高嶺に吹く波風

高嶺に吹く波風

last updateLast Updated : 2025-05-22
By:  ニゲルUpdated just now
Language: Japanese
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2021年日本。異形の怪物イクテュスが現れ人々の生活が脅かされていた。しかしそんな怪物に立ち向かう勇敢な少女達が居た。 キュアヒーロー。唐突に現れ華麗にイクテュスを倒していく美麗なヒーロー。彼女達はスマホ等の電子機器にどうやってか配信動画を発生させて人々から希望と期待の眼差しを与えられていた。 日本のある街で中学校に通うどこにでもいる女の子である天空寺高嶺。彼女には一つ重大な秘密があった。それは彼女自身がキュアヒーローだということだ。 青髪の水を操るヒーロー、キュアウォーター。それが彼女の別の名前だ。 正義感が強い彼女は配信を通じて人々に希望を与えていき、先輩ヒーローや新たになった人達とも交友を深めて未来を築いていく。 人間とイクテュスと妖精の宇宙人。様々な思惑が交差しながらも高嶺は大好きな彼女と共に今を生きていく。 過去も未来もないこの今の世界を。 ギャグありシリアスあり百合要素ありのドタバタの魔法少女達の物語の開幕!!

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Chapter 1

1話 キュアヒーロー

「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」

「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」

私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。

「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」

会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。

「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」

(か、可愛いか……うへへへ)

つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。

「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」

私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。

「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」

「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」

「え……いや……何もないけどぉ?」

波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。

「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」

「あはは……そうなったらごめんね」

なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。

[おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!]

私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。

[今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?]

私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。

[そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!]

(う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!)

「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」

私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。

「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」

こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。

「ここなら誰も見てないよね」

公園は学校のグラウンド程広く、木々が生えており死角も多い。私は人があまり立ち入らない所まで行き鞄から人形を取り出す。

「ごめんね……またお願い!」

私はその人形に触れながら念じる。すると人形はメキメキと音を立てて服まで私そっくりの姿へとなる。

「はいこれ鞄! すぐ戻るからよろしくね!」

「うん! というか大丈夫だよ。一応記憶とかも私のままなんだし、24時間しか活動できないことを除けば本人ままなんだから。とにかくこの街を頼んだよ私!」

流石は私のコピーだ。この街を守るという使命を強く抱いている。コピーは何事もなかったかのように通学路に戻り学校に向かう。

「誰もいないよね……?」

誰にも見られていないことを確認し、私は鞄から取り出しておいた水色のブローチを取り出す。

それを服に付けると私の目の前に青色の装飾が施されたステッキが、先に透明な球体が付いているマイクにも見える魔法の道具が現れる。

「よし……キュアチェンジ……!!」

私はそのマイクに向かって魔法の言葉を唱える。

体が淡い光に包まれ服が変わっていく。海のような色の紐が両肩と胸の前で絡まっていき巨大なリボンを形作る。腰には純白のフリルのスカートが巻かれ髪も変化が起きる。伸びて澄んだ空色へと変化し、まるでファンタジーのお姫様のようだ。

[場所はいつも通り頭の中に送っておいた! すぐに向かってくれ! 配信は頃合いを見て始めるから頼むぞ!]

[りょーかい! すぐに行くね!]

私は地面を強く蹴り数メートル跳んで一気に公園の外に着地する。そして家の屋根を伝い、送られてきたモンスターの反応を感じる方に一直線に駆けていく。

《キュア配信始まったー! てか、またイクテュス出たのか!?》

《あれこれ俺の家の近くじゃん! もしかして近くに居るの!? やばいじゃん!! 頑張ってキュアウォーター!!》

左手首に付いているリストバンドから映像が浮かび上がる。そこには私を俯瞰視点で見下ろした光景が映っており、たくさんのコメントが、私への期待と”希望”を込めたものか流れている。

(力が沸いてくる……みんな私に希望を抱いてくれてるんだ……!!)

異形の怪物を倒す正義の魔法少女、プリティーヒーローは人々の希望を力に変えて戦う。そして先程テレパシーを送ってきた妖精のキュアリンがこのリストバンドを通して配信を行ってくれている。

こうすることで配信を見た人々から希望が送られてきて私達の力になるのだ。

「みんなの笑顔を守るために、正義のヒーロー、キュアウォーターいっくよー!!」

私は増した力で速度を上げてイクテュスの所まで急ぐのだった。

________________________

キュアヒーローの掟その1

キュアヒーローは人々の希望を力に変え戦う。希望を集められる範囲は日本列島を覆える程度である。

彼女達は人々に希望を抱かせ続けさせなければならない。

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1話 キュアヒーロー
「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」 「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」 私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。 「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」 会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。 「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」 (か、可愛いか……うへへへ) つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。 「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」 私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。 「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」 「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」 「え……いや……何もないけどぉ?」 波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。 「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」 「あはは……そうなったらごめんね」 なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。 [おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!] 私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。 [今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?] 私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。 [そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!] (う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!) 「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」 私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。 「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」 こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。 「ここなら誰も見てない
last updateLast Updated : 2025-04-20
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2話 水の力
「反応はここら辺……あっ!!」 私は上空から落下しながらモンスターを探していると田んぼの用水路の近くに人と同じくらいの大きさの化け物を見つける。 赤く硬い鎧を纏った両手に大きな鋏を持ったザリガニだ。ただ肥大化したのではない。針のような足を地面に突き刺し二足歩行のフリをしている。 「あ……あ……」 奴の近くで眼鏡をかけた青年が腰を抜かしていて、乗っていたと思われる自転車がザリガニの近くに落ちており真っ二つにされている。 「その人から離れろっ!!」 私は手から圧縮した水をレーザーとして発射する。しかし奴の甲羅は硬く鉄をも貫くレーザーが弾かれてしまう。 「うっ……!!」 一旦レーザーを止める。出力を高めれば貫けるかもしれない。だがもしまた弾き返されてしまったらあの人にレーザーが当たってしまう可能性がある。 (あの人腰を抜かしてるし……助けようにも両手が塞がってたら私がやられちゃうしどうしたら……) 奴と私が互いに睨み合う硬直状態に入る。レーザーがダメなら最悪ステッキで殴ったりも考えたがあの甲羅には通用しないだろう。 「シャインアロー!!」 しかし背後から叫び声と共に光の矢が飛んでくる。それは甲羅を貫通し奴の肩に突き刺さる。 《来たー!! キュアノーブルだ!!》 《美少女王子様は今日も格好いいなぁ……》 《最推しきたぁぁ!!》 彼女が姿を現すと私の方の視聴者がその人、キュアノーブルに釘付けになる。 黄金に輝く髪を後ろで結び、衣装には宝石らしきものがいくつかついている。まるで中世の貴族が本から飛び出してきたみたいだ。 「君はそこの人を安全な場所に!」 「はい!」 光の力で戦う私の先輩キュアヒーローであるキュアノーブル。人気は一番であり私が変身したての頃にも助けてもらっている。 相変わらずのリーダーシップと頼り甲斐のある背中であり、私は指示に従って一般人の青年を避難させるべく肩を貸す。 「動ける?」 「は、はい……すみません……!!」 背中はノーブルに任せて安全な場所まで彼を運ぶ。かなり距離を取った後すぐさまノーブルの元まで戻る。 手伝った方が良いかもと思ったが流石は彼女だ。私が苦戦した相手に汗一つかかずに押している。 「トドメ……」 ノーブルは光を纏わせ鋭さを与えたステッキを振り上げる。しか
last updateLast Updated : 2025-04-20
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3話 正体バレ
「良い動きだった。最近君の活躍はめざましいね。これは君のファンも中々できたんじゃないかな?」 ノーブルがこちらに駆け寄って来て賞賛の言葉を投げかけてくれる。 「いやいやそんなノーブルさ……」 「待て待て。わたし達は同列の仲間だ。序列なんて作りたくない。だからわたしのことは呼び捨てでってこの前言ったろう?」 「はい……!! でもノーブルにはまだまだ及ばないよ。こっちや先のことまで気を配ってて……目先のことしか見えてなかった私とは大違いだよ!」 「うん……そうだね……あ、それより一つ頼み事してもいいかな?」 表情から余裕の色が消え、申し訳なさそうにしながら頭を掻く。 「もうあんまり時間なくて、助けた人とか任せても良い?」 「うんもちろん! 今日もありがとね!」 ノーブルは一言こちらにお礼を言い足早に去っていきすぐに見えなくなる。 「えーっと、そこのお兄さん大丈夫だった? 怪我はない?」 戦いでよく見えなかったが、もし彼が動けない程の怪我をしていたら大変だ。私はすぐに彼の元まで向かい容態を確認する。 「け、怪我はないです……ありがとうございます」 青年は恐怖という鎖から解放され何事もなくスッと立ち上がる。だが表情は暗く笑顔が失われたままだ。 「待って!! えっとその……何か困っていることとか……あるの?」 キュアヒーローの使命はイクテュスを倒し"人々の笑顔を守る"ことだ。それなら私は後者の使命を果たせていない。 「いや何もない……です……その、ありがとうございました」 彼は壊れた自転車を用水路から引っ張り上げ、もう直せるはずもないそれを見て肩を落とす。 「あのっ……」 「あぁいやもういいよ。見た感じ高こ……中学生? 君は学校あるでしょ? ここからはヒーローがどうこうする問題じゃないから気にしないで」 「……はい」 実際壊れた自転車を直す術なんて持ち合わせていない。彼の悩みはそれだけじゃないように思えたが、深くは立ち入らせてくれなさそうだ。 (ヒーローの問題じゃない……か) 私は結局彼の笑顔を見ることなくこの場から去り学校への道に戻るのだった。 ☆☆☆ 「誰にも見られてない?」 「うんもちろん」 一限目の途中。テレパシーでコピー人形の私を学校の人目のない物陰に呼び出す。 「じゃ、おやすみね」
last updateLast Updated : 2025-04-20
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4話 キュア星人
「ふぅ。今日も学校疲れたー!」 私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。 今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。 「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」 横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。 「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」 「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」 彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。 彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。 とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。 「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」 キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。 その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。 「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」 「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」
last updateLast Updated : 2025-04-21
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5話 両親
「こらこら波風ちゃんも居るんだしお行儀良くね」「ふ、ふぁい。ほへんはふぁい」 トーストを飲み込むように喉奥に押し込みつつ牛乳で流し込む。「ご飯ありがとねお義父さん!」「どういたしまして。今日は研究で帰るの遅くなりそうだからまたその……ごめんね」「ううん気にしないで。研究頑張ってね」 お義父さんは研究で大忙しであり特に最近は家族の時間がかなり減っている。だが仕事だから仕方ない。私はそう言い聞かせて甘えたい気持ちをグッと抑える。 残りのベーコンと目玉焼きを食べ洗面所に向かう。 「高嶺……また胸大きくなった?」 着替えていると波風ちゃんがひょこりと顔を出し、私が着替える様子を不審者のおっさんのように覗く。発言もセクハラめいていて一気に年老いたようだ。「もう。気にしてるんだからあんまりそういうこと言わないでよ」「気にしてる? 育ってるんなら良いじゃない。成長しないより……」 波風ちゃんは恨めしい視線をこちらに送ってくる。鋭いそれは私の胸に突き刺さり貫通する。「でも大きくなると動きにくいんだよね。体育の時も邪魔だし、ブラのサイズを変えるのも面倒だし」「……それ嫌味?」 波風ちゃんから放たれる視線が更に強く厳しいものになる。睨まれたまま着替えを進め準備もやがて終わる。「じゃあお義父さん行ってきまーす!」「失礼しましたおじさん」 私達は玄関に行き靴を履く。「うん行ってらっしゃい。波風ちゃんもまたいつでも来ていいからね」「はい! ありがとうございます」 波風ちゃんが外に出て私もその後に続こうとする。だがその前に置いてある一つの写真に向き直る。「行ってきます…….お父さん。お母さん」 私はもういない両親にもしっかり挨拶し波風ちゃんを追いかける。 「そういえば……震災からもうちょうど十年なんだね」
last updateLast Updated : 2025-04-22
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6話 仮説と考察
「えーっとそれで、健さんはキュアヒーローについてはどこまで調べて……?」 部屋から出てすぐに私は探りを入れる。キュアヒーローについて健さんがどこまで情報を握っているか、真相にどこまで迫っているか確かめるため踏み込む。 「色々だね。今現在活動しているのは三人。 まず一番歴が長いキュアノーブル。イクテュスが現れてすぐ登場して、自慢の光の能力で毎回華麗に敵を倒すね」 私がお世話になっているあのイケメン美少女の人だ。優雅に敵を倒し、キュアヒーローが地球に現れてから常に人気No. 1だ。 「でも一時期出てくる頻度が下がっていた期間がある。その時に現れたのがキュアアナテマだ。彼女は闇の力でノーブルとはまた違うやり方で戦う」 直接会ったことはないが配信上では何回か見たことはある。万物を引き寄せる闇の力と格闘術で隙なく戦う私なんかよりずっと強い憧れのヒーローだ。 「あれ? でももう一人居なかったっけ? 引退したのか見なくなったけど」 「あぁキュアフィリアだね。あまり目立った活躍もなくいつのまにか来なくなっていたが、情報を見た感じ戦うことに乗り気ではなかったようだし、恐らく引退したんだろう」 私もその人は名前くらいしか知らない。ノーブルさんに最初の頃聞いてみたが何故かはぐらかされてしまって分からずじまいになっている。 「そして最後に新人のキュアウォーター。最近現れた期待の新星だね。街を守ることに熱心で向上心も見られる。それに可愛いって評判だね」 「か、可愛いですか……えへへ……」 「どうしたの高嶺? また月曜の登校した時みたいな気持ち悪い顔して」 「えっ!? いや何でもないから……それより健さん続きを!」 相変わらず私は顔に出やすく、バレないよう動かないといけないのにもうボロを出しそうになってしまう。 「それで彼女達の能力だが……俺は二つ仮説を出している」 「二つ……聞かせてもらえますか?」 「まずは政府が作った新兵器説だね。核兵器があるとはいえあれは最終手段でありリスクも大きい。憲法もあるしね。 だからこそちょうど良い強さであるキュアヒーローを開発し、偶然現れたイクテュスでテストしているってところかな」 予想は大きく外れていたので私はホッと胸を撫で安堵する。 「それで二つ目は?」 「宇宙人が持ち込んだ技術……かな」 「
last updateLast Updated : 2025-04-22
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7話 照れ隠し
「ここが図書館だね」 「図書……え? この建物全部がですか!?」 着いたのは三階建ての中学の校舎ほどの広さをを持つ建物。これ全部が図書館であるようだ。 「そうだね。俺も初めて来た時はビックリしたよ。見せたい資料は三階にあるから行こうか」 健さんは階段の前にあるゲートにカードをかざして開けてくれる。学外の人は本来入れないらしいが、受付の人に頼み見学として特別に私達も入っていいことになる。 階段を昇り三階まで着くとそこはびっしり本を敷き詰められた本棚が大量に置いてある空間だった。 「二階にもかなり本があったけれど、ここも中々あるわね。これ全部勉学に関するものなの?」 「らしいね。流石の俺でも大学生活通して5%も読めないだろうね。それと見せたいのはこっちね」 健さんは扉を開け薄暗い部屋に入っていく。ひんやりと冷たい空気が足元を掬い、目の前の大きな棚が私達を待ち受ける。 「えっと確かあの新聞は……こっちか」 健さんが棚の一つから新聞を取り出しページをぺらぺらとめくる。 「ほらこれこれ。イクテュスについて載っているだろ?」 新聞にはヤドカリのような貝を背負ったイクテュスの写真が貼ってあり、見出しには「また現れた異形の怪物! その正体に迫る!」と書かれている。 「まぁゴシップレベルの信憑性の内容だけど、中々興味深いことも書かれていてね」 見出しの下の文章をじっくりと眺めてみる。 恐らく健さんの興味が惹かれたであろう箇所を見つける。イクテュスが地球の生物を改造されて生み出されたものではないかという旨のものだ。 (イクテュスは自然発生ではなくて人為的に誰かしらに生み出された……か。キュアリン達も調べてるけどまだあいつらの正体に分かってないらしいし、実際のところどうなんだろ) あいつらは死んだら灰になってしまうため地球の人やキュア星人は何も足取りを掴めていない。 「俺はその記事に賛成かな。少なくともイクテュスは自然発生ではないと思う。人為的に作られた存在だろう。流石に誰が作ったまでは分からないけど」 今まで考えたことなかったが、一体イクテュスはどこから来て襲撃はいつ終わるのだろうか? 私は波風ちゃんやノーブルや健さんとは違いあまり頭が良くない。目先のことしか見えておらず、イクテュスから人々を守ることしか考えていなかった
last updateLast Updated : 2025-04-22
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8話 落ちて滑っていく心
「食堂は……ここね」 学内を少し歩き、横長く鎮座する食堂まで辿り着く。昼時であるが土曜なので人はあまりいなさそうだ。 「あれあの人……」 私はちょうど今食堂に入ろうとした眼鏡をかけた青年に注目してしまう。どこかで見た記憶があり、頭の中を探ると彼が月曜に助けたあの青年だという情報が引っ張り上がってくる。 「ん? どうしたの高嶺? あの人見つめて……あっ、ほら。向こうの人も気づいたみたいだよ」 「あの……オレに何か用?」 私にガンを飛ばされ流石に気づき青年はこちらに話しかけてくる。しかし前に会った時私は変身していた。彼は私が誰かは分からず初対面の状態だ。 「あ〜えっとその……あっ! 配信!」 「配信……?」 「月曜にあったキュア配信に映ってたなーって」 「あぁあの襲われた時の……お恥ずかしい姿を」 変身しておらず配信も関係ないこの状況下で、歳下の私に対して丁寧に喋る。本当に律儀で礼儀正しい人なのだろう。 「いやいやそんな仕方ないですよあんな化け物相手じゃ……それよりこの大学の人だったんですね」 「いや……オレはここの大学の人じゃないよ」 「えっ……?」 「友人の健ってやつに会いに……」 「たけ兄に!?」 世界は狭いと言うが、なんと私が助けた彼は親友の波風ちゃんの親戚の友人だった。 「そうだけど……君は?」 「あっ、すみません。アタシはたけ兄の親戚の海原波風です」 「波風……そういえば健が親戚に女の子が居るって言っていたような……」 まさかの繋がりだ。あの時もう二度と会うことはないと思っていた人にこうして巡り会えた。 (あの時笑顔になれなかった理由……分かるかな……) 彼を助けた時のあの表情が今も忘れられていない。胸に残り続けモヤが脳に染み込み離れない。 「あのアタシ達今からお昼なんです。よければ一緒にどうですか? 高校の頃のたけ兄の話も聞きたいですし」 「あぁ別に大丈夫だよ。あいつなら面白い話無限にあるし」 そうして私達二人は新しい仲間を加え食堂の中に入り、食券機で券を購入しカウンターでチキンカツ定食を受け取り席に向かう。 「いただきます!」 早速私はチキンカツに齧り付く。サクッサクの衣に中からは肉汁が溢れ落ちる。肉は分厚くソースは甘い風味がありアツアツホカホカの白米がよく合う。 「相変わら
last updateLast Updated : 2025-04-23
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9話 ガタガタハート
「それって……自殺ってことですか?」 「あっ、いや今は全然そんなこと考えてないよ。あの時は疲れてたし本当に馬鹿だったと思ってる。だから助けてくれたキュアウォーターには感謝してもしきれないよ」 とりあえず自殺に走ることはなさそうだが、今の彼が健全で元気だとは言い難い。 「オレさ……大学どこも受からなくて……なんとか親に頼んで一年猶予を貰ったんだ。これで無理なら就職するって条件で。昔から生き物が好きで……行きたい大学があるけど勉強しても全然模試の点数は上がらないし、最近ちょっと疲れてきて……今日も健のあのめちゃくちゃぶりをまた見れれば疲れもマシになるかなって思って」 私達はまだ中学生だ。受験を経験しておらず、その上勉強すらまともにしていない私に至っては何も言葉を投げかけてあげられない。 「あ……ごめんねこんな話しちゃって。二人はこんな大人になったらダメだよ」 信介さんは雰囲気を暗くしてしまったことに気づき急いで誤魔化して食事に手をつける。 私は少し食感が悪くなったチキンカツを頬張り噛み砕いて飲み込む。若干暗い空気のまま食事は進み、信介さんは健さんの話はするものの相変わらず表情はどこか雲がかっている。 「おーい遅れてごめ……ん? そこに居るのは……信介!? お前何でここに……?」 「偶にお前のアホ面を見たくなってな。元気だったか?」 「お前は俺が元気じゃないとこを見たことがあるのか?」 健さんが戻ってくるなり信介さんを纏う空気は多少は軽くなる。健さんは持参したゆで卵とこの食堂のうずらの卵フライを持ってくる。 「たけ兄はそれだけなの?」 「最近筋トレが楽しくなってきてね。どこまで人の体は負担に耐えれるかの実験をしてるんだ」 「健お前またそんなことを……高校でその理論でガス爆発させて反省文書いたの忘れたのか?」 なんだか物騒な話題が出てくる。私も持ち前の元気さでトラブルは起こすが危ないことは避けているつもりだ。 「でもさ、なんだかんだ言っても良い思い出だったよな」 「そうだな……過去には戻れないけど、過去から勇気づけられることはあるよ」 (過去に勇気づけられる……か) 私には楽しい思い出はあるが悲しく思い出したくもないものもある。 あの時の光景が意識せずまたチラつき、私は波風ちゃんを見つめて楽しい方を強くすることでそ
last updateLast Updated : 2025-04-23
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10話 強がりヒーロー
「あれって……まさかイクテュ……」 「波風ちゃん伏せて!!」 波風ちゃんの声に反応して、奴は甲羅に籠り凄まじい速度にこちらに突っ込んでくる。 私は覆い被さるようにして波風ちゃんと共に伏せる。奴は扉のガラスを破りつつ私の真上を通り過ぎて向かいの壁に激突する。 「大……丈夫? 波風ちゃん……?」 「ア、アタシは大丈夫だけど……アンタ硝子が……!!」 奴が割った硝子の破片が私の背中に突き刺さり、せっかくのお洋服が赤く染まる。頭にもいくつか刺さっており致命には至らなかったかだ少し眩暈がする。 「よかった……」 「よかったじゃないでしょ!! 早く手当しないと……」 奴の追撃に対処しなくてはいけない。私は鞄の中に手を入れブローチを探りつつ奴の様子を確認する。 「なっ……待てっ……!!」 奴は私達を無視しより人が多い広場の方へと歩いていく。 「波風ちゃんは逃げて……!! あいつはなんとかするから……」 「何言ってるのよ!? なんとかするってどうにもできるわけないでしょ!! 馬鹿言ってないで逃げるわよ!!」 私がキュアヒーローであることを知らない彼女は無理にでもこの場から立ち去らせようとする。 [キュアリン……イクテュスが出た。私の目の前に] [あぁ出たことは確認した……早く変身してくれ!] [ねぇ……私の友達に話してもいい? 多分事情説明しないと離してくれないだろうし] [いやだめだ。お前は波風を信用しているようだが、こちらは違う。それに政府との誰にも知られないという約束がある。なんとしてでも振り払って変身してくれ] (全く無茶言わないでよ……変身しなきゃ怪我したまま波風ちゃんを振り払えないよ) [ねぇキュアリン。前から思ってたけど、キュアリンはその事情と人の命どっちが大切なの?] [……言い分は分かるが……] キュアリンは言い淀みテレパシーが途絶える。 「うわっ……!! イクテュスだ!!」 「みんな逃げろ!!」 奴が人々を襲い始める。この街からまた笑顔を奪い去ろうとしている。 「波風ちゃん……!! 私行かないと……」 「ねぇ高嶺……何を隠してるの?」 波風ちゃんは足を止め真剣な表情のままこちらを睨む。 「別に……何も……」 「まさかあなたって……だとしたら戦わせられない。あなたに危ない目に遭わせら
last updateLast Updated : 2025-04-24
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