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Romans de maruko

貴方の願いを叶えたい

貴方の願いを叶えたい

上位貴族の両親を持つにも関わらず庶子として生まれたティアナ。 早世した父の加護により死ねないティアナ。 幼い頃から精神的に虐げられてきた彼女が幸せを掴むまでの物語。 ※全て作者の妄想の産物です 広い心でお読みください
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Chapter: 最終話 貴方の願いは
ディアナ・ルーストの処刑から半年後、二人は帰国した。|写真《父》の部屋で何時ものロッキングチェアに座り、いつものように父を見上げるティアナ。帰国前にメイナード夫人との会話を思い出す。ティアナは夫人に自分の死なない体のことを『起死回生』という魔法の事を訊ねてみたのだ。メイナード夫人はその魔法の事を知っていた。そしてそれを聞いたティアナは父の想いを知ることになった。『起死回生』という魔法は他者に自分の魔力を分け与える物だという。自分の死の間近に発動する渾身のもの。ただ人は死ぬ時にやはり自分の生を願う。それほどの力が有るならば瀕死でも治癒が使えたのではないかとメイナード夫人はティアナに教えてくれた。自分の生を反故にしてもティアナの事を思って自分の魔力を捧げてくれた父に何とも言えない気持ちがティアナに湧いて来た。ティアナが魔力を持っていたらクロードの魔力がそのままティアナに受け継がれていた事だろうと、残念ながらティアナは魔力持ちではなかった為『起死回生』のみが体に宿ったということらしい。「お父様⋯私、お父様に生きてて欲しかった。治癒が出来て生き延びる事ができるのであれば私に渡すのではなくて、治癒して生きてて欲しかった」クロードが渾身の魔法で半分はティアナへ、あとの半分で元妻を死に至らしめた事を知らないティアナは、写真に懇願するように話しかけていた。(ごめん)聞こえる声はきっとティアナの中に残るクロードの魔力から発せられているのでは?とメイナード夫人は言っていた。何故かそれが自分の腹に有ると決めつけたティアナは両手でお腹を擦り亡き父を思うのであった。──────────────帰国したティアナは学園には通わずそのまま卒業試験だけを受けて卒業した。悲しかったけれどルルーニアとはあのままだった。彼女からの手紙の返信には『ごめんなさい』と一言だけを送った。いつかマリアンヌが立ち直り回復するまでは会えないと思う。ティアナの事を恨んでいるかもしれないけれどロットバリーと少しも軋轢を生む行為はしたくない。義父であるマキシムの言うとおり無理難題を押し付けているのはサリバン公爵家なのだから。それから二人は結婚式に向けて途轍もなく忙しくなった。ロットバリーは魔法省を辞めて次期トラッシュ公爵に成るべく後継者教育にも励まなければならなかった。テ
Dernière mise à jour: 2025-04-03
Chapter: 執行
ソルジャー王国ではメイナード公爵家の別邸に滞在させてもらうことになった。前公爵夫妻の住まいは落ち着いた雰囲気で中で働く人たちも働き者ばかりであったので、ティアナは何不自由なくその邸で過ごせていた。前公爵夫人に庭園にてお茶会に呼ばれたのだが、その庭園は圧巻の出来であった。計算しつくされたように設置されてるガゼボには過ごしやすいようにソファなども置かれている。ここへ来てティアナとロットバリーは別行動となっていた。ロットバリーの魔力解放と魔法への指導に魔力のないティアナが助けになる事も同じく学ぶ事もないからだった。ティアナは単に観光に来たように過ごしていた。だがその日々はティアナには癒やしの日々でもあった。幼い時からの精神的な苦痛や最近の洗脳による疲弊でティアナの脳も心もクタクタになっていたのであろう。何もせずにただお茶を楽しみ観劇をして、街中でショッピング。偶にメイナード公爵の幼い二人のご息女と継嗣に遊んで?貰う。それらは確実にティアナの心を解きほぐしていった。ソルジャー王国で過ごして一ヶ月が過ぎた頃、緑髪の紳士この国の王宮魔術師団長であるロバットにティアナは話があると言われた。呼ばれた部屋には現メイナード夫人のアディルとその側近であるマリーも一緒にいた。「ティアナ嬢、呼び出してすまないが⋯貴方には選択をしてもらおうと思っている」そう切り出したのはロバットだった。この国に拘束していたディアナ・ルーストの処遇が決まったそうだ。「彼女ね、全く話さなくてそのままでは証拠不十分で大した罪には問えなかったの」アディルが話してくれたのは、精神干渉は魔力残滓だけでは証拠にはあまりなり得ないそうで、それに本人の自供がくっついて罪に問われるそうだ。だがディアナはこの国に来てからも口を閉ざしてしまった。だが危険な彼女を野放しにする事も出来ないし、秘密裏に消すなんてことは王命でも他国のことだから口が出せない。だからこの国の禁術で彼女の過去を調べたそうだ。そして彼女が三人の殺害、二人の洗脳、その他にも脅迫などの余罪もあったけれど、三人の殺害という時点で死罪は確定したそうだ。「君達の国は魔法の知識はお粗末だったけれど、この国にはない技術も持っていた、今回それと引き換えにロットバリー殿に魔法の指南をする事にしたんだよ」ソルジャー王国も魔力持ちはそん
Dernière mise à jour: 2025-04-03
Chapter: 解けた洗脳
夕食後マキシムから執務室に呼ばれた。ロットバリーのエスコートでティアナはソロリソロリと廊下を歩く。昼に読んだルルーニアの手紙から元気のないティアナをロットバリーが気遣う。「ティアどうかした?」かけられた声にそっとその方を見上げる。相変わらず背高のっぽの彼は心配そうな顔でティアナを見ていた。そんな彼を見て何時もと違う感情がティアナに湧き出る。(愛おしい)好きだ、大好きだ、愛してるそんな気持ちは随分前から思っていたけれど、庇護したい程に愛おしいなんて思ったのは初めてだった。その感情にティアナは少しばかり戸惑った。(自分の感情なのに私変ね)ただロットバリーを守りたいと思ったのは初めてだった。守られていたティアナが唐突にロットバリーを守りたいと思った。ロットバリーの心配そうな顔へ向けてティアナは首を横に振った。「何でもないわ、ただあなたの事がとてつもなく好きだなって⋯」頬を染め上げロットバリーに答えていた。執務室に辿り着いた二人は顔が真っ赤なままマキシムに促されソファに並んで腰掛けた。マキシムの話しは今後の二人についての話しであった。「ティアナ、以前このトラッシュ公爵家の成り立ちについて話したのを覚えているかい?」マキシムはそう切り出した。「えぇお義父様、魔力を持つ者だけが継いでいくという事でした」ティアナの返答にマキシムは頷いて微笑みながら次代はロットバリーに継がせようと思う、そうティアナに自分の決意を話してくれた。「ティアナの行方不明に尽力してくれたソルジャー王国の魔術師団と話して、このターニア王国が如何に魔法というものを廃れさせてしまっていたか気付かされたんだ」マキシムは苦い顔をしながら話してくれたのは、以前少しだけ見かけた緑髪の紳士との話だった。そしてこの国の魔力というものが、いつからか何の発展もせずに来たことを知らされた。まさか、マキシム達を宝の持ち腐れと揶揄されたとは驚きだった。ティアナなど魔力も持ち合わせていないのに⋯⋯。「魔力というものは持っているだけでは魔法が使えないそうだ、魔力を解放しなければ何の意味もないと言われた、その方法を我々の国は知らなかったから今回のような時に対応出来ないのだと思い知らされた」「では今回のディアナ・ルーストは⋯」「あぁ彼女は魔力の解放をしていて魔法を駆使していたんだ、だ
Dernière mise à jour: 2025-04-03
Chapter: 葛藤
|お父様《写真》の部屋に花を飾って久しぶりにロッキングチェアに座り壁を見上げると、何時もと変わらずクロードの微笑みがティアナに降り注ぐ。先程事件のあらましをマキシムから詳しく聞いたティアナは今尚困惑の中にいた。マキシムからの話しに無いものがきっと洗脳部分だとティアナには解ったけれど、あんなにリアルな出来事が全て魔法だった事が信じられなかった。ディアナ・ルースト彼女が自分にどんな恨みを持っていたのだろうか?その動機の部分にはまだ自供が無くて不明なのだとか⋯。「お父様⋯私」それ以上写真の父に何を話していいのか⋯言葉に詰まってしまった。そしてミランダが御見舞に来てくれて、ルルーニアからの手紙を預かってきていた。その事もティアナの心に影を落としていた。どうやらマリアンヌも洗脳されていたようだ。それもティアナよりもかなり前から、ストーカー行為自体が洗脳による物だったと知った皆は、何故か当然のようにロットバリーに救いを求めた。支えてあげて欲しいと⋯⋯。それを頑なにロットバリーが拒んでいるのをティアナに説得して欲しいと認めてあった。無神経な親友の本当の気持ち。きっとルルーニアにとって姉のマリアンヌは大事な大事な道標だったのだろう。尊敬していた姉が洗脳によって堕ちてしまった。藁をも縋る思いでティアナに手紙を送った事が文面から伺えた。だが⋯気持ちは解るがティアナの心が拒否している。「ロットの気持ち次第だけれど⋯私は⋯嫌なの。だって私以外の人を支えるロットなんて見たくないし⋯でもねお父様。マリアンヌ様は食事もしないそうなの、家族の支えではどうにもならないとルルーは言ってるの。それを無視なんて⋯出来なくて⋯でも嫌なの、私⋯どうしよう」物言わぬ父に話しかけるティアナは答えを乞うけれど返事は当然返ってこない。ただロットバリーの愛の言葉を繰り返し思い出しては弱い自分の心に刻むのだ。ロットバリーの願いを叶えるために。『先ず大前提を覚えてほしい。それを脳裏に刻んでくれ!俺はティアを愛してるんだ』(ロット⋯これが今の貴方の願いよ⋯⋯ね?)
Dernière mise à jour: 2025-04-03
Chapter: 愛の言葉
トラッシュ公爵家にそのまま帰ってきてしまったティアナは戸惑いを隠せなかった。数ヶ月前にはそこに住んでることが日常だったのに、知らぬ場所に連れてこられた感が否めなかったのだ。一つは公爵邸にロットバリーが住んでいることへの違和感だったかもしれない。そんなある日ティアナはロットバリーに誘われて公爵邸の庭園を散策した。エスコートではなくしっかりと握りしめられた手、巷で流行る恋愛小説の中に出てくる所謂恋人繋ぎで歩く庭園は恥ずかしさと戸惑いとそしてロットバリーから醸し出される安心感。ティアナの顔は真っ赤なまま庭園の端に設置された東屋に到着する。「ティア」呼び掛ける声は前のままなのに気持ちの変化があったのはティアナの方だったのかもしれない。「ティア、ゆっくりと話しをしたかった」その言葉で、こちらに帰ってきてから彼とは話していないことにティアナは気付いた。彼の願いはティアナの死だった筈なのにと、洗脳の解けている筈のティアナはまだ混同していた。「ティアは洗脳されていたんだ、だけど俺達にはどんな洗脳だったかが解らない。そして何故君があの場所に居たのかも解らないんだ。俺達の中では君は刺されたあと公爵家で治療を行っていた。それは覚えている?」「えぇ覚えているわ」「刺したやつの顔は?」「見ていないわ、何故刺されたのかも解らない」「その時ティアは何をしていたの?」ロットバリーはティアナに質問を繰り返していた。そういえば刺された時、彼は隣国に行っていて会っていないことをティアナは思い出した。「貴方とはあの時お話していないのよね?」「そうだ、俺はサリバン公爵令嬢の件でほとぼりが冷める迄と言われて隣国に行っていたんだ」「そう⋯そうだったわ、そうよね」胸の内でそうだと繰り返しながらその時の事を思い出そうとするが、途端頭痛がしてきた。痛みに顔を顰めたからだろうロットバリーがティアナの体を気遣う。「ティア無理はしないでいい、でもこうやって記憶を手繰る事こそが洗脳を解く鍵なんだ」「そうなの?」「あぁ洗脳は脳に干渉する、無い筈の記憶を植え付けるから解いてもそこに残ることがあるらしいんだ、だからこそ解いたあとにケアしないとそれがそのままティアの記憶にすり替わってしまうんだよ、解いたのに解けてない、それほど危険な魔法なんだ」「あっという間に解けるのではなくて?
Dernière mise à jour: 2025-04-03
Chapter: 歪な関係 3
お祖父様の何かしらの関係のあるメリーナ・スティル女男爵。その方の名前を頂いた私は祖父にとってどんな存在だったのか?代わりなのか、それとも憎々しい相手を忘れることのないよう自分を戒めるために付けたのか。まぁ今更考えてもしょうがない。私が取り戻したいのは幼い頃に母が優しく呼んでくれた“メリーナ”という響きを渇望しているからだ。ある日お祖父様に呼ばれて冊子を一冊テーブルに投げられた。「此処へ行け」一言で終わる会話。会話とは一言では成立しないのに我が家の会話はいつからかこうなった。それもこれもあいつに会ってからだ。空気の重い公爵邸、何時しか私の住むそこが公爵家の領地に建てられたものだと知る。弱い母には悪いけれど逃げられるのなら逃げたくて祖父に言われて可能な限りの最短で女学園の寮に移り住んだ。幼い頃に会った事のあるユアバイセン侯爵家のナタリーヌは始め私を見下していた。公爵家といえども王都にいる《《分家》》よりも力のない名ばかりの公爵。父をそう揶揄して私を馬鹿にした。私は魔法を開花してその頃には色々な魔法を自分で調べて使えるようになっていた。その夜私は彼女の部屋に転移して首を絞めた。鍵のかかった部屋に突然現れた私に慄き尚且つ絞首された彼女は私への絶対服従を誓う。笑いが止まらない。魔法さえあれば私は唯一だ!祖父が何の意図で此処に私を送ったのか暫くは気付なかった。学園が始まるまでの余暇で彼の男爵家に様子を見に行くとそこに住む可愛らしい私と同じくらいの少女が目に入った。丁度馬車に乗り込むところだったので後を付けると二人はデートしていたようだ。呑気なものだロットバリー!ターゲットを観察する、私には手足となって働く男手がない。それを見つけることも急務だった。ナタリーヌに男爵家を調べさせた。その少女はロットバリーの婚約者だった、そして彼女は女学園に入学予定。祖父が何を私に求めているのかが解った。解ったけれど言いなりになるのに少しだけ時間を擁した。葛藤したが結局は彼女を苦しめることがロットバリーを苦しめることだと思い、ターゲットを彼女に絞った。名前も気に食わなかった。祖父の気分で変更された名前、一文字だけ違うそれが何とも歯痒かった。メリーナの時は同じにしたのに何故この女の時は一文字違ったのか⋯それが呪縛のように感じた。お前
Dernière mise à jour: 2025-04-03
幸せの選択

幸せの選択

ルルーシアは年に一度だけ帝国から王国への旅を許されていた。 生まれ育った王国に両親のお墓があるからだ。 だけどルルーシアの目的はお墓参りだけではなかった。 大好きな幼馴染のマークに会うのも楽しみにしていた。 「何時か騎士になってルルーシアを迎えに行くから待ってて」 そう言ったマークの言葉を信じていた。 学園を卒業して商会で働くルルーシアの元に一通の手紙が届く、マークの妻からだった。 悲しみに暮れるルルーシアを支えてくれたのは従兄のカイルだった。 ※作者の妄想の産物です 設定などゆるゆるですが広い心でお読みください
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Chapter: 20
義父の手からカイルへとルルーシアは最愛の彼の手を取る。神父の前に二人で立つ、それは長い間ルルーシアの夢であった。此処で神に永遠を誓う。病める時も健やかなる時も⋯⋯。過去のルルーシアはマークとの未来を夢見ていた。それは叶わぬ夢であったけれど、今はカイルが横に並んでいる。思えばルルーシアが一人で帝国に連れてこられてからカイルはずっと側で見守っていてくれた。気付かなかったのはルルーシアだった。ずっと側にいてくれたのはマークではなくカイルであった事にやっとルルーシアは気付くことが出来た。誓いの口づけは少し涙の味がした。それが自分の涙なのかカイルの涙なのか分からなった。二人とも泣いていた、幸せの嬉し涙だった。教会の外には今の今まで参列していた皆が出てきた二人を眩しそうに眺めて待っていてくれた。ルルーシアが思いっきり投げたブーケをキャッチしたのは彼女の学園時代の優しい友であった。─次は貴方の番ね─幸せのお裾分けが出来る事にルルーシアは嬉しく思った。そのまま揃ってカイルと空を見上げるルルーシアはこの何処かの空に両親が見守っていてくれてると感じていた。─お父様、お母様、私をこれからも見守っていてね。幸せな私を見ていてね─空へと心の中では語るルルーシアの背にそっとカイルが手を添える。その手に気付いてルルーシアはカイルを見上げる。そこには大好きないつもルルーシアに寄り添うカイルの優しい眼差しがあった。◇若い二人の為に子爵家では新居を用意してくれていた。その庭にはルルーシアの希望でレンギョウを植えてもらっている。その側に作られた四阿でルルーシアは編み物をしながら寛いでいた。─春は芽吹きの季節なのよ─嘗て母が教えてくれた言葉ルルーシアの人生の指針の言葉でもあった。嫁いだ季節は夏であったが、今は秋、次の春が巡ってきたらカイルと二人で両親の新しく眠る場所へと会いに行くつもりだ。「その時に報告しないとね、お父様とお母様の喜ぶ顔をみたいな」ルルーシアは、まだ傍目には気付けない程のお腹を擦りながら呟く。ルルーシアは今出来上がったばかりの小さな靴下を空に向かって翳す。ルルーシアは今とても幸せだ。end最後まで読んで下さりありがとうございました♡
Dernière mise à jour: 2025-05-21
Chapter: 19
教会の控室でルルーシアは豪華なウェディングドレスに身を包んでいた。独特の光沢のシルクのドレスにレースがあしらわれていた。シルクのマーメイドラインのドレスは少し年代物であった。それは順当に行けばルルーシアの母であるマリーヌが、最愛の相手であるディスターとの挙式で着る為に、子爵家で用意されていたドレスだった。思わぬ横槍の為に着ることも叶わなかったそのドレスを子爵家では大事に保管していた。そのドレスを初めて見せてもらった17歳の時、マークとの結婚の為にルルーシアは着たいと伯父である子爵に話していた。ミソの付いてしまったマークとの出来事で子爵はこのドレスをルルーシアが着ることに躊躇していたが、ルルーシアは気にしなかった。相手が誰であろうと母の形見に袖を通す事がルルーシアの夢なのだと伯父達を説き伏せたのだった。本来のアッサリとした作りのシルクのドレスにレースをあしらったのは侯爵家の祖母だった。マリーヌとディスターは婚姻後、平民になる事が決まっていた、ディスターの頑張りで騎士爵を賜る事になるかもしれないが、その時はまだ平民の道のみが二人の行く末だった。だから素材は子爵家の思いから最高品のシルクであったが飾りは殆ど無くシンプルなドレスに仕上がっていた。今回の婚姻ではルルーシアの相手は次期子爵になるカイルだ。後々の事を考えてお披露目になるドレスに飾りを入れるのは当然の事だと前侯爵夫人は皆に唱えた。夫人の思いがレースに表れているようにその気配りにルルーシアは感謝の気持ちが込み上げる。仕度を終えて用意されていた教会の少し固めの椅子にドレスの裾を気にしながら腰掛けて、ルルーシアはその時を待っていた。“コンコン”ノックの音が響いて始めに入ってきたのは侯爵家の面々だった。口々に「御目出度う」と祝の言葉をかけてくれる。祖母である前侯爵夫人は、嘗ての侯爵家の家族の肖像を大事そうに手に抱えていた。父や祖父にもルルーシアの晴れ姿を見せたいのだと夫人は言う。その肖像画にルルーシアは立ち上がりカーテシーをしてから、くるりと一回り回った。「お祖父様、お父様、どうかしら?私立派な淑女かしら?嫁いでも見守ってくださいね」ルルーシアの言葉はその場の者の涙を容赦なく誘った。義父が時間だとばかりにルルーシアに手を差し伸べる。控室に集まっていた侯爵家の面々はそれを合図
Dernière mise à jour: 2025-05-20
Chapter: 18
列車を降りるとホームには彼が待っていてくれた。ルルーシアの胸にフワッと入り込む笑顔を浮かべて旅の疲れはそれだけで吹っ飛んでいく。「シア、お帰り」ホームに降り立つなりギュッとルルーシアを抱きしめて愛おしそうに耳元で囁くカイルの声と彼のコロンの匂いが少し離れたたげなのに懐かしく感じる。「ただいまカイル」抱きしめる彼の胸元に顔を押し付けながらくぐもった声で返す。「イチャつくのは早くないかなぁ」前から声がかかりカイルが視線を上げると呆れた顔でリシュエドが立っていた。彼の手にはおそらくルルーシアの物だと思われる旅行鞄があった。「君も来たのか」「ルルは私の妹分なのでね、幸せを見届ける権利が私にはあるでしょう?次期ドーマ子爵」旅が終わったらルルーシアとカイルは結婚式をあげると聞いたリシュエドは強引にルルーシアに着いてきたようだ。カイルは苦笑しながら「招待状を一つ追加で作らないとな」そうリシュエドに言った。それから三人は帝都の端に位置する丘へ向かった。そこはルルーシアの両親を新たに埋葬するための墓地だ。墓地の管理をしている教会へと挨拶をするとそこには父の学友だと言う騎士が待っていた。彼が両親の亡骸を移動する任を引き受けてくれたそうだ。その費用は皇帝が出してくれると彼は言った。「妹である皇女の失態のお詫びだと仰っています」皇女のせいでルルーシアの両親はしなくても良い苦労をしたのだと、彼女の兄である皇帝がルルーシアへの詫びに乗り出してくれた事を初めて知った。「⋯⋯ありがとうございます」考えれば色々と思う所はあるけれどもう過ぎた事だと考えられる程ルルーシアは大人になっていた。もう少し若い時なら苦々しく思ったかもしれない。でも人生には仕方がないこともあるとルルーシアは学んでいたし身を持って知っていた。自分の身の上を嘆いても前には進めない事も知っている。埋葬が可能になる時を打ち合わせて予定する墓地の場所へと向かった。その場所へ辿り着いてルルーシアは思わず微笑んだ。早々に用意されている墓石に刻まれている名をルルーシアは撫でながら側に咲いている花に挨拶をする。「これからよろしくお願いします、今度からは貴方達が両親を見守ってくれるのね」帝国に咲くレンギョウの花も黄色い花を揺らしてルルーシアの言葉に応えてくれている様に感じた。それから
Dernière mise à jour: 2025-05-19
Chapter: 17
「どうして⋯何故だ」マークの呟きはルルーシアの耳に届いたが彼女は返事が出来なかった。マークの疑問が何に向けられているか分からなかったからだ。ルルーシアはマークの妻ミレーヌ・セドワの手紙の件を彼に話すつもりはなかった。彼等の幸せな家庭にヒビを入れる存在は今日居なくなるのだから敢えて言う必要もないと考えていた。その疑問がルルーシアの心変わりに対しての疑問なら、そっくりそのままマークに返すつもりだ。だから返事をせずに彼の次の言葉を待つ事にした。マークは両手で頭を抱えながら俯いて「何故、何故」と繰り返すばかりで、その間も時間は刻々と過ぎてゆく。ベンチの側にその花は咲いていた。空に向かって真っ直ぐに枝を伸ばして咲くその花を毎年眺めながらマークとの未来を想像していた。適齢期を過ぎた頃にはその花言葉に縋るように祈りながら眺めていた。黄色い花を咲かせてルルーシアを毎年慰めてくれていたのに今日でこの花ともお別れだ。─今までありがとう、貴方達とは今日でお別れだけど私の住む国にも貴方達と同じ花が咲くのよ、貴方達の花言葉に今迄支えてもらっていたの。でもこれからの望みは違うものだから私の住む国で祈る事にするわ─ルルーシアは心の中でレンギョウの黄色い花にお礼を述べた。レンギョウの花言葉は“希望”ルルーシアはマークの家庭を知るまでは毎年このレンギョウに祈っていた。─分不相応な願いだったよね、ごめんね─今度は心の中で謝罪する。レンギョウの花にお礼と謝罪を何度か繰り返した時、漸くマークが顔を上げた。「いつから知っていたんだ」ルルーシアは驚いた、そんな事が今彼の知りたい事なのだろうか?それを知って彼は何がしたいのか⋯ルルーシアは困惑してしまった。「それを聞いてどうするの?」「⋯⋯いや、ごめん」マークも聞いてもどうしょうもない事だと気付いたのかそれ以上はその件については聞かなかった。「君は、別れてもいいと思ってるの?」「⋯マーク質問の意味が分からないわ、何が言いたいの?」「君は私の事を好きだろう?だから⋯今まで」「ちょっと待ってマーク、私が貴方を好きだから家庭を持っても会っていたと言いたいの?」「⋯⋯」ルルーシアは最後だから穏便に終わりたかった。それなのに目の前の彼はルルーシアの心を揺さぶってくる。怒りの気持ちがこみ上げてきてイライラとし
Dernière mise à jour: 2025-05-18
Chapter: 16
いつものように墓地の入り口へと向かった。一年ぶりのその場所は相変わらず静寂に満ち溢れた場所であった。落ち着く空気に囲まれてルルーシアは一つ深呼吸をする。前に見えるのはマークだった。じめんを見つめながら俯く彼が顔を不意に上げてルルーシアに気付いた。その笑顔を見ていると彼の本心が解らなくなる。その笑顔の裏に幸せな家庭を築いてルルーシアを騙していたなんて一年前まで思いもよらなかったのだから。いつもであれば二人揃って両親の眠る墓の前に行き二人揃って祈りを捧げる。だけど今日はそんな事をするつもりはなかった。この場所で祈る最後の日なのだから。不誠実なマークとは一緒に祈りたくはなかった。「シア、一年ぶり!さぁ行こう」いつものようにそう言って手を差し出すマークにルルーシアは首を左右に振った。「マーク、今日は二人の所へ行く前に話があるの。あそこで話しをしましょう」「祈ってからでは駄目なのか?」墓地から逸れた散歩道にベンチがある。いつもは祈った後に二人でそこで一年分のお喋りをする場所だった。だからマークの問いは自然なものだったかもしれないがルルーシアには空々しく感じた。「えぇ、祈る前がいいの」訝しげな顔をしたマークだったが直ぐに思い直したのか再び笑顔を向けて「そうか、じゃあ行こうか」と右手を差し出した。その手には目もくれずルルーシアはマークの横に並び言葉を発することなくベンチへと向かった。無視されてしまった右手を握り拳に変えてマークも黙ってベンチへと歩いた。三人は優に座れるベンチに何時もは寄り添って座るのだがなるべくルルーシアはマークから離れた。不思議な顔をするマークへとその日初めて笑顔を向けてルルーシアは言った。「マークお別れしましょう」苦しそうな顔も悲しそうな顔もせずに普通に笑顔で別れ話を切り出したルルーシアをマークは呆然と眺めるのだった。しばらく呆けていたがハッ!と気を取り直してマークは聞き返す。「冗談だろう?」その言葉にルルーシアは苦笑する。「いいえ、本気よ」「如何して!何故!君は私を愛しているんじゃないのか!」その言葉を聞いたルルーシアは腹の底から可笑しくなった。どの口がそれを言うのだろうか。「ふっ」思わず呆れた声が漏れたルルーシアに馬鹿にされた様な感覚をマークは感じた。「なぜだ、シア。俺達結婚するんだろ
Dernière mise à jour: 2025-05-16
Chapter: 15
1年ぶりの王国は帝国よりも少し暖かく感じた。駅を出て馬車乗り場を目指そうとしていたら少し遠目に誰かが手を振りながら走ってくるのをルルーシアの視界が捉えた。彼はルルーシアの前に来るとそんなにも必死に走ってきたのかというほど膝に手を当て頭を下げて肩で息をしていた。「はぁはぁはぁルル、はぁシア、はぁ⋯⋯」「落ち着いてください」彼の様子からルルーシアにはおそらくだが彼の正体が解ってしまった。あまりにも苦しそうだったので俯いた背中をさすりながら声をかけた。そうしていたら落ち着いたのか彼が擦っていたルルーシアの腕をポンポンともういいと言う様に優しく叩いた。「ありがとう、遅くなってしまって慌てた⋯ルルーシア嬢お久しぶりです。私を覚えていらっしゃるでしょうか?リシュエドと申します、昔孤児院「覚えていますエド兄様、昔の様にルルとお呼びくださいませ」」畏まって話すリシュエドの自己紹介を途中で遮ってルルーシアは気楽に話して欲しいと思い懇願した。ルルーシアの言葉を聞いたリシュエドはニコッと笑い「ルル!元気だったか!会いたかった」そう言って抱きしめてくれた。そこには男女の思いなどなく、久しぶりに会えた兄妹の抱擁であった。ルルーシアの体を手放した後もリシュエドは頭を撫でながら「大きくなった」と笑う。それが可笑しくてルルーシアも自然な笑みが溢れた。マークへと別れを告げる為に来た今回の度はルルーシアの新しい一歩でもあると同時に長年の関係を断ち切らなければならない、重苦しいものであったからかなり身構えてホームに降り立ったのだ。そんな気を張ってガチガチだった肩がリシュエドのおかげでスッキリと緩和した。「兄様、お会い出来て嬉しいです」「俺も会えて嬉しい、墓地に行く前に朝食はどうだい?」リシュエドに誘われて駅近くの早朝からやっている食堂へと向かった。懐かしい王国の家庭料理だったが、ルルーシアの家ではそれを母であるマリーヌが帝国風にアレンジしていたからあまり懐かしさは感じなかった。この場でルルーシアが懐かしむのは目の前のリシュエドだけだろう。「カイルに聞きました、エド兄様が力を貸してくださったそうですね、本当にありがとうございます」「俺はカイル卿に雇われただけだよ、教会の手続きは終わってるからな、あとはルルがサインするだけだ」ルルーシアはリシュエドの言葉に
Dernière mise à jour: 2025-05-14
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