貴方の願いを叶えたい

貴方の願いを叶えたい

last updateÚltima atualização : 2025-04-03
Por:  marukoCompleto
Idioma: Japanese
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上位貴族の両親を持つにも関わらず庶子として生まれたティアナ。 早世した父の加護により死ねないティアナ。 幼い頃から精神的に虐げられてきた彼女が幸せを掴むまでの物語。 ※全て作者の妄想の産物です 広い心でお読みください

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Capítulo 1

貴方の願い  そして生い立ち1

電話を切った直後、スマホがまた震えた。

竹谷沙雪(たけや さゆき)からのメッセージだった。

【藍里さん、もう心は決まりましたか?】

藍里の指先は、画面の上をさまよっていた。やがて打ち込んだのは、短い言葉。

【決めました。雅也とは、別れます】

栗栖雅也(くりす まさや)。

その名前を心の中でそっとなぞるだけで、胸の奥がじんわりと熱を帯びて痛む。

初めて雅也を見たのは、高校の入学式だった。新入生代表として壇上に立ち、真新しい制服姿で、春の日差しを浴びながら、透き通るような涼やかな声で挨拶をしていた。

あの頃の彼は学年中の女子が憧れる存在で、成績優秀、容姿端麗、何もかもに恵まれた人だった。

一方の藍里は児童養護施設育ちの、成績もぱっとしない平凡な生徒の一人。彼に話しかける勇気すらなかった。

すべてが変わったのは、高校二年の時。

雅也が愛人の子だという出自が暴かれ、母親のあられもない写真が学校中に貼り出された。一夜にして、彼は誰もが憧れる存在から、蔑む対象へと転落した。

周囲から孤立し、嘲笑され、ついには川へ身を投げるまでに追い詰められていた。

彼を川から引き上げたのは、藍里だった。

あの夜、ずぶ濡れのまま、虚ろな目で彼は尋ねた。

「……どうして、助けたんだ?」

どうしてかなんて、自分でもわからなかった。ただ彼の手を強く握りしめた。その手を離してしまえば、彼がまたどこかへ消えてしまう気がして。

それから二人は、十平米ほどの安アパートで身を寄せ合って生きてきた。

大学受験の結果が出たとき、二人とも私立だったため、どちらか一人分の学費しか払えないことは、最初からわかっていた。藍里は迷わず進学を諦めた。

「どうして?」と彼は聞いた。

「私の成績じゃ、大した大学には行けないもの」と、藍里は笑ってみせた。

「あなたを行かせなきゃ。生活費なら心配しないで。今だってバイトを三つ掛け持ちしてるから、なんとかなる」

彼は長いこと黙り込み、やがてぽつりと言った。

「藍里……必ず、幸せにする」

そしてその言葉どおり、彼は本当にそれを叶えた。

飛び級を重ね、修士から博士へと一気に進み、二十四歳で西京大学史上最年少の教授となった。「天才学者」と呼ばれるようになった彼は、藍里を伴って川の見えるタワマンへと引っ越した。

これでやっと今までの苦労も報われると思っていたのに、あの日、偶然彼のスマホの画面を見てしまった。

沙雪は西京大学学長の娘。美しくて、優秀で、誰もが振り返るような女性。

そんな彼女から、雅也のもとには数えきれないメッセージが届いていた。

【今日も実験、失敗しちゃいました。落ち込みます】

【コーヒー買ってきたので、研究室に置いておきますね】

【どうして返信くれないんですか?私のこと、嫌いですか?】

雅也の返信はいつもそっけなかった。けれど沙雪がしびれを切らして問い詰めると、彼はようやくこう返した。

【嫌いなわけじゃない。ただ、女性とどう接すればいいのか、わからないだけだ】

その翌日、雅也は珍しく藍里に尋ねた。

「女性が喜ぶプレゼントって、何がいいと思う?」

その瞬間、藍里の胸を冷たい針で刺されたような痛みが走った。

これまで、雅也に想いを伝えようとしたことは何度もあった。ただ彼はいつも勉強や実験に追われていて、その気持ちは胸の奥にしまい込んでしまっていた。

そして今、ようやく藍里は理解した。雅也が自分に抱いているのは感謝であって、恋愛感情ではないのだと。

それからほどなくして、沙雪のほうから藍里に連絡してきた。

その日、彼女が持ってきたファイルの中には、かつて雅也の母親を死に追いやった、あの写真のコピーが詰まっていた。

「雅也の異母兄が、また同じ手を使って彼を潰そうとしているんです。今回はなんとか食い止めましたけど。

私と雅也は想い合っています。でも彼は恩返しのために、あなたのそばを離れられずにいるんです。

でも、藍里さんには彼を守れません。もしこのまま彼のそばに留まるなら、この写真は世に出回ります。彼がこれまで積み上げてきたものが、また全部、水の泡になる。

でも、もしあなたが手を離してくれるなら」

沙雪は静かに言った。

「私が彼を守ります。彼がまっすぐに、光あふれる道を歩けるように」

その夜、藍里はベランダで一晩中、月を眺めていた。

夜が明ける頃、ようやく答えが出た。

沙雪の言うことは事実だ。自分には雅也を守れない。

それに、雅也は自分を愛してなどいない。

だから、彼のもとを去ることが一番いい選択なのだ。

手放すのも、悪くない。

これからはもう、夜更けに小さな明かりの下で、彼の帰りを待ちわびなくていい。

天才学者となった彼が、他の女性との接し方を自分に相談してくるたびに、苦い思いを胸に飲み込まなくていい。

そして、決して自分を振り向いてくれない人を、来る日も来る日も待ち続けなくていい。

不意に胃の奥に鋭い痛みが走り、現実に引き戻された。

藍里は床にうずくまった。冷や汗が背中を濡らす。薬箱はテーブルの上にあるのに、手を伸ばす力すら残っていない。

鍵の回る音がして、雅也が部屋に入ってくるなり、床に倒れている藍里を見て顔色を変えた。

彼は駆け寄り、そっと抱き上げてベッドに横たえる。

「薬は……」

彼の声にはわずかな焦りが滲んでいた。引き出しの中を探し回りながら尋ねる。

「この前買った胃薬、どこに置いた?」

藍里が引き出しを指差すと、彼はすぐに水を用意し、薬を取ってきた。まるで何度も繰り返してきたかのように、迷いのない手つきで。

温かい水が唇を濡らし、藍里は少しずつ飲みながら小声で言った。

「ありがとう……迷惑かけてごめんね」

「迷惑じゃない」

雅也は眉をひそめた。

「胃が弱いって自分でわかってるのに、どうしてすぐに薬を飲まないんだ」

あの頃、彼を学校に通わせるためにバイトを三つ掛け持ちして、一日一食で済ませることも多かった。そのせいで、胃を壊してしまったのだ。

胃が痛むたびに、彼はいつも心配そうに藍里を抱き寄せ、そっとお腹をさすってくれた。眠りにつくまで。

けれど今回、彼が腕を伸ばそうとしたとき、藍里はそっとその手を押しのけた。

雅也は一瞬固まり、眉をわずかに寄せた。

「雅也、私……」

言いかけたそのとき、彼のスマホが鳴った。

沙雪からだった。

「もしもし?」

彼は電話に出た。視線はまだ藍里に向けたまま。

「流れ星?……今から?……わかった」

電話を切ると、彼は立ち上がってコートを手に取った。

「ちょっと出かけてくる。ゆっくり休んで」

背を向けて去っていくその背の高い、すらりとした後ろ姿は、かつて自分が拾い上げたあの少年の姿と重なった。

藍里は口を開きかけた。「田舎に帰ろうと思ってるの」――その一言を、結局伝えることはできなかった。

ドアの閉まる音はとても静かだったのに、まるでハンマーで心臓を殴られたようだった。

藍里は一人、暗闇の中に座り続け、やがて時計が午前零時を告げた。

冷蔵庫には、買ったばかりの誕生日ケーキが入っている。

雅也は一度も、藍里の誕生日を覚えていたことがない。それでも毎年この日、藍里はこっそり願いごとをする。

今年、彼女が願ったのはただ一つ。

私がいなくなった後、雅也が幸せになれますように。

揺れるろうそくの灯りの中、藍里の目に、あの雨の日の少年の姿がふたたび浮かぶ。濡れた睫毛の下で、驚くほど澄んだ瞳をしていた、あの少年の姿が。

あれは、これまでの人生で見た、一番美しい流れ星だった。

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貴方の願い  そして生い立ち1
やっと此処まで辿り着いたここで私の魂は安らかに眠れるかしら?魂の安住を求めて歩いて歩いて、時には走って。疲れ果てたけれど漸く⋯⋯漸く。国の最端に位置するこの領内の此処はその志願者が後を絶たないと聞いていた。ティアナはそろそろとそこへ近づく、下をそっと除くと波飛沫が岸壁に襲いかかっている様に見えた。これなら死ねるきっと大丈夫。目を閉じそこへ飛び込んだ。迷いは一切なかった。だってこれがあの人の願いだもの。一時でもティアナを愛してくれたあの人の願い。叶えてあげなければ⋯⋯。頭の天辺に冷たさを感じた気がした時、ザブンという音と共にティアナは意識を失いそして真っ暗になった。☆★☆~生い立ち1~──────────────ティアナは侯爵家の庶子として誕生した。彼女の母はリサリディ・マリソーマリソー侯爵家の女侯爵だ。マリソー侯爵家にはリサリディしか生まれず、彼女は子供の頃から侯爵家の後を継ぐ事が決まっており、厳しい教育を余儀なくされていた。婿養子の候補は3人いた。マリソー家はターニア王国の長く歴史のある忠臣の家であるから王家の覚えもめでたい。リサリディに婿入りしたい者は我先にと釣書を送った。その中から両親は厳選して3名を選んだ。幼い頃より交流を持つと良くないと判断した両親は顔合わせの時期を学園に入学する15歳と定めた。何故なら両親も幼馴染でお互いを兄妹のように接していた為、閨に至るまでに実に5年を要したからだ。当然父親の方には性処理をする為に愛人がいた、しかし父は愛人に子供を作る愚行は侵さなかった。今となっては作っておけば良かったと思ってはいるが後の祭り。まさかリサリディができた後に、自分が病に侵されその後遺症で子種が無くなるなどと思いも依らなかった。病のあとに何度閨を繰り返しても妻にも、そして愛人にも子供が出来なかったのだ。愛人に至ってはリサリディが出来るまで事後に避妊薬を飲ませ続けたからではないかと推察されたので、若い娘を新たに愛人に迎えたが其方にも出来なかった。いや一人出来たのだが産まれてみたら彼の子でないのは一目瞭然の赤毛で黒目の男の子で、愛人の護衛に雇っていた傭兵にそっくりであった。二人とも直ぐに叩き出したが⋯⋯。そういった経緯も有り子供はリサリディのみと
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生い立ち 2
ティアナは物心ついた時から父に嫌われている事が悲しかった。母が自分の顔を悲しそうに見るのも辛かった。弟妹達には父から「近寄るな」と言われ話す事も禁じられた。母は庇ってくれていたが何時しか父の言う事を聞くようになった。その頃から父と母は仲睦まじくなって鴛鴦夫婦と周りから呼ばれるようになっていった。丁度その頃、祖父母からティアナは自分の出生の秘密を教えられる。ティアナの10歳の誕生日だった。齢10歳には苦しい誕生日プレゼント。何故父が自分を嫌っていたのか、母の自分を見る時の悲しそうな瞳。それらの全てを理解した。そして母の心変わりも。母はとうとう死んだティアナの本当の父より今の夫を愛し始めたのだろうと。そうなればティアナの居場所は侯爵家にはない。祖父母からも引き取りたくないと言われた。ティアナは絶望する。この世に産まれて来たのは何のためなのだろう祖父母にも母にもティアナの存在は黒歴史なのだ。そして本当の父の生家である公爵家からも疎まれていた。ティアナが出来た事で本当の父が死んだのだと本当の父の母、ティアナにとっては父方の祖母にあたる人に初めて会った時に罵倒された。そうして居場所のないティアナは12歳でマリソー侯爵家の傘下の子爵家に多額の持参金と共に養子に出された。養子先では本当の子供の様に可愛がってもらえた、やっと安息の地を見つけたと思った矢先に養父母と一緒に行った領地の視察で事故が起き二人は亡くなりティアナだけは無傷だった。同じ馬車に乗っていて衝撃は一緒の筈だ。現にティアナは痛みを覚えている。体中が痛くて痛くて薄っすらとした記憶の中で血が出ていたのも覚えている。死ぬのだと思った途端意識がなくなり次に気付いたのは運ばれた病院のベットだった。白い天井を見ながら優しい養父母の訃報を聞いた。其れを告げたのは急遽病院に呼ばれた母であるリサリディからだった。◆当初病院に運ばれたティアナは無傷でも血だらけで虫の息だったそうだ。医師達はその異常な状態のティアナに成す術もなく「覚悟を」と子爵家の執事に告げた。そんな折、事故の報せを聞いて駆けつけたリサリディだったが、執事から聞いた話に驚愕した。「一度は心音が止まったように見えたのですが、直ぐに心臓が動き出して⋯生き返った様でした」子爵家の執事は当主夫妻が亡くなり残っ
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婚約打診 1
リサリディが思案している所に前述の執事が声をかけた。「あのご当主様、お客様が来られているのですが⋯」「えっこんな所に?」「はぁ」はっきりしない執事の返事に侯爵家ならこんな執事は首だわ、そう思いながら顔を向けると、彼は病室の扉を少しだけ開けて顔だけ此方を覗かせている。その無礼な態度にリサリディは苛立つが、取り敢えず客とは誰か気になり廊下に出た。其処に佇んでいたのは会いたくない女性だった。父の長年の愛人だった、メリーナ・スティルが微笑んでいた。彼女には幼い頃に何度か会ったことがある。父親の愛人など普通は娘に会わせないのだが、彼女は特別だった。何故なら彼女、メリーナは魔力持ちであったからだ。リサリディは魔力持ちで合ったが、その魔力量は極々僅かで魔石に満タンに息を吹き込むほども無く、明かり用の魔導具に精々2時間分ほどしかなかった。そんな魔力量でも暴走するととんでもない事になるから、制御を学ぶ必要があった。その制御を学ばせる為にデリカシーのない父親が目合わせたのだ。あとから母親に彼女の正体を聞いて酷く屈辱を味わった事は昨日の事のように覚えている。そんな因縁のある女が目の前にいた。「お久しぶりでございます、マリソー侯爵様」彼女は長い間父の愛人ではあったが、その魔力によって国の機関にも所属していた。その功績を認められ女男爵の地位を賜りリサリディの父親の元を去ったのだ。「⋯⋯お久しぶりです、スティル男爵様」「ティアナ様の御見舞と侯爵様にお願いがあって参らせて貰いました」「御見舞は辞退しますわ、お願いとは?」「まぁ辞退だなんて!もう娘ではないのに何故貴方がお答えに?」確かにリサリディはティアナを養子に出したが、心の奥底ではやはり娘に変わりはないのだ。其れを解ってこの女は敢えてそう言ったのだろう。しかも何故養子に出した事を知っているのか⋯情報源は一人しかいないだろうと推察して、リサリディは悔しくてギリリと歯噛みする。「嫌味はいいですわ、ご用件をお話ください!」イライラしながら吐き捨てる様に言うとゆっくりとした足取りでメリーナが近づいてきた。目の前に来た彼女は今更のカーテシーをリサリディに披露する、そしてにこやかに聖女の如き微笑みを浮かべる。メリーナはとても美しい女性だった。魔法省に務める彼女に父が誑かされる程に。その金色の
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婚約打診 2
暫くするとティアナが目を覚ました。リサリディは簡潔に状況の説明をするとティアナは黙ったままただ涙を流すだけだった。リサリディは狼狽える。赤子の時ならいざ知らず物心ついてから娘の涙を見たことがなかった事に、たった今気付いたのだ。疎ましいけど愛しい、相反する気持ちで見つめる娘は声も上げずに泣いている。その時リサリディの脳裏に浮かんだ疑惑(もしかして今迄も声を上げずに泣いていたのではないのかしら)そう思った途端ティアナを抱きしめていた。リサリディは後悔に押しつぶされそうだった、紛れもなくティアナは嘗て愛した人との間にできた忘れ形見だというのに、何故自分は平気で放置できたのだろう。ただ衣食住だけの繋がりで、其れでも疎ましく思ってしまった。自分は母親なのに⋯⋯。リサリディのその抱擁に箍が外れたティアナは彼女の胸の中で未だに咽び泣いている。出したくとも声が出せずにいる娘に自分のした仕打ちをまざまざと見せつけられているようだった。「⋯ティアナ⋯ごめんなさい」謝罪するリサリディにティアナはただ首を振るだけだった。(連れて帰ろう)泣き疲れて眠ったティアナをそのまま横たえて、その足でリサリディは子爵家との養子縁組の解消をした。◆ティアナが退院してから彼女の希望で子爵家夫妻のお墓参りをしてから、二人でマリソー侯爵家に戻ると案の定ジョルジオは怪訝な顔でリサリディを出迎えた。「何?連れて帰ったの」「えぇ私の娘ですもの」「君のね」それだけの会話でティアナは萎縮してしまって、嘗ての自分の部屋に向かって足早に階段を駆け上がった。「あっ!」リサリディは困惑した、何故ならティアナの部屋はもう無いのだ。ジョルジオに何も言わず連れ帰ってみた物の新たな部屋の準備を使用人に伝えるのも怠っていた。2階に上がり部屋の前で立ち尽くすティアナに声を掛ける。「ごめんなさい、まだ準備が整っていないの。今日は客間に行きましょう」リサリディは側に控えていた自分の侍女にティアナを案内するように伝えて、執務室へ向かった。果たしてジョルジオが彼女を待ち受けていた。「何故だ!もういいと言っていたじゃないか、私を裏切るのか?」「裏切ったわけじゃないわ、でもあの子も私の娘なの。貴方が認めなくても娘なのよ」「君だけのね、そして私をどん底に落とした元凶を眺めて君は私に微笑むつ
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婚約打診 3
★スティル男爵家にて⋯「ねぇ早かったわよ」執務室で仕事をしながら先程受け取った手紙を読んだメリーナは、ソファで本を読んでいる息子に声を掛けた。「ふーん」「なぁに?興味ないの?」「母上が決めたんでしょう、俺のお嫁さん」「ふふふそうよ、黙って従うなら今度職場の見学に連れて行ってあげるわ」「ホントに?ヤッタァ」メリーナの養子のロットバリーは子供らしく喜ぶ。同年代の子に比べてロットバリーは上に成長していた。その背の高さから一見すると18歳位に見えなくもないが彼は正真正銘15歳だ。顔はまだまだあどけない。メリーナは今現在51歳だが見た目はまだまだ若く見える。養子にしたが実は彼はメリーナの子供だった。若い時失恋したばかりのメリーナは当時のマリソー侯爵に拝み倒されて半ばやけっぱちで彼の愛人になった。その1年後に本妻と閨が出来るようになったと喜ぶ侯爵の顔は子供のようで笑いがこみ上げた。何故なら彼は本妻を妹のようにしか見れず、裸の彼女を見ても彼の息子が機能せず閨ができなかったからだ。彼は幾度となく挑戦したが何年経っても無理で、結局最後はメリーナに頼み本妻の顔をメリーナの魔法で変換して事に当たったのだ。酷い男だとメリーナは内心では嘲笑っていた。自分もその仕打ちに加担してしまっていたが黙っていれば解らないと開き直った。頼まれて2ヶ月後に本妻が妊娠したのでメリーナは此れでお役ごめんとばかりに別れを告げたが、侯爵は離してくれなかった。魔法省で働いていたメリーナは暮らしには困っていなかったので早く手を切りたかったが、失恋のやけっぱちを慰めてくれたのも彼であるから少しの情は湧いていた。そんな時彼が病に倒れる。そのまま別れても良かったのだが、本妻から手紙が届いた。自分は妊娠中で世話ができないからよろしくと何とも冷たい本妻だった。しょうがなく完治するまでの看病はメリーナが引き受けたので結局ズルズルとそのまま別れることはなかった。だがその病が原因で侯爵は子種が無くなったようで、避妊をしなくなったメリーナにも、未だに魔法を施して閨をする妻にも子は出来なかった。その時に彼にもっと若い子ならと言われたので、そのまま別れることができたのだ。その時メリーナは28歳だった。35歳になった時、同じ魔法省で働く後輩に相談を持ちかけられた。自分は子が
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★スティル男爵家にて⋯⋯それから月日が経ちロットバリーは14歳になって来年は学園に入学することになった。 2年間は王立学園の普通科に3年になったら魔法科に進む事になっている。そんな時魔法省の上司からロットバリーに婚約の打診が入る。 お相手は上司の縁戚の娘だった。 同じ頃にもう一つ話しが来た、前マリソー侯爵からだった。 彼の方は自分の孫との打診だった。双方の話しを聞いてメリーナの興味を引いたのはティアナの方だった。 彼女の身の上も不憫だったが、ネックはティアナの父親がクロード・トラッシュだったからだ。彼は魔法省には所属していなかったが、魔力持ちの中でも有名な男で、当時魔力量では右に出るものはいないと言われる程の青年だった。 不慮の事故で亡くなったと聞いていたが事実は小説より奇なりとんでもない話だった。あたら才能に恵まれた若者がまさかの痴情のもつれで亡くなっていたとは夢にも思わなかった。ティアナは魔力なしだと聞いたが遺伝子はクロードだ、だったら自分の息子との間の子供はどんな魔力量なのだろう。 そう考えたらもうメリーナは止まらなかった。 魔力なしの子供が生まれたとしても別にいい、ダメ元でくっつけてみようと思いついた。だがここで魔法省の仕事が多忙を極め、話しを貰って半年経った頃ティアナは子爵家の養女になってしまった。マリソー侯爵家は格上でもあちらからの話だから問題なかったが、子爵家だとメリーナよりも格上になる。 前マリソー侯爵に口利きを頼もうかと思案していた所に、ティアナの事故の報告が子爵家に潜伏させていたメイドより入った。そして病院での一件だ。まさかリサリディが病院に来ているとはメリーナは思っていなかった。 子爵家の執事と話すつもりで病院に赴いていたからだ。捨てた娘の見舞いに来るとはプライドの高いリサリディの行動がよくわからぬまま、打診すると断られた。だが一縷の望みもあった。 一度捨てたのはティアナを厄介払いした結果だと知っていたからそのうち持て余す筈だから、いつかきっと手放すだろうと思っていた。その時にまた話そうと思っていたらあちらから早々に手紙が来るとは⋯彼女のプライドはどこへ行ったのだろうと逆にリサリディが心配になったが、まぁそんな事はメリーナには関係ない。超特急で迎えに行こう! ◆ 「初めましてメリーナ・スティ
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婚約打診 5
マリソー侯爵家の執務室ではリサリディとジョルジオ、そしてメリーナで婚約の手続きが結ばれていた。「婚約が白紙になっても彼女は此方で引き取るつもりはありませんから」「貴方!」ジョルジオの言葉にリサリディはショックを受ける。そんなにも自分とクロードの事がジョルジオを傷つけてしまったのだろうか。だがそれ程までに自分を愛してくれているのだと嬉しさもあった。だがメリーナの見解は違っていた、ジョルジオはクロードへのコンプレックスからティアナを虐げていると感じたからだ。おそらくリサリディとクロードの事も嫉妬からではなく、プライドの問題だったのだと気付いた。(なるほどねぇ)メリーナは彼の望む言葉を紡ぐ。「えぇ解りましたわ、その点は此方で手を打ちます」「えっ?」ジョルジオは驚いた。普通こんな事を言えば、なさぬ仲の子でも子に罪はないだとか諭されたりするのに、メリーナからはそんな気配もない。しかも婚約が無くなっても構わないような口振りだ。「帰ってきて欲しくはないのでしょう?」「えっえぇまぁ」「何処かの養子にしますわ、でもそれ迄はティアナの籍はこの侯爵家でお願いしますね。無事に結婚すれば他に養子にする事もないですし、結婚で籍が抜かれればここには戻れないでしょうし、ね!」クロード・トラッシュの遺伝子は魔力持ちなら喉から手が出るほど欲しがる者は沢山いるのだ。もしロットバリーと上手く行かなかったとしても引き取り手はいくらでもある。だが今其れをされては二人の子を見たいメリーナの思惑から外れてしまう。養子縁組を取り付けるのはあくまでもロットバリーとティアナが上手く行かなかったときだけにしたい。(まぁこれを言うとジョルジオの機嫌を損ねるから今は言わないけれど、はぁ器の小さい男だわ)メリーナはジョルジオとそしてその男に惚れてしまったリサリディにも呆れていた。諸々の手続きを済ませて書類を鞄に詰めたメリーナはリサリディとジョルジオに告げる。「では私達は此れで帰ら
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新しい生活 1
メリーナとロットバリーに連れられてティアナは今洋品店で着せ替え人形と化していた。二人はお茶を飲みながら先程物色した服達を一着ずつ試着して出てくるティアナの品評会をしていた。「如何かしら?」「いや此れは色違いの方が彼女の魅力を最大限活かせると思うんだ」「そう?これもなかなか似合ってるわ」「母上、歳を取って目が曇ってるんじゃない?」「なんてこと言うの!」軽口を言い合う親子を見ながらティアナは羨ましく感じていた。(いいなぁ私もお母様とあんな風に話してみたかった)少し俯き加減でそんな事を考えていたら売り子に促されて次の試着へと向かう。下着だけで体中のサイズを図られた時は恥ずかしすぎて倒れそうだった。二時間ほどその店に滞在して最後に着たワンピースを着たままで次の店に移動した。次の店はレストランだった。「あんなに着たのだものお腹が空いたでしょう、此処は偶に来るのだけれど美味しいのよ。セロリが駄目だったわよね。入ってないから大丈夫よ」そう言ってメリーナがどんどん注文した料理はテーブルの上に所狭しと並べられた。「ティアナ残していいからな、俺が片付けてやるから」頼もしいロットバリーの言葉に勇気を貰いティアナは食べたことのない料理に挑戦していった。子爵家で此れから幸せになれると思った矢先にあの事故で気持ちを突き落とされて、こんなに幸せな時を過ごせる事が出来るとは思ってなかったティアナは、子爵夫妻を思い出し泣きながらキノコのオムレットを口に運んだ。「如何したの?」メリーナの問いに答えるのを躊躇したティアナの肩をトントンとロットバリーが優しく叩いた。「お父様とお母様を思い出して⋯あっ子爵家の⋯」「⋯そう⋯優しかった?」ティアナが黙って頷くとメリーナは善良な慈悲深い子爵夫妻を思い天を仰ぐ。(いい人ってやっぱり早く亡くなるのかしらね)メリーナの根拠のない思いはロットバリーの元気な声に切り替えられる「大丈夫、俺も母上も優しいからね」息子の自信満々な声にメリーナは苦笑する。メリーナの思惑など関係なく二人には幸せになって欲しいと心からそう思った。◆スティル男爵家のタウンハウスは王都の中でも郊外の方に位置していた。メリーナ曰く普段は王城近くのアパルトマンで生活していて、此処へは滅多に帰ってこないらしい。何方にせよメリーナは魔法省
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新しい生活 2
次の日は家具選びから始まりカーテン、壁紙、扉の装飾、絨毯ありとあらゆる物を購入した。ベッドと机はまだ良かったソファも泣きそうになったがなんとか堪えた、でもドレッサーを選ぶ時にティアナはメリーナに進言した。「あの⋯メリーナ様、如何かもうこれ以上は⋯」「なぁに?」「あのここまでして頂いては⋯贅沢です」「フム」ティアナはメリーナが購入していく家具達に困惑していた。まず店が高級品を扱う商会なのも吃驚したし、一番安い物でもとんでもない値段だった。しかもメリーナはティアナに「好きな色は?」とか「落ち着く色は?」とか聞くだけで商品をピックアップして選んでゆくのだ、値段など聞きもしない。そもそもティアナはこうやって買い物をするのも子爵家に養子に行くまで無かったのだ。だから今回のこの買い物も昨日も合わせると4回目だ。慣れない買い物にも吃驚しているし、子爵家に行って初めて行った買い物も本だった。こんなに高額な買い物は初めてなのだ。一つ家具が決まる度にティアナの膝は震えていた。「ティアナ、貴方はこれに慣れなければいけないわ。貴方は貴族なのよ」「⋯でも私は⋯その庶子だと言われました」「あぁ其れは事実よ、届けはそうなっているわ。でも貴方の血は紛れもなく尊い物よ。親の都合でそうなったに過ぎないの。貴方の両親は紛れもなくこの国の上位貴族なの。其れは貴方の誇りとして胸に刻みなさい。今迄の環境のせいで卑屈になる必要はないのよ」「⋯でもお祖父様やお祖母様達でさえ私は汚点だそうです」「うーん本当にそうなのかしらね」「そう言われました引き取れないと⋯」「なるほどそういう事ね」「どういう事ですか?」「少し休憩しましょう」メリーナはそう言って家具店内に常設されたカフェにティアナを誘った。因みにロットバリーは自分の部屋を改造したいらしく工務店の方に先に行っていた。メリーナはミントティー、ティアナは良くわからなかったのでメリーナオススメのマシュマロ入りホットチョコレートにした。「先ず今回の婚約の話はね貴方のお祖父様から頂いた話なのよ」「お祖父様が?」「えぇでもお話を頂いてから私が忙しくなってその間に貴方は子爵家と養子縁組をしたの」「そうなのですか」「多分マリソー侯爵と貴方のお祖父様である前侯爵の考えは同じだと思うわ。気持ちは一緒か如何かは解らないけれど
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新しい生活 3
ティアナは納得してなさそうだったが買い物は早く終わらせなければ次の予定もある。メリーナはそう思い強引に事を進めた。少しの時間であったがティアナの好みを聞いた。凡そ好みとは言い難いが⋯。ティアナには主張する事が出来ないように見受けられた。まぁ境遇を思えば致し方のない事だと思ったメリーナは、必要なものをどんどんとティアナの意見を聞かずに決めていき、ティアナの膝はガクガクと笑いっぱなしであった。家具の配送などを取り決めて工務店に行くとロットバリーが待ちくたびれた顔をして店先で待っていた。「おっそーい!」膨れっ面で抗議するロットバリーは15歳とは思えないほど幼く見える。ティアナは思わず「フッ」と笑い声が溢れた。「あっ!ティアナ笑ったな!」慌てたティアナは直ぐに謝罪したがロットバリーはニカッと笑い「冗談だよー怒ってないよ」と優しく言ってくれる。その眩しい笑顔にティアナの胸のドキドキが膨らんでゆく。顔を真っ赤にしているティアナを見てロットバリーは突然胸がドキンとした。(可愛い)お茶会で会う他の女の子達と違って初々しく可愛らしいティアナにロットバリーもまた胸がドキドキトキメイた。子供達の微笑ましい遣り取りを見てメリーナの顔も綻ぶが、急がないと遅くなってしまうので二人を促した。◆ティアナが次に連れて来られたのは孤児院だった。ティアナと同じ年頃の女の子達と引き合わされて、皆と一緒にメリーナから刺繍を習う事になった。ロットバリーは外で男の子達と遊んでいる。初めての刺繍、初めて持つ糸と針。縫い物をしている姿を見た事がないティアナは、如何していいか解らずに焦っていると、一人の女の子が隣に来て丁寧に教えてくれる。その娘の名前はモリナと自己紹介された。歳はティアナと同じ歳だった。ハンカチに枠を嵌める事も初めてで少し手間取ったがなんとか嵌めることが出来た。糸を針に通すのも難しかったけれどモリナが何度も横でして見せてくれたから何とか通せた。一刺し一刺し刺して行くその作業に何時しかティアナは夢中になる。初めて刺した刺繍はティアナの「T」たったそれだけだったのにティアナは感激して涙が溢れてきた。何かを成し遂げた感覚は其れが初めての体験だったから。「ティアナ初めてにしては頑張ったわね」「⋯メリーナ様、私うっ嬉しいです」目には涙を溜め
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