいけないわ!」 「は……はぁい」 おばさんの圧に押されてあたしは部屋に入らされベッドに横になる。 (ま……偶にはこうしてゆっくりするのも良いのかな……) 流れるままに身を任せ、あたしは目を閉じ眠りにつこうとする。 「おい」 ベッドの足が何者かに蹴られ乱暴に起こされる。 「むぅ……ゼリル?」 不機嫌さを喉の奥に押し込みながら目を開ければそこにはゼリルとライ姉が居た。位置的にゼリルが蹴ったのだろう。 「おいゼリル。もうちょっと丁寧に起こしてやれなかったのかい?」 「ちっ……別にいいだろ」 二人は相変わらずといった様子で、逆に見ていて安心する。 「あっ、ここに居たおばさんは?」 「ここに住んでる女のことかい? 騒ぎにはしたくないし気づかれずに侵入しておいたけど……殺しといた方が都合が良かったかい?」 「い、いやその……殺さなくてもいいんじゃないかなって……」 「ん? アンタがそう言うなんて珍しいね。まぁそれならやめとくけど……」 (良かった……ん? 良かった……?) おばさんが殺されずに済むと分かり、私の中に真っ先に安堵の気持ちが溢れる。 「香澄……? 何か物音が聞こえたけどどうかしたの……?」 おばさんの階段を登る音が聞こえてくる。きっとベッドを蹴ったり喋ったりしたので気づかれたのだろう。 「はぁ……まぁいいか
Terakhir Diperbarui: 2025-07-22
Chapter: 111話 新たな道
「げほっ、げぼっ……おば……さん?」 奴は咳混じりにその女性に弱々しい声をかける。異形の化物の癖に、過去にアナテマの腕を切り落としている奴の癖にまるで被害者かの様に振る舞う。 「ちょっ、そこを退いて!! そいつは人を殺す……化物なの!!」 庇う理由は分からないが、一般人が間に立ち塞がる以上下手に攻撃ができない。 「まさか……テメェも人間に化けたイクテュスか? ウォーター気をつけろ!!」 アナテマの一言で私達はまさかの可能性に勘づく。 [気をつけてよ高嶺。また騙されて不意打ちされるかもしれないわよ] [あっ……そ、そうだね。気をつけないと!!] また前の様に油断した隙を突かれてブスりと刺される可能性だってある。同じ失敗をするわけにはいかない。 私は油断を捨て銃口をおばさんの方に向ける。 「や、やめっ……ゲホッ!!」 女性の後ろに隠れる奴は何か叫ぼうとするが、先程胸を殴られた影響か呼吸器官に異常が生じており上手く発音できていない。 「やめろっ!!」 だが私達が女性に近づくとうずくまっていた奴が声を張り上げこちらに二本のナイフを投げる。幸い距離はあったので私達三人は容易に躱わせたが奴はもう次の動作に移っていた。 「はぁっ!!」 地面を強く殴りつけて土煙を舞わせる。弱っているとはいえ奴の筋力から放たれたそれは私達の視界を覆い尽くす。 「みんな伏せろ!! ブラックホール!!」 アナテマが上空へ闇の塊を投げる。軽い土埃はそれに吸い込まれていき数秒もすれば視界は完全に晴れる。しかしそこにはもう奴と女性は居なかった。 「逃げられた……」 氷で高台を作り辺りを見渡してみるがどこにもあの二人の姿はない。完全に見失ってしまった。 「良いところだったのに……あの婦人に止められなければ……とにかく悔やんでいてもしょうがない。この場は警察に任せてわたし達は退こう」 この形態は体力の消耗が激しいのであまり長時間は変身していたくない。私達はキュアリン達と連絡を取り合って私達のアパートに集合する。 「ふぅ……やっぱ疲れるなこれ」 変身を解除した途端ズシりと疲労感が全身に乗っかってくる。波風ちゃんもふらふらで今にも倒れてしまいそうだ。 「大丈夫? とりあえず肩貸すから」 「ん……ありがと」 浮いているのも疲れるだろうし私
Terakhir Diperbarui: 2025-07-21
Chapter: 110話 ナイフのキュアヒーロー
「てやっ!!」 空中で氷の道を作り、そこを滑って方向を調整しイクテュスの顔を蹴り抜く。 「大丈夫!? 早く逃げて!!」 腰を抜かした女性を立たせて安全な方へ、外へと逃がす。 [数が多いわ……!!] 一体一体はあまり強くないが如何せん数が多い。今視界に映っているのだけでも十体はいる。 「動くな!!」 地面を殴り三体程足元を凍りつかせて動きを止める。そこを槍で突いていき流れ作業の様に胴体に穴を開けて灰に変えていく。 「ウォーター伏せろ!!」 何かが空気を切り裂く音と共に指示も飛んでくる。私達はサッとその場に屈み斧が頭上を通過し、それはイクテュスへ真っ直ぐ向かっていき首を刎ね飛ばす。 「アナテマ……!!」 「ふぅ。とりあえず向こうに居た奴らも倒しておいたよ」 遊園地の奥の方からノーブルもやってくる。体に付いた灰を叩き落としながら。 「みんな!!」 「今回は間に合ったみたいだな……で、結構数居たけどクラゲ野郎達は居たのか?」 「ううんまだ見てない。もしかしたら……」 [みんな動物園の方に向かってくれ!! そっちでも何体かイクテュスが出ていて生人が交戦してる!!] ふと思い浮かんだ心配はキュアリンからのテレパシーで現実になる。休む暇もありゃしないが、街の人達を守るために全速力で走る。 「うぐぐ……はぁっ!!」 動物園の猿や象などが居る広いエリアで、生人君が五体のイクテュスに囲まれながらも逃げ遅れた人達を庇いながら戦っていた。 巨大蟹のハサミを手で受け止め、ニョロニョロしたイクテュスには蹴りを放ち十メートル近く上へ蹴り飛ばす。 (すごい変身しないであれだけの敵を相手に……って感心してる場合じゃない!! 早く助けに行かないと!!) 私達もすぐに加勢しイクテュス達を薙ぎ倒していく。 「はぁ……はぁ……ありがとうみんな。守りながら五体相手は流石のボクでもキツかったよ」 「ううんそれより時間を稼いでくれてありがとう!」 「いやそれよりも向こうの方に一体イクテュスが逃げたんだ! ボクは逃げ遅れた人達を避難させるから君達はそっちに向かって!」 「うん! 生人君も気をつけてね!」 ここにはもうイクテュスは見当たらない。例え一、二体居たとしても生人君なら倒せるだろう。この場は彼に任せて私達はイクテュスが逃げたという
Terakhir Diperbarui: 2025-07-20
Chapter: 109話 観覧車
「も、もう無理ぃ〜!!」 全国模試をやり終え私は力尽きるようにソファーに横になる。 「はいお疲れ様。高嶺にしては頑張ったじゃない。去年は途中で寝て数学十点だったのに」 「うっ……そ、それは言わないでよぉ……」 会場には行けないが、キュアリンや生人君が問題を貰ってきて、義務教育中なので受けなさいと正論を言われ受けさせられた全国共通の模試。出来の悪い私にとっては一教科六十分が数時間にも思える苦痛で、酷使した脳はもうまともに動きそうにない。 「軽く採点してみたけど……全部平均点は取れてるかな」 「へぇ……高嶺にしては良くできたわね」 「ちょ、ちょっと私にしてはって酷くない!?」 「去年の点数は?」 「それはその……はい。すみません」 言い返す言葉がない。去年は赤点で補修を受けるハメになり、中々合格点を取れず波風ちゃんに助けてもらっていた。波風ちゃんには憎まれ口くらい叩く権利はある。 「まぁでも高嶺が頑張ったのも事実だし……今日の勉強はここまでにしてどこかに出かける?」 「あっ! それいいかも!」 ここ一ヶ月以上勉強ばかりで気が参りそうだったのでここで差し出されたご褒美はありがたい。 「この時間から行けるとこと言うと……動物園かしら?」 「あそこか……最後に行ったの小学生の頃だから……かれこれもう一年以上は行ってないのか……」 遊園地も付属している動植物園。この辺が田舎ということもあり広い土地を活用し多様な植物と動物を保有している。昔はよく波風ちゃんや家族と行ったものだ。 「じゃあボクは他にやることもあるし二人きりで楽しんできて。何かあったら呼んでね」 生人君は荷物をまとめパパッとどこかへ消えてしまう。 「もう行っちゃった……生人君も来れば良かったのに……」 「まぁ色々忙しそうだったし仕方ないわよ。とにかく二人で行きましょ」 「うん!」 電車と無料のシャトルバスで動物園まで向かい、そこで一人分の料金を支払い私達は園内に入る。 「そういえばこのサボテンって実際に触ったらどのくらい痛いのかな……?」 植物園の中に入ってすぐに砂漠エリアを見て回る。波風ちゃんはその中のサボテンを突く。触れられないが。 「そういえばサボテンって美味しいって話聞くけど実際にはどうなんだろ?」 「広く出回ったりしてないってことはやめ
Terakhir Diperbarui: 2025-07-19
Chapter: 108話 移りゆく心
二人で駅に向かいそこから三十分程バスに揺られた後あたし達は例の動物園に辿り着く。 「ここが……? 結構広いんだね」 「回って歩くだけで軽く一日は潰せるわよ。昔は帰る度に駄々をこねてまた来たいって言って……」 おばさんはまた思い出に浸り上の空になる。こちらが記憶がない点や不自然なところだらけで薄々気づているだろうに、それなのに未だにあたしに対し本当の娘かのように接する。 (どうしてそこまで縋るんだろう……? 大事な人を失うってそんなに辛いことなのかな?) 今まで人間なんて遊び道具くらいにしか思っていなかった。実際それで生活に不自由はなかったし楽しかった。 (大事な人……) あたしはキュアヒーローに殺された仲間のことを思い出す。中には交友関係があった者も居たし、あたしに戦い方を教えてくれた者も居た。 「寂しいなぁ……」 動物を見ながら歩く中、あたしはついボソッと呟いてしまう。 「寂しい……? どうかしたの?」 その一言はおばさんに聞こえてしまっていたようで、こちらの表情を覗き込むようにして心配そうに窺ってくる。 「あっ、いやその……実はお母さんと逸れた後に拾われて、でも拾ってくれたおじさんはちょっと前に病気で……」 咄嗟に言い訳を作り、同時にかつての仲間達を脳内に蘇らせる。 「そうだ! 今からふれあいコーナーに行きましょうか!」 「何それ?」 「動物達とふれあえるところよ。兎とかモルモットとか……きっと寂しさも紛らわせると思うわよ」 「そう……なら行ってみたいかも……」 海では地上の動物なんてまず見られないし、地上でもあまり見てこなかった。こんな機会次いつあるかも分からないので奥の方のエリアに足を運ぶ。 木々に囲まれた日陰の多いエリア。馬やロバなどがおり、自分よりも更に幼い子供達が騒いでいる。 「ほらこっちよ。今日のこの時間は……やってるみたいね良かった」 今は平日の午後。イベントなどは少なくやってない可能性もあったが運良くふれあいコーナーは開いており、平日ということもあって混んでなく並ばずに柵の中に入らせてもらえる。 「これ兎とか触っていいの?」 「そうよ。ほら、この人参とか持ってれば寄ってくるわよ」 「ふーん……」 試しに腰を落とし、受け取った人参スティックを兎に見せびらかすように振ってみる
Terakhir Diperbarui: 2025-07-18
記憶喪失の私が貴族の彼と付き合えた訳

記憶喪失の私が貴族の彼と付き合えた訳

地球とはまた違う遠い星、そこのある街では記憶喪失の少女が拾ってくれた師匠への恩返しとして探偵助手をやっていた。そんな日々の中ひょんなことからお忍びで街に来ていた貴族の彼に助けられてしまう。そしてイケメンで、心までも美しく格好良い彼に一目惚れしてしまうのだった。
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Chapter: 15話 断たれる未来
「やべーですぜ兄貴どうします!?」 「うるせぇ今考えているところだ!」 オレは裏の者には有名な犯罪組織の長。いつもは違法に儲けた金と逆らえない女を使い豪遊しているが、今日だけは事情が違った。 下の者が立て続けに何人も殺されたりパクられたりした上に、衛兵どもがアジトに押しかけて来やがった。今は予備のアジトに居るが金も持ち出せてないし、追加で何人もパクられてしまった。 「あのパン屋がチクったからだ……あいつらやりますか兄貴!?」 「馬鹿野郎!! そんなことして何になるってんだ!? 一銭にもなりゃしねぇ!!」 衛兵に捕まった奴らはもうどうしようもない。見限ってまた再スタートするしかない。 それに不幸中の幸いか、ある程度資金は持ち出せてはいる。ここからまた闇金を始めればよい。 「あ、兄貴! 上の窓に誰か……」 部下の一人が二階の方にある窓を指差す。オレは即座にナイフを引き抜きそちらに体を向けようとするが、それよりも速く灯りに何かがぶつかり割れて弾ける。 (この一瞬で全ての灯りを……!?) 灯りは吊るされているものも含め6つはあった。その全てがたった一瞬で正確に潰される。 「ぎゃぁ!!」 「ぐわぁぁ!!」 反応を示す暇もなく部下達が次々と悲鳴を上げていく。 「ぐっ……ここかぁ!?」 部下達全員の悲鳴を聞き終え、オレはほぼ直感でナイフで己の腹をガードする。甲高い金属音がなり、奴が目の前に来たことでその容姿を視認する。 フードを深々と被っており顔は見えにくいが全体的に小柄で髪色は金色だ。 「ちっ……うぉりゃぁ!!」 体格はこちらが勝っている。オレは力任せに腕を振り抜き奴を吹き飛ばす。 「お、女……!?」 吹き飛ばされ際に奴のフードがふわりと浮かぶ。露わになったその顔は女のガキのもので、しかし瞳は冷たくこちらを睨んでいた。 「ぐふっ……!!」 奴がまだ空中に居る間に腹に激痛が走る。いつのまにか奴の手にあったナイフがなくなっており、それがオレの腹に深々と突き刺さっている。 (いつのまに投げやがった……!? やべぇ……力がもう……) オレは情けなくその場に倒れ、奴がもう一本ナイフを取り出し近づいてくる。そしてオレの首筋にそれが押し当てられる。 「や、やめっ……!!」 抵抗虚しく刃がオレの首に挿入される
Terakhir Diperbarui: 2025-07-22
Chapter: 14話 照らし出された真実
「それで……辻斬りの件は何か進展はありましたか?」 お説教が済んだ後、ロンドさんが少し焦るように例の件について尋ねる。 「まー分かったこともあるが……確信には至らずって感じだな」 「そう……ですか」 ロンドさんはこんなに早く真実に辿り着けることはないと半ば分かっていながらもがっくり肩を落とす。 「分かったことと言えば……辻斬りは背の高い黒髪の男ってことだな」 (背が高くて男で黒髪……わたしと真逆みたいな人ってことか) わたしは女性の中でも背が低く、女で金髪だ。辻斬りの特徴からは大きく外れている。まぁ犯人ではないのだから当たり前だが。 「分かりました……そろそろ時間なので僕は帰らせてもらいますね。引き続き辻斬りの件はお願いします」 「おう! 任せとけ!」 ロンドさんは帰り、この事務所はまたいつもの雰囲気に戻る。 「それにしても辻斬り……本当に物騒な世の中になっちゃったね」 「あ、あぁ……そうだな……」 前々から感じ取ってはいたが、師匠は辻斬りの話になるとどこかよそよそしくなり、こちらの顔を窺う機会が幾分か増している気がする。そういう変化は読み取れるものの、それがどういう心情や思考を表しているのかまではイマイチ分からない。 「わたし疲れたからもう寝るね。おやすみー」 「あぁおやすみ」 少し疑問に思ったが、特に気に留めずわたしは自室に入り寝支度を始める。 明日になればまた師匠と会い挨拶を交わし、ロンドさんも来てさっきのような笑顔溢れる空間になる。だからそこまで深く考えず眠りにつこうとする。 「ふわぁぁぁ」 明日起こることなど誰も知り得ない。この時のわたしもまさかあんなことになるだなんて想像もしなかった。 「う……ん……?」 寝ようとベッドの前に来たところで突然ズキりと頭が痛む。 「あ……がっ……!!」 パン屋であの男達に絡まれた時のような痛みがわたしを襲う。視界がぐわんと歪み足元がおぼつかなくなる。 「もう……だ……め……」 ついに限界を迎え、わたしはベッドに辿り着く前にバタリと倒れてしまうのだった。 ☆ 「ふわぁぁぁ……うん?」 目を覚ますとわたしは自室のベッドの上に横たわって居た。 (確か部屋に入って……あれ? それからわたしどうしたんだっけ?) 寝る前の記憶が曖昧でおぼつかな
Terakhir Diperbarui: 2025-07-20
Chapter: 13話 依頼解決
「今ここに……妻と娘が居るのですね……」 喫茶店から三人で歩いてパン屋に辿り着く。お昼の分を焼いているのか、中からはパンの香ばしい匂いがしてくる。 「この匂い……昔と変わってない……!!」 その香りが彼の記憶を呼び起こし、まだ妻子と対面していないというのに目に涙を浮かべ始める。 「自首したらまたしばらくは会えなくなってしまいます……でも、僕が口を利かせてなるべく早く出られるよう努力します。なので今はその前に会ってあげてください」 「はい……!!」 ネウロさんは恐る恐る扉に手を掛ける。開ける手が何者かに引っ張られるように硬直するが、ついに覚悟を決めて戸を開ける。 ☆ 「これにて一件落着ですね……」 全てが終わった後、わたしとロンドさんは探偵事務所に戻り紅茶を飲んでいた。 「それにしてもシュリンさんの淹れてくれた紅茶……とっても美味しいですね!」 「えへへ……師匠直伝の、プロメス探偵事務所特製の紅茶ですよ!」 ここの特製紅茶は貴族の彼にも通用したらしく、おかわりの一杯を追加で入れる。 「えーと確か師匠が隠していたのはここら辺の……」 わたしは出入り口から遠い場所にある師匠の机の引き出しの一つを開け、そこを探る。 「何してるんですか?」 「わたしの勘によると多分……あ、あった! やっぱり二重底の下に隠してあった!」 わたしは高そうな包み紙に包装されたお茶菓子を見つける。 「それはまた高そうな……大丈夫なんですか?」 「ロンドさんが居るのにお茶菓子の一つも出さないのはいけないですからね!」 「では一緒に食べましょうか。これで共犯ですね」 「えへへ……はい!」 わたし達はお茶菓子にも手をつけ紅茶を飲み、依頼の疲れを癒す。今回の依頼は緩急も大きく心身ともに疲れた。 「あの……少しいいですか?」 お茶菓子を三割程食べて丁寧に包装し直し元の場所に戻した後、最後の一杯を飲み終えたロンドさんが話を切り替える。 「何ですか?」 「例の辻斬りの件……まだ時間がかかりそうですし、それまでこうやって探偵のお仕事の手伝いをさせてもらえませんか?」 「えっ……? 良いんですか?」 わたしにとってはこの上なく嬉しい申し出だ。ロンドさんはわたし……どころか師匠よりも背が高いし力もある。探偵業は時に危ないこともあるし、今回の
Terakhir Diperbarui: 2025-07-18
Chapter: 12話 押された一歩
「だからお願いします。もう一度奥さんと娘さんに会ってあげてください……一回顔を見せるだけでも、きっと変わるものがあるはずです!!」 盗み聞きをする気などなかったが、わたしはついドアの前で聞き耳を立ててしまう。中ではロンドさんがネウロさんに向かって必死に訴えかけていた。 「変わるかも……しれませんね。貴方の言う通り良い方向だったらいいのですが……悪い方向にも転ぶかもしれません。私にはそれが堪らなく怖い……!!」 ドアにはちょうどわたしの目の位置くらいに透明な部分があり、そこから中を覗く。ネウロさんは腕や肩を震わせており、それを抑えようと手に力を込める。 「僕は今朝パン屋に行ってきたんです」 ロンドさんは一つパンを取り出す。ふっくらとしていて遠くから見ても美味しそうだと思える。 「これは妻が作ってくれた……?」 「はい。食べてみてください」 彼はパンを頬張る。途端に目が遠くを見始め、それからちびちびとパンを口に運ぶ。段々と目に水が溜まっていき、大きな粒が床の板材の隙間に吸い込まれていく。 「あの頃と変わらない味だ……」 「えぇ。奥さんは貴方がまた帰ってきても恥ずかしくないように、パンの作り方や味を継いでいるんです。見よう見まねで始めて、試行錯誤を重ねて貴方の帰る場所を守っているんです」 依頼人の頼んできたあの様子がフラッシュバックする。必死めいた形相、借金取りに脅迫まがいなことをされながらも守り抜いたあの場所。彼女の夫を待つ気持ちは常人では考えられないほど強かなはずだ。 「やっぱり私は……ダメな人間でした。結局我が身可愛さで……これ以上辛い目に遭いたくないと逃げてしまっていた……あいつの気持ちも考えないで……!!」 ネウロさんはその場に崩れる。大粒の涙をいくつも流し、それでもパンを最後まで食べ切る。 「貴方は確かに人を殺しました。でも相手側にも非はあるし、脅迫に加え犯罪組織にも所属していました。有能な弁護士をつければ刑期はそう長くはならないはずです」 「ありがとうございます……!!」 話にケリが着き、彼はロンドさんが差し出したハンカチで涙を拭く。 「あのー……」 タイミングを見計らってわたしも店内にゆっくり入らせてもらう。 「シュリンさん……!? いつからここに?」 「えーとネウロさんがパンを食べ始めたくらいか
Terakhir Diperbarui: 2025-07-17
Chapter: 11話 苦悩の螺旋
「ただいまー」 あと数時間で陽が昇りそうな頃合い。そんな時間にわたしは探偵事務所に帰る。やるにやりきれなく、わたし自身も瞳に光が宿っていない。 「……シュリンなのか?」 「え? そうだけど……どうしたの?」 師匠は早起きなのか徹夜なのかは分からないが起きていた。そして虚ろなこちらの表情を見て怪訝な声をかけてくる。 「いや何でもない。遅かったから心配してただけだ。何してたんだ?」 「ちょっと調査にね……ふぁぁぁ」 疲れからか大きな欠伸をしてしまい、わたしはソファーに腰を掛ける。 「師匠も目悪くなった? 入り口まで距離があるとはいえ、灯りがあるのにわたしの顔が分からないなんて」 「いやそういうわけじゃ……まぁともかくそっちも心配ありがとな」 「ん……ねぇ師匠。過去の記憶がしっかりあっても、それを捨てたり逃げたりするってどういう気持ちなのかな?」 「……依頼関係で何かあったのか?」 「うん……」 師匠なら何か別の意見が貰えるかもと、少なくとも悪くはしないだろうと思い包み隠さず起こったこと全てを説明する。 「なるほどな……ただの人探しがそんな面倒なことになってたとは」 「わたしも予想外だよ。とりあえず借金取り共はなんとかできそうだし、パン屋の人達の安全は確保されたけど……それで本当に依頼人の、それにネウロさんの笑顔が守れたのかなって」 依頼人の、ネウロさんにまた会いたいという想いは強く硬いものだったと思うし、娘さんだって父親に会いたいはずだ。 (わたしだって家族に……) わたしの家族。少なくとも父親と母親は居るはずなのに頭のどこを探っても微塵も姿形が見えてこない。 (今もどこかで待っててくれてるのかな……) 両親も今同じ空を見上げているのだろうか、それとももう居ないか、わたしのことなど忘れているのだろうか。そう考え出すとどうしようもなく寂しく、寒くなってしまう。 「いーんだよお前はいくらでも悩めば」 「悩んでるよ。悩んでも悩んでも答えが出ないから困ってるんじゃん」 「そうだそれで良いんだ。答えが出るまで、いや出ても悩み続ければ」 未熟なわたしではどういうことか分からず反応を返せない。 「俺の歳になれば後悔や選択を間違えてしまったことなんていくらでもある。なんならつい最近もな」 「そういう場合師匠はどうし
Terakhir Diperbarui: 2025-07-15
Chapter: 10話 ヒビの入ったガラス
「こいつの言葉に嘘はないん……ですね? 店主さ……いや、ネウロさん」 わたしはじっと彼を見つめ顔色を窺う。そして奴の言うことが真実だということがひしひしと伝わってくる。 「私は……取り返しのつかないことをしてしまいました……」 口を摘むんでいた彼が、懺悔するように語り出す。 「あのパン屋……は分かりますよね。妻から依頼を受けたのなら」 「えぇ。そこを開くのに借金をしたのですか?」 「はい……最初は優しそうな人と、合法な金利でやっていたのですが……数年してからお金を貸してくれていた人が事故に遭って亡くなって……」 わたしはジッと突き刺すような視線を奴に向ける。奴は顔を逸らし誤魔化すが、それが事故の真相を物語ってしまっていた。 「それからこの人達が?」 今はその件は追求しなくて良いと判断し話を進める。 「そうです……妻にはバレないようにしてましたが、明らかに脅すようにお金を巻き上げてきて……金利も前までとは考えられないくらい上げられて……」 「それでこいつらの仲間を殺してしまった……と?」 「それは……」 ネウロさんは今まで以上に気まずそうにし言葉を喉で詰まらせる。 大体何が起こったのかは予想ができる。それでも彼の口からしっかり聞かねばならない。そんな気がした。 「一年前……こいつらの仲間の一人が、妻や娘にも手を出すと、パン屋にも行くと言って……その瞬間目の前が真っ赤になって……」 怒りで我を忘れてしまい、気づいたら殺していたというパターンだろう。過去にもそうなってしまった人を何人か見てきた。 「それで妻子に迷惑をかけないために離れたというわけですか?」 「いえ……もちろんそれも後々考えましたけど、人を殺したこの手で……血濡れた手で妻や娘を抱きしめられない……顔を合わせるなんて……」 気持ちは痛いほど分かってしまう。わたしだって、もし人を、この街の人間を殺してしまったら師匠に顔向けできない。 「ははそうだ! 善人ぶってるがお前なんて俺らと同じひとごろ……」 「ちょっと黙っててください」 ロンドさんが奴の頭を掴み地面に叩きつけ気を失わせる。 「いえ……その人の言うことは何も間違ってはいません。私は醜い人殺しです……幸せになってはいけない人間なんです」 彼は罪悪感に押し潰されそうになっており、もし誰かに
Terakhir Diperbarui: 2025-07-13
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